不動産の登記簿(登記事項証明書)を見ていたら、「仮登記(かりとうき)」という見慣れない言葉が記載されていた——。あるいは、不動産の売買や贈与の話し合いの中で、司法書士から「いったん仮登記を入れておきましょう」と言われた。そんなときに気になるのが、「仮登記とは何なのか」「ふつうの登記と何が違うのか」という点ではないでしょうか。

仮登記は、ひとことで言えば 「将来の本番の登記のために、いまのうちに順番だけ確保しておく仮の登記」 です。この記事では、仮登記の意味としくみを、できるだけ専門用語をかみくだいて整理します。

仮登記とは——「本番の登記」の前に順番を取っておくしくみ

不動産の権利(所有権や抵当権など)についての登記には、効力をしっかり備えた 「本登記(ほんとうき)」 と、その前段階の 「仮登記」 の2種類があります。

ふだん「登記をした」というときは本登記を指します。本登記をすると、その権利を第三者に対しても主張できる力(これを「対抗力(たいこうりょく)」といいます。たとえば「この土地は自分のものだ」と他人に主張できる力のことです)が備わります。

これに対して仮登記は、本登記をするための条件がまだ整っていないときに、「順番(順位)だけを先に押さえておく」 ための仮の登記です。順番待ちの列で、自分の場所に荷物を置いて場所取りをしておくイメージに近いといえます。仮登記そのものには対抗力はありませんが、後で本登記をするときに大きな意味を持ちます。

なぜ仮登記をするのか——「順位」を確保するため

不動産の登記には、「先に登記した人が優先される」 という基本ルールがあります。同じ不動産について複数の権利がぶつかったとき、登記簿に記録された順番(これを「順位(じゅんい)」といいます)が早いほうが勝つ、というしくみです。

ここで仮登記が力を発揮します。仮登記をしておくと、後でその仮登記を本登記に変えたときに、本登記の順位が「仮登記をしたときの順番」までさかのぼる からです。これを 「順位保全(じゅんいほぜん)の効力」 と呼びます。

たとえば、ある不動産について自分が仮登記を入れた後に、別の人が本登記を入れてしまったとします。それでも、自分の仮登記を本登記に変えれば、自分の順位は仮登記をしたときの早い順番として扱われ、後から入った人より優先されることになります。「いま本登記はできないけれど、順番だけは負けたくない」という場面で、仮登記は役に立つのです。

1号仮登記と2号仮登記——大きく分けて2つのタイプ

仮登記は、その目的によって大きく2つのタイプに分かれます。不動産登記法105条が定める順番から、実務では「1号仮登記」「2号仮登記」と呼び分けています。

■ 1号仮登記(条件が整っていないときの仮登記)

権利の移転などの変動は すでに起きている のに、本登記に必要な書類などの条件がまだそろわない、というときの仮登記です。

たとえば、不動産を実際に買って所有権はもう移ったけれど、本登記に必要な書類(権利証にあたる「登記識別情報」など)が手元になくてすぐには本登記ができない、といった場合が典型です。「中身(権利の移動)はもうあるが、手続き上の準備が足りない」状態を埋めるための仮登記です。

■ 2号仮登記(将来の請求権を守るための仮登記)

権利の変動は まだ起きていない けれど、「将来こうしてもらう」という約束(請求権)がある、というときの仮登記です。「請求権保全(せいきゅうけんほぜん)の仮登記」とも呼ばれます。

たとえば、「代金を全額払ったら所有権を移す」「一定の条件が整ったら贈与する」といった約束をしたものの、まだその時が来ていない、という場合です。このとき、「将来、所有権を移してもらう権利(所有権移転請求権)」を守るために仮登記をしておくことができます。登記簿に「所有権移転請求権仮登記」と記録されているのは、このタイプです。

ざっくり整理すると、1号は「中身はあるが手続きが未了」、2号は「中身(権利変動)はこれから・約束だけある」 という違いになります。

仮登記の申請——原則は「共同」、例外で「単独」も

登記の申請は、原則として 権利を得る人(登記権利者)と権利を失う人(登記義務者)の2人が共同で申請する のが基本ルールです(共同申請の原則)。仮登記もこの原則にそって、両者がそろって申請するのが基本です。

ただし仮登記には、一定の場合に 権利を得る人が1人で申請できる(単独申請) という例外も用意されています。具体的には、

  • 仮登記の登記義務者(権利を失う側)が「仮登記してよい」と 承諾している とき
  • 裁判所が「仮登記をしなさい」という決定(仮登記を命ずる処分)を出したとき

このようなケースでは、権利を得る側が単独で仮登記を申請できます。相手の協力が得られないときでも、こうした手段によって順位を確保できる道が残されている、というわけです。

仮登記を「本登記」にするには

仮登記はあくまで仮の段階です。最終的に権利をしっかり主張できるようにするには、条件が整った段階で 「本登記」に変える 必要があります。これを「仮登記に基づく本登記」といいます。

このとき注意したいのが、ほかにその不動産について利害関係を持つ人がいる場合 です。特に所有権に関する仮登記を本登記にするときは、その仮登記より後に登記された人など、登記上の利害関係を持つ第三者の 承諾が必要になることがあります

ただし、承諾が必要かどうかは、登記の種類や具体的な事情によって異なります。誰の承諾がいるのか、本当に必要なのかは、ケースごとに確認が欠かせない部分です。「仮登記を入れておけば、後はいつでも自由に本登記できる」と単純に考えてしまうと、思わぬところでつまずくことがあるため、本登記の段階では専門家の確認を受けるのが安心です。

なお、仮登記をするときの登録免許税(登記の際にかかる税金)は、本登記のときと扱いが異なり、本登記時に残りを納める形になることがあります。仮登記と本登記でかかる費用の見通しについても、事前に確認しておくとよいでしょう。

登記簿で「仮登記」を見かけたら

中古不動産の購入を検討していて、対象の不動産の登記簿に古い「仮登記」が残っている、というケースもあります。仮登記が残っているということは、「将来その権利を主張する人が現れる可能性が、順位を確保した形で残っている」 ことを意味します。

こうした仮登記は、内容によっては購入後のトラブルにつながることもあるため、「なぜその仮登記があるのか」「いまも有効なのか」「抹消できるのか」を、取引の前にきちんと確認しておくことが大切です。登記簿の見方や仮登記の意味で迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。

仮登記は、「いますぐ本登記はできないが、順番は確保しておきたい」という場面で、権利を守るための大切なしくみです。仮の登記とはいえ、その後の本登記や不動産取引に大きく影響します。仮登記をするとき・されているのを見つけたときは、その意味と影響をよく理解したうえで進めることが、安心につながります。


【さらに深掘り】仮登記の申請構造と本登記化の実務

ご注意 以下は執筆時点(2026年6月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。

ここからは、仮登記を登記実務の観点から、もう一歩踏み込んで整理します。

1号仮登記・2号仮登記の登記原因と申請のかたち

本文で触れた2つのタイプは、登記簿への記録のされ方も、登記原因(登記をする理由)も異なります。

  • 1号仮登記(不動産登記法105条1号)……権利変動はすでに生じているが手続上の条件が未了の場合。たとえば所有権はすでに移転しているケースで、登記の目的は「所有権移転仮登記」、登記原因は「売買」「贈与」などとなります。
  • 2号仮登記(同条2号)……将来の請求権を保全する場合。登記の目的は「所有権移転請求権仮登記」、登記原因は「売買予約」「停止条件付売買」「代物弁済予約」などとなります。“予約"や"条件付き"の文言が入るのが特徴です。

申請の構造は、原則として 共同申請 です。たとえば売買にともなう所有権移転仮登記であれば、登記権利者=買主、登記義務者=売主 が共同で申請します。仮登記の段階では、本登記のときに必要となる権利証(登記識別情報)や第三者の承諾を証する情報などをそろえられないことが多く、そのために本登記ではなく仮登記を選ぶ、という関係になります。

単独申請ができる例外——承諾と「仮登記を命ずる処分」

本文で触れたとおり、仮登記には共同申請の原則に対する例外があります(不動産登記法107条1項)。

  1. 仮登記義務者の承諾があるとき……権利を失う側(たとえば売主)が「仮登記をしてよい」と承諾していれば、その承諾を証する情報(実務上は承諾書に印鑑証明書を添えるのが一般的です)を提供して、権利を得る側が単独で申請できます。
  2. 仮登記を命ずる処分があるとき……不動産の所在地を管轄する地方裁判所に申し立て、「仮登記をしなさい」という処分(不動産登記法108条の「仮登記を命ずる処分」)を得たうえで、権利者が単独で申請できます。相手が任意に承諾しない場面での手段です。

相手の協力が得られないときでも順位を確保できる道が制度上用意されている、という点が、仮登記の実務的な強みのひとつです。

仮登記に基づく本登記と、登記上の利害関係人の承諾

仮登記を本登記に変えるとき、特に注意が必要なのが 所有権に関する仮登記 のケースです。不動産登記法109条1項は、所有権に関する仮登記に基づいて本登記をする場合に、登記上の利害関係を有する第三者があるときは、その 第三者の承諾があるときに限り 本登記を申請できる、と定めています。仮登記の後にその不動産について登記を備えた人などが、これにあたり得ます。本登記がされると、その第三者の登記は登記官の職権で抹消される扱いとなります(同条2項)。

もっとも、承諾が必要になるかどうか、誰が利害関係人にあたるのかは、登記の種類や個別の事情によって変わります。所有権以外の権利についての仮登記では扱いが異なる場面もあり、一律に「本登記には必ず第三者の承諾が要る/要らない」と決めつけることはできません。本登記を見据えるときは、仮登記をした段階から、後の利害関係人の有無まで含めて見通しを立てておくことが、後のトラブル防止につながります。

登録免許税の考え方

仮登記をするときの登録免許税は、本登記をするときよりも抑えられた扱いになっているのが基本です。たとえば所有権移転の仮登記では、本登記の税率の一部だけを仮登記の段階で納め、後で本登記をするときに残りの差額を納める、という枠組みになっています(登録免許税法17条・別表第一)。具体的な税率や差額の計算は、登記の原因(売買・相続・贈与など)や時期によって異なります。

仮登記と本登記とでトータルの費用がどうなるか、また売買・贈与などにともなって生じうる贈与税・譲渡所得税・不動産取得税といった税金については、税額の有利・不利の判断を含めて税理士の領域です。具体的な税負担はお近くの税理士にご確認ください。

不要になった仮登記の抹消

すでに目的を終えた仮登記や、事情が変わって不要になった仮登記が登記簿に残っていることがあります。仮登記の抹消は、共同申請の原則(不動産登記法60条)にかかわらず、仮登記の登記名義人が単独で申請できます(不動産登記法110条)。また、仮登記の登記名義人の承諾を得た登記上の利害関係人も、単独で申請することができます。古い仮登記が取引の支障になっている場合は、誰がどのように抹消できるのかを早めに確認しておくと安心です。

仮登記は、順位を確保しながら次の段階(本登記)へ進むための"つなぎ"の役割を果たします。1号か2号か、共同申請か単独申請か、本登記時に承諾が要るのか——といった点は事案ごとに判断が分かれるところですので、具体的な手続きを検討するときは、お近くの司法書士にご相談ください。