この記事の要点

  • 仮差押えは「金銭の支払を目的とする債権」を保全する手続きです(民事保全法20条1項)。これに対して仮処分は、物の引渡しや地位の確認など、お金の支払そのもの以外をめぐる場面で使われるのが典型です(同法1条・23条)
  • 仮処分には「係争物に関する仮処分」(23条1項)と「仮の地位を定める仮処分」(23条2項)の2種類があり、要件が異なります
  • 建物の明渡しなどの訴訟前によく使われる「占有移転禁止の仮処分」を執行しておくと、訴訟の途中で占有者が入れ替わっても、改めて訴えを起こし直さずに、執行文の付与を受けて明渡しの強制執行に進めます(同法62条)

執筆時点(2026年9月)の制度に基づく一般的な解説です。

貸したお金や未払い代金の保全については、訴訟で勝つ前に相手の財産を凍結する|仮差押え(民事保全)の手続きと担保の仕組み で取り上げました。仮差押え・仮処分はどちらも「民事保全」と呼ばれる制度の仲間ですが(民事保全法1条)、保全する対象が異なります。仮差押えは、金銭の支払を目的とする債権について発することができる手続きです(同法20条1項)。これに対して仮処分は、物の引渡し・明渡しや、地位の確認など、お金の支払そのもの以外の権利をめぐる場面で使われるのが典型です。ただし、次に述べる2種類のうち「仮の地位を定める仮処分」については、条文上、保全される権利がお金以外のものに限られているわけではありません(同法23条2項)。この記事では、仮処分がどのような仕組みかを整理します。

仮処分には2つの種類がある

仮処分命令には、要件の異なる2つの類型があります(民事保全法23条)。

  • 係争物に関する仮処分(23条1項):現状が変更されると、権利を実行できなくなる、または実行するのに著しい困難が生じるおそれがあるときに発することができます。例えば、争いのある不動産や動産について、勝手に処分されたり第三者に引き渡されたりすると、後で判決を得ても実行できなくなる場合が想定されています。
  • 仮の地位を定める仮処分(23条2項):争いのある権利関係について、債権者に生じる著しい損害または急迫の危険を避けるために必要があるときに発することができます。条文は「争いがある権利関係について」とだけ定めており、保全される権利をお金以外のものに限ってはいません。

仮の地位を定める仮処分は影響が大きいため、原則として口頭弁論または債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ発することができません。ただし、その期日を経ていては目的を達成できない事情があるときは、この限りではありません(23条4項)。また、保全命令は、担保を立てさせて発することができるとされています(同法14条1項)。仮処分命令もここでいう「保全命令」に含まれますので(同法2条1項)、仮処分についても担保(保証金)の提供を求められることがあります。担保の仕組み自体は仮差押えの記事で詳しく整理していますので、そちらをご覧ください。

建物の明渡しなどで使われる「占有移転禁止の仮処分」

司法書士の業務との関わりで実務上よく登場するのが、係争物に関する仮処分の一種である「占有移転禁止の仮処分」です。

例えば、建物の明渡しを求めて訴訟を起こそうとしている場面を考えます。訴訟には一定の時間がかかりますが、その間に被告が建物を第三者に又貸しするなどして占有を移してしまうと、せっかく判決を得ても、その第三者は訴訟の当事者ではないため、判決の効力がそのままでは及ばず、強制執行の相手方にできません。訴訟の途中で義務を引き継いだ第三者を手続に引き込む方法は民事訴訟法にも用意されていますが(訴訟引受け。民事訴訟法50条1項)、占有者が入れ替わるたびにその手当てをしなければならないとすると、権利の実現に手間と時間がかかってしまいます。

そこで、明渡訴訟を起こす前に占有移転禁止の仮処分を申し立て、これを執行しておく仕組みが用意されています。占有移転禁止の仮処分命令の執行がされたときは、債権者は、本案の債務名義(確定判決など)に基づいて、次の者に対しても、係争物の引渡し・明渡しの強制執行をすることができます(民事保全法62条1項)。

  • 仮処分の執行がされたことを知って係争物を占有した者
  • 仮処分の執行後に、その執行がされたことを知らずに債務者の占有を承継した者

このうち前者、つまり仮処分の執行を知って係争物を占有した人は、債務者から占有を引き継いだ人とは限りません。それでも強制執行の相手方にできる根拠は、この62条1項そのものにあります。同項は、仮処分の執行を知って占有した人を、債務者から占有を引き継いだかどうかに関わりなく、本案の債務名義に基づく強制執行の相手方としているからです。

そのうえで、確定判決などの債務名義に表示された当事者以外の者に対して強制執行するには、その者を債務者とする執行文の付与を受ける必要があります(民事執行法27条2項)。占有移転禁止の仮処分を執行しておいた場合は、改めて訴えを起こし直したり、第三者を訴訟に引き込む手続きを重ねたりしなくても、この執行文の付与を受けて明渡しの強制執行に進める点に、実務上の意味があります。

もっとも、執行文を付与された第三者の側にも争う道が用意されています。その人は、債権者に対抗することができる権原によってその物を占有していること、または仮処分の執行がされたことを知らず、かつ債務者の占有の承継人でないことを理由として、執行文の付与に対する異議を申し立てることができます(民事保全法63条)。なお、仮処分の執行後にその係争物を占有した者は、執行がされたことを知って占有したものと推定されます(62条2項)。占有者の側から「知らなかった」ことを示さない限り、この推定が働く仕組みです。逆にいえば、「知らなかった」ことが示されたとしても、その人が債務者から占有を承継した人であれば、先に挙げた2つのうち後者に当たり、やはり強制執行の相手方となります。

140万円以下の範囲に限られる

認定を受けた司法書士が仮処分の手続きを代理できるのは、簡易裁判所に申し立てる手続きで、かつ本案の訴訟の目的の価額(いわゆる訴額)が140万円以下の場合に限られます(司法書士法3条1項6号ハ・裁判所法33条1項1号)。これを超える請求や、地方裁判所に申し立てる保全手続きは弁護士が扱う範囲です。また、本案の判決を得た後の明渡しの強制執行に関する事項は、認定司法書士が代理できる範囲から除かれています(司法書士法3条1項6号ただし書)。

なお、これらの範囲を超える代理は弁護士の業務になります。弁護士法72条は、弁護士または弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で訴訟事件その他一般の法律事件に関して代理などの法律事務を取り扱うことを禁じており、司法書士法などの法律に別段の定めがある範囲でのみ例外が認められています。140万円を超える案件について司法書士が代理を引き受けることはできませんので、その場合は弁護士への相談が必要になります。

まとめ

仮処分は、民事保全の手続きのうち、物の引渡しや地位の確認など、お金の支払そのもの以外をめぐる場面で使われるもので、係争物に関する仮処分と仮の地位を定める仮処分の2種類があります(民事保全法23条)。なかでも占有移転禁止の仮処分(62条)は、建物明渡しなどの訴訟前に、訴訟中の占有者の入れ替わりに備えて執行しておく手続きとして実務上の意味を持ちます。認定司法書士が代理できるのは本案の訴訟の目的の価額が140万円以下の場合に限られ、これを超える案件は弁護士の扱う範囲です(弁護士法72条)。個別の事案でどの保全手続きが適切かは事情によって異なりますので、お近くの司法書士(140万円を超える場合は弁護士)へご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年09月・いずれも一次情報です)。

  • 民事保全法 第1条(趣旨)・第2条(民事保全の機関及び保全執行裁判所)・第13条(申立て及び疎明)・第14条(保全命令の担保)・第20条(仮差押命令の必要性)・第23条(仮処分命令の必要性等)・第62条(占有移転禁止の仮処分命令の効力)・第63条(執行文の付与に対する異議の申立ての理由)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/401AC0000000091
  • 民事執行法 第27条第2項(債務名義に表示された当事者以外の者に対する執行文の付与)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/354AC0000000004
  • 民事訴訟法 第50条第1項(義務承継人の訴訟引受け)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/408AC0000000109
  • 司法書士法 第3条第1項第6号ハ・同号ただし書・第2項(簡裁訴訟代理等関係業務。同号ハは「民事保全法の規定による手続」と定める。ただし書が代理を禁じるのは強制執行に関する事項)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000197
  • 裁判所法 第33条第1項第1号(簡易裁判所の裁判権・140万円)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000059
  • 弁護士法 第72条(非弁護士の法律事務取扱いの禁止)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC1000000205
  • 法務省「司法書士の簡裁訴訟代理等関係業務の認定」(簡裁訴訟代理等関係業務に「(5)民事保全手続」の代理が含まれることを確認。確認日:2026年9月): https://www.moj.go.jp/MINJI/minji116.html
  • 第154回国会 参議院法務委員会会議録 第12号(平成14年4月23日)房村精一 法務省民事局長答弁(司法書士法改正案の審議で「強制執行の代理権は盛り込んでおらない」「将来的な課題」と説明したことを国会会議録検索システムで確認。保全執行の扱いへの言及はなし): https://kokkai.ndl.go.jp/txt/115415206X01220020423/108

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