この記事の要点
- 簡易裁判所の民事訴訟には、簡易な手続で迅速に紛争を解決するための特則があり、訴えは口頭でも起こせ、訴えの提起では請求の原因に代えて「紛争の要点」を明らかにすれば足りる(民事訴訟法270条〜272条)
- 口頭弁論は書面で準備することを要しないのが原則で、裁判所が相当と認めるときは、証人などの尋問に代えて書面を提出させることもできる(同法276条・278条)
- これらは本人が自分で訴えるときに使いやすい仕組み。認定司法書士や弁護士が代理人として手続きをするときは、原則としてオンラインで申立て等をしなければならない(同法132条の11)
「裁判を起こすには、きちんとした訴状を書かなければならない」と考える方は多いと思います。結論からいうと、簡易裁判所では、訴えを口頭で起こすことが条文で認められており、訴えの提起で明らかにすべき内容や審理の進め方にも、手続きを簡易にするための特別なルール(特則)が置かれています。この記事では、民事訴訟法の「簡易裁判所の訴訟手続に関する特則」のうち、訴えの起こし方と審理の進め方に関わる主な規定を整理します。
これは執筆時点(2026年11月)の制度に基づく一般的な解説です。個別の事件でどの手続きをとるべきか、その事件がどのような結果になるかといった見通しはここでは扱いません。
簡易裁判所の手続きと「特則」
簡易裁判所は、訴訟の目的の価額(訴額)が140万円を超えない請求について、第一審の裁判権を持っています(裁判所法33条1項1号)。民事訴訟法270条は「簡易裁判所においては、簡易な手続により迅速に紛争を解決するものとする」と定め、271条以下に、地方裁判所の手続きとは異なる特則を置いています。
なお、60万円以下の金銭の支払いを求める訴えについては、さらに少額訴訟という特別な手続きも用意されています。この記事で扱うのは、少額訴訟に限らない簡易裁判所の訴訟手続に共通する特則です。
訴えは口頭でも起こせる(271条)
訴えの提起は、訴状を裁判所に提出してするのが原則です(民事訴訟法134条1項)。これに対して簡易裁判所では、「訴えは、口頭で提起することができる」とされています(271条)。口頭で申立て等をするときは、裁判所書記官の面前で陳述し、書記官がその内容を電子調書に記録する仕組みです(民事訴訟規則1条2項)。
「請求の原因」に代えて「紛争の要点」でよい(272条)
訴状には「請求の趣旨及び原因」を記載しなければならないのが原則です(民事訴訟法134条2項2号)。簡易裁判所では、「訴えの提起においては、請求の原因に代えて、紛争の要点を明らかにすれば足りる」とされています(272条)。請求の原因(「請求を特定するのに必要な事実」のこと。民事訴訟規則53条1項)を、法律の知識がない人が過不足なく書くのは簡単ではありません。272条は、270条の「簡易な手続により迅速に紛争を解決する」という方針のもとで、訴えの提起の段階では、どのような争いなのかという要点が明らかになっていれば足りるとしています。なお、この条文が置き換えているのは「請求の原因」で、「請求の趣旨」(相手に何を求めるのか)については触れていません。
双方がそろって出頭し、その場で訴えを起こすこともできる(273条)
「当事者双方は、任意に裁判所に出頭し、訴訟について口頭弁論をすることができる」とされ、この場合の訴えの提起は、口頭の陳述によってするとされています(273条)。
審理の進め方の特則(276条・278条)
口頭弁論は書面で準備しなければならないのが一般の原則ですが(民事訴訟法161条1項)、簡易裁判所では「口頭弁論は、書面で準備することを要しない」とされています(276条1項)。
ただし、相手方が準備をしなければ陳述をすることができないと認めるべき事項は、書面(準備書面)で準備するか、口頭弁論の前に直接相手方に通知しなければなりません(同条2項)。さらに、相手方が在廷していない口頭弁論では、そうした事項は、相手方に送達された準備書面に記載したものなど一定の場合か、同項の通知をしたものでなければ主張することができません(同条3項)。書面がいっさい不要になるわけではなく、相手方が不意打ちを受けないための手当ては残されています。
また、裁判所は、相当と認めるときは、証人や当事者本人の尋問、鑑定人の意見の陳述に代えて、書面の提出をさせることができます(278条1項)。一般の規定では、証人の尋問に代えて書面を提出させるのは「当事者に異議がない場合であって、相当と認めるとき」とされていますが(205条1項)、278条1項にはこの「当事者に異議がない場合」という文言がなく、対象も当事者本人の尋問や鑑定人の意見の陳述にまで及んでいます。
このほか、簡易裁判所の特則には、市民の中から選ばれた司法委員が和解の補助や審理への立会いをする制度もあります(279条)。詳しくは司法委員の記事で整理しています。
代理人が付く場合はオンラインでの申立て等が原則(132条の11)
ここまでの特則は、法律の専門家でない本人が自分で訴えを起こし、進めるときに使いやすい仕組みです。もっとも、これらの特則は、条文上、本人が訴える場合に限られているわけではありません。ここで取り上げるのは、申立て等をどの方法でするかの違いです。本人が申立て等をする場合、書面でするほか、最高裁判所規則で定める電子情報処理組織(オンラインのシステム)を使ってすることもできます(民事訴訟法132条の10第1項)。
これに対して、委任を受けた訴訟代理人は、その事件の申立て等をオンラインのシステムを使ってしなければならないとされています(132条の11第1項1号)。この義務から除かれているのは、簡易裁判所の許可を得て訴訟代理人となった人(54条1項ただし書)です。認定司法書士は、裁判所の許可ではなく司法書士法3条6項にもとづいて簡易裁判所の訴訟代理人となるため、弁護士と同じく、この義務の対象になります。裁判所のウェブサイトも、弁護士などの訴訟代理人等についてはオンラインによる手続が義務化されていると説明しており、日本司法書士会連合会も、司法書士・弁護士が訴訟代理人となる場合は原則としてオンライン提出が義務付けられると案内しています。ただし、口頭ですることができる申立て等について、口頭でするときは、この義務はかかりません(132条の11第1項ただし書)。
この代理人のオンライン義務は、民事裁判のIT化を進める「民事訴訟法等の一部を改正する法律」(令和4年法律第48号)の全面施行によって、2026年5月21日から設けられたものです。同日以後に提起された訴えの事件に適用され、同日より前に提起された訴えの事件には、改正前の規定が引き続き適用されます(同法附則11条)。
なお、認定司法書士が簡易裁判所の訴訟の代理人になれるのは、訴訟の目的の価額(訴額)が140万円を超えない場合に限られます(司法書士法3条1項6号イ・裁判所法33条1項1号)。
まとめ
簡易裁判所の民事訴訟では、訴えを口頭で起こせること、訴えの提起では紛争の要点を明らかにすれば足りること、口頭弁論を書面で準備することを要しないこと、尋問に代えて書面を提出させられることなど、手続きを簡易にする特則が置かれています。もっとも、相手方が準備を要する事項は書面か事前の通知が必要であるなど、相手方への配慮の仕組みは残っています。また、これらは主に本人が訴える場面で使いやすい仕組みで、認定司法書士や弁護士が代理人になる場合は、原則としてオンラインで申立て等をすることになります。ご自身の事件でどのように手続きを進めるかは事情によって異なりますので、お近くの司法書士(140万円を超える場合は弁護士)へご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年11月)。
- 民事訴訟法 第54条・第132条の10・第132条の11・第134条・第161条・第205条・第270条〜第273条・第276条・第278条・第279条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/408AC0000000109
- 民事訴訟法等の一部を改正する法律(令和4年法律第48号)附則第1条・第11条(e-Gov法令検索・民事訴訟法に収録の改正附則): https://laws.e-gov.go.jp/law/408AC0000000109
- 民事訴訟規則 第1条・第53条(裁判所ウェブサイト・規則集PDF): https://www.courts.go.jp/assets/080521minnsokisoku.pdf
- 裁判所法 第33条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000059
- 司法書士法 第3条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000197
- 裁判所「民事裁判手続のデジタル化」: https://www.courts.go.jp/saiban/minjidejitaruka/index.html
- 裁判所「改正民訴法等で変わる民事訴訟手続の概要」: https://www.courts.go.jp/saiban/minjidejitaruka/minso_gaiyou/index.html
※ 次の資料は一次情報ではなく、業界団体の案内ですが、内容確認の参考にしたため一次情報と区別して掲載しています。
- 日本司法書士会連合会「民事裁判手続のデジタル化へ向けた対応」: https://www.shiho-shoshi.or.jp/activity/it/