この記事の要点
- 養子縁組があると、一人の人が相続人として二つの立場(相続資格)を持つことがある。代表例は「祖父の養子になった孫で、その親が先に亡くなっている場合」と「妻の親と縁組をした婿養子が、子(や、子に代わって相続人になる孫など)も直系尊属(親・祖父母など)もいない妻を亡くした場合」
- 民法には、二つの立場が重なったときの扱いを直接定めた条文が見当たらない。前者(孫養子で代襲も重なる場合)は二つの立場の相続分を合わせて取得するという扱いが一般的とされる。後者(配偶者と兄弟姉妹が重なる場合)は、条文だけでは扱いが決まらず、登記実務の現在の取扱いを確認する必要がある
- 気づく手がかりは戸籍の身分事項欄。縁組の記載と、先に亡くなった親(被代襲者)の死亡の記載、妻の親の死亡の記載を、日付まで読み比べる
結論から言うと、二重に数えるかどうかは、重なり方によって扱いが変わりうる論点です。ただ、どちらの場合も、まず戸籍から「二つの立場がある」ことに気づかないと、相続人の範囲や相続分の整理そのものを誤ります。ここでは、どんな場面で重なるのかと、戸籍のどこを見るのかを中心に整理します。
例1:祖父の養子になった孫で、その親が先に亡くなっている
祖父Aに子B・Cがいて、Bの子D(Aの孫)がAと養子縁組をしているとします。養子は縁組の日から養親の嫡出子の身分を取得するので(民法809条)、DはAの「子」として相続人になります(民法887条1項)。ここでは普通養子縁組を前提にしています(特別養子縁組では、実の親の側との親族関係が終わるため〔民法817条の9〕、事情が異なります)。
さらに、Bが相続の開始以前に亡くなっていると、Bの子であるDは、Bに代わって相続人になります。これを代襲相続(だいしゅうそうぞく)といいます(民法887条2項。亡くなった場合のほか、相続欠格や廃除によって相続権を失った場合も同じです)。代襲相続人の相続分は、亡くなった親が受けるはずだったものと同じです(民法901条1項)。
このときDは「Aの養子」と「Bの代襲相続人」という二つの立場を持ちます。この場合は二つの立場それぞれの相続分を合わせて取得するという扱いが一般的とされています。この扱いによると、たとえば相続人がC・Dだけなら、子の席はB・C・Dの三つになり(民法900条4号)、Dは二つ分(3分の2)、Cは一つ分(3分の1)を受ける計算になります。この点と相続税での扱いの違いは、代襲相続──親より先に亡くなった子の権利は誰が引き継ぐのかの「孫を養子にしたケース」で扱っています。
例2:妻の親と縁組をした婿養子が、子も親もいない妻を亡くした
夫が妻の親と養子縁組をしていると、夫は妻の親の子になり、養親の血族との間にも血族と同じ親族関係が生じます(民法727条)。その結果、法律上は妻と夫が兄弟姉妹の関係にも立ちます。
妻が亡くなったとき、妻に子(や、子に代わって相続人になる孫など)がなく、父母などの直系尊属もすでに亡くなっていれば、妻の兄弟姉妹が相続人になります(民法889条1項2号)。配偶者は常に相続人で(民法890条)、このとき夫には「配偶者」と「兄弟姉妹」の二つの立場がありうることになります。
この場合に、配偶者としての相続分に兄弟姉妹としての相続分まで重ねるのかどうかは、民法の条文に直接の定めがなく、例1と同じように言えるとは限りません。実際の相続では、登記実務の現在の取扱いを法務局などで確認する必要があります。なお、配偶者としての相続分は、兄弟姉妹と並ぶときは4分の3です(民法900条3号)。妻にほかの兄弟姉妹がいるかどうかで、ほかの相続人の取り分にも影響します。婿養子と婿入りの見分け方そのものは、婿養子と「婿入り」は戸籍でどう違う?で扱っています。
戸籍のどこを見て気づくか
二つの立場は、戸籍の一か所を見ただけでは分かりません。次の記載を組み合わせて読みます。
- 縁組の記載:養子の身分事項欄に「養子縁組」の記載があり、父母の記載に続けて養父・養母の氏名が載ります。例1ではDの欄に養父としてAが、例2では夫の欄に養父母として妻の親が出てきます。養親の側の身分事項欄にも縁組の記載があります
- 被代襲者の死亡の記載(例1):Bの身分事項欄の死亡の日付が、Aの死亡の日付と同じかそれより前であれば、代襲の場面になります。縁組をした日付と、Bが亡くなった日付の前後は問いません(Dは縁組の前から実の孫としてAの直系卑属にあたり、民法887条2項ただし書で代襲から外される者ではないためです)
- 妻の親の死亡の記載(例2):妻の父母(と、さらに上の直系尊属)が、妻より先に亡くなっているかを確かめます。縁組が離縁で終わっていないかも、夫の身分事項欄で確かめます
養子縁組の記載は、新しい戸籍に移るときに移す決まりがあるのが養子の側だけで(戸籍法施行規則39条1項3号)、養親の側では移されないことがあるため、最後の戸籍だけで判断せず、古い戸籍までさかのぼって確かめます。
執筆時点(2026年11月)の制度に基づく一般的な解説です。相続分の結論は、ほかの相続人の有無や、相続放棄・遺言の有無などによって変わります。古い時代に開始した相続には当時の法律が適用されることもあるため、ここでの説明をそのまま当てはめないようにしてください。
まとめ
養子縁組がある家族では、一人の相続人が「養子」と「代襲相続人」、あるいは「配偶者」と「兄弟姉妹」という二つの立場を持つことがあります。二つ分を合わせるのか、一つだけになるのかは重なり方によって扱いが変わりうる論点で、まずは戸籍の縁組の記載と、関係する人の死亡の日付を読み比べて、重なりに気づくことが出発点です。相続人の範囲や相続分の整理に迷うときは、お近くの司法書士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年11月・いずれも一次情報です)。
- 民法 第727条・第809条・第817条の9・第887条・第889条・第890条・第900条・第901条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 戸籍法 第13条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000224
- 戸籍法施行規則 第35条・第39条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322M40000010094