この記事の要点
- 「条件」は、起きるかどうか不確かな出来事に効力をかからせる定め。成就したときに効力が生じるのが停止条件、効力が失われるのが解除条件(民法127条)
- 「期限」は、来ることが確かな時点に効力や履行をかからせる定め。その時点が来るまで履行を求められない(あるいは効力が生じない)とするのが始期、その時点で効力が消えるとするのが終期(民法135条)
- 遺言では、停止条件付きの遺言は条件が遺言者の死亡後に成就すればその時から効力を生じ(985条2項)、停止条件付きの遺贈は受遺者が条件成就前に亡くなると原則として効力を生じない(994条2項)
執筆時点(2026年10月)の条文に基づく一般的な解説です。
「〜したら、この財産をあげる」と「〜の時が来たら、この財産をあげる」は、日常の言葉ではほとんど同じに聞こえます。しかし民法は、この二つを**「条件」と「期限」**という別の言葉で呼び分け、効力の生じ方も別の条文で定めています。結論から言うと、**起きるかどうか不確かな出来事に効力をかからせるのが「条件」、来ることが確かな時点に効力や履行をかからせるのが「期限」**です。「孫が大学に合格したら」は合格するかどうか分からないので条件、「令和〇年4月1日が来たら」は必ず来る日なので期限、というのが基本の読み分けです。
なお、民法には「条件とは何か」「期限とは何か」を正面から定義した条文はありません。上の整理は、127条以下(条件)と135条以下(期限)の条文の書きぶりから一般に説明されている読み方です。民法改正を検討した法務省の法制審議会の資料でも、条件は「将来発生することが不確実な事実」に、期限は「将来発生することの確実な事実」に、法律行為の効力などをかからせる特約である、と説明されていることが紹介されています(法制審議会民法(債権関係)部会 部会資料13-2「民法(債権関係)の改正に関する検討事項(8) 詳細版」120頁・122頁)。
「条件」には二種類ある──停止条件と解除条件
民法127条は、条件が成就した(起きた)ときの効果を次のように書き分けています。
- 1項「停止条件付法律行為は、停止条件が成就した時からその効力を生ずる。」──条件が起きるまで効力が止まっていて、起きた時から効力が生じるのが停止条件です。「孫が大学に合格したら、この預金を遺贈する」は、合格という出来事が起きて初めて遺贈の効力が生じる、停止条件付きの遺贈にあたります。
- 2項「解除条件付法律行為は、解除条件が成就した時からその効力を失う。」──いったん効力が生じていて、条件が起きた時に効力が失われるのが解除条件です。「この部屋を無償で貸す。ただし、借りた人が別の住まいに移ったときはこの約束は効力を失う」のような定めがこれにあたります。
「停止」という字面から「効力を止める条件」と読み違えやすいのですが、止まっているのは条件が起きる前で、起きたら効力が始まる、という向きです。効力を終わらせるのは解除条件のほうです。
同条3項は、当事者が「条件が成就した場合の効果をその成就した時以前にさかのぼらせる意思を表示したとき」はその意思に従う、と定めています。つまり、条件が起きたときの効力は原則としてさかのぼらず、起きた時から先に向かって生じるのが条文の基本形です(「さかのぼる」定めの読み方は「さかのぼって効力を生ずる」とはで整理しています)。
条件が最初から決まっていたら──既成条件(131条)
条件は「起きるかどうか不確か」であることが前提です。では、遺言や契約を作った時点ですでに起きていた、あるいは起きないことが確定していた出来事を条件にしていたらどうなるか。民法131条がその場合の扱いを定めています。
- 条件がすでに成就していた場合、停止条件ならその法律行為は「無条件」(=条件なしで効力あり)、解除条件なら「無効」(1項)
- 条件が成就しないことがすでに確定していた場合、停止条件なら「無効」、解除条件なら「無条件」(2項)
たとえば「孫が大学に合格したら遺贈する」と書いた時点で孫がすでに合格していれば、その遺贈は条件なしの遺贈として扱われる、という読み方になります。
「期限」にも二種類ある──始期と終期
民法135条は、期限についてこう定めています。
- 1項「法律行為に始期を付したときは、その法律行為の履行は、期限が到来するまで、これを請求することができない。」──ある時点が来るまで履行や効力を先送りにする期限が始期です。条文は「効力を生ずる」ではなく「履行を……請求することができない」という書き方で、期限が来るまでは相手に履行を求められないことを定めています。もっとも、135条1項が定めているのは、このように履行の請求に始期が付されるもの(履行期限)ですが、法律行為の効力が生じること自体に始期が付されるもの(停止期限と呼ばれます)も異論なく認められていると説明されています(前掲の部会資料13-2・122頁)。
- 2項「法律行為に終期を付したときは、その法律行為の効力は、期限が到来した時に消滅する。」──効力の終わりにあたる時点が終期です。「令和〇年3月31日まで無償で住んでよい」のような定めは、その日が終期になります。
期限についてもう一つ押さえておきたいのが136条です。1項は「期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する」、2項は「期限の利益は、放棄することができる。ただし、これによって相手方の利益を害することはできない」と定めています。「〇月〇日まで支払わなくてよい」という期限は、支払う側(債務者)のために置かれたものと推定され、債務者は期限より前に支払って期限の利益を手放すこともできる、という仕組みです(「推定する」は反対の証拠で覆る言葉です。「みなす」と「推定する」の違い)。
なお、「人が亡くなる時」のように、いつ来るかは分からないが来ること自体は確かな時点も、冒頭の整理(来ることが確かかどうか)に当てはめれば期限の側に入ります。民法には、このように到来の時期が決まっていない期限を指す「不確定期限」という言葉も出てきます(412条2項)。また遺言については、次に見るとおり民法985条1項が効力の発生時点を「遺言者の死亡の時」と直接定めています。
遺言の条文で読み分ける──985条と994条
遺言は、民法985条1項により「遺言者の死亡の時からその効力を生ずる」のが原則です。ここに条件を付けたときの扱いを、二つの条文が定めています。
985条2項は、「遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる」と定めます。遺言者が亡くなっただけでは効力は生じず、その後に条件が成就した時点から効力が生じる、という読み方です。127条1項の「成就した時から」という基本形が、遺言の場面でもそのまま現れています。
994条2項は、「停止条件付きの遺贈については、受遺者がその条件の成就前に死亡したときも、前項と同様とする」と定めます。「前項と同様」とは、同条1項の「その効力を生じない」ことを指します。つまり、「孫が大学に合格したら遺贈する」と書いてあっても、合格する前にその孫が亡くなれば、遺贈は効力を生じないのが原則です。ただし同項には「遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う」というただし書があり、遺言者が遺言の中で別段の意思を示していれば、それに従うことになります。受け取り手が先に亡くなった場合に備えて次の受け取り手をあらかじめ書いておく方法は、予備的遺言とはで詳しく整理しています。
民法第7章「遺言」(960条から1027条まで)の条文には、「停止条件」を扱う定め(985条2項・994条2項など)はあっても、「解除条件」「始期」「終期」という語で遺言の効力を定めた条文は置かれていないため、遺言にそれらを付した場合の扱いは解釈にゆだねられる部分があり、この記事ではその解釈には立ち入りません。なお、遺言で「相続開始の時から5年を超えない期間」を定めて遺産の分割を禁ずることができるとする908条1項は、遺言の章の外にある条文で、分割を禁ずる期間を定めるものであって、遺言そのものの効力の始まり・終わりを定めたものではありません。
「負担」は条件とは別の仕組み
「〜したら」に近い言葉で書かれていても、法律上は条件ではなく**「負担」と読まれることがあります。「この家を遺贈する。受遺者は遺言者の妻の介護をすること」のように、財産を受け取る人に一定の義務を負わせる遺贈を、民法は負担付遺贈**と呼んでいます(1002条)。
停止条件と負担は、効力の生じ方が逆向きです。
- 停止条件なら、条件が成就するまで遺贈の効力は生じない(127条1項・985条2項)
- 負担なら、遺贈の効力は遺言者の死亡の時に生じたうえで、受遺者が義務を負う。義務が果たされないときは、相続人が相当の期間を定めて履行を催告し、それでも履行がなければ家庭裁判所に遺言の取消しを請求できる(1027条)
つまり負担付遺贈では、介護という義務が果たされなかったからといって遺贈が自動的に効力を失うのではなく、催告と家庭裁判所の手続きを経て初めて取消しの話になります。生前の贈与で「介護してくれたら家をあげる」と約束した場合も、民法553条が負担付贈与について、その性質に反しない限り双務契約の規定を準用すると定めており、負担が果たされないときの扱いは解除の問題として整理されます(負担付贈与とは)。
ある文言が「条件」なのか「負担」なのかは、言葉の形だけでは決まらず、遺言者の意思をどう読むかという遺言の解釈の問題になると考えられます。「〜したら」と書いてあれば必ず停止条件、「〜すること」と書いてあれば必ず負担、と機械的に割り切ることはできません。個別の遺言の文言をどう読むかは、この記事では扱いません。
まとめ
「条件」は起きるかどうか不確かな出来事、「期限」は来ることが確かな時点に、効力や履行をかからせる定めです。条件には効力を始める停止条件と効力を終わらせる解除条件があり(民法127条)、期限には、その時点まで履行や効力を先送りにする始期と、その時点で効力が消える終期があります(135条)。遺言では、停止条件付きの遺言は条件が死亡後に成就した時から効力を生じ(985条2項)、停止条件付きの遺贈は受遺者が条件成就前に亡くなると原則として効力を生じません(994条2項)。「〜したら」という文言が条件なのか負担なのかで、効力の生じ方も、果たされなかったときの手続きも変わります。お手元の遺言の内容をどう読むべきか確認したいときはお近くの司法書士に、すでに相続人の間で争いがあるときは弁護士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月・いずれも一次情報です)。
- 民法 第127条・第131条・第135条・第136条・第412条・第553条・第908条・第985条・第994条・第1002条・第1027条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 法務省 法制審議会 民法(債権関係)部会 部会資料13-2「民法(債権関係)の改正に関する検討事項(8) 詳細版」120〜122頁(第4 条件及び期限): https://www.moj.go.jp/content/000049817.pdf