問題:

不法行為に関する次のアからオまでの記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものはいくつあるか。

ア. 精神障害者と同居する配偶者は、そのことをもって、民法714条1項にいう「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」に当たる。

イ. 被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加え、その損害を賠償した場合には、被用者は、損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について、使用者に対して求償することができる。

ウ. 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じた場合において、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者は、自らも損害の発生を防止するのに必要な注意をしたことを証明すれば、その損害を賠償する責任を免れる。

エ. 人の身体を害する不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から5年間行使しないとき、又は不法行為の時から20年間行使しないときは、時効によって消滅する。

オ. 不法行為による損害賠償において被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、加害者の損害賠償の責任を否定することができる。

答え:

正しいものは、イ・エの2つである。

解説:

ア 誤り。最判平成28年3月1日(民集70巻3号681頁)は、「精神障害者と同居する配偶者であるからといって,その者が民法714条1項にいう「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」に当たるとすることはできない。」としている。なお、同判決は、法定の監督義務者に該当しない者であっても、その監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には、法定の監督義務者に準ずべき者として、民法714条1項が類推適用されるとしている。

イ 正しい。最判令和2年2月28日(民集74巻2号106頁)は、「被用者が使用者の事業の執行について第三者に損害を加え,その損害を賠償した場合には,被用者は,使用者の事業の性格,規模,施設の状況,被用者の業務の内容,労働条件,勤務態度,加害行為の態様,加害行為の予防又は損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について,使用者に対して求償することができる。」としている。なお、民法715条3項は、「前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。」と定めている。

ウ 誤り。民法717条1項は、「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。」と定めている。必要な注意をしたことによる免責を定める同項ただし書は占有者についての規定であり、同項は所有者について同様の定めを置いていない。占有者が必要な注意をしたときは「所有者がその損害を賠償しなければならない」とされているから、所有者が自らも必要な注意をしたことを証明しても、同項によって責任を免れることにはならない。

エ 正しい。民法724条は、「不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。」と定め、1号に「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。」を、2号に「不法行為の時から二十年間行使しないとき。」を掲げている。民法724条の2は、「人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。」と定めている。読み替えの対象は同条1号であり、同条2号の20年間は変わらない。

オ 誤り。民法722条2項は、「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」と定めており、裁判所が定めるものとして掲げるのは損害賠償の額であって、責任を否定することは掲げていない。これに対し、債務不履行についての民法418条は、「債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。」と定めている。法制審議会民法(債権関係)部会資料68A・18頁も、民法418条が責任の否定まで認める一方で、民法722条2項は責任の否定まで認めないという理解を前提に説明している。

ポイント:精神障害者と同居する配偶者であることだけでは民法714条1項の法定の監督義務者に当たらず、監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情があれば法定の監督義務者に準ずべき者として同項が類推適用される(最判平成28年3月1日)。民法715条3項は使用者から被用者に対する求償権の行使を妨げないと定めるが、被用者から使用者への求償も、損害の公平な分担という見地から相当と認められる額について認められる(最判令和2年2月28日)。土地の工作物については、占有者は必要な注意をしたときに責任を免れ、その場合は所有者が賠償するが、所有者についての同様の定めはない(民法717条1項)。消滅時効は、知った時から3年間、不法行為の時から20年間であり、人の生命又は身体を害する場合は3年間が5年間となる(民法724条、724条の2)。過失相殺は、不法行為では損害賠償の額を定めることができるとされて責任の否定までは認められず(民法722条2項)、債務不履行では損害賠償の責任及びその額を定めるとされる(民法418条)。「同居の配偶者というだけでは監督義務者でない、被用者からの求償も相当額で可、工作物の所有者に免責の定めなし、生命身体は知った時から5年で20年は同じ、不法行為の過失相殺は額についてで責任の否定は不可、債務不履行は責任及び額について」と押さえる。


問題:

信託の登記に関する次のアからオまでの記述のうち、誤っているものはいくつあるか。

ア. 信託の登記の申請は、当該信託に係る権利の保存、設定、移転又は変更の登記の申請と同時にしなければならないが、信託の登記は、受託者が単独で申請することができる。

イ. 受益者は、受託者に代わって信託の登記を申請することができるが、委託者は、受託者に代わって信託の登記を申請することができない。

ウ. 信託管理人の氏名又は名称及び住所を登記したときは、受益者の氏名又は名称及び住所を登記することを要しない。

エ. 受託者の任務が受託者の辞任により終了し、新たに受託者が選任されたときは、信託財産に属する不動産についてする受託者の変更による権利の移転の登記は、新たに選任された当該受託者が単独で申請することができる。

オ. 不動産に関する権利が固有財産に属する財産から信託財産に属する財産となった場合における権利の変更の登記(信託法3条3号に掲げる方法によってされた信託による権利の変更の登記を除く。)については、受託者を登記権利者とし、受益者を登記義務者とする。

答え:

誤っているものは、イ・エ・オの3つである。

解説:

ア 正しい。不動産登記法98条1項は、「信託の登記の申請は、当該信託に係る権利の保存、設定、移転又は変更の登記の申請と同時にしなければならない。」と定め、同条2項は、「信託の登記は、受託者が単独で申請することができる。」と定めている。なお、同条3項は、「信託法第三条第三号に掲げる方法によってされた信託による権利の変更の登記は、受託者が単独で申請することができる。」と定めている。

イ 誤り。不動産登記法99条は、「受益者又は委託者は、受託者に代わって信託の登記を申請することができる。」と定めている。受託者に代わって信託の登記を申請することができるのは、受益者に限られず、委託者も含まれる。なお、不動産登記法103条2項は、不動産登記法99条の規定を、同法103条1項の信託の変更の登記の申請について準用している。

ウ 正しい。不動産登記法97条1項は、信託の登記の登記事項として、1号に「委託者、受託者及び受益者の氏名又は名称及び住所」を、3号に「信託管理人があるときは、その氏名又は名称及び住所」を掲げ、同条2項は、「前項第二号から第六号までに掲げる事項のいずれかを登記したときは、同項第一号の受益者(同項第四号に掲げる事項を登記した場合にあっては、当該受益者代理人が代理する受益者に限る。)の氏名又は名称及び住所を登記することを要しない。」と定めている。同項により登記を要しないとされるのは受益者の氏名又は名称及び住所であり、委託者及び受託者のものではない。

エ 誤り。不動産登記法100条1項は、「受託者の任務が死亡、後見開始若しくは保佐開始の審判、破産手続開始の決定、法人の合併以外の理由による解散又は裁判所若しくは主務官庁(その権限の委任を受けた国に所属する行政庁及びその権限に属する事務を処理する都道府県の執行機関を含む。第百二条第二項において同じ。)の解任命令により終了し、新たに受託者が選任されたときは、信託財産に属する不動産についてする受託者の変更による権利の移転の登記は、第六十条の規定にかかわらず、新たに選任された当該受託者が単独で申請することができる。」と定めている。受託者の辞任は信託法56条1項5号が定める任務の終了事由であるが、不動産登記法100条1項には掲げられていないから、同項による単独申請はできず、同項が「第六十条の規定にかかわらず」としている不動産登記法60条の原則による。同条は、「権利に関する登記の申請は、法令に別段の定めがある場合を除き、登記権利者及び登記義務者が共同してしなければならない。」と定めている。なお、民法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(令和8年法律第46号)の施行後は、不動産登記法100条1項の「後見開始若しくは保佐開始の審判」は「特定補助人を付する処分の審判」に改められるが、辞任が掲げられていない点は変わらない。施行日は、公布の日(2026年6月24日)から2年6か月を超えない範囲で政令で定める日とされており、執筆時点ではまだ定まっていない。

オ 誤り。不動産登記法104条の2第2項は、「信託財産に属する不動産についてする次の表の上欄に掲げる場合における権利の変更の登記(第九十八条第三項の登記を除く。)については、同表の中欄に掲げる者を登記権利者とし、同表の下欄に掲げる者を登記義務者とする。この場合において、受益者(信託管理人がある場合にあっては、信託管理人。以下この項において同じ。)については、第二十二条本文の規定は、適用しない。」と定めている。同項の表の一の項は、「不動産に関する権利が固有財産に属する財産から信託財産に属する財産となった場合」について、中欄に受益者を、下欄に受託者を掲げている。したがって、登記権利者は受益者であり、登記義務者は受託者である。なお、同表の二の項の「不動産に関する権利が信託財産に属する財産から固有財産に属する財産となった場合」については、中欄に受託者を、下欄に受益者を掲げている。

ポイント:信託の登記の申請は、当該信託に係る権利の保存、設定、移転又は変更の登記の申請と同時にしなければならず、受託者が単独で申請することができる(不動産登記法98条1項・2項)。受託者に代わって申請することができるのは受益者又は委託者である(不動産登記法99条)。信託管理人等を登記したときに登記を要しないのは受益者の氏名又は名称及び住所である(不動産登記法97条2項)。受託者の変更による権利の移転の登記を新たに選任された受託者が単独で申請することができるのは、死亡、後見開始若しくは保佐開始の審判、破産手続開始の決定、法人の合併以外の理由による解散又は裁判所若しくは主務官庁の解任命令による任務の終了の場合であり、辞任は掲げられていない(不動産登記法100条1項)。固有財産から信託財産となった場合の権利の変更の登記は受益者が登記権利者、受託者が登記義務者であり、信託財産から固有財産となった場合はその逆である(不動産登記法104条の2第2項)。「信託の登記は同時申請で受託者が単独、代位は受益者も委託者も、信託管理人を登記すれば受益者は不要、辞任は単独申請の列挙に入らない、固有から信託へは受益者が登記権利者」と押さえる。


問題:

吸収分割株式会社及び吸収分割承継株式会社がする吸収分割に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものはいくつあるか。

ア. 吸収分割会社がする吸収分割による変更の登記の申請書には、吸収分割契約書を添付しなければならない。

イ. 定款に別段の定めがない場合において、吸収分割により吸収分割承継会社に承継させる資産の帳簿価額の合計額が吸収分割株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の5分の1を超えないときであっても、当該合計額が吸収分割株式会社の純資産額の5分の1を超えるときは、吸収分割株式会社は、吸収分割契約について株主総会の決議による承認を受けなければならない。

ウ. 吸収分割会社が吸収分割承継株式会社に承継されない債務の債権者を害することを知って吸収分割をした場合であっても、吸収分割承継株式会社が吸収分割の効力が生じた時において当該債権者を害することを知らなかったときは、当該債権者は、会社法759条4項の規定により吸収分割承継株式会社に対して当該債務の履行を請求することができない。

エ. 吸収分割株式会社が債権者の異議に関する公告を、官報のほか、定款の定めに従い電子公告によりするときであっても、異議を述べることができる知れている債権者のうち不法行為によって生じた吸収分割株式会社の債務の債権者に対しては、各別の催告をしなければならない。

オ. 吸収分割会社がする吸収分割による変更の登記の申請は、当該登記所の管轄区域内に吸収分割承継会社の本店がないときは、その本店の所在地を管轄する登記所を経由してしなければならず、吸収分割承継会社がする吸収分割による変更の登記の申請と同時にしなければならない。

答え:

正しいものは、ウ・エ・オの3つである。

解説:

ア 誤り。商業登記法87条3項は、「第一項の登記の申請書には、第十八条の書面を除き、他の書面の添付を要しない。」と定めている。同条1項の登記は吸収分割会社がする吸収分割による変更の登記を含み、商業登記法18条の書面は代理人の権限を証する書面である。吸収分割契約書の添付を定める商業登記法85条1号は、吸収分割承継会社がする吸収分割による変更の登記の申請書についての規定である。

イ 誤り。会社法784条2項は、「前条の規定は、吸収分割により吸収分割承継会社に承継させる資産の帳簿価額の合計額が吸収分割株式会社の総資産額として法務省令で定める方法により算定される額の五分の一(これを下回る割合を吸収分割株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)を超えない場合には、適用しない。」と定めている。比較の対象は、純資産額ではなく総資産額である。したがって、総資産額の5分の1を超えないときは、純資産額の5分の1を超えるかどうかにかかわらず、株主総会の決議による承認を定める同法783条は適用されない。なお、吸収分割承継株式会社についての会社法796条2項2号は、「存続株式会社等の純資産額として法務省令で定める方法により算定される額」を掲げている。

ウ 正しい。会社法759条4項は、「第一項の規定にかかわらず、吸収分割会社が吸収分割承継株式会社に承継されない債務の債権者(以下この条において「残存債権者」という。)を害することを知って吸収分割をした場合には、残存債権者は、吸収分割承継株式会社に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。ただし、吸収分割承継株式会社が吸収分割の効力が生じた時において残存債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。」と定めている。なお、同条6項は、この責任について、吸収分割会社が残存債権者を害することを知って吸収分割をしたことを知った時から2年以内に請求又は請求の予告をしない残存債権者に対してはその期間を経過した時に消滅し、効力発生日から10年を経過したときも同様とすると定めている。

エ 正しい。会社法789条3項は、「前項の規定にかかわらず、消滅株式会社等が同項の規定による公告を、官報のほか、第九百三十九条第一項の規定による定款の定めに従い、同項第二号又は第三号に掲げる公告方法によりするときは、前項の規定による各別の催告(吸収分割をする場合における不法行為によって生じた吸収分割株式会社の債務の債権者に対するものを除く。)は、することを要しない。」と定めている。会社法939条1項は、3号に「電子公告」を掲げている。会社法789条2項は、知れている債権者(同条1項の規定により異議を述べることができるものに限る。)には各別に催告しなければならないと定めている。

オ 正しい。商業登記法87条1項は、「吸収分割会社又は新設分割会社がする吸収分割又は新設分割による変更の登記の申請は、当該登記所の管轄区域内に吸収分割承継会社又は新設分割設立会社の本店がないときは、その本店の所在地を管轄する登記所を経由してしなければならない。」と定め、同条2項は、「前項の登記の申請と第八十五条又は前条の登記の申請とは、同時にしなければならない。」と定めている。なお、商業登記法88条1項は、「吸収分割承継会社又は新設分割設立会社の本店の所在地を管轄する登記所においては、前条第二項の登記の申請のいずれかにつき第二十四条各号のいずれかに掲げる事由があるときは、これらの申請を共に却下しなければならない。」と定めている。

ポイント:吸収分割会社の変更の登記は、吸収分割承継会社の本店の所在地を管轄する登記所を経由し(当該登記所の管轄区域内に吸収分割承継会社の本店がないとき)、吸収分割承継会社の変更の登記と同時に申請し、いずれかに却下事由があれば共に却下される(商業登記法87条1項・2項、88条1項)。吸収分割会社の変更の登記の申請書には代理人の権限を証する書面を除き他の書面の添付を要せず、吸収分割契約書の添付は吸収分割承継会社の申請書についての定めである(商業登記法87条3項、85条1号)。吸収分割株式会社で承継させる資産の額を理由に株主総会の承認を要しないのは、その帳簿価額の合計額が総資産額の5分の1(定款で下回る割合を定めたときはその割合)を超えない場合であり(会社法784条2項)、純資産額を用いる吸収分割承継株式会社の定め(会社法796条2項)と区別する。公告を官報のほか定款の定めに従い日刊新聞紙又は電子公告によりしても、不法行為によって生じた吸収分割株式会社の債務の債権者に対する各別の催告は省略できない(会社法789条3項)。残存債権者は、吸収分割会社が害することを知って吸収分割をしたときは承継した財産の価額を限度として吸収分割承継株式会社に履行を請求することができるが、吸収分割承継株式会社が効力が生じた時に知らなかったときは請求することができず、この責任には2年及び10年の期間の定めがある(会社法759条4項・6項)。「分割会社の登記は経由・同時で添付は委任状のみ、分割会社の簡易分割は総資産の5分の1、不法行為債権者への催告は省略不可、残存債権者の請求は承継会社の知不知で分かれ2年と10年」と押さえる。


問題:

訴訟代理人及び補佐人に関する次のアからオまでの記述のうち、誤っているものはいくつあるか。

ア. 訴訟代理人は、委任を受けた事件について、特別の委任を受けなくても、強制執行及び仮差押えに関する訴訟行為をし、かつ、弁済を受領することができる。

イ. 訴訟代理人は、相手方が提起した反訴に関する訴訟行為をするには、特別の委任を受けなければならない。

ウ. 訴訟代理人が数人ある場合において、当事者がこれらの訴訟代理人は共同してのみ当事者を代理する旨を定めたときは、その定めは、効力を生ずる。

エ. 訴訟代理権の消滅は、本人又は代理人から相手方に通知しなければ、その効力を生じない。

オ. 補佐人の陳述は、当事者又は訴訟代理人が直ちに取り消し、又は更正しないときは、当事者又は訴訟代理人が自らしたものとみなされる。

答え:

誤っているものは、イ・ウの2つである。

解説:

ア 正しい。民事訴訟法55条1項は、「訴訟代理人は、委任を受けた事件について、反訴、参加、強制執行、仮差押え及び仮処分に関する訴訟行為をし、かつ、弁済を受領することができる。」と定めており、強制執行及び仮差押えに関する訴訟行為並びに弁済の受領は、同条2項の特別の委任を要する事項に掲げられていない。なお、司法書士法3条7項本文は、「第二項に規定する司法書士であつて第一項第六号イ及びロに掲げる手続において訴訟代理人になつたものは、民事訴訟法第五十五条第一項の規定にかかわらず、委任を受けた事件について、強制執行に関する訴訟行為をすることができない。」と定めている。

イ 誤り。民事訴訟法55条1項は、委任を受けた事件について反訴に関する訴訟行為をすることができると定めており、同条2項が特別の委任を要する事項として1号に掲げるのは「反訴の提起」である。特別の委任を要するのは訴訟代理人の側から反訴を提起する場合であり、相手方が提起した反訴に関する訴訟行為は同号に当たらない。なお、同項は、ほかに、訴えの取下げ、和解、請求の放棄若しくは認諾(2号)、控訴、上告(3号)、代理人の選任(5号)等を掲げている。

ウ 誤り。民事訴訟法56条1項は、「訴訟代理人が数人あるときは、各自当事者を代理する。」と定め、同条2項は、「当事者が前項の規定と異なる定めをしても、その効力を生じない。」と定めている。

エ 正しい。民事訴訟法59条は、「第三十四条第一項及び第二項並びに第三十六条第一項の規定は、訴訟代理について準用する。」と定め、民事訴訟法36条1項は、「法定代理権の消滅は、本人又は代理人から相手方に通知しなければ、その効力を生じない。」と定めている。

オ 正しい。民事訴訟法60条3項は、「補佐人の陳述は、当事者又は訴訟代理人が直ちに取り消し、又は更正しないときは、当事者又は訴訟代理人が自らしたものとみなす。」と定めている。なお、同条1項は、「当事者又は訴訟代理人は、裁判所の許可を得て、補佐人とともに出頭することができる。」と定め、訴訟代理人の陳述については、民事訴訟法57条が、「訴訟代理人の事実に関する陳述は、当事者が直ちに取り消し、又は更正したときは、その効力を生じない。」と定めている。

ポイント:訴訟代理人は、委任を受けた事件について、反訴、参加、強制執行、仮差押え及び仮処分に関する訴訟行為をし、弁済を受領することができる(民事訴訟法55条1項)。ただし、認定を受けた司法書士が簡易裁判所の訴訟手続等で訴訟代理人になった場合の強制執行については司法書士法3条7項に定めがある。特別の委任を要するのは、反訴の提起、訴えの取下げ、和解、請求の放棄若しくは認諾、控訴、上告、代理人の選任等である(民事訴訟法55条2項)。訴訟代理人が数人あるときは各自当事者を代理し、これと異なる定めは効力を生じない(民事訴訟法56条)。訴訟代理権の消滅は相手方に通知しなければ効力を生じない(民事訴訟法59条、36条1項)。補佐人の陳述は直ちに取消し又は更正がなければ当事者又は訴訟代理人が自らしたものとみなされ(民事訴訟法60条3項)、訴訟代理人の事実に関する陳述は当事者が直ちに取り消し又は更正すれば効力を生じない(民事訴訟法57条)。「執行・保全・弁済受領は委任事件の範囲、反訴は提起だけ特別の委任、個別代理は変更不可、消滅は通知で効力、補佐人の陳述は取消し等がなければ自らしたものとみなす」と押さえる。


問題:

司法書士が業務を行い得ない事件に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものはいくつあるか。なお、本問において「認定司法書士」とは司法書士法3条2項に規定する司法書士をいい、「裁判書類等作成関係業務」及び「簡裁訴訟代理等関係業務」とは同法に規定するものをいう。

ア. 認定司法書士は、簡裁訴訟代理等関係業務に関するものとして受任している事件の相手方からの依頼による他の事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合には、裁判書類等作成関係業務を行うことができる。

イ. 認定司法書士は、簡裁訴訟代理等関係業務に関するものとして相手方の協議を受けて賛助した事件であっても、依頼者が同意した場合には、裁判書類等作成関係業務を行うことができる。

ウ. 司法書士法人の社員であった司法書士は、その業務に従事していた期間内に当該司法書士法人が相手方の依頼を受けて司法書士法3条1項4号に規定する業務を行った事件については、自らこれに関与していなくても、裁判書類等作成関係業務を行ってはならない。

エ. 司法書士法人の使用人である司法書士は、当該司法書士法人が相手方から簡裁訴訟代理等関係業務に関するものとして受任している事件については、裁判書類等作成関係業務を行ってはならない。

オ. 認定司法書士は、相手方の依頼を受けて司法書士法3条1項4号に規定する業務を行った事件については、簡裁訴訟代理等関係業務を行ってはならない。

答え:

正しいものは、ア・エ・オの3つである。

解説:

ア 正しい。司法書士法22条3項は、「第三条第二項に規定する司法書士は、次に掲げる事件については、裁判書類等作成関係業務を行つてはならない。ただし、第三号及び第六号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。」と定め、同項3号に「簡裁訴訟代理等関係業務に関するものとして受任している事件の相手方からの依頼による他の事件」を掲げている。

イ 誤り。司法書士法22条3項1号は、「簡裁訴訟代理等関係業務に関するものとして、相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件」を掲げている。依頼者の同意による例外を定める同項ただし書の対象は3号及び6号に掲げる事件であり、1号に掲げる事件は含まれない。

ウ 誤り。司法書士法22条2項は、「司法書士は、次に掲げる事件については、第三条第一項第四号及び第五号(同項第四号に関する部分に限る。)に規定する業務(以下「裁判書類等作成関係業務」という。)を行つてはならない。」と定め、同項2号に「司法書士法人(第三条第一項第一号から第五号までに規定する業務を行うことを目的として、次章の定めるところにより、司法書士が設立した法人をいう。以下同じ。)の社員又は使用人である司法書士としてその業務に従事していた期間内に、当該司法書士法人が相手方の依頼を受けて前号に規定する業務を行つた事件であつて、自らこれに関与したもの」を掲げている。対象は自ら関与したものに限られる。

エ 正しい。司法書士法22条2項3号は、「司法書士法人の使用人である場合に、当該司法書士法人が相手方から簡裁訴訟代理等関係業務に関するものとして受任している事件」を掲げている。なお、同号は、ウの同項2号と異なり、自らこれに関与したものとの限定を付していない。

オ 正しい。司法書士法22条4項は、「第三条第二項に規定する司法書士は、第二項各号及び前項各号に掲げる事件については、簡裁訴訟代理等関係業務を行つてはならない。この場合においては、同項ただし書の規定を準用する。」と定め、同条2項1号は、「相手方の依頼を受けて第三条第一項第四号に規定する業務を行つた事件」を掲げている。

ポイント:認定司法書士は、司法書士法22条3項各号の事件について裁判書類等作成関係業務を行ってはならず、依頼者の同意による例外が認められるのは3号の受任している事件の相手方からの依頼による他の事件及び6号に掲げる事件であり、1号の相手方の協議を受けて賛助し又はその依頼を承諾した事件には及ばない(司法書士法22条3項)。司法書士法人の社員又は使用人であった期間内に当該司法書士法人が相手方の依頼を受けて業務を行った事件は、自ら関与したものに限って禁止され(司法書士法22条2項2号)、使用人である場合に当該司法書士法人が相手方から簡裁訴訟代理等関係業務に関するものとして受任している事件には、自ら関与したものとの限定がない(司法書士法22条2項3号)。認定司法書士は、同条2項各号及び3項各号の事件について簡裁訴訟代理等関係業務も行ってはならず、同条3項ただし書が準用される(司法書士法22条4項)。「同意で外れるのは受任事件の相手方からの他の事件、賛助・承諾の事件は同意でも不可、法人時代の事件は自ら関与したものに限る、法人の使用人の受任中の事件は関与不問、簡裁代理も同じ事件で禁止」と押さえる。


出題分野の振り分け

問 分野 主な論点 主な根拠条文
第1問 民法(債権・不法行為) 同居の配偶者と法定の監督義務者、被用者から使用者への求償、土地の工作物の所有者の責任、生命・身体の侵害と消滅時効、過失相殺 民法418条、714条1項、715条3項、717条1項、722条2項、724条、724条の2、最判平成28年3月1日、最判令和2年2月28日
第2問 不動産登記法(信託の登記) 同時申請と単独申請、受益者又は委託者による代位、受益者の氏名等の登記の省略、受託者の変更による権利の移転の登記、固有財産と信託財産の間の権利の変更の登記 不動産登記法60条、97条、98条、99条、100条1項、103条2項、104条の2第2項、信託法56条1項5号
第3問 会社法・商業登記法(吸収分割) 吸収分割会社の変更の登記の添付書面、吸収分割株式会社の株主総会の承認を要しない場合、残存債権者の請求、不法行為によって生じた債務の債権者への各別の催告、経由と同時申請 会社法759条4項・6項、783条1項、784条2項、789条2項・3項、796条2項、939条1項、商業登記法18条、85条1号、87条、88条1項
第4問 民事訴訟法(訴訟代理人・補佐人) 訴訟代理権の範囲、反訴と特別の委任、個別代理、訴訟代理権の消滅の通知、補佐人の陳述 民事訴訟法36条1項、55条1項・2項、56条、57条、59条、60条1項・3項、司法書士法3条7項
第5問 司法書士法(業務を行い得ない事件) 依頼者の同意による例外、賛助・承諾の事件、司法書士法人に在籍していた期間の事件、司法書士法人の使用人の場合、簡裁訴訟代理等関係業務の制限 司法書士法22条2項〜4項