この記事の要点

  • 準確定申告とは、亡くなった方(被相続人)のその年の所得税について、相続人が代わりに行う確定申告のことです
  • 申告する義務を負うのは相続人で、包括受遺者(遺言で遺産の全部または割合で財産を受け取る人)も同じ立場に立ちます
  • 相続人が2人以上いるときは、付表を添えて全員が連署した1通を出すのが原則で、他の相続人の氏名を付記して各別に出すこともできます
  • 提出先は「被相続人の死亡当時の納税地」を所轄する税務署です。相続人自身の住所地の税務署ではありません
  • 相続放棄をした人は、民法939条により初めから相続人でなかったものとみなされるため、相続人としての申告義務を負いません
  • 申告が必要かどうかの判断・税額の計算・申告書の作成は税理士の専門分野です。具体的な内容は税理士にご相談ください

結論から言うと、準確定申告で最初につまずきやすいのは「4か月」という期限そのものよりも、誰が申告する立場なのかどこの税務署に出すのかという2点です。とくに提出先は、相続人が住んでいる場所の税務署ではなく、亡くなった方が亡くなった当時の納税地を所轄する税務署になります。ここを取り違えると、期限を意識していても手続きが空回りしてしまいます。

なお、期限そのもの(相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内)と、対象になるケースの考え方は、別の記事の準確定申告の期限についてのミニコラムで整理しています。この記事はそこから切り口を変えて、申告する人・提出先・相続放棄した人の扱いという「手続きの枠組み」の部分をまとめます。

はじめにお断りしておくと、以下はあくまで制度の一般的な説明です。ご自身のケースで準確定申告が必要かどうか、どのように計算し何をどう記載するかといった具体的な中身は、税務の専門家である税理士にご相談ください。この記事では、税額の計算例や記載例、有利不利の判断は扱いません。

誰が申告するのか──相続人と包括受遺者

準確定申告を行うのは、亡くなった方本人ではなく、その相続人です。所得税法125条1項は、居住者が年の途中で亡くなり、その年分の所得税について確定申告書を提出しなければならない場合に該当するときは、「その相続人は……申告書を提出しなければならない」と定めています。また、亡くなった方が前年分の確定申告書を出さないまま年明けに亡くなったケースについては、所得税法124条が同じ枠組みを置いています。

ここでいう相続人には、包括受遺者も含まれます。包括受遺者とは、遺言によって「財産の全部を与える」「財産の3分の1を与える」というように、割合や全体で財産を受け取る人のことです。民法990条は「包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する」と定めていますが、所得税の場面には、さらに直接の根拠があります。所得税法2条2項が「この法律において、「相続人」には、包括受遺者を含むものとし、「被相続人」には、包括遺贈者を含むものとする」と定めており、所得税法のなかで「相続人」といえば、はじめから包括受遺者が含まれる仕組みになっているからです。国税庁の説明でも、準確定申告を行うのは相続人(包括受遺者を含む)と整理されています。

もっとも、所得税法2条2項は「相続人」に包括受遺者を加えるという定め方をしているだけで、そもそも誰が相続人に当たるのかを所得税法が独自に決めているわけではありません。誰が相続人になるかという部分は民法の定めによります。この点は、後で見る相続放棄の扱いにつながります。

相続人が2人以上いるとき──連署か、各別か

相続人が複数いる場合の出し方には、決まったかたちがあります。所得税法施行令263条2項は、申告書を提出する場合において相続人が2人以上あるときは、その申告書は「各相続人が連署による一の書面で提出しなければならない」と定めたうえで、ただし書で「他の相続人の氏名を付記して各別に提出することを妨げない」としています。つまり、次の2つの方法があるということです。

  • 原則:相続人全員が連署した1通の申告書を提出する
  • 例外的な方法:他の相続人の氏名を付記して、各相続人がそれぞれ別に提出する

各別に提出した場合には、後始末の義務が付いてきます。同条3項は、その方法で提出した相続人は「遅滞なく、他の相続人に対し、当該申告書に記載した事項の要領を通知しなければならない」と定めています。ばらばらに出して終わり、ではなく、他の相続人へ内容を知らせるところまでが手続きに含まれている、という点は押さえておきたいところです。

また、実務上は「死亡した者の所得税及び復興特別所得税の確定申告書付表」(いわゆる付表)を申告書に添えます。付表には各相続人の氏名・住所・被相続人との続柄などを記入します。

なお、準確定申告はe-Tax(電子申告)でも提出でき、国税庁は令和2年分以後の準確定申告についてe-Taxでの提出に対応しています。e-Taxで提出する場合、付表は相続人が1人のときでも電子データ(XML形式)で提出する必要があり、相続人が2人以上いるときは、さらに各相続人が申告内容を確認し署名した「確認書」をイメージデータ(PDF形式)で作成して送信することとされています。書面で出すか電子で出すかによって、そろえる書類のかたちが変わるということです。

いずれにしても、相続人が連絡を取り合わなければ書けない書類なので、遺産の分け方の話し合いが始まる前でも、相続人が誰なのかを早めに確定させておくことが結果的に手続きを楽にします。相続人の範囲や順位に迷いがある場合は、死亡後の手続きスケジュール全体像もあわせてご覧ください。

どこへ出すのか──被相続人の死亡当時の納税地

提出先は、亡くなった方の死亡当時の納税地を所轄する税務署です。ここは、二つの規定を重ねて考えると分かりやすくなります。

一つ目は、納税地そのものについての定めです。所得税法16条3項は、納税義務者が死亡した場合には、死亡した方の所得税の納税地は「その相続人の所得税の納税地によらず、その死亡当時におけるその死亡した者の所得税の納税地とする」と定めています。

二つ目は、申告書をどこへ出すかについての定めです。国税通則法21条1項は「納税申告書は、その提出の際におけるその国税の納税地……を所轄する税務署長に提出しなければならない」と定めています(「……」はかっこ書きを省略した箇所です)。

この二つを重ねると、準確定申告書の出し先は、亡くなった方の死亡当時の納税地を所轄する税務署ということになります。国税庁の説明でも、準確定申告書には付表を添付し、「被相続人の死亡当時の納税地の税務署長に提出します」と示されています。

ここは通常の確定申告と感覚が違うところです。ふだんの確定申告は自分の住所地の税務署に出しますから、相続人の側は「自分の家の近くの税務署でよいはず」と考えがちです。しかし準確定申告は、あくまで亡くなった方の所得税についての申告であり、その納税地も上で見たとおり亡くなった方を基準に定められています。だから、提出先を決める基準になるのも亡くなった方の側です。

そのため、次のようなケースでは注意が必要です。

  • 相続人が遠方に住んでいて、亡くなった方と生活の本拠が離れていた場合
  • 亡くなった方が晩年に転居していて、以前の住所の税務署と混同しやすい場合
  • 亡くなった方が施設に入っていたなど、住民票上の住所と実際の生活の場が異なっていた場合

なお、どこが「納税地」に当たるかの判定そのものは税務上の判断です。転居や施設入所があって迷う場合は、自己判断で決めずに税理士または所轄の税務署に確認してください

準確定申告が問題になりやすい場面(類型の列挙)

国税庁の解説や制度の枠組みから、一般に「準確定申告が問題になりやすい」と説明されている類型を挙げると、次のようなものがあります。

  • 亡くなった方に事業所得があった(個人で商売・農業などを営んでいた)
  • 亡くなった方に不動産の賃料収入があった(アパート・駐車場などを貸していた)
  • 給与を2か所以上から受けていた
  • 公的年金等の収入が一定額を超えていた
  • 還付を受けるための申告という選択肢が制度として別に置かれている場面(医療費控除などがある場合。所得税法125条2項は、この申告書について「提出することができる」と定めており、義務としての申告とは枠組みが違います)

これはあくまで「こういう場合に話題になることが多い」という類型の並べ方であって、一つでも当てはまれば申告が必要という意味ではありませんし、当てはまらなければ不要という意味でもありません。準確定申告が必要かどうかは、その年の所得の中身や金額、各種控除の適用などを踏まえて判断されるものです。該当しそうだと感じた時点で、早めに税理士にご相談ください。この記事では、申告した方が得か・しなくてよいかといった判断には立ち入りません。

相続放棄した人はどうなるか(民法939条)

家庭裁判所で相続放棄が受理された人は、準確定申告についても「相続人」としての義務を負いません。理由は税務上の特別扱いではなく、民法の効果です。

民法939条は「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」と定めています。準確定申告の義務は所得税法125条1項が「その相続人」に課しているものですから、放棄によって初めから相続人でなかったものとみなされる以上、その人はこの義務を負う立場にない、という整理になります。

ここで気をつけたいのは、次の2点です。

  • 放棄は自動的には成立しません。 家庭裁判所への申述と受理という手続きが必要です。「何ももらっていないから自分は関係ない」という思い込みは、放棄とは別物です。手続きの流れは相続放棄の基本で整理しています
  • 放棄によって、次の順位の人が相続人になることがあります。 子が全員放棄すれば親、親もいなければ兄弟姉妹、というように相続人の顔ぶれが移り、準確定申告の申告義務者もそれに応じて変わります

また、相続放棄をした人が、それとは別に包括遺贈を受けている場合(遺言で財産の全部や一定の割合を受け取る立場にある場合)については、先に見た所得税法2条2項の「相続人」に当たるかどうかという、放棄の効果とは別の検討が必要になります。この記事ではそこまでは立ち入りません。

なお、放棄の期間(原則3か月)と準確定申告の期限(4か月)は別々に進みます。放棄するかどうかを迷っているうちに準確定申告の期限が近づく、という時間の重なりは起こり得るところです。この重なり方をどう扱うかは、放棄の判断とも税額の見通しとも絡みます。放棄の手続きについてはお近くの司法書士に、税務については税理士に、それぞれ早めに相談するのが安全です。

まとめ

準確定申告とは、亡くなった方のその年の所得税を、相続人が代わりに申告する手続きです。申告義務を負うのは相続人(包括受遺者を含む)で、相続人が2人以上いるときは付表を添えて連署で1通を出すのが原則、各別に出すときは他の相続人へ内容を通知することになっています。提出先は相続人の住所地ではなく、被相続人の死亡当時の納税地を所轄する税務署です。相続放棄をした人は、民法939条により初めから相続人でなかったものとみなされるため、相続人としての申告義務を負いません。

そして繰り返しになりますが、申告が必要かどうかの判断、税額の計算、申告書の作成といった具体的な中身は税理士の専門分野です。この記事は制度の枠組みを整理したものにとどまります。

一方で、準確定申告は相続手続き全体のなかの一つにすぎません。誰が相続人なのかを戸籍で確定させ、遺産の分け方を話し合い、不動産の名義を変えるところまでが一続きの流れです。どこから手を付ければよいか分からないとき、相続人の範囲や不動産の名義変更に不安があるときは、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 費用はどれくらいかかりますか?

準確定申告そのものを税理士に依頼する場合の報酬は、事務所ごとに自由に定められており、所得の種類や資料の量によっても変わります。金額は依頼先に見積りを取って確認してください。あわせて、相続手続き全体では戸籍謄本などの取得実費や、不動産の名義変更にかかる登録免許税・司法書士報酬なども別に発生します。準確定申告だけを切り離さず、相続手続き全体の費用感として把握しておくと予定が立てやすくなります。

Q. 期限を過ぎたり、放置したりするとどうなりますか?

準確定申告の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内とされています(所得税法125条1項)。期限を過ぎた場合には、税務上の加算税・延滞税といった負担が問題になり得るとされていますので、具体的な取扱いは税理士または所轄の税務署にご確認ください。また、放置すると相続税の申告期限(原則10か月)や不動産の名義変更と時期が重なり、短期間に手続きが集中してしまいます。期限の並び方は相続が始まったら何から?期限のある手続きの優先順位の整理もご覧ください。

Q. 自分でできますか? どこに相談すればいいですか?

相続人ご自身が申告書を作成して提出すること自体はできます。ただし、税理士でない人は、他人の税務書類の作成や税務相談といった税理士業務を行うことはできないとされています(税理士法52条)。判断に迷うところがあれば、早い段階で税理士にご相談ください。一方で、相続人が誰なのかを戸籍で確定させる、遺産分割協議書を作る、不動産の名義を変えるといった部分は司法書士の分野です。相続手続き全体の進め方で迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。

【さらに深掘り】準確定申告と相続税申告のつながり──納めた税金・戻った税金の位置づけ

ご注意 以下は執筆時点(2026年8月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

ここでは、準確定申告が相続税の話とどこでつながっているのか、その制度の枠組みを整理します。はじめにお断りしておくと、以下はいずれも「そういう仕組みになっている」という位置づけの説明であって、具体的な計算の話ではありません。具体的な税額・申告の要否は税理士にご相談ください。

二つの申告は別の税目・別の期限だが、無関係ではない

準確定申告は亡くなった方の所得税の申告で、期限は相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内(所得税法125条1項)。相続税の申告は相続によって財産を取得した人の相続税の申告で、期限は相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内(相続税法27条1項)。税目も、申告する内容も、期限も別のものです。

もっとも、この二つはまったく切り離されているわけではありません。準確定申告の結果として納めることになった所得税や、逆に戻ってきた税金が、相続税を計算するときの財産・債務の側に顔を出す場面があるからです。以下、その2つの入口を順に見ていきます。

納めた所得税の位置づけ──「債務控除」という枠組み

相続税は、亡くなった方が残した財産から、亡くなった方が負っていた債務などを差し引いたものを基礎に計算する仕組みになっています。この差引きのことを一般に債務控除と呼びます。

根拠は相続税法13条1項1号で、控除の対象として「被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(公租公課を含む。)」が挙げられています。公租公課とは、税金や社会保険料などの公的な負担のことです。ただし、同法14条1項により、控除できる債務は「確実と認められるものに限る」とされています。

ここで問題になるのが、準確定申告で納める所得税です。この所得税は、亡くなった時点ではまだ申告も納付もされていません。「相続開始の際に現に存する債務」と言えるのか、という疑問が出てきそうなところです。

これについては、相続税法14条2項が「前条の規定によりその金額を控除すべき公租公課の金額は、被相続人の死亡の際債務の確定しているものの金額のほか、被相続人に係る所得税……その他の公租公課の額で政令で定めるものを含むものとする」と定めています(「……」は他の税目の列挙部分を省略した箇所です)。そして受け皿となる相続税法施行令3条1項は、「被相続人の死亡後相続税の納税義務者が納付し、又は徴収されることとなつた」税額として、1号に「被相続人の所得に対する所得税額」を掲げています。

国税庁の解説(タックスアンサーNo.4126「相続財産から控除できる債務」)でも、被相続人に課される税金で死亡後に相続人などが納付することになった所得税などは、「被相続人が死亡したときに確定していないもの……であっても、債務として遺産総額から差し引くことができます」と説明されています(「……」は相続時精算課税に関する例外を示すかっこ書きを省略した箇所です)。

つまり、準確定申告で納める所得税は、相続税の計算では「亡くなった方の債務」の側に位置づけられるという枠組みになっている、ということです。

なお、この申告義務そのものをどう位置づけるかについては、専門家の間でも整理の仕方に幅があります。条文の書き方は「その相続人は……申告書を提出しなければならない」となっており、文言のうえでは相続人自身に課された義務のかたちをとっています。他方で、本来はご本人が行うはずだった申告を相続人に委ねた制度なのだから、実質的には亡くなった方が生前に負っていた申告義務を相続人が承継したものとみるべきだ、という整理も示されています。納める所得税を「亡くなった方の債務」の側に置くという上の枠組みは、後者の見方と結びつけて説明されることがあります。もっとも、どちらか一方の見方で固まっているとまでは言えません。この記事で扱っている「誰が出すか・どこへ出すか」という部分については、どちらの見方に立っても進め方が変わるわけではありませんが、制度の位置づけそのものについては説明が一つに固まりきっているわけではない、という点は押さえておくとよいでしょう。

もう一点、同じ国税庁の解説には「相続人などの責任に基づいて納付したり、徴収されることになった延滞税や加算税などは遺産総額から差し引くことはできません」という説明もあります(相続税法施行令3条1項ただし書も同趣旨の除外を置いています)。この点は、相続人の側の事情によって生じた負担までは債務控除の対象に含めない、という線引きが置かれている、という整理として押さえておくとよいでしょう。

なお、実際にこの控除が使えるかどうか、誰がどの範囲で負担したものとして扱われるかは、相続人の区分や債務を負担する人によって変わってきます。当てはめの判断は税理士の領域です。

戻ってきた税金の位置づけ──「還付金」と「還付加算金」は別扱い

準確定申告では、税金が戻ってくる(還付される)ことがあります。予定納税をしていた場合や、源泉徴収された税額があった場合などです。

このとき、「戻ってきたお金は、亡くなった後に相続人のところへ入ってきたのだから、相続とは関係ないのでは」と考えたくなるところですが、国税庁の質疑応答事例「被相続人の準確定申告に係る還付金等」は、これとは異なる整理を示しています。同事例の回答要旨では、次の2点が区別されています。

  • 還付金請求権:「(本来の)相続財産であり、相続税の課税の対象となります」。理由として、「還付金請求権は、被相続人の死亡後に発生するとしても、被相続人の生存中に潜在的な請求権が被相続人に帰属しており、これが被相続人の死亡により顕在化したものと考えられます」と説明されています
  • 還付加算金:「相続人が確定申告書の提出によって原始的に取得するもので、被相続人からの相続によって取得するものとは認められないため、所得税(雑所得)の課税対象となり、相続税の課税価格には算入されません」

還付加算金というのは、還付される税金に上乗せされる利息に相当するものです(国税通則法58条)。同じ「戻ってきたお金」でも、元本にあたる還付金と、上乗せ部分の還付加算金とで、どの税目の話になるかが分かれているという整理です。

この区別は、実務上の見え方にも影響します。還付金が相続財産の側に位置づけられるということは、それが遺産の分け方を考えるときに意識されるということでもあります。一方の還付加算金は、受け取った相続人自身の所得の問題として、その相続人自身の確定申告の話につながっていく可能性があります。

もっとも、相続税の課税の対象になるかどうかという話と、遺産分割の話し合いでどう扱うかという話は、本来は別の問題です。金銭の支払を求める権利を遺産分割の対象としてどのように扱うかについては民法上の議論があり、この記事では立ち入りません。

ただし、還付を受けるための申告をするかどうか、実際にどの部分がどう扱われるかは、その方の所得の内容によって変わります。この記事では、申告した方が得か・しなくてよいかといった判断には立ち入りません。判断は税理士にご相談ください。

年の中途で亡くなった場合、所得控除はどう考えるのか

もう一つ、準確定申告に特有の考え方として、所得控除をどの範囲で見るかという論点があります。1年の途中で亡くなっている以上、「1年分をそのまま使うのか」「単純に月割りにするのか」という疑問が出てくるところですが、国税庁の解説(タックスアンサーNo.2022「納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)」)は、控除の種類によって扱いを分けて説明しています。

  • 医療費控除の対象となるのは「死亡の日までに被相続人が支払った医療費」であり、死亡後に相続人等が支払ったものを準確定申告で対象に含めることはできない、とされています
  • 社会保険料控除・小規模企業共済等掛金控除・生命保険料控除・地震保険料控除の対象となるのは「死亡の日までに被相続人が支払った保険料等の額」、寄附金控除の対象となるのは「死亡の日までに被相続人が支出した特定寄附金」とされています
  • 一方、配偶者控除や扶養控除等については、適用の有無に関する判定を「死亡の日の現況により行います」としたうえで、これらの控除額の「月割計算等は行いません」と明記されています

ここから読み取れるのは、「支払った金額を積み上げるタイプの控除」は死亡の日で区切って見る、「その人の状況で当てはまるかどうかを判定するタイプの控除」は死亡の日の現況で判定し、期間で割り振るという発想は採らないという、性質による扱いの違いがある、ということです。「年の途中で亡くなったのだから、全部を月数で按分するのだろう」という直感とは、整理の仕方が違っています。

もっとも、この2つの分け方は、上の解説が挙げている控除について読み取れる整理であって、すべての所得控除がこの2つに割り切れるという趣旨ではありません。ここに挙がっていない控除まで同じ理屈で当てはめてよいことにはならない、という点は注意が必要です。

こうした論点があること自体を知っておくと、税理士に相談するときに何の資料を用意すればよいかの見当がつきやすくなります。もっとも、どの控除がどこまで使えるかという当てはめと計算は税理士の領域です。

令和8年分については、施行日をまたぐ論点があります

もう一つ、この記事の公開時点(令和8年8月)に固有の話として、施行日と提出時期の関係という論点があります。

令和8年度税制改正により、所得税の基礎控除の引上げ、給与所得控除の最低保障額の引上げ、扶養親族等の所得要件の改正が行われました。国税庁「令和8年度税制改正(所得税の基礎控除の引上げ等関係)Q&A」(令和8年5月)は、これらの改正について「令和8年12月1日に施行され、令和8年分以後の所得税について適用されます」としています。つまり、この記事の公開時点ではまだ施行前で、施行日は令和8年12月1日です。

ここで準確定申告に固有の事情が出てきます。準確定申告は年の中途で亡くなった方について行うものですし、期限も相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内と定められていますから、令和8年中に亡くなった方の申告は、施行日である令和8年12月1日より前に提出期限が来ることが十分にあり得ます。この点について、同Q&Aは次のように説明しています。

  • 令和8年11月30日以前に令和8年分の準確定申告書を提出する場合においては、「改正後の控除等は適用されないこととなります」
  • そのうえで、「令和8年11月30日以前に準確定申告書を提出した方は、同年12月1日から令和13年12月1日(月)までに更正の請求を行うことにより、令和8年度税制改正による改正後の控除等の適用を受けることができます」
  • また、「既に提出した準確定申告書に係る法定申告期限が到来していない場合には、訂正申告書の提出により改正後の控除等の適用を受けることができます」

読み取れるのは、提出した時期によって適用される控除の内容が変わり得ることと、その差を埋めるための手続(更正の請求・訂正申告)が別に用意されていることの2点です。準確定申告の4か月という期限は、この施行日とは無関係に進みます。施行日を待つことによって申告期限が延びるわけではありません。期限の管理と、施行日をまたぐ取扱いとを、別々のものとして意識しておく必要がある場面だといえます。

なお、そもそも影響があるかどうか、どの手続を採ることになるかは、その方の所得や控除の内容によって変わります。当てはめ・計算・手続の選択はいずれも税理士の領域です。この記事では、いつ提出するのが有利かといった判断には立ち入りません。具体的な取扱いは税理士または所轄の税務署にご確認ください。

司法書士の手続きとの接点

最後に、ここまでの話が相続手続き全体のどこと接するかを整理しておきます。

第一に、相続人が誰なのかを確定させる作業は、準確定申告にも相続税申告にも共通する前提です。準確定申告の付表には相続人全員の情報を記載しますし、相続税の申告書にも財産・債務を各人ごとに明らかにした明細書の添付が求められています(相続税法27条4項)。戸籍をたどって相続人の範囲を確定させておくことが、どちらの手続きの入口にもなります。

第二に、還付金が相続財産の側に位置づけられるという整理は、相続手続きのなかで還付金をどう扱うかという問題につながることがあります。不動産の名義変更(相続登記)を含む遺産の分け方の議論と、まったく別のテーブルの話ではありません。

第三に、期限の並び方です。準確定申告の4か月、相続税申告の10か月、そして相続登記の申請義務(自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その所有権を取得したことを知った日から3年以内。不動産登記法76条の2第1項)は、それぞれ別の制度の別の期限として並行して進みます。どれか一つを片づけてから次へ、という順番で組み立てると、後ろの期限が窮屈になりやすいところです。

相続人の確定・遺産の把握・不動産の名義変更といった部分で手が止まっているときは、お近くの司法書士にご相談ください。そして繰り返しになりますが、具体的な税額・申告の要否は税理士にご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月)。

※ 次の資料は一次情報ではなく、解説・評釈などの二次資料ですが、内容確認の参考にしたため一次情報と区別して掲載しています。

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