この記事の要点

  • 貸したお金の回収は、おおむね「時効と証拠の確認 → 督促 → 裁判所の手続き → 判決などを得たあとの差押え」の順に進みます。
  • 裁判所の手続きには、支払督促・少額訴訟(60万円以下)・通常の訴訟などがあり、相手の出方や金額によって使える手続きが変わります。
  • 司法書士は、裁判所に出す書類の作成ができます。これとは別に、法務大臣の認定を受けた司法書士(認定司法書士)は、簡易裁判所での代理や裁判外の交渉を、140万円以下の事件に限って行えます。
  • 140万円を超える請求の代理は、弁護士の業務です。
  • 判決などを得ても、相手に財産がなければお金が戻らないこともあります。

友人や知人に貸したお金が、約束の日を過ぎても返ってこない。こうしたときに取れる道は、大きく分けると「自分で督促する」「裁判所の手続きを使う」「判決などをもとに相手の財産を差し押さえる」の三段階です。この記事では、この順路の全体像と、それぞれの段階で司法書士がどこまで関われるか(140万円の線引き)を整理します。各段階の詳しい仕組みは、それぞれの解説記事にリンクでご案内します。

回収の順路──全体の流れ

一般的な流れを、順番に並べると次のようになります。

段階 やること 詳しい解説
① 準備 時効にかかっていないか、証拠(借用書・振込の記録・やりとりのメッセージなど)と相手の氏名・住所を確認する 時効の解説
② 督促 電話や手紙で返済を求める。記録を残したいときは内容証明郵便を使う 内容証明郵便の使い方
③ 裁判所の手続き 支払督促・少額訴訟・通常の訴訟などから選ぶ 支払督促の流れ/少額訴訟とは
④ 差押え 判決などを得ても払われないとき、相手の預金や給料などを差し押さえる 少額訴訟債権執行
⑤ 財産の調査 相手の財産が分からないとき、裁判所を通じて調べる 財産開示手続

① まず時効と証拠を確認する

貸したお金を返してもらう権利(債権)は、放っておくと時効で消えることがあります。民法166条1項は、権利を行使できることを知った時から5年間、または権利を行使できる時から10年間行使しないと、債権は時効によって消滅すると定めています。ただし、2020年4月1日より前にお金を貸した場合などは、改正前の民法の時効期間によることがあります(民法の一部を改正する法律〔平成29年法律第44号〕附則10条4項)。返済の約束から長い時間がたっている場合は、最初に確認しておきたい点です。時効の進行を止める方法などは貸したお金や未払い代金の時効の解説をご覧ください。

あわせて、お金を貸したこと・返す約束があったことを示す資料を手元にそろえます。裁判所の手続きでは相手の住所が必要になるため、相手の氏名と住所を確かめておくことも大切です。

② 督促する──内容証明郵便は「記録を残す手紙」

相手に返済を求める連絡は、まずは本人どうしで行うのが一般的です。いつ・どんな内容で請求したかを記録に残したいときは、内容証明郵便(郵便局が手紙の内容と差し出した日を証明するサービス)が使われます。

ただし、内容証明郵便を送っただけでは、相手に支払いを強制することはできません。また、送った請求(催告)による時効の完成猶予は、その時から6か月間に限られます(民法150条1項)。くわしくは内容証明郵便の使い方で整理しています。

③ 裁判所の手続きを選ぶ

督促しても返ってこない場合、裁判所の手続きを使うことになります。代表的なものは次の三つです。

手続き 仕組みのポイント 解説
支払督促 裁判所書記官が書類をもとに、相手の言い分を聞かずに支払いを命じる(民事訴訟法382条・386条1項)。相手が督促異議を出すと、通常の訴訟に移る(同法395条) 支払督促の流れ
少額訴訟 簡易裁判所で、60万円以下の金銭の支払いを求める訴えに使える(民事訴訟法368条1項)。同じ簡易裁判所で1年に利用できる回数に上限がある(10回。民事訴訟規則223条) 少額訴訟とは
通常の訴訟 140万円以下の請求は簡易裁判所、140万円を超える請求は地方裁判所が扱うのが原則(裁判所法33条1項1号・24条1号。不動産に関する訴訟は、140万円以下でも地方裁判所に起こせる) ―

支払督促は、相手が争わなければ書類のやりとりだけで進むのが特徴です。一方で、相手が異議を出すと訴訟に移り、その請求額によって簡易裁判所か地方裁判所のどちらかで審理されます。どの手続きが合うかは、相手が争いそうか、金額はいくらか、相手の住所はどこかといった事情によって変わります。

④ 判決などを得たあと──差押えへ

裁判所の手続きで「判決」(確定したもの、または仮執行の宣言が付いたもの)や「仮執行宣言付きの支払督促」などを得ると、それをもとに強制執行(相手の財産を差し押さえて回収する手続き)を申し立てることができます。強制執行のもとになるこれらの書類を、債務名義といいます(民事執行法22条)。

なお、民事裁判のIT化(令和4年法律第48号。2026年5月21日に全面施行)により、判決書や支払督促は、紙ではなく電子データ(電子判決書・電子支払督促)として作られるようになりました(民事訴訟法252条・387条)。そのため、強制執行の申立てでは、紙の「正本」に代えて、裁判所書記官が電子データの内容を証明した書面(記録事項証明書)を使う場面があります(民事執行法25条)。

少額訴訟で勝った場合には、簡易裁判所の裁判所書記官に申し立てて預金や給料などを差し押さえる「少額訴訟債権執行」という手続きも用意されています。仕組みは少額訴訟債権執行の解説をご覧ください。

⑤ 相手の財産が分からないとき

差押えをするには、どの財産を差し押さえるかを申立てる側が特定する必要があります。相手の勤務先や預金口座が分からないときに使える財産開示手続や、第三者からの情報取得手続については、財産開示手続の解説で整理しています。

なお、判決などを得ても、相手に差し押さえられる財産がなければ、お金は戻ってきません。裁判所の手続きは、回収を保証するものではない点に注意が必要です。

司法書士に頼める範囲──「書類作成」と「代理」は別のもの

司法書士の関わり方には、大きく分けて「書類の作成」と「代理」の二つがあり、できる範囲が違います。

関わり方 内容 金額の線引き
書類の作成 支払督促の申立書・訴状・強制執行の申立書など、裁判所に出す書類を作る(司法書士法3条1項4号)。手続きを進めるのは本人で、司法書士が本人に代わって法廷で話したり相手と交渉したりするものではない 条文上、下の代理のような金額の定めは置かれていない。ただし、金額の定めがないのは「書類を作成すること」についてであり、140万円を超える事件で本人に代わって交渉したり手続きを進めたりできるわけではない(弁護士法72条、司法書士法3条8項)
簡易裁判所での代理 本人の代理人として、簡易裁判所の訴訟・支払督促・民事調停などの手続きを行う(同項6号) 140万円以下に限る。認定司法書士だけが行える
裁判外の交渉・相談 裁判所の外での和解(示談)の交渉を代理したり、紛争について相談に応じたりする(同項7号) 紛争の目的の価額が140万円以下に限る。認定司法書士だけが行える

認定司法書士とは

簡易裁判所での代理などは、すべての司法書士ができるわけではありません。所定の研修を修了し、法務大臣から必要な能力があると認定を受け、司法書士会の会員である司法書士に限って行えます(司法書士法3条2項)。この認定を受けた司法書士を、一般に「認定司法書士」と呼びます。

なお、2026年5月21日からは、弁護士や認定司法書士のように依頼を受けて訴訟代理人になった人が裁判所に申立てなどをするときは、原則としてインターネット(裁判所の電子情報処理組織)を使う方法で行うことが義務づけられています(民事訴訟法132条の11第1項1号、司法書士法3条6項)。本人が自分で手続きする場合は、この義務の対象ではありません。また、司法書士が作成できる「裁判所に出す書類」には、同じ日から電磁的記録(オンラインで出す電子データ)も含まれています(司法書士法3条1項4号)。

「140万円」の線引き

代理できる範囲の上限は、司法書士法3条1項6号・7号が、簡易裁判所の扱う事件の上限(裁判所法33条1項1号の140万円)を引用する形で定めています。140万円を超える請求について、訴訟や交渉の代理人となるのは弁護士の業務です。

なお、「140万円」は利息や遅延損害金を含めた合計額とは限りません。訴えの場合、利息や遅延損害金などを元の請求とあわせて求めるときは、その分は訴訟の目的の価額に入れないとされています(民事訴訟法9条2項)。何の金額で数えるかは「140万円以下」とは何の金額かの解説で整理しています。

判決のあとの差押えは、原則として代理できない

認定司法書士であっても、強制執行に関する手続きは、原則として代理できません(司法書士法3条1項6号ただし書)。例外は、140万円以下の少額訴訟債権執行の手続きです(同号ホ)。代理できない強制執行の手続きでも、裁判所に出す申立書の作成は、上の「書類の作成」として行えます。この場合、申立てをして手続きを進めるのは本人です。

まとめ

貸したお金が返ってこないときは、時効と証拠の確認から始め、督促、裁判所の手続き、判決などを得たあとの差押えへと段階を踏んで進むのが一般的な流れです。どの段階でも、相手に財産がなければお金が戻らないことがある点は押さえておく必要があります。

司法書士は裁判所に出す書類の作成ができ、認定司法書士は140万円以下の事件について簡易裁判所での代理や裁判外の交渉も行えます。140万円を超える請求の代理は弁護士の業務です。手続きの選び方で迷ったときは、お近くの司法書士(140万円を超える場合は弁護士)にご相談ください。

よくある質問

Q. 裁判所の手続きには、どのくらい費用がかかりますか?

裁判所に納める手数料は、手続きの種類と請求する金額に応じて法律で決まっています。このほかに書類の送付などの費用がかかります。手数料の基本は裁判所に納める費用の解説で整理しています。司法書士や弁護士に依頼する場合の報酬は事務所ごとに異なるため、依頼前に確認しましょう。

Q. 督促しないまま放っておくと、どうなりますか?

貸したお金を返してもらう権利は、一定の期間行使しないと時効で消滅することがあります(民法166条1項)。内容証明郵便による請求で時効の完成が猶予されるのは6か月間に限られ(民法150条1項)、裁判所の手続き(裁判上の請求や支払督促)による完成猶予とは扱いが異なります(民法147条1項)。時効が近いと思われる場合は、早めに確認することが大切です。

Q. 自分で手続きできますか? どこに相談すればいいですか?

支払督促や少額訴訟は、本人が自分で申し立てることもできる手続きです。書類の作り方や手続きの選び方に迷うときは、お近くの司法書士にご相談ください。簡易裁判所での代理や相手との交渉まで任せたい場合、140万円以下なら認定司法書士か弁護士、140万円を超える場合は弁護士が相談先になります。

【さらに深掘り】督促異議の後の移行先と、手続きごとの強制執行の入口

ご注意 以下は執筆時点(2026年11月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

本文では、手続きの選び方を「相手が争いそうか」「金額はいくらか」という観点で紹介しました。ここでは、手続きを選んだ後に起こりうる二つの分かれ道──支払督促に督促異議が出たときにどこの裁判所で訴訟になるか、判決などを得たあとに強制執行へどう入るか──を、条文に沿って整理します。どちらも、簡裁訴訟代理の制度上、認定司法書士が代理できる範囲が途中で変わりうる場面です。

督促異議が出たときの移行先は「申立ての時」「督促を発した裁判所」が基準

支払督促は、債務者の普通裁判籍の所在地(一般には相手の住所地)を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に申し立てるのが原則です(民事訴訟法383条1項。事務所・営業所の業務に関する請求などには同条2項の特則があります)。そして、適法な督促異議の申立てがあると、督促異議に係る請求について、その目的の価額に従い、支払督促の申立ての時に、支払督促を発した裁判所書記官の所属する簡易裁判所、またはその所在地を管轄する地方裁判所に訴えの提起があったものとみなされます(同法395条)。

この条文から、次の点が読み取れます。

  • 訴訟になる裁判所は、支払督促を申し立てた裁判所(またはその所在地の地方裁判所)を基準に決まります(指定簡易裁判所に申し立てた場合の特則は、この下の4つ目で触れます)。支払督促を相手の住所地で申し立てていれば、訴訟もその地域の裁判所で始まることになります。
  • 簡易裁判所と地方裁判所のどちらになるかは、督促異議に係る請求の目的の価額で決まります。140万円を超えない請求は簡易裁判所の第一審の裁判権に属します(裁判所法33条1項1号)。
  • 仮執行の宣言の前に適法な督促異議があったときは、支払督促はその督促異議の限度で効力を失います(民事訴訟法390条)。仮執行の宣言が付いた後でも、その支払督促の送達を受けた日から2週間の不変期間内であれば督促異議を申し立てることができ(同法393条)、395条は移行の対象を仮執行の宣言の前後で区別していません。
  • 最高裁判所規則で定める簡易裁判所(指定簡易裁判所)にインターネットで支払督促を申し立てた場合は、395条ではなく398条の特則によります。2026年11月時点で、この指定簡易裁判所は東京簡易裁判所であり、相手の住所地を管轄する簡易裁判所が別の裁判所であっても、最高裁判所が設けた専用のシステムを使って東京簡易裁判所の裁判所書記官に申し立てることができます(民事訴訟法第八編第二章の規定による督促手続に関する規則1条1項・3項)。この場合、訴えの提起があったとみなされる裁判所は、申立てを受けた指定簡易裁判所とは限らず、本来の申立先である383条に規定する簡易裁判所など(またはその所在地を管轄する地方裁判所)を基準に定まります(民事訴訟法397条・398条。該当する裁判所が二以上あるときの扱いは同条2項・3項。3項の裁判所の指定は、支払督促の申立ての時にします=同規則3条5項)。398条1項が対象としているのは「指定簡易裁判所の裁判所書記官に対してされた」申立てです。本文で触れた訴訟代理人のインターネット申立ての義務(同法132条の11)によってオンラインで申し立てた場合でも、申立先が指定簡易裁判所でなければ、この特則の対象とは読めません。

なお、相手から督促異議が出ないまま、仮執行の宣言を申し立てられる時から30日以内に債権者が申立てをしないと、支払督促は効力を失います(同法392条)。

代理できる範囲との関係:支払督促の手続きそのものの代理は、請求の目的の価額が140万円を超えないものに限られます(司法書士法3条1項6号ロ)。督促異議によって簡易裁判所の訴訟に移った後は、支払督促の手続き(同号ロ)ではなく訴訟の手続きになるため、その代理は、条文の文言上、訴訟の目的の価額が140万円を超えない民事訴訟法上の手続きとして同号イの範囲に入ると読めます。地方裁判所に移った訴訟は「簡易裁判所における」手続き(同号柱書)ではないため、認定司法書士は代理できず、140万円を超える請求の代理は弁護士の業務です。支払督促そのものには請求額の上限がありませんが(民事訴訟法382条)、認定司法書士が代理できる範囲には上限がある、という違いに注意が必要です。

手続きごとの強制執行の入口

本文④のとおり、強制執行は債務名義にもとづいて行います(民事執行法22条)。どの手続きで債務名義を得たかによって、執行文の要否と、利用できる差押えの手続きが変わります。

得た書類 債務名義としての位置づけ(民事執行法22条) 執行文 少額訴訟債権執行の利用 認定司法書士の代理
仮執行の宣言を付した支払督促 4号 表示された当事者に対し、またはその者のためにする執行では不要(同法25条ただし書) 利用できない(同法167条の2第1項に挙がっていない) 強制執行に関する事項は代理できない(司法書士法3条1項6号ただし書)
少額訴訟の判決(仮執行の宣言付き・確定) 1号・2号 同上(同法25条ただし書) 利用できる(同法167条の2第1項1号・2号。申立先は判決をした簡易裁判所の裁判所書記官=同条3項) 請求の価額140万円以下の少額訴訟債権執行に限り代理できる(司法書士法3条1項6号ホ)
通常の訴訟の判決(確定・仮執行の宣言付き) 1号・2号 必要(同法25条本文) 利用できない 強制執行に関する事項は代理できない(司法書士法3条1項6号ただし書)

少額訴訟の判決には、請求を認容する場合、裁判所が職権で仮執行の宣言を付けなければならないとされています(民事訴訟法376条1項)。また、簡易裁判所の訴訟や支払督促の手続きで訴訟代理人になった認定司法書士も、委任を受けた事件について強制執行に関する訴訟行為はできません。例外は、少額訴訟の手続きで訴訟代理人になった者が少額訴訟債権執行の手続きについてする訴訟行為です(司法書士法3条7項)。

代理できない強制執行の手続きでも、本文で触れたとおり、裁判所に提出する申立書の作成(同条1項4号)は別の業務として位置づけられています。ただし、これは書類を作成する業務であり、申立てをして手続きを進めるのは本人です。少額訴訟債権執行の流れそのものは少額訴訟債権執行の解説、支払督促の手続きの流れは支払督促の流れで整理しています。

いずれの手続きでも、債務名義を得ることと、実際にお金が戻ることは別の問題です。差し押さえるべき財産が見つからなければ回収には結びつきません。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年11月・いずれも一次情報です)。

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