問題:

不動産の取得時効と登記に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし誤っているものはいくつあるか。

ア. 取得時効の時効期間は、時効の基礎たる事実の開始された時を起算点として計算すべきものであり、時効を援用する者において起算点を選択し、時効完成の時期を早めたり遅らせたりすることはできない。

イ. 不動産を時効取得した者は、取得時効の進行中に原権利者から当該不動産の譲渡を受けその旨の所有権移転登記を経由した者に対しては、登記がなくても、時効による所有権の取得を主張することができる。

ウ. 不動産の取得時効が完成した後に当該不動産について所有権移転登記を経由した第三者に対しては、占有者は、登記がなければ時効による権利の取得を対抗することができず、当該第三者の登記後に占有者がなお引き続き時効取得に要する期間占有を継続した場合であっても、登記を経由しない限り、当該第三者に対抗することはできない。

エ. 甲が時効取得した不動産について、その取得時効の完成後に乙が当該不動産の譲渡を受けて所有権移転登記を了した場合において、乙が当該不動産の譲渡を受けた時に甲が多年にわたり当該不動産を占有している事実を認識していたときであっても、そのことのみによって乙が背信的悪意者に当たるものではなく、甲の登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情が存在することを要する。

オ. 民法第186条第1項は、占有者は所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する旨を定めているから、10年の取得時効を主張する者は、占有の開始の時に過失がなかったことについても、同項の推定を受ける。

答え:

誤っているものは、ウ・オの2つである。

解説:

時効取得は原始取得であるが、判例は、時効による不動産の所有権の取得についても民法177条の適用を認め、占有者と第三者との関係を、その第三者が権利を取得した時期が取得時効の完成の前であるか後であるかによって振り分けている。完成前に現れた者は、時効完成時における所有者の地位を承継する者として時効取得者にとっての当事者にあたり、登記なくして対抗できるのに対し、完成後に現れた者とは対抗関係に立ち、登記の先後で優劣が決まる、という構造である。この振り分けが成り立つためには、時効の起算点が客観的に固定されていなければならない。本問は、この起算点の固定(ア)、完成前の第三者(イ)、完成後の第三者とその後の再度の時効の進行(ウ)、背信的悪意者による修正(エ)、そして時効取得の要件そのものの立証構造(オ)という順序で、取得時効と登記の全体像を問うものである。

アは正しい。最判昭和35年7月27日(民集14巻10号1871頁)は、「時効期間は、時効の基礎たる事実の開始された時を起算点として計算すべきもので、時効援用者において起算点を選択し、時効完成の時期を早めたり遅らせたりすることはできない」と判示している。仮に援用者が起算点を任意に選択できるとすれば、現実にはすでに第三者が登記を備えた後であっても、起算点を後ろにずらすことによって、その第三者を常に「時効完成前の第三者」に転化させることができてしまい、完成の前後で処理を分ける先の振り分けそのものが機能しなくなる。民法144条が時効の効力はその起算日にさかのぼると定めていることの前提として、起算日は当事者の選択に委ねられるものではないという理解である。

イは正しい。最判昭和41年11月22日(民集20巻9号1901頁)は、「不動産の時効取得者は、取得時効の進行中に原権利者から当該不動産の譲渡を受けその旨の移転登記を経由した者に対しては、登記がなくても、時効による所有権の取得を主張することができる」と判示している。時効の進行中に原権利者から譲渡を受けた者は、時効が完成した時点における所有者、すなわち時効取得によって所有権を失う者そのものであるから、時効取得者との関係では177条にいう第三者ではなく、物権変動の当事者の側に立つ。時効取得者が登記を備えなければならない相手方ではない。

ウは誤りである。最判昭和36年7月20日(民集15巻7号1903頁)は、「不動産の取得時効が完成しても、その登記がなければ、その後に所有権取得登記を経由した第三者に対しては時効による権利の取得を対抗しえない」としつつ、これに続けて「第三者の右登記後に占有者がなお引続き時効取得に要する期間占有を継続した場合には、その第三者に対し、登記を経由しなくとも時効取得をもつて対抗しうる」と判示している。本肢は前段までは判例と同旨であるが、後段において、第三者の登記後にさらに時効取得に要する期間占有を継続した場合にもなお登記を要するとする点が、判例と結論を異にする。第三者が登記を経由した後にさらに時効期間が経過した場合、その新たな時効との関係では、当該第三者こそが時効完成時の所有者であって、イで述べた当事者の側に立つことになるから、登記を要しないという整理である。なお、この処理とアの起算点固定の原則との関係は、次のように整理される。アが禁じているのは、援用者が現実の占有の経過から離れて起算点を選び直すことであるのに対し、ウが認めているのは、現実に占有が継続した結果として新たな時効期間が満了したという事実そのものを援用することであって、両者が扱っている対象は異なる。

エは正しい。最判平成18年1月17日(民集60巻1号27頁)は、時効取得された不動産についてその取得時効完成後に譲渡を受けて所有権移転登記を了した者が背信的悪意者に当たる場合として、「乙が、当該不動産の譲渡を受けた時に、甲が多年にわたり当該不動産を占有している事実を認識しており、甲の登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情が存在するとき」と判示している。占有の事実を認識していたという意味での悪意だけでは足りず、これに加えて登記の欠缺を主張することが信義に反すると認められる事情の存在が必要である、という二段構えの判断枠組みが示されている点が急所である。時効完成後の第三者を対抗関係で処理する以上、単純悪意者は177条の第三者から排除されないのが原則であり、背信的悪意者の法理はその原則に対する例外として働くものであるから、その要件は原則を掘り崩さない限度で厳格に立てられている。

オは誤りである。186条1項が推定の対象として掲げているのは、所有の意思、善意、平穏及び公然の4つであり、過失がなかったこと(無過失)は掲げられていない。他方、162条2項は、10年の取得時効の要件として「その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったとき」と定め、善意と無過失の双方を要求している。したがって、10年の取得時効を主張する者は、善意については186条1項の推定を受けるものの、無過失については同項の推定が及ばず、自らこれを立証しなければならないことになる。条文が掲げる推定の対象を1つずつ確認すれば足りる問題であるが、「善意無過失」という一語で記憶していると、無過失まで推定されるものと誤って処理しやすい。なお、162条2項の善意無過失は「占有の開始の時に」これを備えれば足りるから、その後に他人の物であることを知ったとしても、10年の取得時効の成立は妨げられない。


問題:

共有に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものはいくつあるか。

ア. 各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができるが、共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う。

イ. 共有物に変更を加える行為であっても、その形状又は効用の著しい変更を伴わないものについては、他の共有者全員の同意を要せず、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決することができる。

ウ. 共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決するが、共有者間の決定に基づかないで共有物を使用する共有者があるときは、その共有者の同意を得なければ、共有物の管理に関する事項を決することができない。

エ. 共有者の一部の者から共有物を占有使用することを承認された第三者に対しては、その余の共有者は、当然には共有物の明渡しを請求することができないが、当該第三者の占有使用を承認した原因が共有物の処分に属する事項である場合には、その余の共有者は、当然に共有物の明渡しを請求することができる。

オ. 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者の所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に当該他の共有者の持分を取得させる旨の裁判をすることができるが、当該他の共有者の持分が相続財産に属し、共同相続人間で遺産の分割をすべき場合において、相続開始の時から10年を経過していないときは、裁判所は、この裁判をすることができない。

答え:

正しいものは、ア・イ・オの3つである。

解説:

共有に関する規定は、共有物の使用(249条)、持分の割合の推定(250条)、変更(251条)、管理(252条)、管理者(252条の2)、負担(253条)という順序で置かれ、各共有者が単独でできる行為、持分の価格の過半数で決することができる行為、共有者全員の同意を要する行為が段階的に書き分けられている。改正によって、変更のうち形状又は効用の著しい変更を伴わないものが251条1項の「変更」から除かれ、管理の側に移された結果、この段階の境界線が条文の括弧書の中に置かれることとなった。本問は、使用の対価の償還(ア)、変更と管理の境界(イ)、管理の決定と使用する共有者との関係(ウ)、共有者から占有を承認された第三者に対する明渡請求(エ)、所在等不明共有者の持分の取得(オ)という配置で、この段階構造を問うものである。

アは正しい。249条1項は「各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる」と定め、同条2項は「共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う」と定めている。持分に応じた使用の権原が共有物の全部に及ぶ以上、共有者の一人が共有物の全部を現実に使用していること自体は権原に基づく使用であって違法ではないが、そのことと、持分を超えて現実に使用した分の対価を他の共有者に清算すべきこととは別の問題である、という切り分けが条文上明示されている。なお、同条3項は、共有者が善良な管理者の注意をもって共有物の使用をしなければならない旨を定めている。

イも正しい。251条1項は、「各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない」と定めており、形状又は効用の著しい変更を伴わない変更、すなわち軽微な変更は、同項にいう「変更」から除外されている。他方、252条1項は、共有物の管理に関する事項から除かれるものを「共有物に前条第一項に規定する変更を加えるもの」と規定している。除外されるのは251条1項にいう「変更」であるから、同項の括弧書によってそこから外された軽微な変更は、252条1項の除外にも当たらず、管理に関する事項として持分の価格の過半数で決することができる。2つの括弧書が噛み合うことによって、全員の同意を要する変更と、過半数で決し得る管理との境界が画されている構造である。

ウは誤りである。252条1項は、前段で共有物の管理に関する事項は各共有者の持分の価格に従いその過半数で決する旨を定めたうえ、後段で「共有物を使用する共有者があるときも、同様とする」と定めている。すなわち、現に共有物を使用する共有者がいる場合であっても、その者の同意を要することなく、持分の価格の過半数によって管理に関する事項を決することができる。本肢が同意を要するとする点は、この後段と正面から異なる。もっとも、同条3項は、「前二項の規定による決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない」と定めており、承諾を要する場合がまったくないわけではない。ただし、3項が承諾を要するとしているのは、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者について、かつ、その者に特別の影響を及ぼすべきときに限られる。本肢は、共有者間の決定に基づかないで使用する共有者について、特別の影響の有無を問うことなく同意を要するとするものであり、1項後段にも3項にも当たらない。使用の根拠が共有者間の決定にあるかどうか、及び特別の影響を及ぼすかどうかという2つの限定を、条文の文言のとおりに押さえておきたい。

エは誤りである。最判昭和63年5月20日(集民154号71頁)は、「共有者の一部の者から共有物を占有使用することを承認された第三者に対して、その余の共有者は、当然には、共有物の明渡しを請求することができない」と判示している。この判断の出発点は、共有者の一人が自己の持分に基づいて共有物を占有する場合に他の共有者が当然には明渡しを請求できないとした最判昭和41年5月19日(民集20巻5号947頁。前記昭和63年判決の理由中に引用されている)であり、昭和63年判決は、その理は共有者の一部の者から占有使用を承認された第三者とその余の共有者との関係にも妥当するとして、同じ法理を第三者との関係にまで及ぼしたものである。理由付けは、当該第三者は占有使用を承認しなかった共有者に対して共有物を排他的に占有する権原を主張することはできないが、現にする占有が承認した共有者の持分に基づくものと認められる限度では占有使用する権原を有する、という点にある。そして同判決は、「このことは、第三者の占有使用を承認した原因が共有物の管理又は処分のいずれに属する事項であるかによつて結論を異にするものではない」と明示している。本肢は、承認した原因が処分に属する事項である場合には当然に明渡しを請求することができるとするものであり、この判示と正面から異なる。承認の原因が管理か処分かという区別は、共有者相互間で当該承認が有効にされたといえるかどうかの問題であって、承認を受けた第三者が現に有する占有権原の範囲の問題とは層が異なる、と理解しておきたい。なお、昭和63年判決及びその前提となる昭和41年判決は、いずれも令和3年の改正前のものであるが、その理由付けの基礎は、各共有者が共有物の全部についてその持分に応じた使用をすることができるという点にあり、この点は改正後の249条1項にも定められている。ウで見た252条1項後段は、現に共有物を使用する共有者がある場合にも管理に関する事項を持分の価格の過半数で決することができるという決定の方法を定めるものであって、持分に基づく使用の権原そのものを否定する規定ではない。

オは正しい。262条の2第1項は、「不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる」と定めている。他方、同条3項は、「所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から十年を経過していないときは、裁判所は、第一項の裁判をすることができない」と定めている。相続開始から10年を経過するまでは、具体的相続分による遺産分割の利益が保護されるべき期間であり、この持分取得の裁判によってその機会を奪うことは相当でないという趣旨であると理解される。共有物の分割についても、258条の2第2項が、相続財産に属する共有物の持分について相続開始の時から10年を経過したときは258条による分割をすることができる旨を定めており、相続開始から10年という区切りが共通して用いられている。


問題:

相続による権利の承継と対抗要件に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし誤っているものはいくつあるか。

ア. 甲及び乙が共同相続した不動産について、乙が勝手に単独で所有権取得の登記をし、さらに第三取得者である丙が乙から所有権移転の登記を受けた場合、甲は、丙に対し、自己の持分を登記なくして対抗することができる。

イ. アの場合において、甲が乙及び丙に対して請求することができるのは、甲の持分についてのみの一部抹消(更正)登記手続であって、乙及び丙の各登記の全部の抹消を求めることは許されない。

ウ. 遺産の分割によって法定相続分を超えて不動産に関する権利を承継した共同相続人は、遺産の分割が相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるから、その超える部分についても、登記を備えなくても第三者に対抗することができる。

エ. 特定の財産を特定の相続人に承継させる旨の遺言によって不動産に関する権利を承継した相続人は、遺産の分割によって承継した場合と異なり、法定相続分を超える部分についても、登記を備えなくても第三者に対抗することができる。

オ. 相続人が相続の放棄をした場合には、その放棄の効力は登記等の有無を問わず何人に対しても生ずるから、相続の放棄をした相続人の債権者が、相続の放棄後に、相続財産である未登記の不動産について当該相続人も共同相続したものとして代位による所有権保存登記をしたうえ、その持分に対する仮差押えの登記を経由しても、その仮差押えの登記は無効である。

答え:

誤っているものは、ウ・エの2つである。

解説:

相続人が数人あるときは、相続財産はその共有に属し(898条1項)、共有に関する規定を適用するときは900条から902条までの規定により算定した相続分をもって各相続人の共有持分とされる(同条2項)。この法定相続分に対応する部分は、相続の開始によって当然に各共同相続人に帰属するものであるから、その範囲での権利の取得を主張するのに登記は必要とされない。これに対し、899条の2第1項は、「相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない」と定めている。すなわち、対抗要件を要するかどうかの分水嶺は、承継した権利が法定相続分(900条・901条により算定した相続分)を超えるかどうかの一点にあり、承継の原因が遺産の分割であるか遺言であるかによって区別されない。この一本の基準にすべての場面を当てはめられるかどうかが、本問の急所である。

アは正しい。最判昭和38年2月22日(民集17巻1号235頁)は、「甲乙両名が共同相続した不動産につき乙が勝手に単独所有権取得の登記をし、さらに第三取得者丙が乙から移転登記をうけた場合、甲は丙に対し自己の持分を登記なくして対抗できる」と判示している。甲が主張しているのは自己の法定相続分に対応する持分そのものであって、899条の2第1項にいう「相続分を超える部分」ではない。乙がした単独所有権取得の登記は、甲の持分に関する限り実体を伴わない無権利の登記であり、その登記を信頼して譲り受けた丙も、甲の持分については無権利者から権利を取得したにすぎない。登記に公信力が認められていない以上、丙は甲の持分を取得できず、甲と丙は177条にいう対抗関係に立たない。

イも正しい。同判決は、続けて「右の場合、甲が乙丙に対し請求できるのは、甲の持分についてのみの一部抹消(更正)登記手続であつて、各登記の全部抹消を求めることは許されない」と判示している。乙及び丙の各登記は、乙の持分に対応する限度では実体関係に符合しているから、これを全部抹消すれば、本来有効な部分まで登記から消えてしまうことになる。登記を実体関係に合致させるために必要かつ十分な範囲は、甲の持分に相当する部分を除く内容へと登記を改めること、すなわち更正登記の手続であり、請求もその範囲に限られる。自己の持分を登記なくして対抗できること(ア)と、そこから導かれる請求の内容がどこまでか(イ)とは別の問題であり、対抗できることからただちに全部抹消請求が導かれるわけではない。

ウは誤りである。909条本文は、遺産の分割は相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずると定めているが、899条の2第1項は、「遺産の分割によるものかどうかにかかわらず」法定相続分を超える部分については対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないと定めている。遺産の分割によって法定相続分を超える権利を取得した共同相続人は、まさにこの超える部分について対抗要件を要する典型例であり、909条本文の遡及効があることを理由に対抗要件が不要になるものではない。909条の遡及効は、分割によって取得した権利が相続開始の時から当該相続人に帰属していたものとして扱うという観念的な構成を定めたものであって、同条ただし書が「第三者の権利を害することはできない」として遺産分割前に現れた第三者を保護しているように、遡及効を第三者との関係でそのまま貫徹する趣旨のものではない。

エも誤りである。899条の2第1項の「遺産の分割によるものかどうかにかかわらず」という文言は、対抗要件を要するかどうかを承継の原因によって区別しないことを明示するものである。したがって、特定の財産を特定の相続人に承継させる旨の遺言によって権利を承継した場合であっても、法定相続分を超える部分については、登記を備えなければ第三者に対抗することができず、この点において遺産の分割による場合と異なる扱いを受けるものではない。本肢は、承継の原因が遺言であることを理由に対抗要件を不要とする点で、同項の文言と正面から異なる。なお、899条の2は、平成30年法律第72号による相続法の改正において新設された規定であり、同条の施行前の取扱いをそのまま当てはめることはできない点に注意を要する。

オは正しい。最判昭和42年1月20日(民集21巻1号16頁)は、「相続人は、相続の放棄をした場合には相続開始時にさかのぼつて相続開始がなかつたと同じ地位に立ち、当該相続放棄の効力は、登記等の有無を問わず、何人に対してもその効力を生ずべきもの」としたうえ、相続の放棄をした相続人の債権者が、相続の放棄後に、相続財産である未登記の不動産についてその相続人も共同相続したものとして代位による所有権保存登記をし、持分に対する仮差押登記を経由しても、その仮差押登記は無効であると判示している。939条が「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」と定めている以上、放棄をした者は当初から相続財産について何らの権利も取得しておらず、その者の持分なるものは存在しないから、これを対象とする登記も実体を欠くことになる。899条の2第1項との関係についても、相続の放棄によって他の相続人が取得する部分は、939条により放棄をした者が初めから相続人でなかったものとみなされる結果として900条及び901条により算定される相続分そのものであって、同項にいう「相続分を超える部分」には当たらない。したがって、同項の新設によってこの判例の結論が変更されるものではないと考えられる。

法定相続分の範囲内か、それを超える部分かという一本の基準で振り分けられること(ア・ウ・エ)、対抗できることと請求できる登記手続の内容とは別の問題であること(イ)、そして相続の放棄があった場合に他の相続人が取得する部分は、放棄をした者を初めから相続人でなかったものとして算定される相続分そのものであって、そもそも「相続分を超える部分」が観念されないこと(オ)を、条文の文言に即して区別しておきたい。


問題:

表示に関する登記についての登記官の職権及び調査に関する次のアからオまでの記述のうち、誤っているものはいくつあるか。

ア. 表示に関する登記は、登記官が、職権ですることができる。

イ. 登記官は、表示に関する登記について不動産登記法18条の規定により申請があった場合のほか、職権で登記しようとする場合においても、必要があると認めるときは、当該不動産の表示に関する事項を調査することができる。

ウ. 登記官が、調査をする場合において必要があると認めるときに、当該不動産を検査し、又は当該不動産の所有者その他の関係者に対し質問をすることができるのは、日出から日没までの間に限られる。

エ. 登記官は、上記ウの検査又は質問をする場合には、その身分を示す証明書を携帯しなければならず、かつ、関係者の請求の有無にかかわらず、これを提示しなければならない。

オ. 不動産登記規則は、登記官は表示に関する登記をする場合には実地調査を行わなければならないと定めているから、土地家屋調査士が代理人として登記を申請する場合において当該土地家屋調査士が作成した不動産の調査に関する報告が申請情報と併せて提供されているときは、登記官は実地調査を行うことを要しない。

答え:

誤っているものは、エ・オの2つである。

解説:

表示に関する登記は、権利に関する登記と異なり、不動産の物理的現況を登記記録に正確に反映させることに主眼がある。そのため、当事者の申請を待たずに登記官が自ら登記をする仕組み(職権登記)と、申請された内容が現況と合致するかを登記官が自ら確かめる仕組み(調査・実地調査)が、制度の両輪として置かれている。本問はその2つの仕組みの条文上の枠組みと限界を問うものである。

アは正しい。不動産登記法28条は「表示に関する登記は、登記官が、職権ですることができる」と定める。権利に関する登記が原則として当事者の申請(又は嘱託)によることとされているのに対し、表示に関する登記については、申請義務が課される場面(同法36条、37条、47条等)があることと表裏の関係で、申請がされない場合にも登記記録を現況に合致させるため、登記官の職権発動が一般的に認められている。

イは正しい。同法29条1項は、登記官は「表示に関する登記について第十八条の規定により申請があった場合及び前条の規定により職権で登記しようとする場合において、必要があると認めるときは、当該不動産の表示に関する事項を調査することができる」と定める。すなわち調査権限が発動する場面として、申請があった場合(18条)と職権登記をしようとする場合(28条)の双方が条文上明示されている。職権登記の場面でこそ調査が必要になることを考えれば、この構造は当然である。

ウは正しい。同法29条2項は、登記官は前項の調査をする場合において必要があると認めるときは「日出から日没までの間に限り」、当該不動産を検査し、又は当該不動産の所有者その他の関係者に対し、文書若しくは電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの提示を求め、若しくは質問をすることができる、と定めている。時間的な制約が条文上明記されている点が本項の特徴である。

エは誤りである。同法29条2項後段は「この場合において、登記官は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者の請求があったときは、これを提示しなければならない」と定める。証明書の携帯は常に義務づけられるが、提示が義務づけられるのは関係者の請求があったときである。携帯義務と提示義務とを条文上同列に扱い、「請求の有無にかかわらず提示しなければならない」とする点が、条文の文言を超えた記述となる。

オは誤りである。不動産登記規則93条本文は「登記官は、表示に関する登記をする場合には、法第二十九条の規定により実地調査を行わなければならない」と定めるが、同条ただし書は、申請に係る不動産の調査に関する報告(土地家屋調査士又は土地家屋調査士法人が代理人として登記を申請する場合において、当該土地家屋調査士〔法人の場合はその代表者〕が作成したものに限る)その他の申請情報と併せて提供された情報、又は公知の事実若しくは登記官が職務上知り得た事実により「登記官が実地調査をする必要がないと認めたとき」は、この限りでないとしている。

ここで押さえるべきは、ただし書の要件が「調査報告が提供されていること」ではなく、それらの情報等により「登記官が実地調査をする必要がないと認めたとき」である点である。調査報告の提供は、登記官がその判断をするための資料の一つとして位置づけられているにとどまり、提供があれば当然に実地調査が不要になるという構造にはなっていない。調査報告の作成主体が条文上限定されている(代理人である土地家屋調査士等が作成したものに限る)ことも、この資料の信頼性を担保するための要件であって、実地調査の省略が自動的に生じる根拠ではない。


問題:

地積測量図に関する次のアからオまでの記述のうち、誤っているものはいくつあるか。

ア. 地積測量図には、国土調査法施行令2条1項1号に規定する平面直角座標系の番号又は記号を記録しなければならない。

イ. 近傍に基本三角点等が存しない場合その他の基本三角点等に基づく測量ができない特別の事情がある場合には、平面直角座標系の番号又は記号及び基本三角点等に基づく測量の成果による筆界点の座標値に代えて、近傍の恒久的な地物に基づく測量の成果による筆界点の座標値を記録しなければならない。

ウ. 地積測量図は、250分の1の縮尺により作成するものとされており、土地の状況その他の事情により当該縮尺によることが適当でないときであっても、これと異なる縮尺により作成することは許されない。

エ. 地積測量図は一筆の土地ごとに作成しなければならないが、分筆の登記を申請する場合において提供する分筆後の土地の地積測量図は、分筆後の土地ごとではなく、分筆前の土地ごとに作成するものとされている。

オ. 不動産登記規則77条5項は地図に関する同規則10条の規定の一部を地積測量図に準用しているが、準用されているのは地図の縮尺に関する規定であり、これにより地積測量図の縮尺は市街地地域・村落農耕地域・山林原野地域の区分に応じて定まることになる。

答え:

誤っているものは、ウ・オの2つである。

解説:

地積測量図の記録事項は不動産登記規則77条1項が1号から10号までに列挙しており、1号に地番区域の名称、2号に方位、3号に縮尺、4号に地番(隣接地の地番を含む)、5号に地積及びその求積方法、6号に筆界点間の距離、7号に国土調査法施行令2条1項1号に規定する平面直角座標系の番号又は記号、8号に基本三角点等に基づく測量の成果による筆界点の座標値、9号に境界標があるときは当該境界標の表示、10号に測量の年月日を掲げている。地積測量図が単なる図形の表示ではなく、座標値によって筆界点の位置を再現可能な形で公示する図面とされている点が、この列挙の基本思想である。

アは正しい。77条1項7号がそのとおり定めている。平面直角座標系の番号又は記号を記録させるのは、8号の座標値がどの座標系上の値であるかが特定されなければ、座標値自体が現地復元の手掛かりとして機能しないからである。

イは正しい。77条2項は「近傍に基本三角点等が存しない場合その他の基本三角点等に基づく測量ができない特別の事情がある場合には、前項第七号及び第八号に掲げる事項に代えて、近傍の恒久的な地物に基づく測量の成果による筆界点の座標値を記録しなければならない」と定める。原則は基本三角点等に基づく世界測地系の座標値による公示であり、それができない特別の事情がある場合に限って、近傍の恒久的な地物を基礎とする座標値による代替が認められる、という原則・例外の関係になっている。

ウは誤りである。77条4項本文は「地積測量図は、二百五十分の一の縮尺により作成するものとする」と定めるが、同項ただし書は「土地の状況その他の事情により当該縮尺によることが適当でないときは、この限りでない」としている。250分の1は原則であって絶対的な要求ではない。広大な土地を250分の1で作図すれば1枚の用紙に収まらないなど、原則どおりの縮尺がかえって不適当となる場合があることを想定した例外である。

エは正しい。75条1項は「土地所在図及び地積測量図は、一筆の土地ごとに作成しなければならない」と定める一方、同条2項は「分筆の登記を申請する場合において提供する分筆後の土地の地積測量図は、分筆前の土地ごとに作成するものとする」と定めている。分筆は、分筆前の一筆の土地の中で筆界をどこに新設したかを示す必要があり、分筆後の各筆をばらばらの図面で表示したのでは、分筆前の土地の全体との関係が図面上追跡できなくなる。分筆前の土地を単位として作成させるのは、この追跡可能性を確保するためと理解できる。

オは誤りである。77条5項が準用しているのは「第十条第四項」であり、これは地図を作成するための一筆地測量及び地積測定における誤差の限度(国土調査法施行令別表第四に掲げる精度区分に基づき、市街地地域は甲二まで、村落・農耕地域は乙一まで、山林・原野地域は乙三まで)を定める規定である。地域区分に応じた縮尺を定めるのは規則10条2項であって、これは地積測量図に準用されていない。地積測量図の縮尺は、前述のとおり77条4項が250分の1を原則として独自に定めている。準用される4項と、準用されない2項とを取り違えると、ウとオが連動して誤りとなる構造になっている。

なお、地積測量図の作成方式や記名押印に関する事項は73条・74条が別に定めており、書面による地積測量図は0.2ミリメートル以下の細線により図形を鮮明に表示し、作成の年月日を記録して申請人が記名するとともに作成者が署名し、又は記名押印しなければならないとされている(74条1項・2項)。


問題:

土地家屋調査士の義務に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものはいくつあるか。

ア. 調査士は、正当な事由がある場合でなければ依頼を拒んではならないが、筆界特定の手続について法務局又は地方法務局に提出し、又は提供する書類又は電磁的記録の作成に関する依頼は、この義務の対象から除外されている。

イ. 調査士は、公務員として職務上取り扱った事件及び仲裁手続により仲裁人として取り扱った事件については、筆界特定手続代理関係業務に限らず、およそその業務を行ってはならない。

ウ. 調査士が筆界特定手続代理関係業務を行ってはならない事件のうち、受任している事件の相手方からの依頼による他の事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合には、これを行うことができる。

エ. 秘密保持の義務は、現に調査士である者だけでなく、調査士であった者にも及び、正当な事由がある場合でなければ、業務上取り扱った事件について知ることのできた秘密を他に漏らしてはならない。

オ. 調査士は、その所属する調査士会の会則を守らなければならないが、日本土地家屋調査士会連合会の会則については、直接の遵守義務を定めた規定は置かれていない。

答え:

正しいものは、イ・ウ・エの3つである。

解説:

土地家屋調査士法は、調査士の義務として、事務所(20条)、帳簿及び書類(21条)、依頼に応ずる義務(22条)、業務を行い得ない事件(22条の2)、虚偽の調査、測量の禁止(23条)、会則の遵守義務(24条)、秘密保持の義務(24条の2)、研修(25条)を順に定めている。本問は、このうち22条から24条の2までの、依頼との関係で問題となる義務群を扱う。

アは誤りである。22条は「調査士は、正当な事由がある場合でなければ、依頼(第三条第一項第四号及び第六号(第四号に関する部分に限る。)に規定する業務並びに民間紛争解決手続代理関係業務に関するものを除く。)を拒んではならない」と定める。除外されているのは、3条1項4号(筆界特定の手続についての代理)と、6号のうち4号に関する部分(筆界特定の手続の代理についての相談)、及び民間紛争解決手続代理関係業務(3条1項7号・8号)である。

これに対し、3条1項5号(筆界特定の手続について法務局又は地方法務局に提出し、又は提供する書類又は電磁的記録の作成)は、22条の括弧書による除外の対象に入っていない。したがって、5号の書類作成の依頼についても、正当な事由がなければ拒むことはできない。代理業務・ADR業務については、当事者間の対立構造の中に身を置く業務であることから受任の自由を広く認めたものと理解でき、他方、書類作成業務は表示に関する登記の書類作成(3号)と同様に応諾義務の対象に残されている。この切り分けを括弧書の文言から読み取れるかが本肢の急所である。

イは正しい。22条の2第1項は「調査士は、公務員として職務上取り扱つた事件及び仲裁手続により仲裁人として取り扱つた事件については、その業務を行つてはならない」と定める。同条2項以下が「筆界特定手続代理関係業務を行つてはならない」「民間紛争解決手続代理関係業務を行つてはならない」と業務の範囲を限定して規定しているのと異なり、1項は「その業務」とのみ定めている。公務員として、あるいは仲裁人として関与した事件について調査士として業務を行うことは、公務の公正及び仲裁手続の中立性に対する信頼を直接に損なうため、業務類型を限定せずに禁止されていると理解できる。

ウは正しい。22条の2第2項は、筆界特定手続代理関係業務を行ってはならない事件を1号から7号まで列挙したうえで、そのただし書において「第三号及び第七号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない」と定めている。3号は、筆界特定手続代理関係業務又は民間紛争解決手続代理関係業務に関するものとして受任している事件の相手方からの依頼による他の事件であり、7号は、調査士法人の使用人である場合に、当該法人が筆界特定手続代理関係業務又は民間紛争解決手続代理関係業務に関するものとして受任している事件(当該調査士が自ら関与しているものに限る)の相手方からの依頼による他の事件である。なお、3号及び7号の「受任している事件」からは、3条1項5号の業務(筆界特定の手続についての書類作成)に関するものとして受任している事件が除かれている。

これらが同意による解除になじむのは、保護されるべき利益が主として現に受任している事件の依頼者の利益にあり、その依頼者自身が同意によって処分し得るものと整理されているからである。これに対し、1号・2号のように、相手方の協議を受けて賛助し、又は信頼関係に基づく協議を受けた事件は、相手方の側の信頼が問題となる場面であって、受任している事件の依頼者の同意によっては解除されない。

エは正しい。24条の2は「調査士又は調査士であつた者は、正当な事由がある場合でなければ、業務上取り扱つた事件について知ることのできた秘密を他に漏らしてはならない」と定めており、義務の主体に「調査士であつた者」が明記されている。業務上知り得た秘密は、調査士でなくなったからといって保護の必要がなくなるものではないから、資格喪失後にも義務が存続する形がとられている。

オは誤りである。24条は「調査士は、その所属する調査士会及び調査士会連合会の会則を守らなければならない」と定めており、所属する調査士会の会則と調査士会連合会の会則の双方が遵守義務の対象とされている。調査士は連合会に直接入会するわけではないが、登録事務を連合会が行い、会則によって全国的に統一的な規律がされることに対応して、連合会会則についても遵守義務が及ぶものとされている。


問題:

測量法に定める測量士及び測量士補に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものはいくつあるか。

ア. 技術者として基本測量又は公共測量に従事する者は、測量法49条の規定に従い登録された測量士又は測量士補でなければならない。

イ. 測量士は測量に関する計画を作製し、又は実施するものとされ、測量士補は測量士の作製した計画に従い測量に従事するものとされている。

ウ. 測量士又は測量士補になろうとする者は、その資格を証する書類を添えて、国土交通大臣に対して登録の申請をしなければならず、測量士名簿及び測量士補名簿は、国土交通省に備えられる。

エ. 文部科学大臣の認定を受けた大学(短期大学を除く。)において測量に関する科目を修めて当該大学を卒業した者は、測量に関する実務の経験を有しないときであっても、測量士補となる資格を有する。

オ. 国土地理院の長は、測量士又は測量士補の登録を受けた者が測量法の規定に違反し罰金以上の刑に処せられた場合には、その登録を消除することができる。

答え:

正しいものは、ア・イ・エの3つである。

解説:

測量法は、第5章に測量士及び測量士補に関する規定を置き、48条で業務独占と両資格の役割分担を、49条で登録手続を、50条・51条で資格要件を、52条で登録の消除を定めている。土地家屋調査士試験との関係では、土地家屋調査士法6条5項1号が、測量士若しくは測量士補又は一級建築士若しくは二級建築士となる資格を有する者に対し、その申請により、同条3項1号に掲げる事項(土地及び家屋の調査及び測量)についての筆記試験を免除すると定めていることから、測量士補となる資格をどのように取得するかという測量法の条文が、直接に関係してくる領域である。

アは正しい。48条1項は「技術者として基本測量又は公共測量に従事する者は、第四十九条の規定に従い登録された測量士又は測量士補でなければならない」と定める。ここで対象とされているのは基本測量及び公共測量であり、かつ「技術者として」従事する者である点に注意を要する。測量法上のこの規制は、成果の精度が広く社会的に利用される測量について、従事者の資格を確保しようとするものである。

イは正しい。48条2項は「測量士は、測量に関する計画を作製し、又は実施する」と定め、同条3項は「測量士補は、測量士の作製した計画に従い測量に従事する」と定める。計画の作製権限が測量士に専属し、測量士補は測量士の作製した計画の枠内で測量に従事するという役割分担が、条文上明確にされている。

ウは誤りである。49条1項は、測量士又は測量士補となる資格を有する者が測量士又は測量士補になろうとする場合には「国土地理院の長に対してその資格を証する書類を添えて、測量士名簿又は測量士補名簿に登録の申請をしなければならない」と定め、同条2項は「測量士名簿及び測量士補名簿は、国土地理院に備える」と定めている。申請の相手方も名簿の備付け場所も国土地理院(その長)であって、国土交通大臣・国土交通省ではない。測量業者の登録が国土交通大臣に対してされる(55条の2第1項、55条の5第1項)のと対比して覚えると、取り違えを避けやすい。

エは正しい。51条1号は、測量士補となる資格を有する者として「大学において、測量に関する科目を修め、当該大学を卒業した者」を掲げるのみで、実務の経験を要件としていない。ここにいう「大学」は、50条1号が、文部科学大臣の認定を受けた大学(短期大学を除く。)を以下この号及び次条第一号において単に「大学」という、と定義したものを指す。したがって51条1号の「大学」も文部科学大臣の認定を受けた短期大学以外の大学を意味し、本肢がこの限定を付しているのは、この定義規定を受けたものである。これに対し、測量士について50条1号は「大学……において、測量に関する科目を修め、当該大学を卒業した者で、測量に関し一年以上の実務の経験を有するもの」と定めており、同条2号の短期大学等の卒業者については3年以上の実務の経験が要求されている。測量士は計画を作製する立場にあることに対応して、学歴に加えて実務経験が要求される構造になっている。

オは誤りである。52条は「国土地理院の長は、測量士又は測量士補の登録を受けた者が左の各号の一に該当する場合においては、その登録を消除しなければならない」と定め、各号に、死亡したとき(1号)、この法律の規定に違反し罰金以上の刑に処せられたとき(2号)、測量士又は測量士補となる資格を有しないことが判明したとき(3号)を掲げている。消除は裁量的な「できる」ではなく、義務としての「しなければならない」である。各号がいずれも登録を維持する基礎そのものが失われた場合であることからすれば、裁量の余地を認めない構造は整合的である。


問題:

国土調査法に定める地籍調査の成果と登記との関係に関する次のアからオまでの記述のうち、誤っているものはいくつあるか。

ア. 地籍調査とは、毎筆の土地について、その所有者、地番及び地目の調査並びに境界及び地積に関する測量を行い、その結果を地図及び簿冊に作成することをいう。

イ. 国土調査以外の測量及び調査を行った者が、当該測量及び調査の結果作成された地図及び簿冊について国土調査の成果としての認証を申請した場合において、国土交通大臣又は事業所管大臣がこれらの地図及び簿冊が認証を受けた国土調査の成果と同等以上の精度又は正確さを有すると認めたときは、これらを認証された国土調査の成果と同一の効果があるものとして指定することができる。

ウ. 国土交通大臣、事業所管大臣又は都道府県知事が国土調査の成果を認証した場合又は上記イの指定をした場合には、地籍調査にあっては、当該調査に係る土地の登記の事務をつかさどる登記所に、当該国土調査の成果の写しが送付される。

エ. 国土調査法20条1項の規定により登記所に送付された地籍図の写しは、その送付を受けた時に、不動産登記法14条1項の地図として備え付けるものとされている。

オ. 地図を作成するための測量の基礎とすべき基本三角点等には、測量法2章の規定による基本測量の成果である三角点及び電子基準点のほか、国土調査法19条2項の規定により認証され、又は同条5項の規定により指定された基準点が含まれる。

答え:

誤っているものは、エの1つである。

解説:

地籍調査の成果は、認証・送付・登記・地図としての備付けという一連の流れを経て、不動産登記の公示に取り込まれる。本問は、その流れのどの段階で何が生じるかを条文で追えるかを問うものである。

アは正しい。国土調査法2条5項は、地籍調査を「毎筆の土地について、その所有者、地番及び地目の調査並びに境界及び地積に関する測量を行い、その結果を地図及び簿冊に作成すること」と定義している。調査の対象が所有者・地番・地目という登記記録の表題部に対応する事項であり、測量の対象が境界及び地積であることが、後に登記所への送付と表示に関する登記に接続する前提となっている。

イは正しい。同法19条5項は、国土調査以外の測量及び調査を行った者が、その結果作成された地図及び簿冊について政令で定める手続により国土調査の成果としての認証を申請した場合において、国土交通大臣又は事業所管大臣が、これらが19条2項の規定により認証を受けた国土調査の成果と同等以上の精度又は正確さを有すると認めたときは、これらを同項の規定によって認証された国土調査の成果と「同一の効果があるものとして指定することができる」と定めている。国土調査そのものではない測量及び調査によって作成された地図についても、精度が同等以上であれば同じ効果を与える仕組みであり、土地区画整理事業や土地改良事業、道路等の公共事業に伴う測量成果の活用がその例である。

ウは正しい。同法20条1項は、国土交通大臣、事業所管大臣又は都道府県知事は、19条2項の規定により国土調査の成果を認証した場合又は同条5項の規定により指定をした場合においては、地籍調査にあっては当該調査に係る土地の登記の事務をつかさどる登記所に、その他の国土調査にあっては政令で定める台帳を備える者に、それぞれ当該国土調査の成果の写しを送付しなければならないと定めている。

エは誤りである。不動産登記規則10条5項本文は「国土調査法第二十条第一項の規定により登記所に送付された地籍図の写しは、同条第二項又は第三項の規定による登記が完了した後に、地図として備え付けるものとする」と定めている。すなわち、送付を受けた時点で直ちに地図として備え付けられるのではなく、送付された成果の写しに基づく表示に関する登記等(20条2項)又は分筆若しくは合筆の登記(同条3項。地籍調査が同法32条の規定により行われたときに限る)が完了した後に備え付けられる。規則10条5項本文が「第二項又は第三項の規定による登記」と定めているとおり、常に両方の登記が必要となるわけではない。

その理由は、地籍図の内容と登記記録の内容とが一致していない段階で地籍図を14条1項の地図として備え付けると、地図と登記記録とが食い違ったまま公示されることになるからである。登記を先に完了させ、登記記録と地籍図の内容を合致させたうえで備え付ける、という順序が採られている。なお、同項ただし書は「地図として備え付けることを不適当とする特別の事情がある場合は、この限りでない」としており、登記完了後であっても常に備付けが義務づけられるわけではない。

オは正しい。不動産登記規則10条3項は、地図を作成するための測量は、測量法2章の規定による基本測量の成果である三角点及び電子基準点、国土調査法19条2項の規定により認証され、若しくは同条5項の規定により指定された基準点、又はこれらと同等以上の精度を有すると認められる基準点(これらを総称して「基本三角点等」という)を基礎として行うものとすると定めている。地籍調査によって設置され認証を受けた基準点が基本三角点等に含まれることは、地積測量図の記録事項である「基本三角点等に基づく測量の成果による筆界点の座標値」(同規則77条1項8号)の理解にも直結する。