この記事の要点
- 依頼した後に進み具合を尋ねることに、遠慮は要らない。民法には、委任(準委任を含む)で事務を頼まれた側は、頼んだ側から求められればいつでも処理の状況を報告しなければならないという定めがある(645条・656条)。司法書士の倫理上の決まりにも、経過を報告する定めがある
- 止まって見える理由は、依頼者側の書類の返送待ち、ほかの相続人の署名待ち、法務局の審査中などさまざま。尋ねるときは「いま何を待っているのか」「自分がすることはあるか」を聞くと話が早い
- 聞いた内容と、次の連絡の目安はメモに残しておく
書類を渡して手続きをお願いしたあと、しばらく何の知らせもないと、「忘れられていないだろうか」「催促するようで聞きにくい」と感じることがあるかもしれません。結論から言うと、進み具合は尋ねてかまいません。手続きの途中には、外からは動きが見えにくい期間もあります。順調に待っている状態なのか、どこかで止まっているのかを確かめること自体が、安心につながります。
進み具合を尋ねてよい理由
司法書士に手続きを頼む約束には、民法の「委任」(法律行為を頼む約束)や「準委任」(法律行為でない事務を頼む約束)の定めが当てはまる場面が多いと考えられます(依頼の内容によって見方が分かれることもあります)。民法は委任について、「受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない」と定めています(645条)。言い換えると、仕事を頼まれた側(受任者)は、頼んだ側(委任者)から求められれば、いつでも「いまどこまで進んでいるか」を報告し、仕事が終わったら、その経過と結果を遅れずに報告する、ということです。この委任の規定は、法律行為でない事務を頼む場合(準委任)にも準用されます(656条)。
最高裁判所も、登記申請の依頼を受けた司法書士が依頼者に対して負う義務の範囲や程度は「当該委任に係る委任契約の内容に従って定まる」と述べており、登記申請の依頼を委任契約として扱っています(最高裁令和2年3月6日第二小法廷判決・平成31年(受)第6号)。
司法書士の場合はさらに、民法上の契約の分類とは別に、日本司法書士会連合会が定める「司法書士行為規範」(司法書士が自らの行動を律するための倫理上の決まりで、法律そのものではありません)に、依頼者に対し、事件の経過と重要な事項を必要に応じて報告し、事件が終わったときはその経過と結果を遅滞なく報告しなければならない、という定めがあります(第24条第2項)。
依頼した後に疑問が出てきたときは、まず依頼先に尋ねるのが基本です。そのうえで別の専門家の意見を聞きたくなった場合の考え方は、相談した専門家とは別の専門家にも意見を聞いてよい?で整理しています。
止まって見えても、理由はさまざま
連絡がない期間に手続きが止まって見えても、その理由は一つではありません。一般には、次のような「待ち」の状態が考えられます。
- 依頼者の側から返送する書類(署名・押印した書類や印鑑証明書など)がまだ届いていない
- ほかの相続人の署名・押印や書類がそろうのを待っている
- 戸籍などを役所に請求し、届くのを待っている
- 法務局に申請し、審査が終わるのを待っている
このうち前の二つは、依頼者やご家族の側で止まっている場合です。尋ねてみて初めて「こちらの返送待ちだった」と分かることもあります。法務局に申請した後の日数の見込みは、各法務局が公表している予定日で確かめられます。見方は登記が完了するまでどれくらいかかる?をご覧ください。
聞き方のコツ
尋ねる前に、委任契約書や見積書、最初に受けた説明のメモを見返しておくと、目安として聞いていた期間や連絡の方法を確かめられます。そのうえで、聞くことを次のように絞ると、短いやり取りでも状況がつかめます。
- いま、手続きのどの段階にあるか
- 何を待っている状態か
- 自分の側で用意したり返送したりするものはないか
- 次に動きがあるのは、いつ頃の見込みか
たとえば「お願いしている件が、いまどのあたりまで進んでいるか教えていただけますか。私のほうで用意するものがあれば教えてください」と伝えれば、催促ではなく確認として受け取ってもらいやすくなります。あわせて、次の連絡の目安と方法(電話かメールかなど)を決めておくと、待つ間の不安が減ります。聞いた内容は、日付とともにメモに残しておきましょう。
なお、依頼先との話し合いがこじれ、契約の解除や費用の精算をめぐる交渉が必要になったときは、弁護士への相談を検討してください。本記事は、執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です。
まとめ
司法書士に依頼した後、進み具合を尋ねることは遠慮しなくてよいことです。民法には、求められればいつでも処理の状況を報告するという受任者の定めがあり、司法書士の倫理上の決まりにも経過の報告についての定めがあります。止まって見えるときは、依頼者側の書類待ちや法務局の審査中など理由はさまざまですので、「いま何を待っているのか」「自分がすることはあるか」を尋ね、次の連絡の目安を決めておきましょう。手続きの進め方で迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月・いずれも一次情報です)。
- 民法 第643条・第645条・第656条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 日本司法書士会連合会「司法書士行為規範」(令和4年6月23日・24日第87回定時総会承認、令和5年4月1日施行): https://www.shiho-shoshi.or.jp/cms/wp-content/uploads/2022/09/e29210ae9981d021b289043d82d76e15.pdf
- 日本司法書士会連合会「会則・関係法規」: https://www.shiho-shoshi.or.jp/association/intro/reguration/
- 最高裁判所 令和2年3月6日 第二小法廷判決(平成31年(受)第6号 損害賠償請求事件)判決全文(裁判所ウェブサイト): https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-89286.pdf