この記事の要点

  • 小規模宅地等の特例は、亡くなった方などが住まいや事業に使っていた宅地等について、一定の面積までの部分を、相続税の課税価格に算入する金額の計算上80%または50%減らす制度(租税特別措置法69条の4)
  • 対象は「特定居住用」「特定事業用」「特定同族会社事業用」「貸付事業用」の4区分で、区分ごとに限度面積(330㎡・400㎡・200㎡)と減らす割合が法律で定められている
  • 特例を受けるには相続税の申告書の提出が必要で、申告期限までに遺産分割がまとまっていない宅地等には原則として適用されない(3年以内に分割された場合などの定めあり)。要件は細かく、使えるかどうかは個別の事情で決まる

相続税の計算では、亡くなった方の自宅や事業用の土地について、課税の対象となる金額を減らす制度が設けられています。「小規模宅地等の特例」と呼ばれるもので、租税特別措置法69条の4に定められています。この記事は、執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です。

何のための制度か

国税不服審判所の公表裁決(平成20年6月26日裁決・裁決事例集No.75・645頁)は、この特例の趣旨について、事業や居住に使われていた小規模な宅地等は相続人などの生活基盤の維持に欠くことのできないもので、事業や居住をやめて処分することに相当の制約を受けるのが通常であることから、相続税の課税上、特別の配慮を加えたものと説明しています。この裁決は平成18年改正前の規定についてのものですが、財務省がまとめた『平成財政史』でも、平成22年度改正の説明の中で、この特例の制度趣旨を相続人などによる事業や居住の継続への配慮と記しています。

なお、条文上は、土地の価額を評価し直すのではなく、相続税の「課税価格」に算入する金額を、その宅地等の価額に一定の割合を掛けた金額とする形で定められています(同条1項)。土地の評価額の種類については、固定資産税評価額・相続税評価額・実勢価格──不動産の『価格』が3つある理由で整理しています。

対象となる4つの区分と限度面積

対象になるのは、相続開始の直前に、亡くなった方(被相続人)または被相続人と生計を一にしていた親族(あわせて「被相続人等」)の事業や居住に使われていた宅地等(土地や、借地権など土地の上に存する権利)のうち、建物や構築物の敷地になっているものです。条文は次の4つの区分を定めています(同条1項〜3項)。

区分 主な内容 限度面積 減らす割合
特定居住用宅地等 被相続人等が住まいに使っていた宅地等 330㎡ 80%
特定事業用宅地等 被相続人等の事業(不動産貸付業・駐車場業などを除く)に使われていた宅地等 400㎡ 80%
特定同族会社事業用宅地等 被相続人とその親族などが発行済株式等の50%超を持つ法人の事業(貸付事業を除く)に使われていた宅地等 400㎡ 80%
貸付事業用宅地等 被相続人等の不動産貸付業・駐車場業などに使われていた宅地等 200㎡ 50%

減らす割合は、条文上、宅地等の価額に100分の20(80%を減らす区分)または100分の50(50%を減らす区分)を掛けた金額を課税価格に算入する、という形で定められています(同条1項)。限度面積については、次の定めがあります(同条2項、国税庁タックスアンサーNo.4124)。

  • 特定事業用宅地等と特定同族会社事業用宅地等は、合わせて400㎡まで
  • 貸付事業用宅地等を選ばない場合、特定居住用宅地等(330㎡まで)と特定事業用宅地等など(400㎡まで)は両方を選ぶことができ、合計730㎡まで
  • 貸付事業用宅地等を含めて選ぶ場合は、ほかの区分の面積を一定の割合で換算して合計200㎡以内に収める調整計算が必要

要件は細かく、区分ごとに異なる

各区分には、宅地等を取得する人や、取得した後の状況についての要件が別々に定められています。いくつか例を挙げます。

  • 特定居住用宅地等では、取得する人が配偶者か、それ以外の親族か、親族であればどのような住まい方をしていたかによって、求められる要件(申告期限まで住み続けること・持ち続けることなど)が分かれています(同条3項2号)。老人ホームへの入所など一定の事由で、相続開始の直前に被相続人が住んでいなかった場合の定めも置かれています(同条1項)
  • 特定事業用宅地等・貸付事業用宅地等では、被相続人の事業を申告期限までに引き継いで続けること(生計を一にしていた親族自身の事業に使われていた宅地等の場合は、その親族が事業を続けること)や、申告期限まで宅地等を持ち続けることなどが求められ、相続開始前3年以内に新たに事業に使い始めた宅地等は原則として除かれます(同条3項1号・4号)
  • 特例の対象は相続や遺贈で取得した宅地等で、相続時精算課税の贈与で取得した宅地等には適用できないとされています(国税庁タックスアンサーNo.4124)

ここに挙げたのは一部で、政令・省令にも細かな定めがあります。実際に特例を使えるかどうかは、土地の使われ方、家族の住まい方、取得する人などの個別の事情によって決まります。

申告と遺産分割に関する注意点

申告書の提出が必要です。 この特例は、相続税の申告書に適用を受ける旨を記載し、計算の明細書など所定の書類を添付した場合に限って適用されます(同条7項。提出や記載がなかったことにやむを得ない事情があると税務署長が認める場合の定めが同条8項にあります)。また、相続税の申告が必要かどうかは、この特例を適用しない場合の金額で判定するとされています(国税庁タックスアンサーNo.4205)。そのため、特例を適用すると相続税がかからなくなる場合でも、申告書の提出が必要になることがあります。配偶者の税額軽減も、適用を受けるには申告書の提出が必要な制度です。

選択には全員の同意が必要です。 特例の対象となりうる宅地等などを取得した人が2人以上いる場合、特例を適用する宅地等の選択について、その全員の同意が必要とされています(国税庁タックスアンサーNo.4124)。

遺産分割がまとまっていない宅地等には、原則として適用されません。 申告期限までに共同相続人などによって分割されていない宅地等には、特例は適用されないのが原則です(同条4項本文)。ただし、申告期限から3年以内に分割された場合には、分割された宅地等について適用を受ける道があります(同項ただし書)。そのためには、申告書とあわせて「申告期限後3年以内の分割見込書」(分割されていない事情と分割の見込みの詳細を明らかにした書類)を提出しておく必要があるとされています(租税特別措置法施行規則23条の2第8項6号、国税庁の手続案内)。分割後は、修正申告または更正の請求の中で特例を適用することになります(国税庁タックスアンサーNo.4208)。訴えが起こされているなどやむを得ない事情があり、税務署長の承認を受けた場合の定めもあります(同条4項ただし書のかっこ書)。申告期限から逆算した段取りは、相続税の申告期限『10か月』で整理しています。

まとめ

小規模宅地等の特例は、被相続人等が住まいや事業に使っていた宅地等について、限度面積(330㎡・400㎡・200㎡)までの部分を、相続税の課税価格の計算上80%または50%減らす制度です。区分ごとに、取得する人や取得後の状況についての要件が細かく定められており、申告書の提出や、共同相続人などで分ける宅地等については原則として申告期限までに分割されていることも求められます。実際に使えるかどうかは個別の事情で決まるため、具体的な適用の判断や税額の計算・申告については税理士にご確認ください。相続した土地の名義変更(相続登記)など登記の手続きについては、お近くの司法書士にご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月)。

あわせて読みたい