この記事の要点
- 公布は「法律ができたことを国民に知らせる」こと、施行は「その法律が実際に効き始める」こと。二つの日付は一致しないのが普通です
- 施行日がいつかは、条文本体ではなく末尾の附則に書かれています。「政令で定める日」と書かれていれば、法律だけ読んでも日付は分かりません
- 相続登記の義務化は、公布が令和3年(2021年)4月28日、施行が令和6年(2024年)4月1日。3年近いずれがありました
※本記事は執筆時点(2026年9月)の制度に基づく一般的な解説です。
「公布」は知らせること、「施行」は効き始めること
ニュースで「改正法が成立しました」と聞いても、その日から新しいルールが動き出すわけではありません。法律が私たちに影響を及ぼすまでには、成立 → 公布 → 施行という段階があります。
公布とは、成立した法律の内容を国民に知らせる手続きです。憲法7条1号は、法律の公布を天皇の国事行為と定めています。実際の知らせ方は官報への掲載で、「官報の発行に関する法律」3条1項が「法律……の公布は、官報をもって行う」と明記しています。法律の名前に付く「令和3年法律第24号」のような番号の「令和3年」は、この公布がされた年を指しています。
施行とは、公布された法律が実際に効力を持ち始めること、つまり「その日から守らなければならなくなる」ことです。
では、公布からいつ施行されるのでしょうか。基本ルールは「法の適用に関する通則法」2条にあります。
法律は、公布の日から起算して二十日を経過した日から施行する。ただし、法律でこれと異なる施行期日を定めたときは、その定めによる。
「起算して」とあるので、公布の日そのものを1日目として数えます。ただし、この20日ルールが使われることはむしろ少なく、ほとんどの法律は「ただし書」のほうを使って、自分で施行日を決めています。手続の細かな改正などで「公布の日から施行する」と定めるものもあれば、相続登記の義務化のように何年も先の日を指定するものもあり、公布から施行までの幅は法律によってさまざまです。
施行日は「附則」に書かれている
法律が自分で施行日を決めるとき、その置き場所は条文本体(本則)ではなく、末尾の附則です。附則の第1条は、たいてい「施行期日」という見出しになっています。
相続登記の義務化を盛り込んだ「民法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第24号)の附則1条を見てみましょう。
この法律は、公布の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
ここで大事なのは「政令で定める日」という言い回しです。法律には「2年以内のどこか」としか書かれておらず、具体的な日付は後から内閣が出す政令に委ねられています。つまり、法律の条文だけを読んでも施行日は確定しないのです。
さらに同条には「ただし、次の各号に掲げる規定は」と続き、相続登記の申請義務を定める不動産登記法76条の2などについては、別枠で「公布の日から起算して三年を超えない範囲内において政令で定める日」(同条2号)とされています。同条3号には「公布の日から起算して五年を超えない範囲内において政令で定める日」という枠も置かれ、そのうち住所や氏名の変更登記の義務化(不動産登記法76条の5)は令和8年(2026年)4月1日から始まっています。ひとつの改正法の中でも、部分ごとに施行日が違うことがあるわけです。
結果として、この改正法の公布は令和3年4月28日でしたが、相続登記の義務化が実際に始まったのは令和6年4月1日でした。この日を決めたのが「民法等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」(令和3年政令第332号。令和3年12月17日公布)で、法務省の通達(令和5年9月12日付け法務省民二第927号)も「令和6年4月1日施行」と明記しています。公布から施行までに3年近い準備期間が置かれていたことになります。この間、相続登記はまだ「任意」のままでした。
「経過措置」──施行前の出来事をどう扱うか
施行日が決まっても、もう一つ問題が残ります。施行より前に起きた出来事に、新しい法律を当てはめるのかという問題です。これを整理するのが、やはり附則に置かれる経過措置の規定です。
相続登記の義務化では、附則5条6項が、相続登記の申請義務を定める不動産登記法76条の2は「第二号施行日前に所有権の登記名義人について相続の開始があった場合についても、適用する」と定めました。「第二号施行日」とは、先ほど見た附則1条2号の「政令で定める日」、つまり令和6年4月1日のことです。ただし、そのまま当てはめると、何十年も前の相続がいきなり期限切れになってしまいます。そこで同項は、条文中の「知った日」を「知った日又は第二号施行日のいずれか遅い日」と読み替えると定めています。
これにより、第二号施行日(令和6年4月1日)より前から相続を知っていた人については、施行日から3年、すなわち令和9年3月31日までが申請期限になります。この数え方は「相続登記の「3年」はいつから数える?」でも整理していますので、あわせてご覧ください。
このように、附則には「いつから効くか(施行期日)」と「昔の出来事をどう扱うか(経過措置)」がまとめて書かれています。改正法の記事を読んで「自分は対象なのか」を確かめたいとき、本則より先に附則を見るほうが早いことも多いのです。相続登記の義務化については「相続登記の義務化、あと1年で「経過措置」が終わります」で、期限を前にした確認事項を整理しています。
まとめ
- 公布は法律ができたことを官報で知らせる日、施行はその法律が効き始める日。「成立した」というニュースだけでは、まだ動いていないことが多いです
- 施行日は附則に書かれ、「政令で定める日」とあれば法律の条文だけでは日付が分かりません。同じ改正法でも部分ごとに施行日が違うことがあります
- 施行前の出来事をどう扱うかは、附則の経過措置で決まります。相続登記の義務化では、施行前の相続も対象になり、令和9年3月31日という期限が置かれています
「改正されたと聞いたけれど、自分の相続にも当てはまるのか」「いつまでに何をすればよいのか」が分からないときは、お近くの司法書士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年09月・いずれも一次情報です)。
- 日本国憲法 第7条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/321CONSTITUTION
- 官報の発行に関する法律 第3条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/505AC0000000085
- 法の適用に関する通則法 第2条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/418AC0000000078
- 不動産登記法 第76条の2・第76条の5 および 附則(令和3年4月28日法律第24号)第1条・第5条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 民法等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(令和3年政令第332号)掲載の官報 令和3年12月17日 号外第282号(国立印刷局 インターネット版官報): https://www.kanpo.go.jp/old/20211217/20211217g00282/20211217g002820000f.html
- 法務省民事局長通達 令和5年9月12日付け法務省民二第927号「民法等の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(相続登記等の申請義務化関係)」: https://www.moj.go.jp/content/001402460.pdf
- 法務省「住所等変更登記の義務化について」: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00693.html