この記事の要点
- 遺産分割は、遺言(相続開始から5年まで)、相続人どうしの契約(1回5年以内・更新可)、家庭裁判所の判断によって、一定の期間「しない」と決められる場合がある
- 相続人どうしの契約では、「5年」は1回に決められる期間の上限、「10年」は更新しても越えられない終わりの上限(相続開始から数える)
- 分割をしない間も、相続登記の申請義務の3年や、特別受益・寄与分に関わる相続開始から10年の期限は止まらない
遺産の分け方を決める話し合い(遺産分割)は、いつでもできるのが原則ですが、民法には、一定の期間「分けない」と決める方法が用意されています(民法908条)。ただし期間には上限があり、条文に出てくる「5年」と「10年」は、それぞれ別のものの上限です。※執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です。
分割をしないと決める3つの方法
① 遺言で禁じる(相続開始から5年まで) 亡くなる方は遺言で、相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができます(民法908条1項)。数え始めは「相続開始の時」、つまり亡くなった時です。
② 相続人どうしの契約で決める(1回5年以内、終わりは相続開始から10年まで) 相続人どうし(共同相続人)は、5年以内の期間を定めて、遺産の全部または一部について分割をしない旨の契約ができます(同条2項)。この契約は、5年以内の期間を定めて更新することもできます(同条3項)。ただし、最初の契約でも更新でも、その期間の終わりは相続開始の時から10年を超えることができません(同条2項・3項のただし書)。たとえば2026年10月に亡くなった方の相続なら、何度更新しても、終わりを亡くなった日から10年にあたる2036年10月の同じ日より後にすることはできません。
③ 家庭裁判所が禁じる 相続人の話し合いがまとまらない、または話し合いができないために家庭裁判所に分割を求めた場合に、特別の事由があるときは、家庭裁判所が5年以内の期間を定めて、遺産の全部または一部について分割を禁ずることができます(同条4項)。家庭裁判所はこの期間を5年以内で更新することもできますが(同条5項)、相続人どうしの契約と同じく、期間の終わりは相続開始の時から10年を超えることができません(同条4項・5項のただし書)。相続人の間で争いがあり、こうした判断の見通しが問題になる場面は、弁護士にご相談ください。
遺言で禁じられている場合や、分割をしない契約をした場合は、「いつでも話し合いで分割できる」という原則(民法907条1項)から外れます。
「5年」と「10年」の違い
| 方法 | 1回に決められる期間 | 終わりの上限 |
|---|---|---|
| 遺言 | 相続開始から5年を超えない期間 | 相続開始から5年 |
| 相続人どうしの契約 | 5年以内(更新も1回5年以内) | 相続開始から10年 |
| 家庭裁判所の判断 | 5年以内(更新も1回5年以内) | 相続開始から10年 |
908条2項から5項は、令和3年の民法改正(令和5年〈2023年〉4月1日施行)による規定です。施行日より前に開始した相続にも適用され、その場合の「相続開始から10年」は、「相続開始から10年を経過する時」と「改正法の施行から5年を経過する時(令和10年〈2028年〉3月31日まで)」のいずれか遅い時と読み替えられます(民法等の一部を改正する法律〈令和3年法律第24号〉附則3条)。
分割をしない間も止まらない期限
相続登記の申請義務(3年) 相続で不動産を取得した人は、相続の開始と、その不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません(不動産登記法76条の2第1項)。分割をしない約束をしていても、この3年の数え方は変わりません。分割が先になる場合は、期間内に「相続人申告登記」の申出をすれば、申請義務を果たしたものとみなされます(同法76条の3第1項・2項)。その後に遺産分割で不動産を取得したときは、分割の日から3年以内に登記を申請する必要があります(同条4項)。手続きの中身は相続人申告登記とは何かで紹介しています。
特別受益・寄与分(相続開始から10年) 相続開始の時から10年を過ぎてからする遺産分割では、生前贈与などを考慮する特別受益や、介護などの貢献を考慮する寄与分の規定が、原則として適用されなくなります(民法904条の3本文)。条文が定める例外は、10年を経過する前に相続人が家庭裁判所に分割を請求したとき(同条1号)と、10年の期間が満了する前の6か月以内に、分割を請求できない「やむを得ない事由」が相続人にあり、その事由がなくなった時から6か月を経過する前に家庭裁判所に分割を請求したとき(同条2号)の2つです。分割をしない約束や遺言による禁止がこの「やむを得ない事由」に当たるかどうかは、条文には書かれていません。
また、法務省の解説資料では、10年を過ぎた後でも、相続人全員が特別受益・寄与分を考慮した分け方(具体的相続分による分割)をすることに合意すれば、その分け方で分割できると説明されています。ただ、全員の合意がそろうとは限りません。約束の終わりを10年近くに置く場合は、その後の分割で特別受益・寄与分を前提にできるかどうかが確実ではなくなる点に注意が必要です(10年の期限については遺産分割の「10年ルール」も参照)。
なお、相続税の申告が必要な場合、その期限や、遺産が分かれていないときの特例の扱いは別の問題になります。具体的には税理士にご確認ください。
まとめ
遺産分割は、遺言・相続人どうしの契約・家庭裁判所の判断によって、一定の期間「しない」と決められる場合があります。遺言は相続開始から5年まで、相続人どうしの契約は1回5年以内で、終わりは相続開始から10年まで。分割をしない間も、相続登記の3年と特別受益・寄与分の10年は進むため、期限は別に管理しておくことが大切です。判断に迷う点があれば、お近くの司法書士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月・いずれも一次情報です)。
- 民法 第904条の3・第907条・第908条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)附則第1条・第3条(e-Gov法令検索・民法の附則): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 不動産登記法 第76条の2・第76条の3(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 法務省「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」(47頁): https://www.moj.go.jp/content/001444017.pdf
- 法制審議会民法・不動産登記法部会 部会資料42「遺産の管理と遺産分割に関する見直し」(7〜9頁): https://www.moj.go.jp/content/001327457.pdf