この記事の要点

  • 相続税額がある人が、相続した財産を一定の期間内に売ると、納めた相続税のうちその財産に対応する部分を「取得費」に加えて、売却益(譲渡所得)を計算できる(租税特別措置法39条1項)
  • 期間は「相続開始の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日まで」。申告期限は原則として相続の開始を知った日の翌日から10か月以内なので、おおむね相続開始から3年10か月が目安
  • 相続税額がない人(基礎控除の範囲内で相続税がかからなかった人など)は対象外。使うには確定申告で特例を受ける旨を書き、計算明細書などを添付するのが原則

相続した不動産を売って利益が出ると、売った相続人に所得税・住民税(譲渡所得の税金)がかかることがあります。一方で、その不動産にはすでに相続税もかかっています。このように「相続税」と「売ったときの税金」の両方がかかる場面で、納めた相続税の一部を売却益の計算で差し引けるのが 相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例 です。以下は、執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です。

そもそも「取得費」とは

譲渡所得は、おおまかに「売った金額 −(取得費 + 譲渡費用)」で計算します。取得費は、その財産を買ったときの代金などです。相続で取得した不動産の場合、取得費と取得した時期は、亡くなった方のものを引き継ぐのが原則です(所得税法60条1項)。この原則は 相続でもらった財産に所得税はかからない? で整理しています。

取得費加算の特例は、この取得費に「納めた相続税の一部」を上乗せできる制度です。取得費が大きくなれば、そのぶん売却益が小さく計算されます。

使える人と期間

条文と国税庁の案内(タックスアンサーNo.3267)から、主な要件は次の3つです。

  1. 相続や遺贈(死因贈与を含む)で財産を取得した人であること
  2. その人に相続税額があること(基礎控除の範囲内で相続税がかからなかった人などは対象外)
  3. 相続開始の翌日から、相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに売ったこと

対象になるのは、相続税の計算の基礎に入れられた財産です。不動産に限らず、株式なども含まれます(ただし、この特例は譲渡所得にだけ適用され、株式等の譲渡による事業所得・雑所得には使えません)。

加算できるのは「相続税の一部」

加算できるのは、納めた相続税の全額ではありません。租税特別措置法施行令25条の16により、おおまかには次の考え方で計算します。計算は 売った財産ごとに 行います(租税特別措置法39条8項)。

その人の相続税額 ×(売った財産の相続税評価額 ÷ その人が相続税の計算の基礎とした財産の合計額〔債務などを差し引く前の額〕)

ここでいう「相続税額」は、実際に納めた額と同じとは限りません。相続税の計算で差し引かれた贈与税額などを差し引く前の額を使う扱いがあります(租税特別措置法39条6項、同法施行令25条の16第3項)。

さらに、加算できる金額は、特例を使わずに計算した売却益の額が上限です。もともと売却益が出ていない場合は、加算する金額はありません。

手続きと注意点

この特例は、売った年分の確定申告書(一定の修正申告書を含む)に特例を受ける旨を記載し、計算明細書などを添付した場合に限って適用されるのが原則です(租税特別措置法39条2項)。国税庁の案内では「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」と譲渡所得の内訳書の添付が示されています。

また、亡くなった方が住んでいた空き家を売ったときの3,000万円特別控除(租税特別措置法35条3項)は、取得費加算の特例を受ける売却を対象から除いています。同じ売却で両方を使うことはできず、どちらを選ぶかの検討が必要になります。空き家の特例については 空き家の3,000万円特別控除 をご覧ください。

期間の終わりは相続税の申告期限を基準に決まるので、遺産分割や相続登記が長引いて売却の時期が遅れると、期間を過ぎてしまうこともありえます。売却までの全体の流れは 相続した実家を売りたいとき にまとめています。

まとめ

取得費加算の特例は、相続税額がある人が、相続した財産を「相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年」までに売ったとき、納めた相続税のうちその財産に対応する部分を取得費に加えられる制度です(租税特別措置法39条)。相続税額がない人は使えず、加算額は売却益が上限で、確定申告での手続きが必要です。空き家の3,000万円特別控除とは、同じ売却では選択になります。

具体的な税額や、この特例が使えるかどうかは、税理士または税務署にご確認ください。売却の前提となる相続登記については、お近くの司法書士にご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月・いずれも一次情報です)。

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