この記事の要点

  • 事件を別の裁判所へ移す手続きを「移送」といいます。管轄のある裁判所でも、訴訟の著しい遅滞を避け、または当事者間の衡平を図るため必要があると認めるときは、裁判所は他の管轄裁判所へ移送することができます(民事訴訟法17条)
  • 17条の移送は「遠い」という事情だけで当然に認められるとは書かれておらず、当事者や証人の住所などを考慮して裁判所が判断します
  • 移送の申立てと、答弁書の提出などの期限の対応は別の話です。申立てをしたからといって、期限を放置しないでください

遠くの裁判所から訴状が届いても、その裁判所で手続きを進めるほかないとは限りません。民事訴訟法には事件を別の裁判所へ移す「移送」のしくみがあり、被告の側から申し立てることができます。ただし、中心になる17条は「移送することができる」という書き方で、移すかどうかを判断するのは裁判所です。

これは執筆時点(2026年11月)の制度に基づく一般的な解説です。個別の事案で移送が認められるかどうかの見通しは、ここでは扱いません。

なぜ遠くの裁判所に訴えられることがあるのか

訴えの原則は、被告の普通裁判籍(人なら原則として住所)の所在地を管轄する裁判所です(民事訴訟法4条1項・2項)。ただ、財産権上の訴えは義務履行地にも起こすことができます(同5条1号)。

金銭の支払いは、弁済をすべき場所について別段の意思表示がなければ、債権者の現在の住所でするのが民法の原則です(民法484条1項)。裁判所のウェブサイトの簡易裁判所の民事事件に関するQ&Aでも、金銭請求の場合には、支払をすべき場所の簡易裁判所にも訴訟を起こすことができると案内されています。貸したお金や代金の請求で、請求する側の住所地の裁判所に訴えが起こされることがあるのは、このためです。

また、当事者は第一審に限り、一定の法律関係に基づく訴えについて、書面(内容を記録した電磁的記録を含みます)で管轄裁判所を合意できます(同11条)。契約書の管轄条項がこれにあたる場合があります。こうした管轄の考え方は、簡易裁判所はどこに申し立てる?|被告の住所地・義務履行地で決まる土地管轄の基本で整理しています。

移送の条文は場面ごとに分かれている

移送の根拠は1つではありません。裁判所が「移送する」「しなければならない」とされている場面と、「できる」とされている場面があります。

場面 条文の定め 条文
訴訟の全部または一部が、その裁判所の管轄に属しない 申立てにより、または職権で、管轄裁判所に移送する 16条1項
管轄はあるが、訴訟の著しい遅滞を避け、または当事者間の衡平を図るため必要がある 申立てにより、または職権で、他の管轄裁判所に移送することができる 17条
簡易裁判所の事件で、相当と認めるとき 申立てにより、または職権で、その所在地を管轄する地方裁判所に移送することができる 18条
当事者の申立てと相手方の同意がある 申立てに係る地方裁判所または簡易裁判所に移送しなければならない(例外あり) 19条1項
簡易裁判所の管轄に属する不動産に関する訴訟で、被告の申立てがある その所在地を管轄する地方裁判所に移送しなければならない(例外あり) 19条2項

19条の例外には、時期に関わるものが含まれます。1項は、移送により著しく訴訟手続を遅滞させることとなるときのほか、簡易裁判所からその所在地を管轄する地方裁判所への移送の申立て以外の申立てが、被告が本案について弁論をし、または弁論準備手続において申述をした後にされたときを除いています。2項も、申立ての前に被告が本案について弁論をした場合を除いています。

管轄違いについても、被告が管轄違いの抗弁を提出しないで本案について弁論をし、または弁論準備手続において申述をしたときは、その裁判所は管轄権を有するとされています(12条)。「本案」とは、請求そのものの中身のことです。19条と12条は17条の移送そのものの定めではありませんが、移送や管轄を問題にしたいときは、どの順番で何を出すかが関わってくるということです。

17条で考慮される事情

17条が挙げている事情は、当事者および尋問を受けるべき証人の住所、使用すべき検証物の所在地、その他の事情です。検証とは、裁判官が物や場所を直接調べる証拠調べをいいます。

これらを考慮して、「訴訟の著しい遅滞を避け」または「当事者間の衡平を図る」ため必要があると認めるときに、裁判所は移送することができます。被告の住所は考慮される事情の1つですが、それだけで結論が決まるとは書かれていません。

移す先は「他の管轄裁判所」です。被告の住所地の裁判所は、4条1項により原則として管轄のある裁判所にあたります。ただし、契約書に管轄の定めがあるときは、次の見出しの点も確かめる必要があります。

契約書に管轄の定めがあるとき

移送には「専属管轄」(法律や合意によって、その裁判所だけが扱うものとされている管轄)による制限があります。訴訟がその係属する裁判所の専属管轄に属する場合、17条から19条は適用されません(20条1項)。もっとも、同項には「当事者が第十一条の規定により合意で定めたものを除く」という括弧書きがあり、合意で定めた専属管轄はこの制限の対象から外されています。この括弧書きから言えるのは、合意で定めた専属管轄であることを理由に、同項によって17条の適用が外れるわけではない、というところまでです。

そのうえで、17条の移す先は「他の管轄裁判所」で、移送が必要と認められるかどうかの判断も裁判所が行います。定めた裁判所だけに限る趣旨の合意がある場合に、被告の住所地の裁判所がこの「他の管轄裁判所」にあたるのかどうかは、条文の文言だけでは言い切れないため、ここでは断定しません。まず管轄条項の文言を確かめ、定めた裁判所だけに限る趣旨なのか、ほかの裁判所を排除しない趣旨なのかを見ることが出発点です。

申立ての方式と、そのあとの流れ

移送の申立ては、期日においてする場合を除いて書面でしなければならず、申立ての理由を明らかにしなければなりません(民事訴訟規則7条)。法令で書面によるとされている申立ても、最高裁判所規則で定めるところにより、裁判所のオンラインシステムを使って行うことができます(民事訴訟法132条の10第1項)。依頼を受けて訴訟代理人になった人(簡易裁判所の許可を得て代理人になった人を除きます)は、原則としてオンラインで申し立てることになります(同法132条の11第1項1号)。これらの定めは2026年5月21日に施行された民事訴訟法の改正(令和4年法律第48号)によるもので、同日より前に訴えが提起された事件では改正前の規定によります(令和4年法律第48号附則11条)。

17条または18条の移送の申立てがあったときは、裁判所は相手方の意見を聴いて決定をするものとされています(民事訴訟規則8条1項)。

移送の決定と、移送の申立てを却下した決定には、即時抗告(決定に対する短い期間の不服申立て)をすることができます(民事訴訟法21条)。期間は、裁判の告知を受けた日から1週間の不変期間です(同法332条)。不変期間とは、裁判所が伸ばしたり縮めたりできない期間をいいます(同法96条1項ただし書。遠隔の地に住所または居所を有する者のために付加期間を定めることができるという定めが同条2項にあります)。

移送の裁判が確定すると、移送を受けた裁判所はその裁判に拘束され、事件をさらに他の裁判所へ移送することはできません。訴訟は、初めから移送を受けた裁判所に係属していたものとみなされます(同法22条)。

申立てをしても、期限の対応は別です

移送の条文(16条から22条)の中に、申立てをしただけで答弁書の提出期限や口頭弁論の期日が延びると定めた規定は置かれていません。そのため、申立てをしただけで延びたものと考えず、訴状とともに届いた書類で期日と提出期限を確かめ、移送の申立てとは別に対応を進める必要があります。

答弁書を提出しておけば、最初にすべき口頭弁論の期日に出頭しなくても、裁判所はその記載事項を陳述したものとみなして手続きを進めることができます(同法158条)。反対に、答弁書も出さず期日にも出頭しないと、原告の主張した事実を争わなかったものとして扱われるおそれがあります(同法159条3項・1項)。しくみは訴状が届いたら|答弁書を出さないとどうなるか──陳述の擬制と自白の擬制の仕組みをご覧ください。先に見たとおり本案の弁論との前後が問題になる条文があるため、移送や管轄を問題にしたいときは、答弁書に何を書くかも関わってきます。

ウェブ会議は別の仕組み

裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、映像と音声のやり取りで口頭弁論の期日の手続を行うことができ、この方法で手続に関与した当事者は期日に出頭したものとみなされます(同法87条の2第1項・3項)。事件を別の裁判所へ移すのではなく、期日の手続の行い方の話であり、これによるかどうかを決めるのも裁判所です。

認定司法書士が代理できる範囲

認定を受けた司法書士が代理できるのは、簡易裁判所における手続きで、訴訟の目的の価額が140万円を超えないものに限られます(司法書士法3条1項6号イ・2項、裁判所法33条1項1号)。訴額の数え方は認定司法書士に頼める「140万円以下」とは何の金額?|訴額の数え方の基礎で整理しています。

事件が地方裁判所に移った場合、認定司法書士は代理ができません。この場合は、裁判所に提出する書類の作成について司法書士の支援を受ける(司法書士法3条1項4号)か、弁護士に依頼することになります。また、上訴の提起は、自ら代理人として手続きに関与している事件の判決、決定または命令に係るものを除いて、代理することができません(同項6号ただし書)。

まとめ

移送には、管轄違いの移送(民事訴訟法16条1項)、遅滞を避ける等のための移送(同17条)、簡易裁判所から地方裁判所への移送(同18条)、一定の申立てがあれば移送しなければならない場面(同19条)などがあり、場面ごとに条文が分かれています。遠くの裁判所に訴えられたときに中心になる17条の移送は、当事者や証人の住所などを考慮して裁判所が判断します。申立ては期日でする場合を除いて書面で理由を明らかにして行い(民事訴訟規則7条)、決定には即時抗告の手段があります(民事訴訟法21条)。

申立てをしても、答弁書の提出などの期限の対応を放置しないことが基本です。訴状が届いたら、期日と提出期限を確かめたうえで、お早めにお近くの司法書士にご相談ください。認定を受けた司法書士が代理できるのは簡易裁判所の手続きで140万円を超えないものに限られますので、140万円を超えるものは弁護士にご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年11月)。

※ 次の資料は一次情報ではなく、解説・評釈などの二次資料ですが、内容確認の参考にしたため一次情報と区別して掲載しています。

あわせて読みたい