この記事の要点

  • かつては「成年被後見人・被保佐人」であることそのものを理由に、医師や会社役員など多くの資格・職業から一律に排除する規定(欠格条項)が数多くの法律にありました
  • 令和元年(2019年)6月14日公布の法律により、こうした一律の欠格条項は多数の法律から削除され、法律によっては、代わりに「心身の故障により業務を適正に行うことができない者」かどうかを個別に審査する規定が置かれました。見直しの対象となった法律では、「後見を受けているかどうか」という身分だけで一律に排除する仕組みは、基本的になくなっています
  • 会社の取締役については、これとは別の会社法改正により、成年後見人・保佐人の同意を得て本人に代わって就任を承諾する手続き(会社法331条の2)が新設されています

「後見を受けると、今の仕事や資格を失ってしまうのでは」——成年後見の利用をためらう理由として、こうした心配の声を聞くことがあります。かつてはその心配にも根拠がありました。しかし今は、法律の見直しにより状況が変わっています。本記事は、執筆時点(2026年9月)の制度に基づく一般的な解説です。

かつての「一律の欠格条項」

かつて多くの法律には、「成年被後見人又は被保佐人は、その資格を持てない・その職に就けない」という趣旨の規定(欠格条項)が置かれていました。医師・弁護士・公務員・会社役員・警備員など、対象は非常に広範囲に及んでいました(改正前の医師法3条・弁護士法7条・国家公務員法38条・会社法331条1項・警備業法3条〔14条で警備員にも適用〕など)。これは、後見・保佐を受けているという「型」だけを見て一律に資格を制限するもので、本人が実際にその業務を行えるかどうかは問われない仕組みでした。

令和元年の法律による見直し

令和元年(2019年)6月14日、「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律」(令和元年法律第37号)が公布されました。この法律は、多数の法律に置かれていた一律の欠格条項を削除する内容で(本則だけで170を超える条からなる大きな法律です)、法律によっては、代わりに「心身の故障により業務を適正に行うことができない者」かどうかを個別に審査する規定が新たに置かれました。もっとも、その後どうなったかは法律ごとに違います(この点は後半で整理します)。施行期日は、同法附則1条が「この法律は、公布の日から起算して三月を経過した日から施行する」と定めたうえで、一部の規定は公布の日から、別の一部の規定は「公布の日から起算して六月を経過した日」から施行するとしています。つまり、原則は令和元年9月14日ですが、規定によって同年6月14日・同年12月14日と施行日が分かれています。

具体例として、医師の免許を見てみます。この法律による改正前の医師法3条は、次のとおり定めていました。

未成年者、成年被後見人又は被保佐人には、免許を与えない。

後見・保佐を受けていること自体が、免許を与えない理由(絶対的欠格事由)とされていたわけです。この法律による改正後、同条は次のようになりました(e-Gov法令検索で条文を確認。医師法についてのこの改正の施行日は令和元年12月14日)。

未成年者には、免許を与えない。

「成年被後見人又は被保佐人」という身分による一律の制限が、条文から消えています。

一方、免許を与えないことがある事由(相対的欠格事由)を定めた医師法4条は、その1号に次の定めを置いています(e-Gov法令検索で条文を確認)。

心身の障害により医師の業務を適正に行うことができない者として厚生労働省令で定めるもの

この4条1号の規定自体は今回の見直しで新設されたものではなく、以前から置かれていたものです。見直しで変わったのは、一律に免許を与えないとしていた3条から後見・保佐が外れた点です。その結果、医師の免許について残ったのは、以前からあるこの4条1号のように「業務を適正に行うことができるかどうか」を個別に見る仕組みだけになりました。つまり、後見・保佐を受けていることを理由に自動的に免許を失う・与えられないという仕組みではなくなりました。ただし、心身の状態によって業務を適正に行えないと個別に判断される可能性自体がなくなったわけではない点には注意が必要です。

会社の取締役はどうか──別の法律による改正

「会社の役員になれなくなるのでは」という心配もよく聞かれますが、これは上記の令和元年法律第37号とは別の、会社法そのものの改正(令和元年法律第70号。令和元年12月11日公布、令和3年3月1日施行)によって対応されています。

改正前の会社法331条1項2号は、取締役となることができない者として、次の者を挙げていました。

成年被後見人若しくは被保佐人又は外国の法令上これらと同様に取り扱われている者

改正後、この号は削除されています(e-Gov法令検索で確認したところ、現行の同項2号は「削除」と表示され、本文は存在しません)。この削除と、次に述べる331条の2の新設は、いずれも令和3年3月1日から施行されています(e-Gov法令検索の改正沿革で、施行日の前後の条文を突き合わせて確認)。

代わりに新設された会社法331条の2は、次のとおり定めています(e-Gov法令検索で条文を確認)。

成年被後見人が取締役に就任するには、その成年後見人が、成年被後見人の同意(後見監督人がある場合にあっては、成年被後見人及び後見監督人の同意)を得た上で、成年被後見人に代わって就任の承諾をしなければならない。(同条1項)

被保佐人が取締役に就任するには、その保佐人の同意を得なければならない。(同条2項)

さらに同条4項は、「成年被後見人又は被保佐人がした取締役の資格に基づく行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができない」と定め、いったん就任した後の行為の安定性も確保しています。つまり、成年被後見人・被保佐人であっても、法律が定める手続きを踏めば取締役に就任できる仕組みになっています。成年後見人が『できないこと』とはで触れたとおり、後見人には本人にできない行為を代わって行う場面と、こうした手続きで本人を支える場面の両方があります。

「一切問題がなくなった」わけではない──帰結は法律ごとに違う

ここで注意したいのは、欠格条項の見直しは「後見を受けても一切問題がなくなった」という意味ではないという点です。見直しの結果どうなったかは、法律によって次のように分かれます。

  • 一律の欠格条項が削除され、代わりに個別審査の規定が新たに置かれた法律(例:宅地建物取引業法5条1項10号)
  • 削除だけが行われ、代わりの規定が置かれなかった法律(例:国家公務員法38条・弁護士法7条)
  • 改正前から個別審査の規定があり、一律の欠格条項の部分だけが削除された法律(例:医師法。3条から後見・保佐が外れ、4条1号が残った。警備業法も同様で、3条1号から後見・保佐が外れ、改正前からあった同条7号「心身の障害により警備業務を適正に行うことができない者として国家公安委員会規則で定めるもの」が残っています)

このうち1つ目と3つ目では、業務を適正に行えるかどうかを個別に判断する仕組みが今も残っています。2つ目では、後見・保佐に関する限り、その事由そのものが条文から消えています。法律をまたいで共通しているのは、後見・保佐という「型」だけで一律に排除する仕組みではなくなったという点であり、その先の扱いは法律ごとに異なります。審査の主体・基準・手続きも法律ごとに違うため、特定の資格や職業への影響が気になる場合は、その資格を所管する法律・監督官庁の最新の取扱いを確認する必要があります。

成年後見制度の見直しの動きについて(2026年9月時点で未施行)

なお、成年後見制度そのものを見直す法律が公布されています。

ただし、2026年9月時点でまだ施行されておらず、現在の制度は後見・保佐・補助の3類型のままです。

2026年6月24日に公布された「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)は、後見及び保佐の制度を廃止して補助の制度に一元化することや、遺言の制度を見直すことを内容とするもので、法定後見の3類型『後見・保佐・補助』はどう違う?で扱った類型そのものの見直しです。このうち成年後見に関する規定の施行日は、公布の日から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日とされています(遺言に関する規定は1年以内・3年以内と、別の期間が定められています)。2026年9月時点で、この施行期日を定める政令は確認できず、具体的な施行日は未確定です。この改正は類型の構成に関するものであり、本記事で扱った欠格条項の見直し(令和元年)とは別の改正です。将来、後見・保佐・補助の区分が変われば、上記の医師法・会社法の条文の表現にも影響が及ぶ可能性がありますが、現時点でその見通しを述べることはできません。

まとめ

かつて多くの法律にあった「成年被後見人・被保佐人は一律に資格・職業から排除する」という欠格条項は、令和元年(2019年)の法律により多数の法律から削除されました。代わりに「業務を適正に行えるかどうか」を個別に見る規定が置かれた法律もあれば、削除だけが行われた法律もありますが、いずれにしても、後見・保佐という身分だけを理由に一律に排除する仕組みではなくなっています。会社の取締役についても、別の会社法改正により、後見人・保佐人の同意を得て就任する手続きが用意されています。ただし、資格ごとに審査の基準・手続きは異なり、個別の資格への影響を正確に知りたい場合は、その資格を所管する官庁や専門家への確認が必要です。成年後見制度の利用を具体的に検討される場合は、お住まいの地域の家庭裁判所や、お近くの司法書士、成年後見に取り組む司法書士会、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート等にご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年9月・いずれも一次情報です)。

  • 医師法 第3条(絶対的欠格事由)・第4条(相対的欠格事由)(e-Gov法令検索・条文API): https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000201
  • 「成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律」(令和元年法律第37号)附則第1条(施行期日)(e-Gov法令検索。医師法に登載された同法附則の抄で原文を確認): https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000201
  • 宅地建物取引業法 第5条第1項(免許の基準。第10号「心身の故障により宅地建物取引業を適正に営むことができない者として国土交通省令で定めるもの」が令和元年法律第37号で新設されたことを、e-Gov改正沿革の2019年6月14日版と同年9月14日版を突き合わせて確認): https://laws.e-gov.go.jp/law/327AC1000000176
  • 弁護士法 第7条(弁護士の欠格事由。改正前第4号「成年被後見人又は被保佐人」の削除をe-Gov改正沿革の前後版で確認): https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC1000000205
  • 国家公務員法 第38条(欠格条項。改正前第1号「成年被後見人又は被保佐人」の削除をe-Gov改正沿革の前後版で確認): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000120
  • 警備業法 第3条(警備業の要件)・第14条(警備員の制限。改正前第3条第1号の「成年被後見人若しくは被保佐人」の削除をe-Gov改正沿革の前後版で確認。第3条第7号「心身の障害により警備業務を適正に行うことができない者として国家公安委員会規則で定めるもの」は改正前の2019年6月14日版にも同文で存在することを同じ方法で確認): https://laws.e-gov.go.jp/law/347AC0000000117
  • 会社法 第331条(取締役の資格等)・第331条の2(e-Gov法令検索・条文API): https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
  • 会社法の改正沿革(e-Gov法令検索。令和3年3月1日施行の前後で第331条第1項第2号・第331条の2の有無を突き合わせて確認): https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
  • 参議院「議案情報 第198回国会(閣法第56号)成年被後見人等の権利の制限に係る措置の適正化等を図るための関係法律の整備に関する法律案」(法律番号・公布日の記載を確認): https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/198/meisai/m198080196056.htm
  • 法務省「『民法等の一部を改正する法律』(成年後見及び遺言の制度の見直し)について」(法律番号・公布日・施行期日の定め方を確認。確認日:2026年9月): https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00410.html
  • 公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート 公式サイト(団体の正式名称の表記を確認。確認日:2026年9月): https://legal-support.or.jp/

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