この記事の要点

  • 「介護してくれたら家をあげる」といった条件付きの贈与は「負担付贈与」と呼ばれ、もらう側にも一定の義務が生じる特殊な贈与である
  • 約束した負担(介護など)が果たされない場合、贈与した側が契約を解除できる可能性がある
  • 負担の内容が曖昧なまま口約束にしておくと、「ちゃんとやった/やっていない」で後々深刻なトラブルになりやすい

「介護をしてくれたら、この家をあげる」。家族の間でこうした約束が交わされることは珍しくありません。しかし、この約束は法律上「負担付贈与(ふたんつきぞうよ)」と呼ばれる特殊な贈与にあたり、通常の贈与とは異なるルールが適用されます。約束した介護が実現しなかった場合にどうなるのか、口約束のままにしておくとどんな危険があるのか、あらかじめ知っておくことが重要です。

この記事では、負担付贈与の法的な性質と、実務上の注意点を一般の方向けに整理します。なお、個別の税額計算や節税の相談は税理士の専門分野です。この記事では制度の法的な仕組みに絞って説明します。

負担付贈与とは何か

贈与とは、ある人(贈与者)が財産を無償で相手(受贈者)に与える契約です(民法549条)。これに対して「負担付贈与」は、贈与を受ける人(受贈者)にも一定の義務(負担)を負わせる贈与を指します(民法553条)。

「家をあげる代わりに、私の介護をしてほしい」というのはまさにこの形です。受贈者は無償で家をもらうのではなく、「介護をする」という負担を引き受けることと引き換えに家をもらうことになります。

法律上、負担付贈与には次のような特徴があります。

  • 民法553条により、負担付贈与には双務契約(お互いに義務を負い合う契約、たとえば売買契約のようなもの)に関する規定が、その性質に反しない限り準用されるとされています
  • そのため、通常の片務的な贈与(もらうだけの贈与)とは異なり、負担が果たされなければ契約関係を解消できる場面があるという、売買契約に近い性質を帯びます

負担が果たされなかったら、贈与は解除できるのか

「介護してくれたら家をあげる」と約束したのに、実際には介護がほとんど行われなかった――このような場合、贈与した側は契約を解除できる可能性があります。

民法553条が負担付贈与に双務契約の規定を準用するとしていることから、実務上は、契約の相手方が義務を果たさないときの解除に関する規定(民法541条・542条)も、負担付贈与にあてはまり得ると考えられています。

  • 民法541条は、相手が義務を果たさないときに期間を定めて履行を催告し、それでも果たされなければ契約を解除できるという「催告による解除」の規定です
  • 民法542条は、履行がおよそ期待できない場合など一定の事情があるときに、催告なしで直ちに解除できる「無催告解除」の規定です

負担付贈与にこれらがどこまで、どのような要件であてはまるかは、負担の内容や不履行の程度など個別の事情によって判断が分かれる部分があります。**「介護をまったくしなかった」といった明白なケースと、「多少は手伝ったが十分ではない」といった程度の問題が絡むケースとでは、解除が認められるかどうかの判断は変わり得ます。**この点は個別の事情によるため、実際に問題が生じた場合はお近くの司法書士や弁護士にご相談ください。

口約束のままにしておく危うさ

贈与は口約束でも法律上は成立します。しかし、書面によらない贈与は、まだ実行していない部分について、各当事者がいつでも解除(撤回)できるとされています(民法550条)。

負担付贈与でも同じことが言えます。口約束だけの状態では、家をあげる約束をした側の気が変わればなかったことにできてしまいますし、逆に、いざ「介護をしてくれなかったから解除したい」となったときも、そもそも「何をどこまでやる約束だったのか」が書面に残っていないと、水掛け論になりやすいという問題があります。

  • 「毎日様子を見に来る」のか「週に何回か」なのか
  • 「身の回りの世話」とはどこまでの範囲を指すのか
  • いつからいつまでの約束なのか

こうした点があいまいなまま口約束にしてしまうと、贈与した側は「約束と違う」と感じ、もらう側は「自分なりにやってきた」と感じ、双方の認識がすれ違ったまま感情的な対立に発展しがちです。負担の内容を具体的に書面(贈与契約書)にしておくことが、後のトラブルを防ぐ最大のポイントになります。贈与契約書に何を書くべきかは、贈与契約書の作り方で詳しく解説しています。

不動産を渡す場合は登記が必要

負担付贈与の対象が不動産(自宅など)である場合、贈与契約が成立しただけでは第三者に対して所有権の移転を主張できません。法務局での所有権移転登記の手続きをあわせて行う必要があります。

登記をしないままでいると、贈与者が二重に処分してしまったり、相続が発生して名義がそのまま残ってしまったりするなど、権利関係が不安定な状態が続きます。負担(介護など)がまだ履行途中であることを理由に登記を先延ばしにするケースもありますが、その場合は「負担の履行状況と登記のタイミングをどう整理するか」を事前によく検討しておく必要があります。

生前贈与と遺言のどちらで財産を渡すか迷っている場合は、生前贈与と遺言、どちらで渡す?も参考になります。また、「亡くなったら渡す」という形にする死因贈与との違いは、「死因贈与」と「遺贈」はどう違う?で整理しています。負担付きの約束を生前贈与にするか死因贈与にするかによっても、法的な扱いは変わってきます。

まとめ

「介護してくれたら家をあげる」という負担付贈与は、通常の贈与とは違い、もらう側にも義務が生じる特殊な契約です。約束した負担が果たされなければ、契約の解除が問題になり得ますが、その判断は負担の内容や不履行の程度によって左右されます。トラブルを防ぐには、負担の内容を具体的に書面化しておくこと、そして不動産であれば登記の手続きを適切に進めることが欠かせません。負担付贈与を検討している、あるいはすでに約束したが履行状況で悩んでいるという場合は、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 負担付贈与の契約書作成や登記の費用はいくらですか。

財産の内容(現金か不動産か)や負担の内容の複雑さによって異なります。不動産の名義変更登記が必要な場合は、登録免許税などの実費に加えて手続きの依頼費用がかかります。具体的な見積もりは、依頼を検討している司法書士に直接確認してください。

Q. 負担(介護など)を果たさないまま放置すると、どうなりますか。

贈与した側が負担の不履行を理由に契約の解除を求める余地がありますが、口約束のままだと「約束の内容」自体が争いになりやすく、解決に時間がかかることがあります。不動産の名義変更(登記)を先に済ませてしまっている場合は、解除できたとしても名義を戻す手続きが別途必要になります。放置せず、早めに書面の状況や履行状況を整理しておくことが望ましいです。

Q. 負担付贈与の契約書は自分で作れますか。

内容が単純な場合は自分で作成することも可能ですが、負担の範囲や期間の定め方、不履行時の扱いなど、後のトラブルを避けるために盛り込むべき点は少なくありません。とくに不動産が絡む場合や、家族間で認識のズレが生じやすい内容の場合は、お近くの司法書士に相談しながら作成することをおすすめします。


【さらに深掘り】負担付贈与と登記・税務の視点

ご注意 以下は執筆時点(2026年07月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

不動産登記の観点から

負担付贈与で不動産を渡す場合、登記原因は通常「贈与」として所有権移転登記を申請します。負担の履行が完了する前に登記だけを先行させることも可能ですが、その場合、後から負担の不履行を理由に贈与契約を解除しても、登記名義はいったん受贈者に移ってしまっているため、解除を原因とする所有権移転登記(名義を贈与者へ戻す登記)を別途申請する必要が生じます。負担の不履行を理由とする解除が認められるかどうかは、負担の具体的内容が契約書等でどこまで特定されていたかに左右される部分が大きく、実務上は、負担の履行を登記の前提条件として明確にしておく、あるいは負担未履行のリスクに備えた特約を契約書に盛り込んでおくといった工夫が検討されます。

税務の観点から

負担付贈与は、贈与税の計算上、通常の贈与とは異なる考え方が用いられる場合があります。一般に、負担付贈与では贈与財産の価額から負担の価額を差し引いた額をもとに評価する取り扱いがあるとされ、とくに不動産を対象とする負担付贈与では、財産の評価方法(相続税評価額ではなく通常の取引価額に近い評価が用いられる考え方があるなど)が通常の贈与と異なってくる場合があります。こうした評価や具体的な税額の計算は、個々の財産の内容や負担の性質によって大きく変わるため、この記事では立ち入りません。実際に負担付贈与を検討する際は、必ず税理士に相談し、具体的な評価・税額の確認を受けてください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年07月)。

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