この記事の要点
- 登記簿(登記事項証明書)にある「処分禁止仮処分」は、所有者が申請した登記ではなく、仮処分を申し立てた人(債権者)のために、裁判所書記官が法務局に頼んで(嘱託して)入れる登記です(民事保全法53条3項・47条3項)
- この登記があっても、所有者が変わるわけではなく、その後に売買や抵当権の登記がされることもあります。ただし、仮処分をした債権者が後で自分の登記をするときは、仮処分の登記より後の登記は、債権者の権利とぶつかる限度で債権者に対抗できず、抹消されることがあります(同法58条1項・2項)
- 記載が消える道筋は、①申立ての取下げや仮処分の取消しなどによる裁判所書記官の嘱託、②債権者が本来の登記をした際の、後れる登記の抹消とあわせた登記官による抹消、の2つが代表的です(同法53条3項が準用する民事執行法54条1項、不動産登記法111条3項・114条)
- 仮処分をめぐる争いそのもの(取消しを求める手続や本案の訴訟)は弁護士、登記簿の読み方や登記の手続はお近くの司法書士が相談先です
不動産を売ろうとして登記簿を取り寄せたら、甲区に「処分禁止仮処分」という見慣れない記載があった──。結論からいうと、これは「この不動産の登記をめぐって争っている人がいて、その人が勝ったときに備えて、今の状態を登記簿の上で押さえている」という印です。この記載があっても売買の登記そのものがされることはありますが、仮処分をした人が後で勝って自分の登記をすると、仮処分より後の買主の登記などが抹消されるおそれがある、という構造になっています。
この記事は、処分禁止の仮処分の登記の読み方、その不動産を売る・買う・担保に入れるときに登記の上で何が起きるか、そして記載が消えるまでの道筋に絞って解説します。仮処分という制度の全体像(仮差押えとの違い、係争物に関する仮処分と仮の地位を定める仮処分の区別など)は、「「仮処分」とは|仮差押えとの違いと、占有移転禁止の仮処分の仕組み」で整理しています。
なお、この記事は執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です。
処分禁止の仮処分とは──「勝ったときの登記」を守るための仮の手続
不動産をめぐっては、「売買代金を払ったのに、売主が名義を移してくれない」「本当は自分の土地なのに、他人の名義になっている」といった、登記をめぐる争いが起きることがあります。こうした争いは、最終的には裁判(本案の訴訟)で決着をつけることになりますが、その間に相手が第三者に不動産を売ってしまうと、せっかく勝っても自分の登記ができなくなるおそれがあります。
そこで、裁判で決着がつく前に、相手に「この不動産を処分(売却や担保設定など)してはならない」と命じてもらうのが処分禁止の仮処分です。民事保全法は、不動産に関する権利についての登記を請求する権利(「登記請求権」といいます)を守るための処分禁止の仮処分は、「処分禁止の登記」をする方法で執行すると定めています(民事保全法53条1項)。
つまり、処分禁止の仮処分は、裁判所の命令が出ただけでは終わらず、登記簿に載ることによって効き目を発揮するしくみです。
「処分禁止仮処分」は所有者が申請した登記ではない
登記は、当事者の「申請」のほか、官庁や公署(役所や裁判所)の「嘱託(しょくたく)」によってもされます(不動産登記法16条1項)。処分禁止の仮処分の登記は、この嘱託によって入る登記です。民事保全法53条3項が、仮差押えの登記は裁判所書記官が嘱託するとした47条3項を準用しているため、処分禁止の登記も裁判所書記官が嘱託します。
この点は、差押えの登記と同じです。差押えの読み方は「登記簿に「差押」と書いてあったら」をご覧ください。所有者本人が知らないうちに記載が入っていることがあるのは、所有者の申請ではなく裁判所の側の嘱託で入るためです。仮処分命令そのものは所有者(債務者)にも送達されますが(民事保全法17条)、登記は、命令が所有者に送達される前でもすることができます(同法43条3項)。
登記簿のどこに、どう載るか
所有権をめぐる争いなら甲区に載る
登記事項証明書は、表題部・甲区・乙区の3つの欄に分かれています。たとえば「売買したのに名義を移してくれない」という争いのように、所有権の移転の登記を求める場面の処分禁止の登記は、所有権に関する事項を記録する甲区に入ります。
法務省の通達(平成2年11月8日付け法務省民三第5000号通達)が示す記録例では、所有権についての処分禁止の仮処分の登記は、「登記の目的」欄を「処分禁止仮処分」とし(どんな処分を禁止するかは別に記録しません)、原因として「何年何月何日何地方裁判所仮処分命令」、その下に「債権者」として仮処分を申し立てた人の住所・氏名が記録される形とされています(平成2年当時の縦書きの様式による例で、現在の登記事項証明書では表の形で表示され、原因と債権者は「権利者その他の事項」欄に記録されます)。
読むときの手がかりは、次の3点です。
- 原因の日付と裁判所名:どこの裁判所が、いつ仮処分命令を出したかが分かります。原因は、前記の記録例のように「何年何月何日何地方裁判所仮処分命令」という形で記録されるので、そこにある日付は、法務局の受付日ではなく、仮処分命令の日付です。法務局の受付日は「受付年月日・受付番号」欄に別に記録されます
- 債権者の住所・氏名:誰が仮処分を申し立てたか、つまり誰がこの不動産の登記をめぐって争っているかが分かります
- 受付年月日・受付番号と順位番号:仮処分の登記がいつ入ったかが分かります。後で述べるとおり、この登記より「後れる」登記かどうかが大切になります
抵当権などの設定を求める争いなら、乙区の「保全仮登記」とセットになる
争いの中身が「抵当権を設定する約束をしたのに、登記に応じてくれない」のように、所有権以外の権利(抵当権・地上権・賃借権など)の設定などを求めるものであるときは、処分禁止の登記とともに、「仮処分による仮登記」(保全仮登記といいます)もする方法で執行されます(民事保全法53条2項)。
前記の通達の記録例では、この場合、処分禁止の登記は、禁止の対象が所有権であれば甲区に「処分禁止仮処分(乙区何番保全仮登記)」として、保全仮登記は乙区に「抵当権設定保全仮登記(甲区何番仮処分)」として、互いの順位番号を示し合う形で記録するものとされています。同じ記録例では、保全仮登記の欄には、債権額・利息・債務者などと、権利者として仮処分の債権者の住所・氏名が記録されます(禁止の対象が所有権以外の権利であるときは、処分禁止の登記も乙区に入ります)。
保全仮登記は、あとで本登記をしたときに、その本登記の順位が保全仮登記の順位になるという点で、ふつうの仮登記と似たはたらきをします(不動産登記法112条)。ふつうの仮登記のしくみは「仮登記(かりとうき)とは?」で解説しています。
この記載がある不動産を売る・買う・担保に入れるとどうなるか
売買や抵当権の登記そのものは、されることがある
処分禁止の仮処分の登記があっても、所有権は所有者のもとにあり、登記上の所有者が入れ替わるわけではありません。また、民事保全法58条1項は、「処分禁止の登記の後にされた登記」について定めています。この条文の組み立てから、処分禁止の登記の後に、売買による所有権移転の登記や抵当権の設定の登記がされうることが前提とされていると読めます。実際、登記の申請を却下すべき場合を列挙した不動産登記法25条と不動産登記令20条のどちらにも、「処分禁止の登記がされていること」は却下の理由として挙げられていません。
ですから、「仮処分の登記があるから、売買の登記は法務局で受け付けてもらえない」とは限りません。問題になるのは、登記ができるかどうかより、登記をした後にその登記が覆るおそれがあるかどうかです。
債権者が勝って登記をすると、後れる登記は対抗できない
民事保全法58条1項は、処分禁止の登記の後にされた登記に係る権利の取得などは、仮処分の債権者が守ろうとした登記をする場合には、その登記に係る権利の取得や消滅と抵触する限度で、債権者に対抗することができないと定めています。そして、所有権の移転を求めるタイプのように保全仮登記を伴わない仮処分の債権者は、処分禁止の登記に後れる登記を抹消することができるとされています(同条2項)。
たとえば、所有権の移転の登記を求めて処分禁止の仮処分をした債権者が、本案の裁判で勝って自分への所有権移転の登記をするときは、仮処分の登記より後に所有者から不動産を買った人の所有権移転の登記や、後から設定された抵当権の登記は、債権者の登記とぶつかる限度で抹消されうることになります。不動産登記法111条1項も、この場合に債権者が、処分禁止の登記に後れる登記の抹消を単独で申請できると定めています。
なお、債権者が後れる登記を抹消するには、あらかじめその登記の権利者(たとえば後から買った人や抵当権者)に対して、その旨を通知しなければならないとされています(民事保全法59条1項)。通知は、登記簿上の住所などにあてて発すればよく、発した日から1週間を経過した時に到達したものとみなされます(同条2項)。
保全仮登記のタイプでは、扱いが異なる
抵当権の設定などを求めて保全仮登記とともにされた仮処分では、債権者は保全仮登記に基づく本登記をする方法で自分の登記をします(民事保全法58条3項)。この場合、後から入った所有権移転の登記まで抹消されるわけではなく、本登記をした抵当権などが保全仮登記の順位で優先するという形になります(不動産登記法112条)。ただし、守ろうとした権利が地上権や賃借権のように不動産を使う権利であるときは、処分禁止の登記に後れる使用・収益の権利(所有権を除きます)などの登記を抹消することができるとされています(民事保全法58条4項、不動産登記法113条)。
このように、仮処分の登記に後れる登記が「覆る」かどうか、どの範囲で覆るかは、仮処分がどんな登記を守るためのものか(被保全権利)によって変わります。登記簿の記載だけでは、その仮処分が何を求める争いなのかまで分からないこともあります。
個別の取引の判断は、この記事では扱いません
仮処分の登記がある不動産を買ってよいか、価格にどう影響するかといった個別の取引判断は、この記事では扱いません。売買の仲介や価格の見通しは不動産会社(宅地建物取引業者)、争いの見通しは弁護士の分野です。
記載が消えるまでの道筋
処分禁止の仮処分の登記は、入るときに裁判所書記官の嘱託によるのと同じく、消えるときも、所有者が自分で申請するのではなく、裁判所の側の嘱託か、登記官による抹消によるのが条文上の基本です。代表的な道筋は次の2つです。
1. 申立ての取下げや仮処分の取消しなどで、仮処分が終わったとき
民事保全法53条3項は、民事執行法54条を準用しています。民事執行法54条1項は、申立てが取り下げられたとき、または手続を取り消す決定が効力を生じたときは、裁判所書記官が登記の抹消を嘱託すると定める規定です。この準用関係から、債権者が仮処分の申立てを取り下げたときや、仮処分の執行が取り消されたときは、裁判所書記官の嘱託で処分禁止の登記が抹消される流れになると読めます。前記の通達の記録例でも、こうした抹消の登記は、原因を「取下」または「取消決定」として記録する形とされています。
仮処分命令そのものが保全異議や保全取消しの手続で取り消されたときも、その取消しの裁判の正本が提出されることで、執行処分である処分禁止の登記が取り消され、そのうえで裁判所書記官が抹消を嘱託する、という流れになると考えられます(民事保全法46条が準用する民事執行法39条1項1号・40条1項)。ただし、これは条文の準用関係から読み取った流れで、どの書面をいつ誰が裁判所に出すかといった個々の手続の進み方は、手続を担当する弁護士や裁判所に確認する事柄です。
仮処分命令が取り消される場面には、たとえば、本案の訴えを起こすよう命じられた債権者が、期間内に訴えを起こしたことを証する書面を出さなかったとき(民事保全法37条)、事情の変更があったとき(同法38条。取り消すかどうかは裁判所が判断します)があります。また、債務者が仮処分解放金を供託したことを証明したときは、仮処分の執行が取り消されますが(同法57条1項)、仮処分解放金は、守ろうとする権利が金銭の支払を受けることで目的を達せられるものである場合に限って定められます(同法25条1項)。いずれも裁判所への申立てを伴う手続で、取消しを求めるかどうか、認められる見込みがあるかは、弁護士に相談する事柄です。
2. 債権者が勝って、守ろうとした登記をしたとき
保全仮登記を伴わないタイプでは、債権者が自分の登記とあわせて後れる登記の抹消を申請し、登記官がその後れる登記を抹消するときは、職権で処分禁止の登記も抹消しなければならないとされています(不動産登記法111条3項)。この職権抹消は後れる登記の抹消とあわせてされるものなので、後れる登記がない場合や、その抹消を申請しなかった場合などには、債権者が裁判所書記官に抹消の嘱託を申し立てる手続が用意されています(民事保全規則48条1項)。保全仮登記を伴うタイプでは、保全仮登記に基づく本登記をするときに、登記官が職権でその処分禁止の登記を抹消します(同法114条)。
いずれの場合も、登記官は抹消の登記をするとともに、元の処分禁止の登記に「抹消する記号」を記録します(不動産登記規則152条1項)。つまり、記載そのものが登記簿から消えてなくなるわけではなく、抹消された記録として残ります。この「抹消する記号」は下線で表され(令和6年3月22日付け法務省民二第551号通達の別紙記録例の注記)、登記事項証明書では、抹消された記録に下線が引かれて表示されます。「仮処分はもう終わったと聞いているのに、下線のない処分禁止の登記が残っている」ように見えるときは、仮処分をした裁判所に、抹消の嘱託がされたかを確かめるのが基本です。
相談先は内容によって分かれます
登記簿の読み方や、処分禁止の登記がどう入り、どう消えるかという登記の手続は、司法書士が説明できる分野です。一方で、次のような事柄はそれぞれの窓口が担当します。
- 仮処分の取消しを求める手続、保全異議、本案の訴訟の見通し、債権者との交渉 → 弁護士
- 物件の価格の見通しや、売買の仲介 → 不動産会社(宅地建物取引業者)
まとめ
登記簿の甲区に「処分禁止仮処分」とあるときは、その不動産の登記をめぐって争っている債権者がいて、裁判所の仮処分命令にもとづき裁判所書記官の嘱託で入った登記だと読みます。この登記があっても所有者は変わらず、その後に売買や抵当権の登記がされることもありますが、債権者が勝って自分の登記をするときは、仮処分に後れる登記は債権者の権利とぶつかる限度で対抗できず、抹消されることがあります(民事保全法58条、不動産登記法111条)。記載は、取下げや取消しによる裁判所書記官の嘱託、または債権者の登記の際の登記官の抹消によって消えるのが基本です。登記簿の記載の意味や、抹消されているはずの仮処分が残っている場合の確認の仕方で迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください(仮処分をめぐる争いそのものは弁護士へ)。
よくある質問
Q. 処分禁止の仮処分の登記を消すのに、費用はかかりますか?
処分禁止の登記の抹消は、裁判所書記官の嘱託か、債権者の登記の際の登記官の職権抹消によるもので、所有者が自分で費用を負担して申請する手続にはなっていません。取下げや取消しによる抹消の嘱託に要する登録免許税その他の費用は、民事執行法54条2項(民事保全法53条3項で準用)により、債権者の負担とされています(条文上は「差押債権者」とあり、読替えの規定もありませんが、仮処分の場面にあてはめる以上、仮処分の債権者を指すと読むのが自然です。条文の準用関係からの読みです)。もちろん、仮処分のもとになった争いそのものの解決にかかる費用は別の問題です。
Q. 処分禁止の仮処分の登記を放置するとどうなりますか?期限はありますか?
処分禁止の登記に「いつまでに消さなければならない」という期限はなく、時間がたつだけで自然に消えるしくみにもなっていません。記載が残っている間にされた売買や抵当権の登記は、債権者が後で勝って登記をするときに、ぶつかる限度で抹消されるおそれを抱えたままになります(民事保全法58条、不動産登記法111条。保全仮登記を伴うタイプでは、抹消ではなく順位で後回しになる形が基本です)。取消しを求める手続をとるかどうかは、弁護士に相談してください。
Q. 自分で確認できますか?どこに相談すればよいですか?
登記事項証明書を取得して、「権利者その他の事項」欄の原因・債権者と受付年月日から、どこの裁判所の仮処分で、誰が申し立てたものかを読み取ることは自分でもできます。抹消は裁判所の側の嘱託や登記官の職権によるもので、所有者が単独で申請するものではありません。仮処分の取消しや本案の争いは弁護士、売買の価格や仲介は不動産会社、登記簿の読み方や登記の手続はお近くの司法書士が相談先です。
【さらに深掘り】仮処分の債権者がする登記と、後れる登記の抹消の手続
ご注意 以下は執筆時点(2026年10月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
仮処分の申立てや取消しを求める手続、本案の訴訟の進め方や見通しは弁護士の分野のため、ここでは扱いません。ここでは、債権者が本案で決着をつけた後に、登記の上でどのような手続になるかに絞って、条文の組み立てを整理します。ふつうの仮登記と本登記の関係は「仮登記(かりとうき)とは?」で扱っています。
「後れる登記」かどうかは、まず登記の前後で見る
同一の不動産について登記した権利の順位は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記の前後によります(不動産登記法4条1項)。登記の前後は、同じ区(甲区どうし・乙区どうし)の登記の間では順位番号、甲区と乙区のように別の区の登記の間では受付番号で決まります(不動産登記規則2条1項)。たとえば、甲区の処分禁止の登記と乙区の抵当権設定の登記のどちらが先かは、順位番号ではなく受付番号で比べることになります。もっとも、前記の平成2年の通達は、抹消の対象となる「後れる登記」を、仮処分の登記より後順位の登記のうち、仮処分に対抗できることが登記簿上明らかなものを除いたものとしています。登記が後であることは出発点で、それだけで抹消の対象になるとは限りません。
保全仮登記を伴わないタイプ──債権者が単独で後れる登記の抹消を申請する
所有権について処分禁止の登記(保全仮登記とともにしたものを除きます)がされた後、仮処分の債権者が、仮処分の債務者を登記義務者とする所有権の登記(仮登記を除きます)を申請するときは、債権者は、処分禁止の登記に後れる登記の抹消を単独で申請することができます(不動産登記法111条1項)。所有権以外の権利(たとえば抵当権)について処分禁止の登記がされ、債権者がその権利の移転や消滅に関する登記を申請する場合も同じです(同条2項)。
条文から読み取れるポイントは次のとおりです。
- 債権者が申請する登記は、条文上、仮処分の債務者を登記義務者とする登記とされています
- 債権者がする登記が仮登記である場合は、この規定の対象外です(同条1項の「仮登記を除く。」)
- 本案で、債務者に登記手続をすべきことを命ずる確定判決を得た場合は、その判決による登記は、債権者が単独で申請できます(同法63条1項)
なお、後れる登記のどれが債権者の権利と抵触するか(民事保全法58条1項・2項)をめぐって、後れる登記の権利者との間に争いがある場合は、弁護士に相談する事柄です。
事前の通知と、申請に付ける情報
債権者が後れる登記を抹消するには、あらかじめ、その登記の権利者(後から所有権を取得した人や抵当権者など)に、その旨を通知しなければなりません(民事保全法59条1項)。通知は、発する時点の権利者の登記簿上の住所または事務所にあてて発することができ、その場合、遅くとも発した日から1週間を経過した時に到達したものとみなされます(同条2項)。権利者が登記簿上の住所から移っている場合でも、登記簿上の住所あてに発することが条文上認められているわけです。
そして、債権者が単独で後れる登記の抹消を申請するときは、この通知をしたことを証する情報を添付情報として提供します(不動産登記令別表71項)。
処分禁止の登記の後に第三者の登記が入っていた場合の流れ
所有権の移転を求める仮処分で、処分禁止の登記の後に、第三者への所有権移転の登記や抵当権設定の登記が入っていた場合を、条文に沿って並べると、登記の手続は次の順になります。
- 債権者が、後れる登記の権利者(第三者や抵当権者)に、登記簿上の住所などにあてて、登記を抹消する旨を通知する(民事保全法59条)
- 債権者が、仮処分の債務者を登記義務者とする所有権移転の登記を申請し、その申請をする場合に、後れる登記の抹消を単独で申請する。抹消の申請には、通知をしたことを証する情報を付ける(不動産登記法111条1項、不動産登記令別表71項)
- 登記官は、その申請に基づいて後れる登記を抹消するときは、職権で処分禁止の登記も抹消する(不動産登記法111条3項)
- 抹消の登記がされ、抹消された登記には抹消する記号が記録される(不動産登記規則152条1項)
後れる登記の抹消は、その登記の権利者と共同で申請するのではなく、債権者が単独で申請するしくみで、後れる登記の権利者には、申請の前に通知がされることになります。
なお、債権者が守ろうとした登記をしたのに、不動産登記法111条3項による処分禁止の登記の抹消がされないままのときは、債権者は、保全執行裁判所の裁判所書記官に対し、その処分禁止の登記の抹消を嘱託するよう申し立てることができます(民事保全規則48条1項)。
保全仮登記を伴うタイプ──本登記と順位
抵当権の設定などを求めるタイプでは、債権者は、保全仮登記に基づく本登記をする方法で登記をします(民事保全法58条3項)。本登記の順位は保全仮登記の順位によります(不動産登記法112条)。登記記録の上でも、保全仮登記をしたときには、その次に同じ順位番号で本登記をするための余白が設けられ、本登記はその順位番号を用いてされます(不動産登記規則179条1項〜3項)。そして、保全仮登記に基づく本登記をするときは、登記官が職権で、その保全仮登記とともにした処分禁止の登記を抹消します(不動産登記法114条)。
守ろうとした権利が地上権や賃借権のように不動産の使用・収益をする権利であるときは、債権者は本登記を申請する場合に、処分禁止の登記に後れる使用・収益をする権利(所有権を除きます)や、その権利を目的とする権利に関する登記の抹消を、単独で申請できます(民事保全法58条4項、不動産登記法113条)。この場合も事前の通知が必要で(民事保全法59条1項)、通知をしたことを証する情報を添付情報として提供します(不動産登記令別表72項)。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月・いずれも一次情報です)。
- 民事保全法 第17条・第25条・第37条・第38条・第43条・第46条・第47条・第53条・第57条〜第59条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/401AC0000000091
- 民事執行法 第39条・第40条・第54条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/354AC0000000004
- 民事保全規則 第48条(裁判所ウェブサイト・規則集): https://www.courts.go.jp/assets/080521minjihozenkisoku.pdf
- 不動産登記法 第4条・第16条・第25条・第63条・第111条〜第114条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 不動産登記令 第20条・別表71項・72項(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416CO0000000379
- 不動産登記規則 第2条・第152条・第179条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/417M60000010018
- 法務省 令和6年3月22日付け法務省民二第551号通達「民法等の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(所有権の登記の登記事項の追加関係)」(別紙記録例を含む): https://www.moj.go.jp/content/001416428.pdf