この記事の要点

  • 相続の話し合いは「その場で全部決める」ものではなく、期限があることと、時間をかけてよいことを分けると気持ちが楽になる
  • 相続放棄(3か月)・相続税の申告(10か月)・相続登記の申請(3年)など、期限があることは優先して話す必要がある
  • 実家をどうするか、遺品をどう分けるかなど期限のない話題は、期限のある手続きを先に進めたうえで「今回は保留」と決めてよい

家族が亡くなったあと、「早く話し合わなければ」という気持ちに追われて、実家の将来のことまで一度の集まりで結論を出そうとしてしまう方が少なくありません。しかし、相続の話し合いに必要なのは「全部を一度で決めること」ではなく、「何を先に決めるべきかを分けること」です。※執筆時点(2026年09月)の制度に基づく一般的な解説です。

期限があることを先に押さえる

法律上、期限が決まっている手続きがいくつかあります。話し合いの前に、まずこれらを家族で共有しておくと安心です。

  • 相続放棄をするかどうか:自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内(民法915条1項)。この「知った時」は、亡くなった事実と、それによって自分が相続人になった事実の両方を知った時と解するのが原則です。もっとも判例は、相続財産が全く存在しないと信じ、かつ、被相続人との生前の交際状況などからみて財産の有無を調べることが著しく困難な事情があって、そう信じたことに相当な理由があると認められる場合には、例外的に、相続財産の全部または一部の存在を認識した時(または通常認識できたはずの時)から起算するとしています(最高裁昭和59年4月27日判決・民集38巻6号698頁)。あくまで原則があったうえでの例外であり、「知らなかった」というだけで当然に起算点が後ろにずれるわけではありません(起算点の考え方は相続放棄3か月の期間はいつから数える?起算点の考え方で詳しく紹介しています)。借金の有無が分からない場合は、この期間を延ばす「期間伸長」の申立てを検討する余地もあります。
  • 相続税の申告と納税:相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内(申告は相続税法27条1項、納付は申告書の提出期限まで=同法33条)。申告が必要かどうかの判断自体、財産の内容によって変わるため税理士への確認が前提になります。
  • 相続登記の申請:自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内(不動産登記法76条の2第1項。令和6年〈2024年〉4月1日施行)。この義務は施行日より前に亡くなった方の相続にも及び、その場合は「知った日」と施行日のいずれか遅い日から3年、つまり多くのケースで令和9年〈2027年〉3月31日までが期限になります(民法等の一部を改正する法律〈令和3年法律第24号〉附則5条6項。義務化の経緯は相続登記の申請義務化、施行から1年で何が変わったかを参照)。

これらは「話し合いがまとまっていないから」という理由で自動的に延びるものではありません。話し合いの初回は、まずこの期限があることだけに的を絞って共有するだけでも十分な前進です。

期限のないことは「保留」でよい

一方で、次のような話題には、いつまでに決めなければならないという法律上の期限が定められていません。

  • 実家を売るか、住み続けるか、貸すか
  • 仏壇やお墓を誰が引き継ぐか
  • 形見や遺品をどう分けるか

ただし、「決める期限がないこと」と「何もしなくてよいこと」は別です。遺産の分け方そのものに期限はありませんが、話し合いが決まらないままでも、先ほどの相続登記の申請義務の期限は進みます。また、相続開始の時から10年を過ぎた後にする遺産分割では、特別受益や寄与分を考慮して取り分を修正することが原則としてできなくなります(民法904条の3。10年経過前に家庭裁判所へ遺産分割の請求をした場合など、例外もあります)。なお、令和5年4月1日より前に亡くなった方の相続では、この10年の期限が令和10年3月31日まで延びる経過措置があります(民法等の一部を改正する法律〈令和3年法律第24号〉附則第3条)。長らく手つかずの相続がある場合は、この点もあわせて確認しておくと安心です。保留する場合ほど、期限のある手続きは切り離して先に進めておく必要があります。

これらは相続人の間で気持ちの整理がついていないまま急いで結論を出すと、かえって後々のわだかまりにつながることもあります。「今日は結論を出さず、次に話す時期だけ決めておく」というのも、家族会議として立派な結論のひとつです。先送りと違い、次回の予定まで決めておけば話し合いが止まったままにはなりません。

話し合いの場を分けるという工夫

期限があることと、時間をかけてよいことを同じ日に一緒に話そうとすると、感情的になりやすい話題(実家の思い出、誰が住むかなど)に引っ張られて、期限がある大事な手続きの共有まで終わらないことがあります。「今日は期限のあることだけ」「実家のことは落ち着いてから改めて」というように、話す内容ごとに場を分けるのも一つの方法です。

まとめ

相続の話し合いは、一度に全部を決める必要はありません。まずは期限があることを家族で共有し、期限のないことは「保留」と決めて次回に回す。この整理をしておくだけで、相談に伺う準備としても十分な一歩になります。判断に迷う点があれば、お近くの司法書士にご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年09月・いずれも一次情報です)。

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