この記事の要点
- 発行可能株式総数とは、その会社が発行できる株式の数の上限のことです。定款で定め、登記簿にも載ります(会社法37条1項・911条3項6号)
- 増資で新しい株式を出したいのに上限の空きが足りないときは、増資の手続の前に、上限を広げる定款変更(株主総会の特別決議)が必要です
- 上限を変えたら、変更が生じたときから2週間以内に、本店所在地の法務局で変更登記をします。登録免許税は1件3万円で、増資の登記と同じ申請書で出すときは増資分と合算されます
- 「発行済株式の総数の4倍まで」という制限は、公開会社(株式に譲渡制限がない会社)に関する規制です。株式の全部に譲渡制限がある会社が上限を増やす場合には、この制限は課されません(ただし、譲渡制限をやめるなどして公開会社になる定款変更をするときは、4倍以内に収める必要があります。会社法113条3項)
- 個別の会社の手続は、お近くの司法書士にご相談ください(増資に伴う税務は税理士へ)
結論から言うと、発行可能株式総数とは「その会社が発行できる株式の数の上限」のことです。増資で新しく株式を発行すれば、発行済みの株式の数は増えていきます。その数が上限に届きそうなとき、あるいはもう届いているときは、増資の手続を進める前に、上限そのものを広げる定款変更と、その変更登記が必要になります。
この記事では、増資そのものの手続(募集事項の決定、払込み、増資の登記)は増資(募集株式の発行)の登記の記事に譲り、「上限(発行枠)」の側に絞って整理します。
発行可能株式総数とは何か
会社法は、株式会社が発行することができる株式の総数を「発行可能株式総数」と呼んでいます(会社法37条1項)。すでに発行している株式の数ではなく、これから発行できる分も含めた上限です。
| 項目 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 発行可能株式総数 | 発行できる株式の数の上限 | 400株 |
| 発行済株式の総数 | すでに発行している株式の数 | 100株 |
| 空きの枠(単純な差) | これから発行できる余地 | 300株 |
上の「空きの枠」は、仕組みをつかむための単純な引き算です。新株予約権(あとで株式を取得できる権利)を出している場合などは、別の考慮が必要になります(後述)。
この数字は、会社の登記簿(履歴事項全部証明書)の「発行可能株式総数」の欄で確認できます。登記事項とされているためです(会社法911条3項6号)。登記簿の見方は会社の登記簿(履歴事項全部証明書)の読み方で整理しています。
設立のときは
発起人は、会社の成立の時までに、発行可能株式総数を定款で定めなければなりません。定めていない場合は、全員の同意で定款を変更して定めます(会社法37条1項)。成立前であれば、定款で定めた数も発起人全員の同意で変更できます(同条2項)。設立の登記の流れは株式会社をつくるときの登記の流れ・費用・必要書類に、設立時の設計の考え方は会社設立の簡素化の記事の「発行可能株式総数と発行済株式数」の項にあります。この記事で扱うのは、会社が成立したあとに「枠が足りなくなった」場合です。
定めをなくすことはできない
会社は、定款を変更して発行可能株式総数の定めを廃止することはできません(会社法113条1項)。「上限なし」にはできず、広げる場合も具体的な数を定めることになります。
増資で「枠」が足りなくなるのはどんなとき
増資で新株を発行すると、発行済株式の総数が増えます。発行可能株式総数は「発行できる株式の総数」ですから、上限を超える数の株式は発行できません。たとえば、発行済株式が400株、発行可能株式総数も400株の会社が、新たに100株を発行して増資したいときは、先に上限を広げる必要があります。
なお、募集事項の決定の機関は会社の種類で異なります。非公開会社(株式の全部に譲渡制限がある会社)では、新株を発行するたびに株主総会の決議(特別決議)で募集事項を決めるのが原則です(会社法199条2項・309条2項5号)。公開会社では、特に有利な払込金額で発行する場合を除き、取締役会の決議で決められます(会社法201条1項)。いずれの場合も、決められるのは上限の範囲内の発行であって、上限そのものを広げるには別に定款変更が必要です。
また、新株予約権を発行している会社は、原則として、予約権の行使で交付する株式の数も、上限の枠に収まっている必要があります(計算の対象から外れる予約権は、後述の深掘りで触れます)。新株予約権者が行使によって取得することとなる株式の数は、発行可能株式総数から発行済株式(自己株式を除く)の総数を差し引いた数を超えてはならないと定められているためです(会社法113条4項)。ストックオプションの発行を予定している場合は、ストックオプションを発行するときの登記もあわせてご覧ください。
枠を広げる定款変更の手続
1. 株主総会で決議する
発行可能株式総数は定款の定めですから、広げるには定款の変更が必要です。会社は、成立後、株主総会の決議によって定款を変更できます(会社法466条)。この決議は、会社法の第6章から第8章までの規定により株主総会の決議を要する場合にあたるため、特別決議になります(会社法309条2項11号)。
特別決議の要件は、議決権を行使できる株主の議決権の過半数(定款で3分の1以上の割合を定めた場合はその割合以上)を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2(定款でこれを上回る割合を定めた場合はその割合)以上の賛成があることです(会社法309条2項柱書)。議案には、変更後の発行可能株式総数(具体的な数)を明記します。現行の定款が手元にない場合は、先に定款をなくしたときの対応を確認してください。
上限をいくつにするかは、将来の増資の見通しや株主構成を踏まえて会社として決める事項です。この記事では具体的な数字の当てはめには踏み込みません。
2. 増資の議案との順序を整理する
増資の募集事項を決める株主総会と、上限を広げる定款変更を決める株主総会を同じ日に開くことも考えられます。その場合は、上限を広げる定款変更の効力が生じる時と、新株の払込期日との前後関係を、議事録の上でもはっきりさせておくことが大切です。上限が広がる前に枠を超える株式を発行する形になってしまうと、手続全体を組み直さなければならなくなるおそれがあります。効力がいつ生じるかは決議の内容によって変わりうるため、効力発生日を議案で明確にしておきます。
3. 例外や追加の決議が必要な場面
- 株式の分割と同時に広げる場合:種類株式を現に2つ以上発行している会社を除き、株式の分割の効力が生じる日の発行可能株式総数を、その前日の発行可能株式総数に分割の割合を乗じた数の範囲内で増やす定款変更は、株主総会の決議によらずにできます(会社法184条2項)。ただし、株式の分割そのものの手続は別に必要です(会社法183条)
- 種類株式を発行している会社:発行可能株式総数や発行可能種類株式総数を増やす定款変更をする場合、ある種類の株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、その種類の株主による種類株主総会の決議も必要になります(会社法322条1項1号ハ。その種類株主総会で議決権を行使できる株主がいない場合を除く)。種類株式の基本は種類株式とは(拒否権付株式を事業承継で使うとき)で説明しています
公開会社の4倍規制と、非公開会社の扱い
上限をどこまで広げられるかには、会社の種類によって違いがあります。ここでいう公開会社とは、発行する株式の全部または一部について、譲渡に会社の承認を要する旨の定款の定めを設けていない株式会社のことです(会社法2条5号)。上場している会社という意味ではなく、株式の一部にでも譲渡制限がない株式があれば公開会社になります。逆に、発行する株式の全部に譲渡制限がある会社が非公開会社です。
| 場面 | 公開会社 | 非公開会社(株式の全部に譲渡制限) |
|---|---|---|
| 設立時 | 設立時発行株式の総数は、発行可能株式総数の4分の1を下ってはならない(会社法37条3項) | この規制は適用されない(同項ただし書) |
| 上限を増やす定款変更 | 変更後の上限は、変更の効力が生じた時の発行済株式の総数の4倍を超えられない(会社法113条3項1号) | この規制は課されない(同項1号・2号のいずれにも当たらないため) |
| 譲渡制限をやめるなどして公開会社になる定款変更 | — | 変更後の上限は、その時の発行済株式の総数の4倍を超えられない(会社法113条3項2号) |
この4倍の制限は「いわゆる4倍規制」と呼ばれます。その趣旨について、法務省民事局参事官室が会社法改正の検討段階で作成した補足説明は、設立時の4分の1の規制(会社法37条3項)とあわせて、「既存株主の持株比率の低下の限界を画すること」にあると考えられる、と説明しています(法務省民事局参事官室「会社法制の見直しに関する中間試案の補足説明」〔平成23年12月〕64頁)。同じ補足説明は、公開会社でない株式会社が定款を変更して公開会社となる場合にもこの趣旨が当てはまるとして、その場合にも4倍規制を及ぼす案を示していました(同頁)。これは検討段階の案についての説明です。現在の規定の内容は、上の表のとおりです。
たとえば発行済株式が1,000株の公開会社なら、定款変更後の上限は4,000株までです。非公開会社であれば、同じ1,000株の状態でも、4倍を超える上限を定めることができます。ただし、非公開会社が譲渡制限を外すなどして公開会社になる場合は、同時に上限を4倍以内に収めておく必要があります。上限を減らすときは、変更後の上限が、変更の効力が生じた時の発行済株式の総数を下回ってはなりません(会社法113条2項)。譲渡制限の定款変更そのものは株式の譲渡制限の設定・変更の登記をご覧ください。
変更登記の期限・書類・登録免許税
発行可能株式総数は登記事項ですから(会社法911条3項6号)、変更が生じたときは、2週間以内に本店の所在地で変更の登記をしなければなりません(会社法915条1項)。発行可能株式総数は定款の定めですから、「変更が生じたとき」は、定款変更の効力が生じたときを指すと考えられます。議事録で効力発生日を明確にしておけば、起算日の確認がしやすくなります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申請先 | 本店所在地の法務局 |
| 期限 | 変更が生じたときから2週間以内 |
| 主な添付書類 | 株主総会議事録(商業登記法46条2項)、株主リスト(商業登記規則61条3項) |
| 登録免許税 | 1件につき3万円(登録免許税法別表第一第24号(1)ツ) |
株主リストは、議決権の数が多い順に10名、または議決権割合が上位から3分の2に達するまでの人数のうち少ないほうの株主について、氏名・住所・株式数・議決権数・議決権割合を記載して添付するものです(商業登記規則61条3項)。
増資の登記と同時に申請するときは、登録免許税が合算されます。資本金が増える増資の登記には、増加した資本金の額の1,000分の7(これによる税額が3万円に満たないときは3万円)がかかります(別表第一第24号(1)ニ)。同一の申請書で二以上の登記を受けるときの税額は、それぞれの税額の合計になります(登録免許税法18条)。
たとえば、資本金が1,000万円増える増資と上限の変更を同じ申請書で申請するなら、増資分が7万円、上限の変更分が3万円で、合計10万円です。増資の資本金の増加額が小さく、最低額の3万円が適用される場合は、3万円と3万円で6万円になります。なお、税額は執筆時点(2026年10月)の法令の本文で確認したものです。申請の際は最新の取扱いをご確認ください。
増資の登記の期限の数え方(払込期間を定めた場合の特則を含みます)は、増資の登記の記事で説明しています。
登記を怠った場合は、取締役などに100万円以下の過料が科される場合があります(会社法976条1号)。実際に科されるかどうかは個別の事情によります。
見落としやすい3つのポイント
- 先に枠、あとに増資:上限を広げる定款変更の効力が生じる前に、枠を超える株式を発行する形にならないよう、決議の日・効力発生日・払込期日の順序を決めておきます
- 新株予約権の分も枠に入る:ストックオプションなどで予約権を出している場合、行使で交付する株式の数も上限に収まる必要があります(会社法113条4項)
- 「発行済み」と「発行可能」の取り違え:登記簿には両方の数字が載ります。上限(発行可能株式総数)と、実際に出ている株式の数(発行済株式の総数)は別の欄です
まとめ
発行可能株式総数は、会社が発行できる株式の数の上限で、定款で定め、登記事項にもなっています。増資で上限の空きが足りなくなったら、増資の手続の前に、株主総会の特別決議で定款を変更して上限を広げ、2週間以内に変更登記をします。4倍の上限は公開会社に関する規制で、株式の全部に譲渡制限がある会社が上限を増やす場面には課されません。ただし、譲渡制限をやめるなどして公開会社になる場合は、4倍以内に収める必要があります。
上限の決め方や議事録・株主リストの作成、増資との段取りは会社ごとの事情で変わります。具体的な進め方は、お近くの司法書士にご相談ください。増資に伴う税務の影響は税理士に、株主の間で争いがある場合は弁護士にご相談ください。
よくある質問
Q. 発行可能株式総数を変更するのに、費用はいくらかかりますか? 法務局に納める登録免許税は、変更登記1件につき3万円です(登録免許税法別表第一第24号(1)ツ)。増資の登記と同じ申請書で出す場合は、増資の登記分(増加した資本金の額の1,000分の7、最低3万円)が別に加わります。司法書士に依頼する場合は、別途報酬がかかります。
Q. 変更登記の期限はいつまでですか? 放置するとどうなりますか? 変更が生じたときから2週間以内です(会社法915条1項)。期限を過ぎても申請自体はできますが、登記を怠ると取締役などに100万円以下の過料が科される場合があります(会社法976条1号)。また、定款の内容と登記簿の記載が食い違った状態が続くことになるため、次の増資などの手続で整理に手間がかかります。
Q. 自分で手続できますか? どこに相談すればいいですか? 定款変更の議案、議事録、株主リストなどの書類は、法令で定められた内容を満たす必要があります。増資との前後関係や、公開会社か非公開会社か、種類株式があるかによって手続も変わります。書類の作成や登記の申請については、お近くの司法書士にご相談ください。増資に伴う税務は税理士に、株主間の紛争は弁護士にご相談ください。
【さらに深掘り】発行可能株式総数の変更登記で確認される書類と、種類株式・新株予約権があるときの「枠」
ご注意 以下は執筆時点(2026年10月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
商業登記実務の観点
本文では、添付書類として株主総会議事録と株主リストを挙げました。ここでは、それぞれで何が確認されるのか、種類株式や新株予約権があると何が増えるのかを、条文と法務局が公開している様式から補います。
1. 議事録に残しておきたい内容
発行可能株式総数の変更は、登記すべき事項について株主総会の決議を要する場合にあたるため、申請書に議事録を添付します(商業登記法46条2項)。議事録には、議事の経過の要領とその結果を記載しなければなりません(会社法施行規則72条3項2号)。
法務局のウェブサイトには、定款変更(目的の変更)を決議する臨時株主総会の議事録の例が載っています。「会社の実情に合わせて作成してください」と断りのある一例ですが、次の事項を書く形になっています。
- 株主の総数、発行済株式の総数(自己株式があればその数)
- 議決権を行使することができる株主の数と議決権の数
- 出席した株主の数と出席株主の議決権の数
- 総会が成立したこと
- 議案(変更する定款の条番号と変更後の文言)
発行可能株式総数の変更でも、同じ型で議案に「定款第○条を次のとおり変更する」と変更後の数を書いておけば、議事録から、変更後の数と、決議の要件を満たしたことが読み取れます。特別決議の要件(定足数と、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成)は本文で説明したとおりです。可決された旨は、議事録に記載すべき「議事の経過の要領及びその結果」(会社法施行規則72条3項2号)の「結果」にあたり、上の記載例でも「満場一致の決議をもって原案どおり可決確定した」と書く形になっています。賛成の議決権数まで書くことは法令や記載例で求められているわけではありませんが、要件を満たしたことを書面で確かめやすくする実務上の工夫の一例です。
2. 株主リストに載せる株主の範囲
株主リストは、総株主の議決権(その決議において行使することができるものに限ります)に対する割合の高い順に、10名か、割合の合計が3分の2に達するまでの人数のいずれか少ないほうを記載するものです(商業登記規則61条3項)。本文の説明に加えて、次の点が、法務局の記載例(目的の変更)に付された株主リストの例の注意書きに示されています。
- 自己株式のように議決権を有しない株式は、リストにも総議決権数にも含めない(会社は自己株式について議決権を有しません〔会社法308条2項〕)
- 議決権を有する株主は、総会に欠席した人や議決権を行使しなかった人でも記載する
- 同じ順位の株主が複数いることなどにより、10位までの株主が10名以上になる場合は、その全員を記載する
- 種類株式発行会社は、株式の種類と種類ごとの数も記載する
また、株主全員が書面で同意して決議があったものとみなされる場合(会社法319条1項)は、議事録に代えて、その場合にあたることを証する書面を添付します(商業登記法46条3項)。株主リストも、この場合を含む旨が商業登記規則61条3項に書かれています。この場合に作成する議事録には、決議があったものとみなされた日などを記載します(会社法施行規則72条4項1号)。
3. 効力発生日が登場する書類と、4倍の基準時
本文のとおり、効力発生日は議事録で明確にしておくのが基本です。法務局の記載例(目的の変更)では、申請書の「登記すべき事項」に「原因年月日」として変更の年月日を記載する形が示されています。議事録(書面決議では、決議があったものとみなされた日などを記載した議事録)で明確にした効力発生日と、申請書の原因年月日が食い違わないようにそろえておくと、期限の確認もしやすくなります。
効力発生日が重要になるもう一つの場面が、公開会社の4倍の上限です。会社法113条3項は、変更後の発行可能株式総数は「当該定款の変更が効力を生じた時における発行済株式の総数」の4倍を超えられない、と定めています。募集株式の引受人は、払込期日を定めた場合はその期日に、出資の履行をした募集株式の株主となります(会社法209条1項1号。払込期間を定めた場合は、出資の履行をした日です〔同項2号〕)。新株は引受人が株主となった時に発行済みの株式になると整理すれば、発行済株式の総数は払込期日に増えることになります。そうすると、増資と上限の変更を近い日に行う公開会社では、変更の効力が払込期日の前か後かで、許される上限が変わります。
たとえば、発行済株式が1,000株の公開会社が、払込期日に1,000株を増資するとします。上限を広げる変更が払込期日の前に効力を生じれば、基準となる発行済株式の総数は1,000株ですから、上限は4,000株までです。払込期日の後に効力を生じるなら、基準は2,000株になり、8,000株まで定められます。いずれの場合も、増資の時点で上限の枠が足りていることは別に必要です。なお、変更の効力発生日と払込期日が同じ日になる場合に、どちらを先とみるかは、条文の文言だけからは直ちには定まりません。
4. 種類株式発行会社の場合
種類株式発行会社(内容の異なる2以上の種類の株式を発行する会社)は、発行可能株式総数のほかに、種類ごとの発行可能種類株式総数も定款で定めなければなりません(会社法108条2項柱書)。これも登記事項です(会社法911条3項7号)。そのため、上限を広げる議案と登記すべき事項では、会社全体の上限を増やすのか、特定の種類の上限も増やすのかを分けて書くことになります。
減らす場合の下限も、別々に定められています。発行可能株式総数は、変更の効力が生じた時の発行済株式の総数を下回れません(会社法113条2項)。発行可能種類株式総数は、その種類の発行済株式の総数を下回れません(会社法114条1項)。なお、4倍の制限を定める会社法113条3項は発行可能株式総数についての規定で、会社法114条には4倍の制限を定める項はありません。
種類株主総会については、本文で触れた会社法322条1項1号ハの規定があります。この規定には、次の点にも注意が必要です。
- 種類株主総会の決議を要しない旨を定款で定めた種類については、原則として同条1項が適用されません(会社法322条2項・3項本文)。ただし、同条1項1号の定款変更(単元株式数についてのものを除く)は例外とされています(同条3項ただし書)。発行可能株式総数や発行可能種類株式総数の増加は同号ハに当たりますから、この定款の定めがあるだけでは、種類株主総会を要する場面がなくなるわけではありません
- 「損害を及ぼすおそれがあるか」の判断は、種類株式の内容や会社の状況によって変わります。この記事では一律の基準は示しません
- 種類株主総会の決議を要する場合は、その議事録も添付します(商業登記法46条2項)。株主リストは、その種類の株式の総株主の議決権を基準に、本文と同じ方法で上位の株主について作成します(商業登記規則61条3項)
5. 新株予約権・取得請求権付株式・取得条項付株式があるときの「枠」
本文では、新株予約権の目的である株式の数が枠に収まる必要があることを説明しました(会社法113条4項)。条文には、次の点も定められています。
- 新株予約権のうち、行使期間の初日が到来していないものは、この計算に含まれません(会社法113条4項括弧書き)。行使期間は新株予約権の内容として定めるもので(会社法236条1項4号)、行使した者は行使した日に目的の株式の株主となります(会社法282条1項)
- この枠の計算は「発行可能株式総数から、発行済株式(自己株式を除く)の総数を控除した数」です。公開会社の4倍の制限や減らす場合の下限が「発行済株式の総数」を基準にしているのとは、文言が異なります。たとえば、発行可能株式総数が1,000株、発行済株式が700株でそのうち自己株式が100株なら、予約権の行使で取得される株式の数は400株(1,000株−600株)を超えてはなりません
- 種類株式では、ある種類の株式について、取得請求権付株式の株主が対価として取得する他の株式の数、取得条項付株式の株主が対価として取得する他の株式の数、新株予約権の行使で取得される株式の数の合計が、その種類の発行可能種類株式総数から、その種類の発行済株式(自己株式を除く)の総数を控除した数を超えてはなりません(会社法114条2項)。対価となる他の株式が取得されるのは、取得請求権付株式では請求の日(会社法167条2項4号)、取得条項付株式では定めた事由が生じた日(会社法170条2項4号)です。取得請求権付株式には、請求期間の初日が到来していないものを除く旨の括弧書きがあります(会社法114条2項1号)。取得条項付株式(同項2号)には、同様の括弧書きがありません
登録免許税も、同時に申請する登記の組み合わせで変わります。新株予約権を発行する登記は「新株予約権の発行による変更の登記」として、申請件数1件につき9万円です(登録免許税法別表第一第24号(1)ヌ)。発行可能株式総数の変更(同号(1)ツ・3万円)と新株予約権の発行を同じ申請書で申請するなら、各登記の税額を合計して12万円になります(登録免許税法18条)。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月・いずれも一次情報です)。
- 会社法 第2条・第37条・第108条・第113条・第114条・第167条・第170条・第183条・第184条・第199条・第201条・第209条・第236条・第282条・第308条・第309条・第319条・第322条・第466条・第911条・第915条・第976条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
- 会社法施行規則 第72条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000010012
- 商業登記法 第46条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/338AC0000000125
- 商業登記規則 第61条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/339M50000010023
- 登録免許税法 第18条・別表第一第24号(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/342AC0000000035
- 法務省民事局参事官室「会社法制の見直しに関する中間試案の補足説明」(平成23年12月)64頁: https://www.moj.go.jp/content/000082648.pdf
- 法務局「商業・法人登記の申請書様式」記載例「株式会社(目的の変更)」(申請書・株主総会議事録・株主リストの例): https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001252659.pdf