この記事の要点
- 名義株とは、株主名簿に載っている人(名義人)と、実際にお金を出して株式を引き受けた人が食い違っている株式のことです。他人の承諾を得てその名義で株式を引き受けた場合は、名前を貸した人ではなく実際の引受人が株主になる、とした最高裁判決があります(最高裁判所昭和42年11月17日第二小法廷判決)。ただし、これは会社の設立後に発行された株式の事案で、設立のときの株式については、名義人を株主とみる見解もなお有力とされています
- 平成2年の商法改正(平成3年4月1日施行)までは、株式会社をつくるのに発起人(会社をつくる人)が7人以上必要でした。その頃に設立された会社には、人数合わせで名前を借りた株主が残っていることがあります
- 放置すると、後継者に株を集める場面、株主総会の招集や決議、登記の申請に添付する「株主リスト」の作成で、「誰が株主か」があいまいになります
- 株主が誰かは登記事項ではありません。整理の中心は、事実関係の確認、名義人の側との認識のすり合わせ、株主名簿の整備です
- 誰が本当の株主かで争いがあれば弁護士、相続税・贈与税の扱いは税理士の領域です
経営者の方に知っておいてほしいのは、「設立のときに親戚や知人に名前だけ借りて株主になってもらった」という株式は、会社が続くかぎり自然に消えることはない、ということです。名前を貸した人が高齢になったり亡くなったりすると、事情を知る人がいなくなり、整理はどんどん難しくなります。
結論から言うと、名義株の整理は、①実際の株主が誰かという事実関係を資料で確かめ、②名義人(亡くなっていればその相続人)と認識をそろえ、③会社の株主名簿を実態に合わせる、という順番で進めることをおすすめします(法律で手順が決められているわけではなく、この記事での整理です)。株主は登記簿に載らないため、名義株を整理しても、それだけで登記が必要になるわけではありません。ただし、役員変更などの登記で添付する「株主リスト」は株主構成を前提に作る書類なので、整理しておくと後の登記手続きが進めやすくなります。
なお、本記事は執筆時点(2026年10月)の法令に基づく一般的な解説です。
名義株とは──名簿上の名前と実際の株主がずれている株式
株式会社は、株主名簿を作り、株主の氏名・住所、持っている株式の数、株式を取得した日などを記載しなければなりません(会社法121条)。ふつうは、この株主名簿に載っている人が株主です。
ところが、次のようなケースでは、名簿上の名前と実際の株主がずれてしまいます。
- 会社をつくるとき、創業者が自分のお金で払い込んだのに、株式の一部を親戚・知人の名前で引き受けた
- 名前を貸した人は、払込みをしておらず、配当も受け取らず、株主総会にも実質的に関わっていない
このように、名前だけ他人のもので、実際にお金を出して株式を引き受けたのは別の人、という株式を、一般に名義株と呼びます。会社法に「名義株」という言葉の定義があるわけではありません。
では、法律上はどちらが株主なのか。この点について最高裁判所は、他人の承諾を得てその名義を用いて株式の引受けがされた場合には、名前を貸した人ではなく、実質上の引受人が株主となると判断しています(最高裁判所昭和42年11月17日第二小法廷判決・民集21巻9号2448頁)。この判決は、会社法が施行される前の商法(参照法条は旧商法201条)のもとでの判断です。会社法には旧商法201条にあたる規定が置かれませんでしたが、そのことで、会社の設立後に発行された株式について実際に払い込んだ人を株主とみる考え方の根拠は、より明確になったといわれています(中村康江「他人名義による設立時発行株式の引受けをめぐる諸問題」立命館法学2023年5・6号(411・412号)216〜217頁)。
ただし、この判決は、会社の設立後に発行された株式についての事案です。会社の設立のときに発行された株式で、名前を貸した人が発起人として定款に記載されている場合については、発起人の立場との関係から、名義人を株主とみる見解もなお有力とされてきました。一方で、近年は、設立時の株式についても実際に払い込んだ人を株主とする下級審の裁判例が現れていると整理されています(同論文214頁)。
考え方の構造は、子や孫の名前の口座に親がお金を積み立てていた名義預金と似ています。どちらも「名前」だけでなく「実際に誰のお金で、誰のものとして扱われてきたか」が問われる点で共通します(ただし、上で見たとおり、設立のときの株式では名義人を株主とみる見解もあります)。
なぜ名義株が生まれたのか──「発起人7人以上」の時代
名義株が中小企業に多い背景には、かつての商法の決まりがあります。
平成2年の商法改正前は、株式会社を設立するには7人以上の発起人が必要とされていました(旧商法165条)。そして、各発起人は株式を必ず1株以上引き受けることになっていました。このことは、改正法案を審議した参議院法務委員会で、法務省の担当局長が説明しています(第118回国会 参議院法務委員会 平成2年6月19日・6月21日)。
創業者が1人でお金を出して会社をつくりたくても、発起人を7人そろえなければならない。そのため、家族・親族・知人に名前を借りて人数をそろえる、という設立のしかたがありました。同じ委員会では、参考人から、同族の中小企業では株式が家族・親族・知人の名義に分散していて、オーナーが亡くなった後の相続争いで株式の帰属が争われる、という指摘も出ています(参議院法務委員会 平成2年6月20日)。
この「7人以上」の要件は、平成2年の商法改正(平成2年法律第64号)で廃止され、改正法は平成3年4月1日から施行されました。現在の会社法でも、各発起人が1株以上を引き受けるという決まりは残っていますが(会社法25条2項)、発起人が1人でも株式会社をつくることができます。
つまり、平成3年3月以前に設立された会社では、設立時の人数合わせで名前を借りた株主が、いまも株主名簿に残っていることがあります。設立時に限らず、その後の増資の際などに名前を借りたケースもありえます。
名義株が残っていると何が困るのか
後継者に株を集めるとき
事業承継では、経営者が持っている株式を後継者に移すのが一般的です。ところが名義株があると、「贈与しようとしている株式は本当に経営者のものか」「名義人の持ち分とされている株式は誰のものか」という前提が揺らぎます。
生前贈与や譲渡の手続き(譲渡承認・株主名簿の名義書換)については後継者に株を生前贈与する記事で整理しましたが、その記事でも触れたとおり、家族や元役員との間で誰が株主かの認識が食い違い、争いになった場合は弁護士の領域です。会社の売却(M&A)を検討する場面でも、株主構成を説明できないことは障害になりえます。
株主総会の招集と決議
会社が株主にする通知は、株主名簿に記載された住所あてに出せば足りるとされています(会社法126条1項)。会社はふだん株主名簿の記載をもとに株主を扱っているため、名義株があっても、株主総会の招集通知は名簿上の名義人あてに送られていることが多いと考えられます。
名義株があると、次のような点があいまいになります。
- 定足数と決議の計算:株主総会の普通決議は、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を持つ株主が出席し、その過半数で決めるのが原則です(会社法309条1項)。名義株の議決権を誰が使うのかがはっきりしないと、計算の前提が崩れます
- 書面による決議の省略:株主全員が書面などで同意すれば、株主総会を開かずに決議があったものとみなす方法があります(会社法319条1項)。家族経営の会社でよく使われる方法ですが、「全員」が誰なのかがあいまいでは、この方法を安心して使えません
名義人が亡くなる・連絡が取れなくなる
名前を貸した人が亡くなると、その相続人が「株主の相続人」として名乗り出ることがあります。事情を知らない相続人にとっては、株主名簿に親の名前があれば、それが親の財産だと考えるのは自然なことです。時間がたつほど、払込みの経緯を知る人がいなくなり、資料も散逸していきます。
名義人と連絡が取れなくなった場合は、所在不明株主の株式を整理する制度が問題になることもあります。ただ、この制度は通知や配当が5年以上届かない・受け取られないといった条件を満たす株主を前提にしたもので、名義株そのものを整理するための制度ではありません。
登記との接点──株主は登記されない、でも株主リストには関わる
ここは誤解されやすい点です。
株主が誰かは登記事項ではない
株式会社の登記事項は、会社法911条3項に並んでいます。資本金の額、発行可能株式総数、発行済株式の総数、取締役の氏名などです。ここに「株主の氏名」は含まれていません。株主が誰かは、登記簿ではなく、会社が作る株主名簿で管理するしくみです。
そのため、名義株を整理して株主名簿の記載を改めても、それだけで変更の登記が必要になることはありません。登記事項証明書(会社の登記簿の写し)を見ても、名義株があるかどうかはわかりません。
登記と関わるのは「株主リスト」と株主全員の同意の場面
一方で、名義株は、次のような場面で登記の手続きと関わってきます。
- 株主総会の決議が必要な登記:役員の変更や定款の変更など、株主総会の決議を経てする登記では、申請書に議事録を添付するほか(商業登記法46条2項)、いわゆる「株主リスト」を添付します。株主リストは、議決権の割合が大きい順に、上位10名か、割合を足していって3分の2に達するまでの人数か、いずれか少ない人数の株主について、氏名・住所・株式数・議決権数・議決権割合を記載する書面です(商業登記規則61条3項)。株主総会を開かずに全員の同意で決議があったものとみなす場合も同じです(同項かっこ書)
- 株主全員の同意が必要な登記:登記すべき事項について株主全員の同意が必要な場合は、同意があったことを証する書面(商業登記法46条1項)に加え、株主全員の氏名・住所・株式数・議決権数を記載した書面を添付します(商業登記規則61条2項)
株主リストの詳しい内容は「株主リスト」とは──登記のたびに求められる書類と株主名簿との違いで整理しています。名簿上の名義人と実際の株主が食い違っていると、株主リストに誰を、何株・何個の議決権で記載するのかという前提が揺らぎます。名義株の整理は、登記そのものの手続きではありませんが、正しい株主リストを作るための土台になります。
名義株の整理の一般的な流れ
名義株の整理は、会社ごとに事情が違うため、決まった型があるわけではありません。法律で手順が決められているわけでもないため、この記事では、次の順番で考えることをおすすめします。
ステップ1 事実関係を資料で確かめる
まず、「実際の株主は誰か」を裏付ける資料を集めます。たとえば次のようなものです。
- 設立時の定款(原始定款):発起人の氏名・住所が記載されています(会社法27条5号)
- 株主名簿と、これまでの名義書換の記録
- 設立時や増資時の払込みの記録(誰のお金で払い込まれたか)
- 配当を誰が受け取ってきたか、株主総会の招集通知や委任状を誰が扱ってきたか
- 株券を発行している会社であれば、株券を誰が持っているか
あわせて、名義人本人(亡くなっていればその相続人)が、名前を貸しただけだという認識を持っているかどうかも重要です。前に触れたとおり、設立のときの株式については、名義人と実際に払い込んだ人のどちらを株主とみるかについて考え方が分かれています。そのため、払込みの記録などの資料だけで結論が決まるとは限らず、次のステップ2がいっそう大切になります。
ステップ2 名義人(またはその相続人)と認識をそろえ、書面に残す
資料をもとに、名義人の側と「この株式は実際には誰のものか」という認識をそろえ、その内容を書面に残します。どのような内容の書面にするかは個別の事情によるため、この記事では立ち入りません。名義人の側が「自分(親)の株式だ」と主張して認識がそろわない場合は、当事者どうしの交渉や裁判の領域に入るため、弁護士に相談すべき場面です。
ステップ3 株主名簿を実態に合わせる
認識がそろったら、株主名簿の記載を実態に合わせて改めます。株主名簿の作成は会社の義務であり(会社法121条)、名簿の記載が実際の株主を正しく示していることが、その後の株主総会や登記の前提になります。
実際の株主を名簿に載せる形で整理するのか、名義人から実際の株主へ株式を移す形で整理するのかによって、必要な手続きは変わります。株式を移す形をとる場合、株式に譲渡制限がある会社では、会社の承認の手続きが関わってきます(会社法136条〜139条)。どの形をとるかは、次の税金の論点とも関わるため、専門家と相談しながら決めることになります。
ステップ4 次の登記の機会に備える
株主名簿が整えば、その後の役員変更などの登記で添付する株主リストを、実態に沿った株主構成で作ることができます。役員の任期満了による変更登記など、株主総会の決議を経る登記の予定がある会社は、その前に整理しておくと手続きが進めやすくなります。
税金の論点は税理士へ
名義株の整理は、税金とも関わります。たとえば、名義人の株式が実質的には亡くなった経営者のものだったと見られれば相続税の、整理のために名義を移す方法によっては贈与税の論点が生じることがあります。
どの株式がどう扱われるのか、税額がどうなるのかという判断・計算は、税理士の専門領域です。名義を動かす前に、税理士にご相談ください。
まとめ
名義株とは、株主名簿上の名義人と、実際にお金を出して株式を引き受けた人が食い違っている株式のことです。平成3年3月以前は株式会社の設立に発起人7人以上が必要だったため、その頃に設立された会社では、人数合わせで名前を借りた株主が残っていることがあります。設立のときの株式で名義人と実際に払い込んだ人のどちらを株主とみるかは考え方が分かれているため、資料だけで割り切らず、名義人の側と認識をそろえることが整理の要になります。
株主は登記事項ではないため、名義株があっても登記簿には現れません。しかし、事業承継で株を集めるとき、株主総会を開くとき、そして登記の申請に添付する株主リストを作るときに、「誰が株主か」があいまいなことが問題になります。名義人や事情を知る人が元気なうちに、資料の確認、名義人の側との認識のすり合わせ、株主名簿の整備を進めておくことをおすすめします。
株主名簿や株主リスト、登記の手続きについては、お近くの司法書士にご相談ください。誰が株主かで争いがある場合は弁護士、税金のことは税理士が相談先になります。
よくある質問
Q. 名義株の整理には費用がかかりますか?
株主名簿の記載を改めるだけでは登記は不要なため、登録免許税(登記の際に国に納める税金)はかかりません。専門家に資料の確認や株主名簿の整備を依頼する場合の報酬は、事務所や事案の内容によって異なりますので、依頼前に見積もりを確認しましょう。税金の検討を税理士に、争いの対応を弁護士に依頼する場合は、それぞれ別に費用がかかります。
Q. 名義株を放っておくと、どうなりますか?期限はありますか?
名義株の整理そのものに、法律で定められた期限はありません。ただし、名義人や経営者が亡くなった場合の相続税の申告や、役員の任期満了による変更の登記など、名義株と同じ時期に関わってくる手続きには、それぞれ期限のあるものがあります。また、時間がたつほど、名前を貸した人が亡くなって相続人が増えたり、払込みの経緯を知る人や資料がなくなったりして、事実関係の確認が難しくなります。事業承継や会社の売却の直前になって問題が表に出ることもあるため、余裕のあるうちに整理しておくのが基本です。
Q. 自分たちで整理できますか?どこに相談すればいいですか?
株主名簿は会社が作るものなので、資料の確認や名義人との話し合いを会社自身で進めることもできます。ただし、どの形で整理するかによって会社法の手続きや税金の扱いが変わるため、名義を動かす前に専門家に確認するのが安心です。株主名簿・株主リスト・登記の手続きはお近くの司法書士に、誰が株主かで争いがある場合は弁護士に、相続税・贈与税のことは税理士にご相談ください。
【さらに深掘り】名義株の整理の形ごとの会社法の手続きと株主リスト
ご注意 以下は執筆時点(2026年10月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
本文のステップ3で、「実際の株主を名簿に載せる形」と「名義人から株式を移す形」とで必要な手続きが変わる、と書きました。ここでは、その違いを会社法の条文に沿って整理し、あわせて登記の株主リストとの関係を確かめます。以下で「考えられます」「読めます」と書いた部分は、条文の文言から導いた整理であり、条文がそのまま定めているものではありません。
二つの形──「名簿の記載を正す」か「株式を移す」か
名義株の整理には、大きく分けて次の二つの形が考えられます。
- 名簿の記載を正す形:本文で紹介した最高裁判所昭和42年11月17日判決の考え方に沿って、実際に払い込んだ人が設立時(または増資時)から株主だったという前提に立ち、株主名簿の記載をその人に改める形。ただし、昭和42年の判決は会社の設立後に発行された株式の事案で、設立時の株式についてはこの前提自体に見解の対立があること(本文の「名義株とは」の項)に注意が必要です
- 株式を移す形:名義人がいったん株主であるという前提に立ち、名義人から実際の株主(または後継者)へ株式を譲り渡す形
どちらの前提に立つかによって、使う条文も、書類に残る「誰が、いつから株主だったか」という記録も変わります。前提の違いは、本文で触れた相続税・贈与税の扱いにも関わり得るため、形を決める前に税理士の確認を経ておくことが前提になります。
名義書換の条文(会社法133条)が想定しているのは「株式を移す形」
株主名簿の名義書換の請求を定める会社法133条1項は、請求できる人を、株式を「当該株式を発行した株式会社以外の者から取得した者」(株式取得者)としています。そして、この請求は、原則として、株主名簿に株主として記載されている者またはその相続人その他の一般承継人と共同でしなければなりません(同条2項)。
株式を移す形をとる場合は、名義人から株式を取得した人が株式取得者にあたり、名義人(亡くなっていればその相続人)と共同で請求することになります。株式に譲渡制限がある会社では、会社の承認を受けていることが名義書換の請求の前提です(会社法134条1号・2号、136条、137条1項)。株券が発行されている株券発行会社では、株式の譲渡は株券を交付しなければ効力を生じず(会社法128条1項)、株券を提示すれば株式取得者が単独で名義書換を請求できます(会社法施行規則22条2項1号)。承認と名義書換の進め方は、後継者に株を生前贈与する記事の本文と深掘りで整理した流れと同じです。
これに対して、名簿の記載を正す形の前提(実際に払い込んだ人が株主)に立つと、実際に払い込んだ人は、設立時(または増資時)に会社から株式を引き受けた人であり、「当該株式を発行した株式会社以外の者から取得した者」ではありません。そのため、133条の文言は、この場面を直接定めたものではないと読めます。会社は、株式を発行した場合にはその株主の株主名簿記載事項を株主名簿に記載しなければならないとされており(会社法132条1項1号)、この規定を手がかりにすると、名簿の記載を実態に合わせることは、株主からの請求の手続きではなく、会社自身が行う作業になると考えられます。なお、本記事で確かめた範囲の条文(会社法121条・132条・133条)には、名簿上の名義人と異なる人を株主として記載し直す手続きを正面から定めた規定は見当たりません。この点について、会社が株主名簿を作っていなかった事案で、設立時の株式について名簿上の株主と実際の株主が異なる場合に、実際の株主が会社に対して権利を行使するには株主名簿の書換えが必要であり、その根拠は会社法132条1項1号であるとした高等裁判所の裁判例(東京高等裁判所令和元年11月20日判決・金融・商事判例1584号26頁)を紹介する論文があります。同じ論文は、実際の株主が名簿の書換えを経ずに株主であると主張できるかについて、それまでの裁判例が分かれていたことも紹介しています(中村康江・前掲「他人名義による設立時発行株式の引受けをめぐる諸問題」233頁)。
名簿の記載を正す形は、名義人の側から見れば、名簿上の自分の名前が消えることを意味します。会社が株主に対してする通知は、株主名簿に記載した住所あてに発すれば足りるとされており(会社法126条1項)、会社はふだん名簿の記載をもとに株主を扱っています。名義人(または相続人)の認識を確かめないまま会社だけで記載を改めると、後で名義人の側から争われたときに、会社は払込みの記録などの資料だけで名簿を改めた根拠を示すことになり、根拠を示しにくくなると考えられます。とくに設立時の株式では、誰を株主とみるかの考え方自体が分かれているため(本文の「名義株とは」の項)、資料がそろっていても会社の判断がそのまま通るとは限りません。本文のステップ2で、名義人の側と認識をそろえて書面に残すことを、名簿の整備より先に置いているのはこのためです。
名義人が協力しないとき──裁判で決着させる道筋と施行規則22条1項1号
133条2項の共同請求には、「利害関係人の利益を害するおそれがないもの」として法務省令で定める例外があり、会社法施行規則22条1項がその場合を並べています。名義人が協力しない場面で主に関わるのは、次の二つです。
- 確定判決を得た場合(1号):株式取得者が、名簿上の株主またはその一般承継人に対して、133条1項の請求をすべきことを命ずる確定判決を得て、その内容を証する書面などを提供して請求した場合
- 確定判決と同一の効力を有するものがある場合(2号):その確定判決と同一の効力を有するものの内容を証する書面などを提供して請求した場合。たとえば、裁判上の和解の調書(現在の条文では、裁判所書記官が作成してファイルに記録した電子調書)は、確定判決と同一の効力を有するとされています(民事訴訟法267条1項。令和4年法律第48号による改正で、2026年5月21日から電子調書の規定になっています)
つまり、名義人(または相続人)が共同請求に応じないときでも、裁判で決着をつけ、その判決や和解の内容を示せば、株式取得者が単独で名義書換を請求できる仕組みがあります。
ただし、次の二点に注意が必要です。
- 1号の文言が想定しているのは「株式を移す形」:1号は、「株式取得者」(133条1項の定義では、株式を発行した会社以外の者から取得した者)が「133条1項の請求をすべきことを命ずる」判決を得る場面を定めています。名簿の記載を正す形、つまり実際に払い込んだ人が当初から株主だったと主張して争う場合に、どのような訴えを誰を相手に起こし、その結果を会社が名簿にどう反映させるかは、この条文からは直接読み取れず、1号をそのまま使えるかどうかも定かではありません
- 株券発行会社には22条1項が適用されない:22条2項は、「前項の規定にかかわらず」、株券発行会社では単独で請求できる場合を同項の各号に限っており、そこに確定判決による場合は挙がっていません。株券発行会社で単独で名義書換を請求する基本の方法は、株券の提示です(同項1号)。本文で紹介した昭和42年の最高裁判決も、事件名は「株券引渡請求」でした
誰が株主かについて当事者の言い分が対立している段階は、訴えを起こすかどうかの判断を含めて、弁護士の領域です。会社法と登記の観点から整理できるのは、決着の内容(判決・和解)が確定した後に、それを株主名簿と、次の登記で添付する株主リストにどう反映させるか、という部分です。
会社が名義人から株式を取得する形(自己株式の取得)の入口
株式を移す先を、実際の株主や後継者ではなく会社自身にする形も、選択肢として考えられます。会社が自分の株式を取得すること(自己株式の取得)は、会社法155条が列挙する場合に限って認められており、株主との合意による取得はその3号(156条1項の決議があった場合)にあたります。
- 株主総会であらかじめ枠を決める:会社が株主との合意で自分の株式を有償で取得するには、あらかじめ株主総会の決議で、取得する株式の数、引き換えに交付する金銭等の内容と総額、取得できる期間(1年以内)を定めます(会社法156条1項)
- 特定の株主(名義人)からだけ取得する場合:その株主総会の決議で、特定の株主に対して通知する旨をあわせて定めます(会社法160条1項)。この決議は特別決議で(会社法309条2項2号)、その特定の株主は、原則としてこの決議で議決権を行使できません(会社法160条4項)
- 取得のたびに価格などを決める:枠の範囲で実際に取得するときは、その都度、取得する株式の数や1株あたりの対価、総額などを定めます。取締役会設置会社では、この決定は取締役会の決議によります(会社法157条1項・2項)
特定の株主からだけ取得する場合に注意したいのは、ほかの株主にも「自分も売主に加えてほしい」と請求する機会が与えられることです。会社はほかの株主に、この請求ができる旨を通知しなければならず(会社法160条2項)、ほかの株主は、自分を特定の株主に加えたものを議案とするよう請求できます(同条3項)。この仕組みについては、次の例外があります。
- 定款で外す:定款で、この仕組みを適用しない旨を定めることができます。ただし、株式を発行した後に定款を変更してこの定めを設けるには、その株式を持つ株主全員の同意が必要です(会社法164条)
- 相続人などからの取得:公開会社でない会社が、株主の相続人その他の一般承継人から、相続などで取得した株式を取得する場合は、原則としてこの仕組みは適用されません。ただし、その相続人などが株主総会(種類株主総会を含みます)でその株式について議決権を行使していた場合は、この特則は使えず、ほかの株主の請求の仕組みが原則どおり適用されます(会社法162条)
また、この取得で交付する金銭等の帳簿価額の総額は、取得が効力を生ずる日の分配可能額を超えてはならないという財源の制限を受けます(会社法461条1項3号)。財源の制限に違反した場合の責任や、取得した自己株式を消却した場合の登記については、所在不明株主の株式を整理する記事の深掘りで整理しています。会社が取得した自己株式には議決権がないため(会社法308条2項)、その株式は以後の株主総会の議決権の計算から外れます。
この形も、名義人(またはその相続人)が株主であることを前提に、会社がその人から対価を払って株式を取得するものです。名簿の記載を正す形とは前提が逆になる点、そして対価の授受によって相続税・贈与税にとどまらず所得税などの税金の論点も生じ得る点から、選ぶかどうかは、税理士の確認を経て判断することになります。
株主リストに誰を載せるか──整理の前と後
株主総会の決議を要する登記で添付する株主リストは、総株主の議決権(その決議で行使できるものに限ります)に対する割合が高い順に、10名と、割合を足していって3分の2に達するまでの人数とのいずれか少ない人数の株主について、氏名・住所、株式の数、議決権の数と割合を記載するものです(商業登記規則61条3項)。株主全員の同意を要する登記では、上位の株主に限らず、株主全員について記載します(同条2項)。
名義株の整理によって、株主リストの中身は次のように変わり得ます。たとえば、発行済株式100株(1株につき1個の議決権)の会社で、株主名簿上は創業者40株、名義人A 25株・B 20株・C 15株と記載されているものの、A・B・Cの株式はいずれも創業者が払い込んだものだったとします。
- 整理の前(名簿どおり):議決権の割合は、創業者40%、A 25%、B 20%、C 15%です。割合の高い順に足すと、創業者とAで65%と3分の2に届かず、Bを加えた85%で3分の2に達します。10名より3名のほうが少ないので、株主リストには創業者・A・Bの3名が記載されることになります
- 整理の後(名簿の記載を創業者に改めた場合):創業者が100株・100%となり、株主リストに記載されるのは創業者1名です
- 会社がA・B・Cから株式を取得した場合:取得した60株は自己株式となって議決権を持たないため(会社法308条2項)、その決議で行使できる議決権は創業者の40個だけになり、株主リストには創業者が割合100%として記載されることになります
このように、名義株があると、株主リストに誰が載るのかだけでなく、各株主の議決権の数と割合も変わります。株主全員の同意を要する登記(商業登記規則61条2項)や、株主全員の同意による書面決議(会社法319条1項)では、上位の株主で区切る仕組みがないため、名義人が一人でも残っていればその人の扱いが正面から問題になります。
株主リストは、その決議に誰がどれだけの議決権で加わったかを前提にする書面なので、株主名簿・株主総会の議事録・株主リストの三つの記載がそろっていることが基本です。整理の途中で登記を伴う決議をすると、この三つをどちらの前提でそろえるのかという判断そのものが揺らぎます。本文のステップ4のとおり、役員の任期満了など登記を伴う決議の予定がある会社は、その前に名義株の整理を済ませ、整理後の株主名簿にもとづいて決議と株主リストの作成を進める順にしておくと、書類どうしの食い違いを避けやすくなります。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月)。
- 会社法(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
- 会社法施行規則(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/418M60000010012
- 商業登記法(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/338AC0000000125
- 商業登記規則(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/339M50000010023
- 民事訴訟法(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/408AC0000000109
- 最高裁判所昭和42年11月17日第二小法廷判決・民集21巻9号2448頁(裁判所ウェブサイト 裁判例検索): https://www.courts.go.jp/hanrei/56303/detail2/index.html
- 商法等の一部を改正する法律(平成2年法律第64号)(衆議院 制定法律): https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/houritsu/11819900629064.htm
- 第118回国会 参議院法務委員会会議録第6号(平成2年6月19日)(国会会議録検索システム): https://kokkai.ndl.go.jp/txt/111815206X00619900619/131
- 第118回国会 参議院法務委員会会議録第7号(平成2年6月20日)(国会会議録検索システム): https://kokkai.ndl.go.jp/txt/111815206X00719900620/7
- 第118回国会 参議院法務委員会会議録第8号(平成2年6月21日)(国会会議録検索システム): https://kokkai.ndl.go.jp/txt/111815206X00819900621/61
- 第134回国会 参議院法務委員会会議録第2号(平成7年11月9日)(国会会議録検索システム): https://kokkai.ndl.go.jp/txt/113415206X00219951109/126
※ 次の資料は一次情報ではなく、解説・評釈などの二次資料ですが、内容確認の参考にしたため一次情報と区別して掲載しています。
- 中村康江「他人名義による設立時発行株式の引受けをめぐる諸問題」立命館法学2023年5・6号(411・412号)213頁以下(立命館大学): https://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/law/lex/23-56/010nakamura.pdf