この記事の要点

  • 相続した不動産を売ったときの「取得費」は、相続したときの評価額ではなく、亡くなった方が買ったときの代金などを基に計算するのが原則(所得税法60条1項)
  • 買った値段がわからないときは、売却代金の5%を取得費とすることができる(概算取得費。租税特別措置法31条の4、同法関係通達31の4-1)。実際の取得費が5%を下回る場合も5%を使える
  • 売買契約書や領収書などで実際の金額を示せるときは、その金額を基に計算するのが原則。5%で計算する場合は、相続のときに払った登記費用などを取得費に加えられない

相続した実家を売るときに「親がいくらで買ったのかわからない」という場面は珍しくありません。結論からいうと、その場合でも 売った代金の5%を取得費(=買ったときにかかったお金として差し引ける額)として計算する方法 があります。これを「概算取得費」と呼びます。以下は、執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です。

そもそも「取得費」とは

土地や建物を売って利益が出ると、その利益(譲渡所得)に所得税・住民税がかかることがあります。譲渡所得は、おおまかに「売った金額 −(取得費 + 譲渡費用)」で計算します(所得税法33条3項)。

取得費は、その資産を買うのにかかった金額に、設備費や改良費を足した額です(所得税法38条1項)。建物の場合は、そこから建物が古くなった分(減価償却費に相当する額)を差し引きます(同条2項)。

相続した実家は「亡くなった方の買った値段」を引き継ぐ

相続で取得した資産を売った場合、相続人は亡くなった方が 引き続き所有していたもの とみなされます(所得税法60条1項1号)。国税庁の案内(タックスアンサーNo.3270)でも、相続した土地建物の取得費は、亡くなった方が買い入れたときの購入代金や購入手数料などを基に計算するとされ、取得の時期もそのまま引き継がれます。相続税の計算で使った評価額が取得費になるわけではない点に注意が必要です。

なお、相続人が「限定承認」(亡くなった方のプラスの財産の範囲でだけ借金などを引き継ぐ手続き)をした場合は扱いが異なり、相続のときの価額で取得したものとみなされます(所得税法59条1項1号・60条4項)。

相続した実家を売るまでの全体の流れは 相続した実家を売りたいとき にまとめています。

「5%」のルールは、法律と通達の二段構え

概算取得費の根拠は、次の二段の構造になっています。

  1. 法律(租税特別措置法31条の4第1項):昭和27年12月31日以前から引き続き所有していた土地や建物を売った場合(長期譲渡所得)、取得費は売った金額の5%とする。ただし、実際の取得費がそれより大きいことが証明されれば、実際の額による
  2. 国税庁の通達(同法関係通達31の4-1):昭和28年1月1日以後に取得した土地や建物についても、この規定に準じて計算して差し支えない

つまり、法律の条文そのものは昭和27年以前からの所有を対象にしています。昭和28年以後に取得した土地や建物に同じ5%の計算が使えるのは、国税庁の通達による取扱いです(通達は、国税庁が税務署などに向けて法律の解釈や取扱いを示したもので、法律そのものではありません)。

国税庁のタックスアンサーNo.3258は、売った土地建物が先祖伝来のものである場合や買い入れた時期が古い場合など取得費がわからない場合に加え、実際の取得費が売った金額の5%を下回る場合も、5%を取得費にできると案内しています。例として、3,000万円で売って取得費が不明なら、150万円を取得費にできるとされています。

なお、土地や建物以外の資産についても、所得税基本通達38-16で、売った金額の5%を取得費とする計算を認める扱いが示されています(土石や借家権など、一部の資産は除かれます)。

資料が見つかるかどうかが分かれ目

売った金額の5%は、実際に買った値段より小さくなることがあります。取得費が小さいほど売却益は大きく計算されるため、亡くなった方が買ったときの 売買契約書や領収書 などが残っていないか、まず探してみる価値があります。実際の金額を示せれば、その金額を基に計算するのが原則です。

また、概算取得費を使う場合、相続のときに相続人が払った登記費用などを取得費に含めることはできないとされています(タックスアンサーNo.3270)。

相続税を納めた人が一定期間内に売った場合に、相続税の一部を取得費に加えられる制度もあります。こちらは 取得費加算の特例 で整理しています。

まとめ

相続した実家の取得費は、亡くなった方が買ったときの金額を引き継ぐのが原則です。買った値段がわからないときは、売った代金の5%を取得費とする「概算取得費」を使うことができ、その根拠は、昭和27年以前からの所有を対象とする租税特別措置法31条の4と、昭和28年以後の取得にも同じ計算を認める国税庁の通達(法律そのものではなく、国税庁の取扱い)の二段構えになっています。売買契約書や領収書などが見つかれば、実際の金額を基に計算するのが原則です。

どの資料が使えるか、どの方法で計算するかなど具体的な判断や税額は、税理士または税務署にご確認ください。売却の前提となる相続登記については、お近くの司法書士にご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月・いずれも一次情報です)。

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