この記事の要点
- 相続放棄は、3か月の熟慮期間(じゅくりょきかん=相続するかどうかを考える期間)の途中であっても、撤回できないと定められています(民法919条1項)
- 詐欺や強迫など、民法の総則・親族の規定による取消しは別です。ただし、その権利は「追認をすることができる時から6か月」「放棄の時から10年」で時効によって消滅すると定められています(同条2項・3項)
- 相続放棄を取り消すときは、家庭裁判所への申述(しんじゅつ=裁判所に書面で申し出ること)が必要です(同条4項)
相続放棄をしたあとで「やはり相続したい」と考え直しても、撤回はできません。別の道として「取消し」がありますが、理由が限られ、期限も短く、家庭裁判所での手続きが必要です。この2つの違いと、期限の数え方、手続きの順序を整理します。
「撤回」と「取消し」は別のもの
民法919条1項は「相続の承認及び放棄は、第九百十五条第一項の期間内でも、撤回することができない。」と定めています。「第九百十五条第一項の期間」とは、自分のために相続が始まったことを知った時から3か月の熟慮期間のことです。3か月が残っていても、撤回はできないということです。
ここでいう撤回とは、有効にした放棄を、自分の考えが変わったなどの理由で、なかったことにすることです。これに対して取消しは、放棄をしたときの事情に法律が定める原因がある場合に、放棄の効力を失わせるものです。
919条2項は、1項があっても、民法の総則と親族の規定による取消しはできる余地を残しています。たとえば、詐欺や強迫(きょうはく=脅して意思表示をさせること)による意思表示は、取り消すことができると定められています(民法96条1項)。
なお、たとえば「放棄のあとで財産が見つかった」という事情が取消しの原因に当たるかどうかは、事実関係によって答えが変わるため、この記事では判断を示しません。
撤回ができず、取消しの道も限られているからこそ、大切なのは放棄の前に決めきることです。3か月では判断がつかないときは、期間を伸ばす申立てという方法もあります。「とりあえず放棄して、あとで考え直す」という進め方が想定されていないことは、相続手続きの全体マップでも触れています。
取消しの期限は2本ある
期限は919条3項に定められています。
前項の取消権は、追認をすることができる時から六箇月間行使しないときは、時効によって消滅する。相続の承認又は放棄の時から十年を経過したときも、同様とする。
| 期限 | 数え始め | 根拠 |
|---|---|---|
| 6か月 | 追認をすることができる時 | 民法919条3項前段 |
| 10年 | 放棄の時 | 民法919条3項後段 |
どちらか一方を過ぎれば、取消権は消滅すると定められています。一般の取消権の期限は「5年」と「20年」ですので(民法126条)、相続の承認・放棄の取消しは、それよりかなり短く定められていることになります。
「6か月」はいつから数えるか
起点は、放棄をした日でも、亡くなった日でもありません。追認(ついにん=取り消せる行為を、後から有効なものと認めること)ができるようになった時です。
追認について、民法124条1項は「取消しの原因となっていた状況が消滅し、かつ、取消権を有することを知った後」にしなければ効力を生じないと定めています。これを当てはめると、次の2つがそろった時が起点になると読めます。
- 取消しの原因となっていた状況がなくなったこと(だまされていたと気づいた、脅されている状態から抜け出した、など)
- 取り消す権利があると知ったこと
片方だけでは、この要件を満たしません。なお、法定代理人が追認する場合などには、別の定めがあります(民法124条2項)。具体的にどの日が起点になるかは、事案ごとの判断になります。
日付の数え方は、民法の期間計算の定めによります。初日は数えず(民法140条)、数え始めの日(起点の翌日)の6か月後の同じ日に当たる日の前日に満了します(民法143条2項)。
- 起点が4月10日の場合:4月11日から数え始め、10月10日で満了
- 起点が8月30日の場合:8月31日から数え始め、翌年2月に31日がないため、2月の末日で満了(同項ただし書)
「10年」の数え始め
10年の起点は「放棄の時」と定められています。追認ができるようになった時期にかかわらず、10年を経過すれば同様に消滅するという定めです。919条3項の文言には、受理の日か申述の日かまでは書かれていません。相続放棄の申述を受理する審判は、申述書にその旨を記載した時に効力を生ずると定められていますが(家事事件手続法201条7項)、これは審判の効力についての定めで、10年の数え始めを直接定めたものではありません。期限を控えておくなら、早いほうの申述の日で数えておくと安全です。
取消しの手続きの順序
相続放棄の取消しは、関係者に伝えるだけでは足りず、家庭裁判所に申述しなければならないと定められています(民法919条4項。限定承認の取消しも同じです)。順序は次のとおりです。
- 起点と期限を確かめる:追認ができるようになった日を整理し、6か月と10年の満了日を確かめます
- 申述書を作る:取消しをする旨などのほか(家事事件手続法201条5項)、被相続人(亡くなった方)の氏名と最後の住所、放棄の申述を受理した裁判所と受理の年月日、取消しの原因、追認をすることができるようになった年月日を書くことになっています(家事事件手続規則105条2項)
- 家庭裁判所に提出する:提出先は、相続が開始した地を管轄する家庭裁判所です(家事事件手続法201条1項)。相続は亡くなった方の住所で開始しますので(民法883条)、亡くなった方の最後の住所地の家庭裁判所になります
- 受理の審判を待つ:家庭裁判所が申述を受理するかどうかを判断します(家事事件手続法別表第一の九十一の項)。申述を却下する審判に対しては、即時抗告(そくじこうこく=上級の裁判所へ不服を申し立てること)ができます(同法201条9項2号)
取り消された行為は、初めから無効であったものとみなされます(民法121条)。ただし、詐欺による取消しは、事情を知らず、知らないことに過失もない第三者には主張できないと定められています(民法96条3項)。放棄のあと、ほかの相続人や次の順位の人がすでに手続きを進めていることもあり、どのような影響が出るかは個別の事情によります。
この記事は執筆時点(2026年11月)の制度に基づく一般的な解説です。
まとめ
相続放棄は、3か月の期間内であっても撤回できないと定められています。詐欺や強迫など、民法の総則・親族の規定による取消しは別ですが、その権利は追認をすることができる時から6か月、放棄の時から10年で時効によって消滅すると定められており、取消しには家庭裁判所への申述が必要です。
申述書の作成は、家庭裁判所に提出する書類の作成として司法書士の業務範囲に含まれます。期限の確認や書類の準備に迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。だまされた・脅されたという事実や取消しの可否が相手との争いになっている場合は、弁護士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年11月・いずれも一次情報です)。
- 民法 第96条・第121条・第124条・第126条・第140条・第143条・第883条・第915条・第919条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 家事事件手続法 第201条・別表第一(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/423AC0000000052
- 家事事件手続規則 第105条(裁判所ウェブサイト・令和7年最高裁判所規則第13号までの改正を反映した本文PDF): https://www.courts.go.jp/assets/20260521kajikisoku.pdf