この記事の要点

  • 登記の委任状は、法務局が公開している申請書の記載例の中に「委任状の例」として載っています。大きく「頼む相手」「任せる事項(委任事項)」「日付と委任者の記名押印」「記(どの登記か)」の4つのまとまりでできています
  • 代理人が任された範囲は委任状によって示されるため、「記」以下の登記の目的・原因・当事者・不動産の表示は、申請書の記載と食い違わないように書くのが基本です
  • 記載例の委任事項は登記の種類によって少しずつ違います。別の登記の記載例を流用せず、その登記の記載例を見ることが大切です
  • 書き間違えたときは、修正液などで消さず、不動産登記規則45条2項の方式(訂正した字数の記載や記号と押印、元の文字を読めるように残す)で直します
  • 捨印・契印・有効期限は別の記事で整理しています。迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください

登記の委任状は、法務局が公開している記載例を見ると、「誰に」「何を任せ」「いつ」「どの登記について」の4点を、申請書と食い違わないように書く書類だと分かります。この記事では、記載例の各欄が何を意味しているのか、日付をどう入れるのか、書き間違えたときにどう直すのかを、一般的な見方として整理します。

なお、この記事は執筆時点(2026年11月)の法令と、法務局ホームページ「不動産登記の申請書様式について」に掲載されている記載例に基づく一般的な解説です。個別の事案で委任状をどう書くかは、申請する登記の内容によって変わります。

委任状は「代理人の権限を証する情報」

登記の申請を代理人に任せるときは、申請情報と一緒に「当該代理人の権限を証する情報」を提供しなければならないとされています(不動産登記令7条1項2号。法務省令で定める場合を除きます)。委任状は、この情報を紙の書面にしたものです。

書面で出す場合は、申請人(またはその代表者)がこの書面に記名押印(名前を書いて印鑑を押すこと)をするのが原則です(不動産登記令18条1項)。押す印鑑が実印か認印か、印鑑証明書が要るかどうかは、押す人の立場によって分かれます。この点は登記の書類に押すのは実印?認印?で整理しています。

記載例はどこにあるか

法務局ホームページの「不動産登記の申請書様式について」には、名義人の住所変更、売買による所有権移転、抵当権抹消など、登記の種類ごとに申請書の様式と記載例(PDF・Wordなど)が掲載されています。委任状は独立した様式としてではなく、それぞれの申請書の記載例の中に「委任状の例」として収められています。

たとえば売買による所有権移転の記載例では、申請書の例、売買契約書の例、登記原因証明情報の例に続いて委任状の例が置かれ、その後に「解説及び注意事項等」として各欄の注記が続きます。委任状の例の下には、これは記載例であって申請の内容に応じて作成するように、という趣旨の注意書きが添えられています。つまり記載例は「そのまま写せば完成する書式」ではなく、各欄に何を書くのかを示す見本として読むものです。

記載例の4つのまとまり

記載例の委任状は、上から順に次の4つのまとまりでできています。

まとまり 記載例で書かれていること 見るポイント
① 頼む相手 「私は、(住所)(氏名)に、次の権限を委任します。」 代理人の住所・氏名。申請書の代理人欄の記載と一致させる
② 委任事項 申請書の作成・提出、完了後の書類の受領、取下げ・補正、還付金の受領、その他一切の権限 登記の種類によって項目が変わる
③ 日付と委任者 日付、委任者の住所・氏名と押印 委任者の住所・氏名は登記記録や印鑑証明書の記載と照らし合わせる
④ 「記」以下 登記の目的、原因、権利者・義務者、不動産の表示 申請書と同じ内容を書く

以下、迷いやすい②③④を順に見ていきます。

委任事項(任せる事項)の読み方

記載例に並んでいる5項目

売買による所有権移転の記載例(同ページに掲載されている「令和8年10月5日以降に申請する場合」のもの)では、委任事項として次の5つが並んでいます(要旨)。

  1. 下記の登記について、申請書を作成し、必要な書面と一緒に管轄の登記所へ提出すること
  2. 登記の完了後に通知される登記識別情報通知書と登記完了証を受け取ること
  3. 申請に不備があった場合に、申請を取り下げ、または補正(書類の不足や誤りを後から直すこと)すること
  4. 登録免許税の還付金を受け取ること
  5. 以上のほか、下記の登記の申請に関して必要な一切の権限

民法99条1項は、代理人が「その権限内において」本人のためにすることを示してした意思表示が、本人に対して直接に効力を生じると定めています。この条文は契約などの意思表示についての定めですが、代理の基本的な考え方として、代理人が本人に代わってできるのは、任された権限の範囲の中のことと考えられます。委任事項は、その範囲を書面の上で示す部分にあたります。

登記の種類によって項目が違う

見落としやすいのは、委任事項が登記の種類によって少しずつ違うことです。抵当権抹消の記載例では、2番目の項目が「登記完了証を受領すること」だけになっており、売買の例にある「登記識別情報通知書」の受領は入っていません。登記識別情報が通知されるのは、その登記をすることによって申請人自らが登記名義人となる場合です(不動産登記法21条本文)。抵当権の抹消では、権利者である所有者が新たに登記名義人になるわけではないため、登記識別情報が通知される場面にあたらないと整理できます。

このように、記載例の委任事項は、その登記で実際に起こる手続に合わせて書き分けられていると読めます。別の種類の登記の記載例から委任事項だけを流用すると、必要な項目が抜けたり、場面に合わない項目が入ったりするおそれがあります。委任状を見るときは、申請する登記と同じ種類の記載例を開くのが基本です。

「一切の権限」があれば何でもできるわけではない

5番目の「一切の権限」は、1〜4に書ききれない細かな手続を受け止めるための項目です。ただし、その範囲は「下記の登記の申請に関し」と限定されています。「記」以下に書かれていない別の登記や、別の不動産にまで及ぶものではない、と読むのが自然です(この読み方は条文の文言と記載例の書きぶりからのもので、これを直接述べた公的資料は執筆時点で確認できていません)。そう読むと、対象の不動産や登記の目的が変われば、その部分については改めて委任を受けておくのが確実です(登記の委任状に有効期限はある?でも触れています)。

「記」以下は申請書と同じ内容を書く

「記」以下には、登記の目的・原因(登記の原因となった出来事とその日付)・権利者と義務者・不動産の表示が書かれます。記載例を見比べると、ここに書かれている内容は、同じ記載例の申請書の記載と同じです。

  • 登記の目的:「所有権移転」「抵当権抹消(順位番号後記のとおり)」のように、申請書と同じ言葉で書かれています
  • 原因:売買の例では「令和8年10月5日売買」、抵当権抹消の例では「令和1年7月1日解除」のように、日付と原因がセットで書かれています
  • 権利者・義務者:登記によって利益を受ける側(権利者)と、権利を失う側(義務者)の住所・氏名です。申請書の注記では、義務者の住所・氏名は登記記録(登記事項証明書)と一致している必要があり、一致しないときは前提として住所などを変更する登記が要るとされています
  • 不動産の表示:土地なら所在・地番・地目・地積、建物なら所在・家屋番号・種類・構造・床面積を、登記事項証明書の表示どおりに書きます

委任状の「記」以下と申請書の内容が食い違うと、代理人が任された登記と、実際に申請された登記が一致しているのかが書面上はっきりしなくなります。委任状は申請書を写すように作られている、と理解しておくと読みやすくなります。

日付の入れ方

記載例の日付は「委任をした日」

記載例では、委任事項の下、委任者の記名押印のすぐ上に日付が書かれています。売買の例では売買の日と同じ「令和8年10月5日」、抵当権抹消の例では解除の日と同じ「令和1年7月1日」になっていますが、これは記載例の設定上そうなっているもので、委任状の日付は、委任者が実際に委任状に記名押印して委任をした日と読むのが自然です。一部の法務局(長崎地方法務局)が公開している抵当権抹消用の「不動産登記申請書提出前のチェックリスト」でも、代理権限証書(委任状)には「委任した日付」を記載するよう案内されています。原因の日付(売買や解除の日)と必ず同じ日でなければならない、という意味ではありません。

空欄のまま渡さない

日付を空欄にしたまま委任状を渡すと、後から誰かが書き入れることになり、いつ委任をしたのかが書面の上ではっきりしなくなります。法務局ホームページ「不動産登記の申請書様式について」に掲載されている「不動産登記申請書提出前のチェックリスト」(先ほどの長崎地方法務局のものとは別の、全国向けの資料です)でも、銀行等から交付された委任状などについて、空白部分がないかを確認し、記載漏れがあれば作成した銀行等に訂正を依頼するよう案内されています。日付も含め、委任状は空欄を残さずに作ると考えておくとよいでしょう。

有効期限との関係

「日付が古い委任状は使えないのでは」と心配されることがありますが、委任状そのものの有効期限を定めた規定は置かれていません。3か月以内という期限があるのは、委任状に添える印鑑証明書のほうです(不動産登記令18条3項)。詳しくは登記の委任状に有効期限はある?をご覧ください。

書き間違えたときの訂正のしかた

不動産登記規則45条2項の方式

登記に使う書面の文字の訂正については、不動産登記規則45条が定めています。同条1項は「申請書……その他の登記に関する書面」に記載する文字は字画を明確にしなければならないとし、2項は、その書面の文字を訂正・加入(書き加えること)・削除したときの方法を、次のように定めています。

  • 訂正・加入・削除をした旨とその字数を欄外に記載するか、訂正・加入・削除をした文字に括弧などの記号を付けて範囲を明らかにする
  • その字数を記載した部分、または記号を付けた部分に押印する
  • 訂正または削除をした元の文字は、なお読むことができるようにしておく

条文は「申請書」だけでなく「その他の登記に関する書面」を対象にしています。申請書に添付して登記所に出す委任状もこの「登記に関する書面」に含まれると読むのが自然です。そう読むと、委任状の訂正もこの方式に沿って行うことになります。

修正液・修正テープで消さない

この方式のポイントは、元の文字を読める状態で残すことです。修正液や修正テープで元の文字を塗りつぶすと、何をどう直したのかが分からなくなり、条文の求める方式に合いません。たとえば、元の字が読めるように二重線で消して、正しい字を書き加え、字数の記載や記号の部分に押印する、という流れになります。

誰が直すのか

委任状は、委任者が記名押印して作る書面です。訂正も、その書面を作った人が自分の意思で直すのが基本です。法務局ホームページのチェックリストが、銀行等が作成した委任状に記載漏れがあれば「作成した銀行等に訂正を依頼」するよう案内しているのも、この考え方に沿ったものと読めます。訂正部分に押す印について、不動産登記規則45条2項は「押印」を求めるだけで、どの印で押すかまでは定めていません。そのうえで、委任状に押したものと同じ印で押しておけば、訂正が委任者本人によるものだと書面の上で分かりやすくなるため、そうしておくと安心です(※どの印で押すかを直接定めた公的資料は、執筆時点で確認できていません)。

捨印・契印は別の話

委任状に関しては、ほかにも「捨印」と「契印」という印が出てきます。いずれも記載例の委任状には登場しない、別の論点です。

  • 捨印:書類の欄外にあらかじめ押しておく訂正用の印。法令で求められている押印ではなく、軽微な訂正を円滑にするための慣行です。詳しくは登記書類の「捨印」って何?
  • 契印:委任状が2枚以上になったとき、つなぎ目にまたがって押す印。申請書については不動産登記規則46条が定めていますが、委任状の契印を直接義務づける規定は見当たりません。詳しくは登記の委任状が2枚以上になったら?

どちらも、求められたときは何のための印なのかを確認しておくと安心です。

まとめ

登記の委任状は、法務局が公開している申請書の記載例の中に「委任状の例」として収められています。記載例は、頼む相手・委任事項・日付と委任者・「記」以下の4つのまとまりでできており、「記」以下は申請書と同じ内容を書くように作られています。委任事項は登記の種類によって違うため、申請する登記と同じ種類の記載例を見ることが大切です。日付は委任をした日を空欄にせず書き、書き間違えたときは修正液を使わず、不動産登記規則45条2項の方式で元の文字を残して直します。記載例はあくまで見本で、実際の書き方は申請の内容によって変わります。判断に迷うときは、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 委任状の日付は、申請する日や売買の日と同じでなければいけませんか?

記載例では原因の日付と同じ日になっていますが、それは記載例の設定によるもので、委任状の日付は委任者が実際に記名押印して委任をした日と読むのが自然です。委任状そのものに有効期限を定めた規定はありませんが、添える印鑑証明書には作成後3か月以内という期限があります(不動産登記令18条3項)。

Q. 委任状を書き間違えました。修正液で直してもいいですか?

修正液や修正テープで元の文字を消すのは避けましょう。不動産登記規則45条2項は、訂正した旨と字数を欄外に書くか、訂正部分に記号を付けたうえで押印し、元の文字を読めるように残すことを求めています。直す範囲が大きい場合や、どこまで直してよいか迷う場合は、書き直すことも含めて、手続を頼む相手に相談するのが確実です。

Q. 記載例どおりに書けば、委任状として必ず通りますか?どこに相談すればいいですか?

記載例は各欄に何を書くかを示す見本で、法務局の記載例にも、申請の内容に応じて作成するよう注意書きがあります。登記の種類、当事者の立場、印鑑証明書の要否などによって書くべき内容は変わります。個別の書き方に迷うときは、申請先の法務局の案内を確認するか、お近くの司法書士にご相談ください。

【さらに深掘り】委任状の原本還付と、復代理人による申請の書面

ご注意 以下は執筆時点(2026年11月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

委任状は原本還付の対象から外されている

書面で申請した申請人は、申請書に添付した書面の原本の還付(返してもらうこと)を請求することができます(不動産登記規則55条1項本文)。請求するときは、原本と相違ない旨を記載した謄本(写し)を提出し(同条2項)、登記官は調査が終わった後に原本を返します(同条3項)。手続の流れは相続登記で出した戸籍は返してもらえる?で整理しています。

ただし、同条1項ただし書は、次のものを還付の対象から外しています。

  • 不動産登記令16条2項・18条2項などの規定による印鑑に関する証明書(申請書や委任状に添付する印鑑証明書)
  • 「当該申請のためにのみ作成された委任状その他の書面」

委任状は、その申請のために作られる書面の典型です。また、委任状に添える印鑑証明書(不動産登記令18条2項)も、ただし書に条項が挙げられているため還付されません。法務局ホームページ「不動産登記の申請書様式について」にも、登記申請のためだけに作成した委任状や登記原因証明情報、印鑑証明書等は原本の還付ができない旨の注意書きがあり、提出の際に登記所へ確認するよう案内されています。同じ印鑑証明書を別の手続にも使うつもりでいると通数が足りなくなることがあるため、委任状に添える分は戻らない前提で準備しておく必要があります。

復代理人によって申請するときの書面

代理人が、さらに別の人(復代理人)に申請を任せる場面もあります。民法は、委任による代理人は、本人の許諾を得たとき、またはやむを得ない事由があるときでなければ、復代理人を選任することができないと定めています(民法104条)。選任された復代理人は、本人と第三者に対して、その権限の範囲内で代理人と同一の権利を有し、義務を負います(民法106条2項)。

登記の手続では、不動産登記令18条1項後段が、復代理人によって申請する場合の代理人についても、同項前段と同様に、権限を証する情報を記載した書面への記名押印を求めています(法務省令で定める場合を除きます)。書面の上では、本人が代理人に宛てた委任状に加えて、代理人が復代理人の権限を証する書面を作る、という二段の形になります。

このうち代理人の側の書面については、規則で扱いが定められています。

  • 委任による代理人が復代理人の権限を証する書面に署名した場合は、記名押印を要しない場合にあたります(不動産登記規則49条1項3号)
  • 印鑑証明書を添付すべき者からは「委任による代理人」が除かれており(不動産登記令18条2項)、規則49条2項5号も、委任による代理人が復代理人の権限を証する書面に記名押印した場合を、印鑑証明書の添付を要しない場合として挙げています

一方、本人から代理人への委任状には、本文で見た記名押印と印鑑証明書のきまりがそのまま及びます。本文で見た売買の記載例の委任事項5項目には、復代理人の選任は挙がっていません。本人の許諾を書面の上でどう示すかは、申請先の法務局や依頼する司法書士に確認しておきたい点です。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年11月・いずれも一次情報です)。

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