この記事の要点
- 条文は同じ語句の繰り返しを避けるため、「前項」「前条」「同条」「当該」といった指し示す言葉を多く使う
- 直前の項は「前項」、離れた項は「第二項」のように番号で呼ぶ。一度名前を出した条をもう一度指すときは「同条」
- 「当該」はすでに出てきた特定のものを受けて「いま述べた、その」と限定する言葉
条文を読んでいて、「前項の規定は……」「同条第一項に規定する……」「当該遺産の分割の日から……」といった表現で迷子になった経験はないでしょうか。法律の条文は、同じ語句を何度も書くと長くなるため、一度出てきたものを指し示す言葉で受けます。逆に言えば、この指し示す言葉の読み方さえ分かれば、条文はぐっと追いやすくなります。
なお、この記事は執筆時点(2026年9月)の法令に基づく一般的な解説です。
「前項」「前条」──位置で指す言葉
まず押さえたいのは、「項」を指す言葉と「条」を指す言葉が別だということです。
- 「前項」……いま読んでいる項の、ひとつ前の項
- 「前二項」「前三項」……直前の二つ、三つの項をまとめて指す
- 「前条」……ひとつ前の条。「前項」は同じ条の中の話で、前の条のことではありません
- 「次項」「次条」……あとに続く項・条
たとえば不動産登記法76条の2第3項は「前二項の規定は、代位者その他の者の申請又は嘱託により、当該各項の規定による登記がされた場合には、適用しない。」と定めています。この「前二項」は、同じ76条の2の第1項と第2項のことです。
項を数えるときは、第1項に番号が振られない点に注意してください。条・項・号の階層そのものや枝番号の読み方は、条・項・号の読み方と枝番号の記事で解説しています。
なお同じ76条の2の第2項は、「前項前段の規定による登記」という言葉で始まります。これは「第1項の、前半の文」という意味です。ひとつの項を前半・後半に分けて呼ぶ「前段・後段」については、「ただし書」「本文」「前段・後段」「柱書」の記事をご覧ください。
離れた項は番号で呼ぶ──民法919条の例
「前項」と「第二項」が、結局は同じ項を指していることもあります。相続の承認・放棄の撤回と取消しを定めた民法919条を見てみましょう。
- 第2項「前項の規定は、第一編(総則)及び前編(親族)の規定により相続の承認又は放棄の取消しをすることを妨げない。」
- 第3項「前項の取消権は、追認をすることができる時から六箇月間行使しないときは、時効によって消滅する。相続の承認又は放棄の時から十年を経過したときも、同様とする。」
- 第4項「第二項の規定により限定承認又は相続の放棄の取消しをしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。」
第3項の「前項」も、第4項の「第二項」も、指しているのは同じ第2項です。直前の項なら「前項」、ひとつ飛んだ項は番号で呼ぶ、という書き分けが基本です。「前項」と書いてあったら必ず「いま読んでいる項のひとつ前」に戻る、と機械的に処理するのが安全です。
ちなみに第2項の「前編(親族)」は、民法第四編の親族編を指します。919条は第五編(相続)の中にあるので、そのひとつ前の編という意味です。「編」の単位でも、条や項と同じように前後で指し示しています。
「同条」「同項」──一度出したものを、もう一度指す
一度名前を出した条や項を、あらためて指すときには「同条」「同項」を使います。不動産登記法76条の3第2項が分かりやすい例です。
前条第一項に規定する期間内に前項の規定による申出をした者は、同条第一項に規定する所有権の取得(当該申出の前にされた遺産の分割によるものを除く。)に係る所有権の移転の登記を申請する義務を履行したものとみなす。
一文の中に、指し示す言葉が三つ出てきます。
- 「前条第一項」……ひとつ前の条、つまり76条の2の第1項(枝番号の条も、ひとつの条として数えます)
- 「前項」……いま読んでいる76条の3の第1項
- 「同条第一項」……直前に出した「前条」=76条の2の第1項のこと
一度「前条」と呼んで引いた条を、同じ文の中でもう一度指すときは「同条」で受ける、という書き方です。この例では、間に「前項」という別の条の話が入るため、そこで再び「前条」と書くとどちらを指しているのか紛れかねません。項についても同様で、民法766条2項は「前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。」と、一つの文の中で第1項を「前項」から「同項」へ受け直しています。
「当該」──いま述べた、その
「当該」は、すでに出てきた特定のものを受けて「いま述べた、その」と限定する言葉です。ふつうの「その」より、指す先がはっきりします。相続登記の申請義務を定めた不動産登記法76条の2第1項の前段を見てください(後段は、相続人への遺贈で所有権を取得した場合も同様とする定めです)。
所有権の登記名義人について相続の開始があったときは、当該相続により所有権を取得した者は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない。
- 「当該相続」……文の冒頭に出てきた、その登記名義人について開始した相続
- 「当該所有権」……その相続によって取得した、その所有権
単に「相続により所有権を取得した者」と書くと、どの相続のことか曖昧になります。「当該」を付けることで、いま話題にしているその相続に限る、と対象を絞り込んでいるのです。
読み方のコツ──指し示す先の言葉を戻して読む
指し示す言葉で迷ったら、指す先の言葉を実際に戻して読み直すのが確実です。先ほどの不動産登記法76条の3第2項なら、次のようになります。
〔76条の2第1項に定める期間〕内に〔76条の3第1項の、相続人である旨の申出〕をした者は、〔76条の2第1項〕に規定する所有権の取得(当該申出の前にされた遺産の分割によるものを除く。)に係る所有権の移転の登記を申請する義務を履行したものとみなす。
こう置き換えると、相続人である旨の申出をしておけば、76条の2第1項が定める3年以内の申請義務については履行したものとみなされる、という内容だと読み取れます。
ここで、読み飛ばしがちなかっこ書きにも目を向けてください。「当該申出の前にされた遺産の分割によるもの」は、このみなし履行の対象から外れています。さらに、申出をした人がその後の遺産の分割で所有権を取得したときについては、同じ76条の3の第4項が、原則として「当該遺産の分割の日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない」と別に定めています。第2項だけを取り出して「申出さえしておけば、あとは何もしなくてよい」と読むことはできません。指し示す言葉を戻すのと同じように、かっこ書きや後ろの項まで含めて読んで初めて、その規定がどこまでをカバーしているのかが見えてきます。
まとめ
条文の「前項」「前条」は位置で、「第二項」のような番号は少し離れた場所を指します。「同条」「同項」は一度名前を出したものをもう一度指すとき、「当該」は「いま述べた、その」と対象を特定するときの言葉です。迷ったら、指し示す先の言葉を戻して読み直す──これだけで条文の読みやすさはかなり変わります。もっとも、条文が読めることと、その規定が自分のケースに当てはまるかどうかは別の問題です。実際の手続きや判断でお困りのときは、お近くの司法書士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年09月・いずれも一次情報です)。
- 民法(明治二十九年法律第八十九号)第766条第2項・第919条第1項から第4項まで、および編の構成(第一編 総則・第四編 親族・第五編 相続)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)第76条の2第1項から第3項まで・第76条の3第1項から第5項まで(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123