この記事の要点

  • 亡くなった方が受け取るはずだった高額療養費(医療費の自己負担が高くなったときの払い戻し)は、亡くなった方の財産として相続人が請求します。葬儀や埋葬をした人などに支給される葬祭費・埋葬料とは、お金の性質が違います。
  • 受け取る権利は、行使することができる時から2年で時効によって消滅します(健康保険法193条1項ほか)。協会けんぽの案内では、高額療養費の時効の起算日は診療月の翌月1日とされています。
  • 相続放棄を考えている場合は、請求して受け取る前に確認を。払い戻しを受け取ると、相続放棄ができなくなるおそれがあります。

本記事は執筆時点(2026年11月)の制度に基づく一般的な解説です。

高額療養費は「亡くなった方のお金」

高額療養費は、ひと月の医療費の自己負担が著しく高額になったときに、あとから払い戻しを受けられる制度です。健康保険法115条1項、国民健康保険法57条の2第1項、高齢者の医療の確保に関する法律84条1項がそれぞれ定めており、細かい支給要件や金額は政令で決められています(各条2項)。

入院中に亡くなった場合などは、最後の月の分の払い戻しがまだ済んでいないことがあります。このお金は、亡くなった方の財産として相続人が請求するのが基本です。民法は、相続人が亡くなった方の財産に属した一切の権利義務を引き継ぐと定めています(民法896条)。協会けんぽの高額療養費支給申請書の案内でも、「被保険者が亡くなられ、相続人が請求する場合」の添付書類として、被保険者との続柄がわかる戸籍謄本等が挙げられています。

ただし、条文上だれに支給されるかは、加入していた制度によって違います。

  • 健康保険(会社員などが加入)……療養の給付などを受けた人に支給(健康保険法115条1項)。扶養されていたご家族の医療費の分は、家族療養費の支給を受ける被保険者が対象です(同法110条1項)。
  • 国民健康保険……世帯主(または組合員)に支給(国民健康保険法57条の2第1項)。
  • 後期高齢者医療……療養の給付などを受けた被保険者に支給(高齢者の医療の確保に関する法律84条1項)。

亡くなった方が国民健康保険の世帯主でなかった場合や、健康保険の扶養家族だった場合など、だれが請求するのかがはっきりしないときは、加入していた制度の窓口で確認してください。

同じ「亡くなった後に請求するお金」でも、健康保険の埋葬料は、亡くなった方によって生計を維持していた人で埋葬を行う人に支給すると条文で定められています(健康保険法100条1項)。国民健康保険の葬祭費は、条例または規約の定めにより支給されます(国民健康保険法58条1項)。請求する人の決まり方が高額療養費とは違うため、別々に整理しておくのが安全です。葬祭費・埋葬料については葬祭費・埋葬料の請求で詳しく扱っています。

時効は2年──起算日は保険者の案内で確認を

高額療養費を受ける権利は、行使することができる時から2年を経過すると時効によって消滅します(健康保険法193条1項、国民健康保険法110条1項、高齢者の医療の確保に関する法律160条1項)。

条文が定めているのは「行使することができる時から」という表現までです。具体的な起算日について、協会けんぽの案内は、健康保険給付を受ける権利は受けることができるようになった日の翌日から2年で時効になるとしたうえで、高額療養費の起算日を診療月の翌月1日としています。つまり、診療を受けた月ごとに、古い月の分から順に期限が来ることになります。

国民健康保険・後期高齢者医療・健康保険組合に加入していた場合の起算日の扱いは、それぞれの窓口の案内で確認してください。

なお、2026年8月からの高額療養費制度の見直し(健康保険法施行令等の一部を改正する政令〔令和8年政令第240号〕)で、月ごとの上限額に加えて、年単位の上限額(「年間上限」。年間は8月から翌年7月まで)が設けられました。年間の上限額に達した後の医療費は保険者から払い戻しを受けられると、厚生労働省は案内しています。年単位で計算される払い戻しは、上で見た月ごとの払い戻しとは計算の区切りが異なります。亡くなった方の分をどう請求するか、時効の起算日をどう考えるかも含めて、加入していた制度の窓口で確認してください。

相続の手続きは、届出や名義変更が重なって後回しになりがちです。2年という期間は、遺産の分け方の話し合いが続いている間も進みます。ほかの請求期限とあわせて、亡くなった後に請求できるお金の請求期限の一覧と並べておくと見落としを防げます。

相続放棄を考えているなら、受け取る前に確認を

高額療養費が亡くなった方の財産として扱われる場合は、相続放棄との関係を考えておく必要があります。

民法921条1号は、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは、単純承認(借金も含めてすべて引き継ぐこと)をしたものとみなすと定めています。また、相続放棄をした人は、その相続に関しては初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。

払い戻しを請求して受け取ること、受け取ったお金を使うことが、この「処分」にあたると判断されるおそれがあります(最終的には個別の事情によります)。ですから、相続放棄を少しでも考えているなら、請求して受け取る前に確認するという順番が安全です。受取人が指定された生命保険金が受取人自身の財産として扱われるのとは、位置づけが異なる点にも注意が必要です(相続放棄と生命保険金)。

申請の窓口

申請は、加入していた制度に応じて、市区町村(国民健康保険・後期高齢者医療)、協会けんぽまたは健康保険組合(健康保険)の窓口で行います。申請書の作成や提出の代行を専門家に依頼する場合は、社会保険労務士の業務になります。

まとめ

  • 亡くなった方が受け取るはずだった高額療養費は、亡くなった方の財産として相続人が請求するのが基本です。ただし、だれに支給されるかは加入していた制度で違うため、窓口で確認してください。
  • 時効は2年です。起算日は保険者の案内で確認を(協会けんぽの案内では診療月の翌月1日)。
  • 相続放棄を考えている場合は、請求して受け取る前に確認するのが安全な順番です。

相続放棄の期限や相続手続き全体の進め方で迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年11月・いずれも一次情報です)。

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