この記事の要点
- 司法書士には、業務上取り扱った事件について知った秘密を、正当な事由がなければ他に漏らしてはならない義務があり、司法書士でなくなった後も続きます(司法書士法24条)
- 日本司法書士会連合会の「司法書士行為規範」では、本人の承諾がある場合や法令に基づく場合など、必要な限度で秘密を開示できる場合が定められています
- 守秘義務は司法書士の側が負う義務です。登記簿に記録された事項は誰でも証明書を取得できますし、相談する側が送るメールや家族への共有は、自分で気を配る必要があります
相続の相談で言いにくいこと──借金・疎遠な相続人・再婚歴ほど先に伝えたい理由では、言いにくい事情ほど早めに伝えたい理由を整理しました。今回はその前提にある「話した内容はどう扱われるのか」、つまり守秘義務そのものに絞って確認します。
結論から言うと、司法書士には法律上の守秘義務があり、相談で話した秘密を正当な事由なく外に漏らすことは許されていません。ただし、例外として秘密を開示できる場面が定められていること、そしてこの守秘義務は司法書士の側が負う義務で、相談する側が自分で情報を送ったり共有したりする行為までは及ばないことも、あわせて知っておくと相談の準備がしやすくなります。
司法書士法24条が定めていること
司法書士法24条は、「司法書士又は司法書士であつた者は、正当な事由がある場合でなければ、業務上取り扱つた事件について知ることのできた秘密を他に漏らしてはならない」と定めています。
ポイントは次の2つです。
- 義務を負うのは、現役の司法書士だけではありません。「司法書士であつた者」も含まれるため、廃業した後も義務は続きます
- 守られる対象は、業務の中で扱った事件について知ることのできた秘密です
違反した場合の罰則もあり、6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金とされています。告訴がなければ起訴できない罪(親告罪)です(同法76条)。条文の読み方や罰則の改正経緯は、相談中にメモを取っても録音してもいい?でも扱っています。
依頼しなかった相談でも対象になる?
「相談だけして、結局依頼しなかった場合はどうなるのか」と気になる方もいるでしょう。司法書士法3条1項5号では、登記などの手続について「相談に応ずること」も、司法書士の業務の一つとして定められています。24条の文言にも、正式に依頼したかどうかで扱いを分ける定めはありません。また、日本司法書士会連合会の会誌「月報司法書士」に掲載された司法書士法24条についての論考では、「業務上取り扱った事件」とは司法書士が業務を行う過程で知り得たことをいい、業務を離れて私生活の中で知った秘密は含まれない、と説明されています(2020年8月号〔No.582〕16頁)。日本司法書士会連合会も、相談の中でご本人やご家族のプライバシーに関わることを伺う場面について、司法書士法24条と司法書士行為規範11条を根拠として挙げています。依頼に進まなかった相談も、この守秘義務の枠組みの中で扱われるものと考えられます。
例外──秘密を開示できるのはどんな場合か
24条は「正当な事由がある場合でなければ」と定めていますが、条文そのものには「正当な事由」の具体的な中身は書かれていません。前述の「月報司法書士」の論考(2020年8月号〔No.582〕16〜17頁)では、正当な事由がある場合として、秘密に関わる本人の承諾がある場合、依頼された事件に関連して司法書士自身が民事訴訟の当事者となる場合や懲戒手続で弁明する場合など自己の主張・立証のために必要な場合、生命や身体への重大な危害を防止するために必要な場合などが挙げられています。
一方、日本司法書士会連合会が定める「司法書士行為規範」(司法書士が自らの行動を律するための規範)の11条は、業務上知り得た秘密を保持し、利用してはならないとしたうえで、次の場合にはその必要の限度において秘密を開示できるとしています。
- 本人の承諾がある場合
- 法令に基づく場合
- 司法書士が自己の権利を防御する必要がある場合
- 上の3つのほか、正当な事由がある場合
たとえば、ご家族にも司法書士から直接説明を聞いてもらいたいときは、誰に・どこまで話してよいかを最初に伝えておくと、行き違いを防ぎやすくなります。
また、同じ行為規範では、補助者(事務所で業務を手伝う職員)が業務上知り得た秘密を漏らしたり利用したりしないよう、司法書士が指導・監督すること(19条3項)や、記録を保管・廃棄するときに秘密やプライバシーに関する情報が漏れないよう注意すること(18条2項)も定められています。
守秘義務とは別に、知っておきたいこと
登記簿に記録された事項は公開される仕組みです。 登記簿(登記記録)に記録された事項は、誰でも手数料を納めれば、その内容を証明した書面(登記事項証明書)の交付を請求できます(不動産登記法119条1項)。司法書士に守秘義務があっても、登記を申請して登記簿に記録された事項は、この仕組みによって公開されることになります。なお、住所が明らかになることで生命や身体に危害が及ぶおそれがある場合などには、本人の申出により、証明書に住所に代わる事項を記載する仕組みもあります(同条6項)。心当たりがある場合は、相談の早い段階で伝えておくとよいでしょう。
相談する側の情報管理は、自分で気を配る部分です。 24条が義務を課しているのは司法書士(であった者)です。相談する側が自分で情報を送ったり共有したりする行為までは、この義務ではカバーされません。一般的には、次のような点に気をつけておくとよいでしょう。
- メールの誤送信:書類の画像などを送る前に宛先と添付ファイルを確かめ、送り方に迷うときは事務所に確認する。予約段階で伝える情報の範囲は相談予約で何を伝えればいいかも参考になります
- 家族への共有:相談の内容には、他の相続人など第三者に関する情報が含まれることがあります。誰にどこまで伝えるかを決めてから共有する(共有のしかたは聞いた話を同席しなかった家族にどう伝える?で扱っています)
- 書類とメモの保管:戸籍や印鑑証明書、通帳のコピー、相談時のメモなどは、ほかの人の目に触れる場所に置いたままにせず、不要になったコピーは処分のしかたにも気を配る
- 連絡方法の希望:郵便物や電話を家族に知られたくない事情があれば、連絡方法の希望を最初に伝えておく
※本記事は執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です。
まとめ
司法書士には、業務上取り扱った事件について知った秘密を正当な事由なく漏らしてはならない守秘義務があり、廃業後も続きます(司法書士法24条)。相談だけで依頼に進まなかった場合も、この枠組みの中で扱われるものと考えられます。一方で、本人の承諾がある場合などには必要な限度で開示できるとされていること、登記簿に記録された事項は公開される仕組みであること、相談する側の情報管理は自分で気を配る必要があることも押さえておきましょう。情報の扱いについて気になる点は、相談の冒頭で率直に尋ねてかまいません。分からないことがあれば、お近くの司法書士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月)。
- 司法書士法 第3条・第24条・第76条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000197
- 不動産登記法 第119条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 日本司法書士会連合会「司法書士行為規範」(令和5年4月1日施行・「会則・関係法規」ページに掲載のPDF): https://www.shiho-shoshi.or.jp/association/intro/reguration/
- 日本司法書士会連合会「プライバシーについて」: https://www.shiho-shoshi.or.jp/about/privacy.html
※ 次の資料は一次情報ではなく、解説などの二次資料ですが、内容確認の参考にしたため一次情報と区別して掲載しています。
- 日本司法書士会連合会「月報司法書士」2020年8月号(No.582)特集「専門職の守秘義務」所収「秘密保持義務と司法書士業務」14〜23頁(本文で引用した箇所は16〜17頁): https://www.shiho-shoshi.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/12/202008_03.pdf (同号の目次ページ: https://www.shiho-shoshi.or.jp/monthlyrep/51641/ )