この記事の要点

  • 「以前」「以後」は、基準となる日(時点)そのものを含む
  • 「前」「後」は、基準となる日を含まない
  • 「以降」も意味は「以後」と同じくその日を含むが、法令の条文では「以後」が基本形

法律の条文には、「〜以前」「〜以後」「〜前」「〜後」といった時間の区切りがよく出てきます。日常会話では「以前」も「前」もほとんど同じ意味で使いますが、条文では基準となる日や時点そのものを含むかどうかが、きっちり書き分けられています。結論から言うと、「以前」「以後」は基準の日を含み、「前」「後」は含みません。

これは「以上・以下」と「超える・未満」とまったく同じ仕組みです。「以」の字が付いていれば境目を含み、付いていなければ含まない——数でも日付でも、この一点で読み分けられます。

「以前」「以後」──その日を含む

国の文書の書き方を示した文化審議会の建議「公用文作成の考え方」(令和4年1月7日)に付された解説は、「以上」「以下」「以前」「以後」を「起算点となる数量や日時などを含む場合に用いる」と説明し、例として「5月1日以前/以後=5月1日を含んで、それより前/後への時間的広がり」を挙げています。なお、同じ解説は、「昭和期以前」「第一次世界大戦以前」のように幅のある時期を基準にした「以前」は、その時期を含めずに使われることが多い、とも注意しています。この記事で扱うのは、「5月1日」や「施行日」のような特定の日や、「相続の開始」「死亡」のような一時点を基準にした場合です。

この「含む」が結論を分ける場面が、相続の条文にあります。民法887条2項は、亡くなった方(被相続人)の子が「相続の開始以前に死亡したとき」は、その子の子(孫)が代わって相続人になる(代襲相続)と定めています。「以前」ですから、親子が同じ事故で亡くなり、どちらが先に亡くなったか分からないため同時に死亡したものと推定される場合(民法32条の2)も、「相続の開始以前に死亡したとき」に含まれる、という読み方になります。もし「相続の開始前」と書かれていたら、同時死亡は文言のうえでは入らないことになります。

実際、この「以前」は、同時死亡の推定規定(32条の2)を新設した1962年(昭和37年)の民法改正(昭和37年法律第40号)で、それまでの条文(旧888条1項)の「相続の開始前」から改められたものです。改正案を審議した国会で、政府委員(法務省民事局長)は、同時死亡の場合にも代襲相続が起こることをはっきりさせるための改正だと説明しています(改正前の「開始前」という文言のもとでも、条理として「開始以前」と読むべきだと解釈されていた、との説明も併せてされています)。

遺贈について定めた民法994条1項「遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない」の「以前」も同じ読み方で、こちらも同じ改正で「遺言者の死亡前」から改められています。

「前」「後」──その日を含まない

同じ建議の解説は、「超える」「未満」「満たない」「前」「後」を「起算点となる数量や日時などを含まない場合に用いる」とし、「5月1日前/後=5月1日を含まず、それより前/後への時間的広がり」と例示しています。

条文では、この「前」と「以後」を組み合わせて、ある日を境に隙間なく切り分ける書き方がよく使われます。たとえば、相続登記の義務化などを定めた改正法(令和3年法律第24号)の附則5条3項は、登記の申請書やその添付書類など(登記簿の附属書類)を閲覧する手続きについて「施行日以後にされる登記簿の附属書類の閲覧請求について適用し、施行日前にされた登記簿の附属書類の閲覧請求については、なお従前の例による」と定めています。施行日当日の請求は「以後」の側に入り、新しい規定が適用されます。「以後」と「前」の組み合わせなら、当日がどちらにも入らない、あるいは両方に入るという事態が起きません。

同じ附則の5条6項が、「第二号施行日前に」相続が開始していた場合にも相続登記の申請義務を及ぼす経過措置を置いているのも、この読み方が前提です。第二号施行日(2024年4月1日)の当日に開始した相続は「前」には当たらず、本則どおり「知った日」から3年を数えることになります(数え方の詳細は相続登記の「3年」はいつから数える?をご覧ください)。

「以降」はどう読む?

日常でよく使う「以降」も「以」の付く言葉で、その日を含む意味で使われています。上の建議の解説も、「第一次世界大戦以後」(解説によれば、大戦の時期を含んで使われることが多い言い方)を分かりやすく言い換えた例として「第一次世界大戦が始まった1914年以降」を挙げており、「以降」をその年を含む意味で使っています。

ただし、法令の条文では「以後」が基本形で、「以降」はぐっと少なくなります。e-Gov法令検索で調べると、民法と不動産登記法の本則(附則を除く部分)には「以降」は一度も出てきません(2026年9月時点の条文。「以後」は民法の本則だけで20か所以上に使われています)。法律全体を見れば、健康保険法45条1項の「その月の翌月以降」のように「以降」を使う例もありますが、数では「以後」を含む文が「以降」を含む文の10倍以上あります(e-Gov法令検索の法令データを使い、法律を対象に「以後」「以降」を含む文の数を数えた結果。附則を含み、2026年9月時点)。条文を読むときは、「以後」が基本形で、「以降」が出てきても同じくその日を含む意味だと押さえておけば迷いません。

期間の数え方は別のルール

なお、「〇〇の日から3年以内」のように期間を数えるときは、初日を数えるかどうかという別のルール(民法140条・原則として期間の初日は算入しない)が関わります。「以後・後」の含む・含まないとは切り離して考えるのが安全です。

執筆時点(2026年9月)の制度に基づく一般的な解説です。

まとめ

「以前・以後」はその日を含み、「前・後」は含みません。「以上・以下」と「超える・未満」の関係と同じで、「以」の字があるかどうかが目印です。「以降」もその日を含む意味ですが、条文では「以後」が基本形です。相続や登記の場面では、この一文字で結論が変わることがあります。ご自身の場合にどう当てはまるか迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年9月・いずれも一次情報です)。

あわせて読みたい