この記事の要点
- 建物滅失登記は、取り壊した建物の登記記録を閉じる「表示に関する登記」で、所有者本人が自分で申請することもできる
- 申請書には登記の目的「建物滅失」、添付情報、申請日と提出先の法務局、申請人の住所氏名と連絡先、建物の表示、取り壊した日を書く(法務局のサイトに様式と記載例がある)
- 中心になる添付書類は、解体業者が発行する建物滅失証明書とその業者の印鑑証明書など。建物図面は求められない
- 所有者が亡くなっている場合は、相続人その他の一般承継人から申請できる(不動産登記法30条)。相続登記を先に済ませる必要はない
- 建物滅失登記に登録免許税はかからない。ただし建物の特定が難しいときや一部だけを取り壊したときは、土地家屋調査士に相談したほうが早い
建物を取り壊したあとに必要な建物滅失登記は、土地家屋調査士に依頼するのが一般的ですが、制度上は所有者本人が自分で申請することもできます。実際、法務局は申請書の様式と記載例を公開しており、書き方の手がかりは公的なかたちで用意されています。この記事では、その記載例に沿って「自分で出す」ときの手順を、申請書の項目・添付書類・相続人が申請する場合・費用の順に整理します。
なお、取り壊した日から1か月以内という申請期限、期限を過ぎた場合の過料、登記簿に建物が残り続けることの不利益については、実家を取り壊したら1か月以内に「建物滅失登記」で扱っています。本記事は手続きの中身に絞ります。
執筆時点(2026年9月)の制度に基づく一般的な解説です。
建物滅失登記とは──取り壊した建物の登記記録を閉じる手続き
建物滅失登記は、登記されている建物がなくなったことを登記記録に反映させ、その建物の登記記録を閉じる手続きです。登記には、建物の物理的な状況(所在・家屋番号・種類・構造・床面積など)を記録する「表示に関する登記」と、所有権や抵当権を記録する「権利に関する登記」があり、建物滅失登記は前者にあたります。
建物が滅失したときは、表題部所有者または所有権の登記名義人が、滅失の日から1か月以内に建物の滅失の登記を申請しなければならないと定められています(不動産登記法57条)。「滅失」は取り壊しだけでなく、焼失や自然災害による倒壊も含みます。申請書の「登記原因及びその日付」欄には、その原因(取壊し・焼失など)と日付を書きます。
申請書に書く項目──法務局の様式と記載例に沿って
法務局のサイト「不動産登記の申請書様式について」には、建物滅失登記申請書の様式(一太郎・Word・PDF)と記載例が掲載されています。まずこの記載例を手元に置くのが確実です。記載例に出てくる項目は次のとおりです。
- 登記の目的:「建物滅失」と書きます
- 添付情報:建物滅失証明書など、添付する書類の名称を書きます
- 申請年月日と提出先:申請書を登記所に提出する日と、建物の所在地を管轄する法務局(支局・出張所)の名称を書きます
- 申請人:登記記録の所有権に関する事項欄(甲区)に記録されている現在の登記名義人の住所と氏名を書き、氏名の末尾に押印します(記載例の注記では認印とされています)。甲区がない登記記録の場合は、表題部の末尾に記録されている所有者の住所と氏名を書きます
- 連絡先の電話番号:申請書の記載に補正すべき点があったときに、登記所から連絡を受けるためのものです。平日の日中に連絡がつく番号(携帯電話でも差し支えないとされています)を書きます
- 不動産の表示:所在、家屋番号、種類、構造、床面積を、現在の登記記録(登記事項証明書)に記録されているとおりに書きます
- 登記原因及びその日付:建物滅失証明書に記載された取り壊しの日を書きます
実務的なポイントが二つあります。ひとつは、申請書に不動産番号を書いた場合は、所在・家屋番号・種類・構造・床面積の記載を省略できるとされていることです。もうひとつは、登記記録上の所有者の住所が現在の住所と一致していない場合の扱いです。このときは、登記記録上の住所から現在の住所までの異動の経過が分かる住民票の写しや、戸籍の表示の記載のある戸籍の附票の写しなどを申請書に添付します。引っ越しを重ねている場合は、この住所のつながりの確認に時間がかかることがあるので、早めに取りかかったほうが安全です。なお、申請書が複数枚にわたる場合は、申請人またはその代理人が各用紙のつづり目に契印(ページのつなぎ目にまたがるように押す印)をします。
申請書を書くには、まず現在の登記記録の内容を確認する必要があります。登記事項証明書を取得するか、登記情報提供サービスで確認して、建物の表示をそのまま書き写すのが確実です。
オンラインで申請する方法もあります。法務局のサイトでは、所有者本人が建物滅失の登記をオンライン申請する場合として、マイナンバーカードとICカードリーダライタ、申請用総合ソフトを使う方法が案内されています。ただし、書面で作成された添付情報は、オンライン申請の受付の日から2日以内(初日・休日等を除く)に登記所へ持参するか書留郵便等で送付する必要があるとされているので、結局は紙の書類を届ける手間が残ります。初めて自分で申請するなら、書面申請のほうが分かりやすいことが多いでしょう。
添付書類──建物滅失証明書が中心
法務局の記載例で添付情報として挙げられているのは、建物滅失証明書です。これは、建物が取り壊されたことの証明書で、解体工事を行った工事請負人(解体業者)が発行します。記載例に載っている証明書の見本には、建物の表示(所在・家屋番号)、滅失の理由(「令和○年○月○日取壊し」など)、所有者の住所氏名、「上記のとおり建物を取り壊したことを証明します。」という文言、証明日と工事請負人の住所・商号・代表者名・押印が並んでいます。取毀証明書という名前で交付されることもあります。
この証明書の真実性を確認するため、工事請負人が法人の場合は、その法人の代表者の資格を証する書面(登記事項証明書など)と、登記所で交付される代表者の印鑑証明書が、法人でない場合は個人の印鑑証明書が、あわせて必要になります。ただし、工事請負人が法人である場合に、申請書にその法人の会社法人等番号を記載したときは、資格を証する書面と代表者の印鑑証明書の添付を省略できるとされています(現在登記所に印鑑を登録している場合に限ります)。解体を依頼するときに、証明書と会社法人等番号をあわせて出してもらえるか確認しておくと手戻りが減ります。
法令の建て付けを補足しておくと、通常の建物滅失登記については、不動産登記令の別表に添付情報の定めが置かれていません。つまり建物滅失証明書は、法務局が公開している様式・記載例で案内されている取扱いです。そのため、証明書が得られない場合にどのような書面で代えられるかは、法令の条文を読んでも答えが出ず、管轄の法務局の判断になります。
実際、所有者自身が取り壊した場合や、解体業者が廃業していて証明書を出してもらえない場合はあります。こうしたときは、所有者が作成する上申書(取り壊した事実と、証明書を用意できない事情を記載し、実印を押して印鑑証明書を添える書面)を提出する方法が、実務上の解説で紹介されています。ただし、これは法務局の記載例には載っていない取扱いで、上申書で足りるか、ほかにどのような資料を求めるかは、管轄の法務局の判断になります。登記官には関係者に資料の提示を求める権限がありますので(不動産登記法29条2項)、解体費用の領収書や取り壊し前後の写真など、解体の事実を裏付ける資料は手元に残しておいてください。証明書がそろわない見込みのときは、申請書を作り込む前に、管轄の法務局に何を用意すればよいかを問い合わせてください。
なお、建物滅失登記では建物図面や各階平面図の提出は求められていません。法務局の記載例の添付情報欄にも挙げられていません。測量や図面の作成が不要である点が、建物を新築したときの表題登記との大きな違いです。代理人に申請してもらう場合は、代理人の権限を証する情報、つまり委任状が必要です(不動産登記令7条1項2号)。
所有者が亡くなっている場合──相続人から申請できる
建物の所有権の登記名義人(または表題部所有者)がすでに亡くなっている場合でも、相続人その他の一般承継人(相続や会社の合併などで、前の人の権利義務をまとめて引き継いだ人)が建物滅失登記を申請できます。不動産登記法30条は、表題部所有者または所有権の登記名義人が表示に関する登記の申請人となることができる場合において、その人について相続その他の一般承継があったときは、相続人その他の一般承継人がその表示に関する登記を申請することができる、と定めています。
ここで押さえておきたいのは、相続登記を先に済ませる必要はないということです。建物滅失登記は表示に関する登記なので、建物の名義を相続人へ移す相続登記が前提になるわけではありません。相続した実家を解体した場面では、建物の名義が亡くなった親のままでも、相続人から滅失登記を申請できます。むしろ、取り壊してなくなった建物について相続登記をする実益は乏しく、滅失登記で登記記録を閉じるほうが素直です。ただし、ここで実益が乏しいといっているのは取り壊した建物の相続登記であって、その建物が建っていた土地の相続登記は別の話です。土地は相続登記の対象として残りますので、土地の名義については相続登記の義務化と「経過措置」の期限もあわせてご覧ください。
この場合の申請書には、申請人が表題部所有者または所有権の登記名義人の相続人その他の一般承継人である旨を記載します(不動産登記令3条10号)。添付書類としては、相続その他の一般承継があったことを証する、市町村長・登記官その他の公務員が職務上作成した情報が必要です(同令7条1項4号)。具体的には、亡くなった登記名義人の死亡の記載がある戸籍(除籍)と、申請人がその相続人であることが分かる戸籍が中心になります。一部の法務局が公開している申請前のチェックリストでは、これらに加えて、登記記録上の所有者の住所と本籍のつながりを確認できる戸籍の附票(本籍の記載があるもの)と、申請人の住民票または戸籍の附票も挙げられています。相続登記のように相続人全員を確定させる戸籍一式まで必要かどうかを含め、管轄の法務局に事前に確認しておくと安心です。
相続人が複数いる場合でも、そのうちの1人から申請できるとされています。法務局が公開している申請前のチェックリストにも、所有者が死亡している場合は相続人の1人から申請できると明記されているものがあります。建物滅失登記そのものは、権利を処分したり持分を動かしたりする登記ではなく、すでになくなった建物の登記記録を事実に合わせて閉じる手続きなので、共有物の保存行為に近いものと位置づけられるためと説明されています。ただし、不動産登記法30条は相続人その他の一般承継人が申請できると定めるだけで、1人から申請できることまで条文に書かれているわけではありません。相続人が多数にわたる事案や相続関係が複雑な事案では、添付する戸籍の範囲もあわせて、申請前に法務局へ確認してください。
登録免許税はかからない
登録免許税は、登録免許税法の別表第一に掲げられた登記等について課されます(同法2条)。不動産の登記のうち表示に関する登記で課税対象として掲げられているのは、所有権の登記のある不動産について、土地の分筆・建物の分割もしくは区分による登記事項の変更の登記と、土地の合筆・建物の合併による登記事項の変更の登記だけです(別表第一 第一号(十三))。建物の滅失の登記は掲げられていないため、登録免許税はかかりません。法務局の建物滅失登記申請書の記載例にも、登録免許税の欄はありません。
自分で申請する場合に実際にかかるのは、登記事項証明書の取得費用、印鑑証明書などの取得費用、郵送で提出する場合の郵便代といった実費が中心です。土地家屋調査士に依頼する場合の報酬は事務所ごとに異なるので、依頼先に見積りを取って確認してください。
なお、建物を取り壊すと土地にかかっていた住宅用地の特例が外れ、翌年度以降の土地の固定資産税・都市計画税が上がることがあります。この点は登記の費用とは別の話ですが、解体の時期を決めるうえで無視できません。空き家を取り壊すと土地の固定資産税が上がるのはなぜ?で仕組みを整理しています。
土地家屋調査士に依頼したほうがよい場面
不動産の表示に関する登記の申請手続について代理することは、土地家屋調査士の業務です(土地家屋調査士法3条1項2号)。表示に関する登記に必要な土地・家屋の調査や測量も同様です(同項1号)。建物滅失登記を人に頼むときの依頼先は、土地家屋調査士ということになります。
自分で申請するか依頼するかの分かれ目になりやすいのは、次のような場面です。
- 登記記録上の建物が、実際に取り壊した建物と同じかどうか判断しにくい:増築や建て替えが繰り返されていて、登記記録の種類・構造・床面積が現況と合わない場合や、同じ敷地に複数の建物が登記されていて、どれが取り壊した建物か特定できない場合です。申請する建物を誤ると登記記録を正しく閉じられません
- 複数棟のうち一部だけを取り壊した/附属建物だけを取り壊した:主である建物が残っていて附属建物だけを取り壊した場合や、建物の一部を取り壊して床面積が減った場合は、建物全体が滅失したわけではないので、建物滅失登記ではなく、建物の表題部の変更の登記になります(不動産登記法51条1項。同法44条1項5号は附属建物の所在・種類・構造・床面積を登記事項としています)。これに対し、同じ敷地にある建物がそれぞれ別の登記記録(別の家屋番号)で登記されているのであれば、取り壊した建物については滅失登記になります。まず登記記録を見て、どちらに当たるかを判断する必要があります
- 登記記録上の所有者の住所のつながりが追えない/登記名義人が古い世代のまま:相続が複数回起きていて、誰が申請人になれるのかの整理から必要になる場合です
- 建物の所在地が遠方である/期限が迫っている:管轄の法務局とのやり取りを重ねる余裕がない場合です
登記の世界では、建物の物理的な状況を扱う表題部と、所有権などを扱う権利部で担当する資格者が分かれています。その分担は土地家屋調査士と司法書士──同じ『登記』でも表題部と権利部で分かれるで整理しています。
未登記建物だったときは
そもそも取り壊した建物が登記されていない未登記建物だった場合は、閉じるべき登記記録がないので、建物滅失登記の申請自体が不要です。この場合は、市区町村に家屋滅失届(家屋取壊し届)を出して、固定資産税の課税対象から外してもらう流れになります。届出の名称・様式・取扱いは市区町村によって異なるので、所在地の資産税担当に確認してください。
登記されているかどうかの見分け方は、実家が登記されていない?──『未登記建物』を相続したときに動く順番で扱っています。解体を決める前に、登記記録の有無を確かめておくと段取りが立てやすくなります。また、空き家を相続してこれから解体を検討する段階であれば、空き家を相続したら──『特定空家』に指定される前に知っておくこともあわせてご覧ください。
まとめ
建物滅失登記は、測量や図面の作成を伴わない表示に関する登記で、法務局が申請書の様式と記載例を公開しているため、所有者本人が自分で申請することもできます。申請書には登記の目的「建物滅失」、添付情報、申請日と提出先の法務局、申請人の住所氏名と連絡先、登記記録どおりの建物の表示、取り壊した日を書きます。中心になる添付書類は解体業者が発行する建物滅失証明書とその業者の印鑑証明書などで、登録免許税はかかりません。所有者が亡くなっている場合は、相続登記を先にしなくても、相続人その他の一般承継人から申請できます。
一方で、登記記録上の建物の特定が難しいとき、附属建物や複数棟の一部だけを取り壊したとき、住所や相続のつながりが追えないときは、判断を誤ると登記記録を正しく閉じられません。建物滅失登記の申請を人に頼むのであれば、依頼先は土地家屋調査士です。相続した実家の解体のように、名義・遺産分割・相続登記といった相続手続き全体が絡む場面では、どの順番で何を進めるかの見立てが要りますので、あわせてお近くの司法書士にご相談ください。
よくある質問
Q. 自分で申請すると費用はいくらかかりますか。
建物滅失登記に登録免許税はかかりません(登録免許税法2条・別表第一 第一号)。自分で申請する場合にかかるのは、登記事項証明書や印鑑証明書などの取得費用と、郵送で提出する場合の郵便代といった実費が中心です。土地家屋調査士に依頼する場合の報酬は事務所ごとに異なるので、依頼先に見積りを取って確認してください。
Q. 申請期限はありますか。放置するとどうなりますか。
建物が滅失したときは、滅失の日から1か月以内に建物滅失登記を申請しなければならないとされています(不動産登記法57条)。期限と過料、放置した場合に土地の売却や相続の手続きが止まる不利益については、実家を取り壊したら1か月以内に「建物滅失登記」で詳しく扱っています。期限を過ぎてしまった場合でも、申請自体はできますので、気づいた時点で手続きを進めてください。
Q. 自分でできそうか、どこに相談すればよいか迷います。
登記事項証明書の建物の表示と、取り壊した建物が明らかに一致していて、解体業者から建物滅失証明書を受け取れているなら、法務局の記載例に沿って自分で申請できる場合が多いといえます。逆に、建物の特定に迷う、附属建物や複数棟の一部だけを取り壊した、相続が何代か続いているといった事情があるなら、早めに土地家屋調査士へ相談してください。相続手続き全体の進め方に迷う場合は、お近くの司法書士にご相談ください。
【さらに深掘り】滅失登記の審査と建物の同一性
ご注意 以下は執筆時点(2026年9月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
登記官の調査権と、建物の同一性の確認
表示に関する登記は、権利に関する登記と違って、登記官が不動産の物理的な状況を自ら確かめられる建て付けになっています。不動産登記法29条1項は、表示に関する登記の申請があった場合や職権で登記しようとする場合に、必要があると認めるときは登記官が不動産の表示に関する事項を調査することができると定め、同条2項は、日出から日没までの間に限り不動産を検査し、所有者その他の関係者に資料の提示を求め、質問をすることができるとしています。
さらに不動産登記規則93条は、表示に関する登記をする場合には法29条の規定により実地調査を行わなければならない、と原則を定めています。ただし書では、土地家屋調査士が代理人として申請する場合の調査報告など、申請情報と併せて提供された情報や、公知の事実・登記官が職務上知り得た事実によって実地調査の必要がないと登記官が認めたときは、この限りでないとされています。
建物滅失登記で確かめられるのは、要するに「登記記録に載っている建物と、現になくなった建物が同じものか」です。突き合わせの対象は、所在(市区町村・字・地番)、家屋番号、種類・構造・床面積、附属建物の有無といった登記事項です(不動産登記法44条1項各号)。登記記録と現況が食い違う場合や、同じ敷地に複数の建物が登記されている場合に土地家屋調査士へ相談したほうがよいのは、この同一性の確認が申請の成否を分けるからです。
「登記原因及びその日付」をどう考えるか
表示に関する登記の登記事項には、登記原因及びその日付が含まれます(不動産登記法27条1号)。申請情報の内容としても同じです(不動産登記令3条6号)。申請書に「取壊し」「焼失」といった原因と日付を書くのは、それが登記記録に残る事項だからです。
前提になるのは、建物とは何かという定義です。不動産登記規則111条は、建物は屋根及び周壁又はこれらに類するものを有し、土地に定着した建造物であって、その目的とする用途に供し得る状態にあるものでなければならない、と定めています。滅失とは、この状態を失うことです。取壊しの場合、原因日付は工事が完了して建物としての要件を満たさなくなった日と考えられ、法務局の記載例でも、建物滅失証明書に記載された取壊しの日を申請書に書くとされています。火災や自然災害でも考え方は同じですが、基礎や壁の一部が残っているようなケースで、どの時点をもって建物でなくなったと見るかは、残存部分の状態しだいで判断が分かれ得ます。
なお、不動産登記令の別表が「建物の滅失の登記」を掲げているのは、共用部分である旨の登記等がある建物についての十七の項だけで、通常の建物滅失登記の項はありません。証明書やその代わりになる書面をどこまで求めるかが条文から一義的に導けず、管轄の法務局の判断に委ねられるのは、この構造によります。一般論として整理できるのはここまでで、何を用意すればよいかは管轄の法務局に確認してください。
全部の滅失か、一部の取壊しか
不動産登記法57条の滅失登記は、建物そのものがなくなった場合の登記です。主である建物が残っていて附属建物だけを取り壊した場合は、建物全体が滅失したわけではないので、表題部の変更の登記になります。附属建物の所在・種類・構造・床面積は登記事項とされており(同法44条1項5号)、その登記事項に変更があったときは、変更があった日から1か月以内に変更の登記を申請しなければならないとされているからです(同法51条1項)。同項が44条1項各号から除いているのは2号と6号だけで、5号の附属建物は変更登記の対象に含まれています。建物の一部を取り壊して床面積が減った場合も、種類・構造・床面積の変更(同項3号)として同じく51条1項の変更登記です。
区分建物には、さらに別の手当てがあります。敷地権付き区分建物の滅失の登記について不動産登記規則145条が専用の規定を置いており、敷地権の目的であった土地の登記記録で敷地権である旨の登記を抹消するといった処理が伴う分だけ取扱いが異なります(同規則124条の準用)。区分建物が関係する場面では、自分で申請する前に土地家屋調査士に確認したほうが安全です。
登記が完了したあとの記録と、職権による登記
建物滅失登記が完了しても、登記記録が消えてなくなるわけではありません。不動産登記規則144条1項は、登記官は建物の滅失の登記をするときは、表題部の登記事項を抹消する記号を記録し、当該登記記録を閉鎖しなければならないと定めています。閉鎖された記録は残るので、あとから滅失の原因と日付をたどることができます。
図面も同様で、同規則85条2項2号は、滅失の登記をした場合には滅失前の建物図面・各階平面図を閉鎖しなければならないとしています。滅失登記に図面を付けないのは、新しく図面を作る場面ではなく、すでにある図面を閉じる場面だからです。測量と図面作成が欠かせない建物の表題登記とは対照的です。
申請義務との関係も押さえておきます。不動産登記法28条は、表示に関する登記は登記官が職権ですることができると定めており、申請がされないまま建物が現存しないことが明らかになった場合に、職権で滅失の登記をする余地があります。実際に、大規模な災害で倒壊した建物や公費で解体された建物について、市から情報提供を受けた法務局が、原則として登記官の職権による滅失の登記を行うと案内した例もあります(附属建物の登記がある建物は職権でできない場合があるとされています)。ただし、職権による登記がされる余地があることは、所有者の申請義務(同法57条)を免除するものではありません。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年9月)。
- 不動産登記法 第27条・第28条・第29条・第30条・第44条・第51条・第57条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 不動産登記令 第3条・第7条・別表(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416CO0000000379
- 不動産登記規則 第85条・第93条・第111条・第124条・第144条・第145条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/417M60000010018
- 登録免許税法 第2条・別表第一(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/342AC0000000035
- 土地家屋調査士法 第3条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000228
- 法務局「不動産登記の申請書様式について」: https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/minji79.html
- 法務局「建物滅失登記申請書 記載例」(PDF): https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001189459.pdf
- 法務局「建物を取り壊した(建物滅失の登記をオンライン申請したい方)」: https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/fudosan_online04.html
- 佐賀地方法務局「不動産登記申請書提出前のチェックリスト」建物滅失(PDF): https://houmukyoku.moj.go.jp/saga/content/001353319.pdf
- 静岡地方法務局「被災した建物の滅失の登記について」(PDF): https://houmukyoku.moj.go.jp/shizuoka/page000001_00511.pdf
- 静岡地方法務局「建物滅失登記申請書 記載例」(PDF): https://houmukyoku.moj.go.jp/shizuoka/page000001_00227.pdf
※ 次の資料は一次情報ではなく、解説・評釈などの二次資料ですが、内容確認の参考にしたため一次情報と区別して掲載しています。
- 株式会社マトイ「解体をしたら証明書が必要?! 証明書がないと困ること、ない場合の対処法」: https://matoi0101.com/column/2498/
- デイライト法律事務所「滅失登記とは?必要書類・費用から注意点まで徹底解説」: https://www.daylight-law.jp/inheritance/archive/qa2/lost-registration/
- 土地家屋調査士事務所のコラム「建物滅失登記を共有者の一人から申請することはできますか?」: https://ikd-office.com/2025/09/02/dismantle-share/