この記事の要点
- マンション(区分所有建物)は、土地の権利(敷地権)と建物を切り離して売ったり分けたりすることができない
- 「貸す」場合も、管理規約による用途制限や管理組合への届出が絡み、戸建ての賃貸より制約が多い
- 名義を持っている限り、使っていなくても管理費・修繕積立金の負担は続く
- 売却の具体的な流れや、相続放棄・国庫帰属といった「手放す」ための制度そのものは、それぞれ別の記事で解説している
親から相続したマンションを「売るか、貸すか、それとも手放すか」を考えるとき、一戸建ての実家を相続した場合と同じ感覚で判断すると、思わぬところでつまずくことがあります。理由は単純で、マンションの一室(区分所有建物)は、一戸建てとは登記の仕組みそのものが違うためです。
結論を先に言うと、マンションを相続したときに戸建てと決定的に違うのは、土地と建物、そして共用部分の持分を切り離して処分することができないという一点です。この制約は、売る場面だけでなく、貸す場面、そして持ち続ける間の費用負担にも影響します。この記事では、既に別の記事で解説している「売却の流れ」「相続放棄」「国庫帰属」を繰り返すのではなく、マンションだからこそ戸建てと違ってくる判断ポイントに絞って整理します。
土地と建物を切り離して処分できない──「敷地権」の一体性
一戸建てであれば、極端に言えば建物だけを取り壊して土地だけを売る、あるいは土地の一部を分けて売るといった対応も可能です。ところがマンションの場合、こうした切り分けが原則としてできません。
マンションの土地は区分所有者全員の共有で、専有部分(お部屋)を持つために土地を使う権利を「敷地利用権」といいます。建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)第22条第1項は、敷地利用権を複数の区分所有者が共有している場合、区分所有者は、規約に別段の定めがあるときを除き、専有部分とその敷地利用権とを分離して処分することができないと定めています。この、専有部分と分離して処分できない敷地利用権のうち登記されたものが、登記簿上の「敷地権」です。
つまり、「建物の名義だけ相続人の1人に移して、土地の持分は別の相続人が持つ」というような分け方は、原則としてできません。専有部分をどうするかを決めれば、土地の権利もそれに従って動く、という一体の関係にあります。敷地権の仕組みそのものについては、マンションの登記簿はなぜ一戸建てと違う?──区分建物と「敷地権」のきほん で解説しています。
共用部分の持分も、専有部分の処分に従って動く
マンションには、廊下・階段・エントランス・エレベーターなど、区分所有者全員で使う「共用部分」があります。この共用部分に対する各共有者の持分についても、区分所有法第15条第1項が「その有する専有部分の処分に従う」と定め、同条第2項が、この法律に別段の定めがある場合を除き、専有部分と分離して処分することができないと定めています。
実務上の意味は単純です。専有部分(お部屋)を売れば共用部分の持分も一緒に買主へ移り、逆に共用部分の持分だけを誰かに譲る、といったことはできません。戸建てで「庭だけ売る」「建物を残して土地だけ売る」といった発想がマンションで通用しないのは、前の項目でみた敷地利用権(第22条第1項)と、この共用部分(第15条)の双方に、専有部分と分離して処分することを禁じる定めが置かれているためです。
「貸す」を選ぶ場合も、管理規約の制約を確認する
相続したマンションを手放さず、賃貸に出して収益化するという選択を考える方もいます。ここで戸建てとの違いになるのが、管理規約による制約です。
多くのマンションの管理規約は、国土交通省が示す「マンション標準管理規約」をベースに作られています。標準管理規約は、区分所有者はその専有部分を「専ら住宅として使用するものとし、他の用途に供してはならない」と定めています(マンション標準管理規約〔単棟型〕(令和7年10月改正)第12条第1項)。ここでいう「住宅としての使用」に当たるかどうかは、同規約のコメントによれば、専ら居住者の生活の本拠があるか否かによって判断され、利用方法も生活の本拠であるために必要な平穏さを有することを要するとされています(同規約コメント第12条関係①)。この基準に照らすと、生活の本拠を置かずに専有部分を事務所や店舗として使う形態は、規約本文がいう「他の用途」に当たり、制限の対象になります。
これに対して、生活の本拠を置いたままの在宅就業(いわゆる自宅兼事務所)のように、住まいとしての使用と業務とが同じ部屋で重なる形態は、この基準だけでは一義的に決まりません。コメントが判断の手がかりとして挙げているのは「生活の本拠があるか」と「平穏さ」であって、来客があるかどうか、看板を出すかどうかといった個別の事情が、そのまま線引きの基準として示されているわけではないからです。どこまで許容されるかは、各マンションの規約・使用細則の定め方や管理組合の運用によって分かれます。なお、玄関扉や外壁に看板を掲げる行為については、専有部分の用途の問題とは別に、共用部分の使用に関する規約上の制約がかかることがあります。
住宅宿泊事業(いわゆる民泊)については、同条第2項で「使用することができる」とする案と「使用してはならない」とする案の両方が示されており、どちらを採るかは各マンションの規約次第です(同規約コメント第12条関係②③)。そのため、民泊を一律に禁止している物件もあれば、一定の条件(家主居住型のみ等)のもとで認めている物件もあり、実際にどこまで許容されるかは、そのマンションの管理規約と使用細則を確認しなければ分かりません。
また、専有部分を第三者に貸す場合、標準管理規約は、区分所有者に対して、賃借人にも規約や使用細則の内容を守らせることを求めています(同規約第19条第1項)。これは心構えの話にとどまらず、標準管理規約は続けて、賃貸借契約の中に規約等を守る旨の条項を入れたうえで、借主から規約等を遵守する旨の誓約書を管理組合に提出させること(同条第2項)、さらに借主本人から「専有部分を借用した旨の届出」を管理組合に提出させること(同条第3項)まで、区分所有者の義務として定めています。届出の内容としては、借主本人の氏名・対象の部屋・電話番号のほか、緊急時の連絡先となる方の氏名・電話番号などが想定されています(同規約コメント第19条関係⑤)。
もっとも、標準管理規約はあくまで国土交通省が示すひな型で、実際に適用されるのは各マンションが定めている管理規約です。どこまで求められるか、届出の様式がどうなっているかは物件ごとに異なりますので、賃貸を検討する段階で管理組合または管理会社に確認しておく必要があります。
なお、ここで説明しているのは、管理規約という制度上どのような制約がかかり得るかという一般的な内容にとどまります。実際に借主を探す仲介や、具体的な賃料・契約条件の設定は宅地建物取引業者の業務であり、司法書士が代わって行うものではありません。
賃貸を始めるかどうかにかかわらず、相続によって区分所有者が変わったこと自体を管理組合に届け出る「区分所有者変更届」という別の手続きもあります。これは賃貸に関する届出とは別の話で、マンションを相続したら管理組合へ届出を──放置すると起きる実務トラブル で詳しく解説しています。
名義を手放すまで、管理費・修繕積立金は発生し続ける
戸建てであれば、使わない実家を放置していても、かかる費用は固定資産税や最低限の維持費程度で済むこともあります。マンションの場合はこれに加えて、管理費・修繕積立金が、使用の有無にかかわらず、名義を持っている限り発生し続けます。賃貸に出して収益を得るか、売却するか、それとも他の手段で名義を手放すかを検討している間も、この負担は止まりません。
判断に時間をかけるほど、その間の管理費・修繕積立金は積み上がっていきます。滞納が生じた場合の扱いや、そもそも管理費がどのくらいの負担になり得るかについては、リゾートマンション・別荘を相続したら──「いらない不動産」に残された現実的な選択肢 で詳しく整理しています。
まとめ
相続したマンションを「売る・貸す・手放す」のどれにするかを考えるとき、戸建てとの違いとして押さえておきたいのは次の点です。
- 土地(敷地利用権)と建物は、規約に別段の定めがあるときを除き、切り離して処分することができない(区分所有法第22条第1項)
- 共用部分の持分も、専有部分の処分に従って動き、分離して処分できない(区分所有法第15条)
- 「貸す」場合は管理規約による用途制限や、管理組合への届出が絡むことがある
- 名義を持っている限り、管理費・修繕積立金は発生し続ける
売却の具体的な進め方、相続放棄、国庫帰属制度といった「手放す」ための個々の選択肢は、それぞれ別の記事で解説していますので、あわせてご覧ください。マンションならではの事情も踏まえて判断に迷うときは、お近くの司法書士にご相談ください。
よくある質問
Q. 相続したマンションを売る・貸す・手放す、それぞれにどのくらい費用がかかりますか?
まず相続登記が前提になるため、登録免許税(固定資産税評価額の1000分の4)や戸籍謄本などの取得実費がかかります。売却する場合はこれに加えて仲介手数料や譲渡所得にかかる税金、貸す場合は管理規約上の届出にかかる実費(管理組合によって異なります)、手放す場合の方法によっては別の費用が発生します。具体的な金額は、どの選択肢を選ぶかによって大きく変わるため、不動産会社・税理士・管理組合それぞれへの確認が必要です。
Q. 決めきれずに放置していると、どんなリスクがありますか?
相続登記には申請義務があり、正当な理由なく期限内(取得を知った日から3年以内)に申請しないと過料の対象になり得ます。それに加えてマンションの場合は、決めきれずにいる間も管理費・修繕積立金がかかり続け、貸すことも売ることもしないまま費用だけが積み上がっていきます。早い段階で管理組合に滞納の有無や今後の負担額を確認し、見通しを立てることが実務上の出発点になります。
Q. 自分で手続きを進められますか?どこに相談すればよいですか?
相続登記の申請自体は自分で行うことも制度上は可能です。ただし、マンションは敷地権の有無や共用部分の扱いなど、一戸建てにはない確認事項があり、書類の準備や登記申請書の書き方でつまずきやすい面があります。賃貸に出す場合の管理規約の確認や、売却先を探す仲介は、それぞれ管理組合・宅地建物取引業者が窓口になります。登記手続きの進め方や全体の見通しについては、お近くの司法書士にご相談ください。
【さらに深掘り】敷地権付き区分建物の相続登記で確認すべき実務ポイント
ご注意 以下は執筆時点(2026年09月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
ここまでは、敷地権が土地と建物を一体化する仕組みそのものを説明してきました。ここから先は、実際に相続登記を申請する段階で確認しておきたい、登記記録の読み方と補正の生じやすいポイントを整理します。
建物の登記だけで足りるのか、土地についても別途申請が必要なのか
敷地権付き区分建物については、区分建物(専有部分)についてされた所有権の登記は、原則として敷地権についてもされた登記としての効力を持つものとされています(不動産登記法第73条第1項)。つまり、敷地権が登記されている通常のマンションであれば、建物について相続を原因とする所有権移転登記を1件申請すれば足り、土地(敷地権の目的である土地)について重ねて相続登記を申請する必要はありません。
ただし、これは敷地権が登記記録上きちんと成立している場合の話です。昭和58年の区分所有法改正前後に分譲された古いマンションの中には、いまだに敷地権化の登記がされておらず、建物と土地(区分所有者の共有持分)がそれぞれ別個の不動産として登記されたままのものがあります。この場合は、建物と土地それぞれについて相続登記を申請する必要があり、申請件数・添付書類・登録免許税の計算方法も敷地権化済みの物件とは異なります。相続登記に着手する前に、対象の登記記録が敷地権化されているかどうかをまず確認する必要があります。
登記事項証明書での「敷地権の表示」の見方
敷地権化されている区分建物の登記事項証明書は、表題部が「一棟の建物の表示」と「専有部分の建物の表示」に分かれ、専有部分の表示の欄に続けて「敷地権の表示」が記載されます。ここには敷地権の目的である土地の符号・所在地番・地目・地積のほか、「敷地権の種類」(所有権なのか、地上権や賃借権なのか)と「敷地権の割合」(分数で表示される持分割合)が記載されています。
敷地権の種類が所有権であれば通常の相続登記で問題ありませんが、定期借地権付きマンションなどでは敷地権の種類が賃借権や地上権になっていることがあり、この場合は借地権部分の相続について、賃貸人(地主)との関係や契約上の承継手続きを別途確認する必要が生じます。敷地権の種類は登記事項証明書を取得しない限り分からないため、思い込みで進めず、必ず現物の登記記録で確認することが実務上の出発点になります。
補正が生じやすいポイント
遺産分割協議書や相続関係説明図など、相続登記の登記原因証明情報に「不動産の表示」を記載する際、区分建物では一棟の建物の表示(所在・構造・床面積)、専有部分の建物の表示、そして敷地権の表示(土地の符号・所在地番・敷地権の種類・敷地権の割合)まで、登記事項証明書の記載どおり正確に転記する必要があります。実務上、敷地権の割合の分数を書き誤ったり、一棟の建物の表示の記載を省略してしまったりすることが、法務局から補正を求められる典型例の一つです。
登録免許税の計算においても、敷地権付き区分建物では建物と土地(敷地権)双方の固定資産税評価額が必要になります。土地側の評価額は、その敷地全体の評価額に敷地権の割合を乗じて算出しますが、市区町村によっては評価証明書の時点で敷地権相当額まで按分して記載している場合と、こちらで按分計算をしなければならない場合とがあります。評価証明書を取得した際に、どちらの方式で記載されているかを確認しておかないと、登録免許税の計算をやり直すことになりかねません。
共用の通路・駐車場等が敷地権に含まれていないケース
マンションによっては、敷地権の目的である土地とは別に、共用の通路や駐車場等の土地が「区分所有者の共有」として、敷地権化されないまま別の地番で登記されていることがあります。この土地は専有部分の登記記録上の敷地権の表示には出てこないため、見落として相続登記の対象から漏れる原因になりやすい部分です。登記事項証明書の「敷地権の目的である土地の表示」に記載された地番と、固定資産税の課税明細書に記載された地番とを突き合わせ、登記記録上の敷地権に含まれていない共有地が別にないかを確認しておくことが望ましいといえます。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年09月・いずれも一次情報です)。
- 建物の区分所有等に関する法律 第15条(共用部分の持分の処分)・第22条(分離処分の禁止)(e-Gov法令検索・令和7年法律第47号による改正後の現行版): https://laws.e-gov.go.jp/law/337AC0000000069
- 不動産登記法 第73条(敷地権付き区分建物に関する登記等)・第76条の2(相続等による所有権の移転の登記の申請)・第164条(過料)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 登録免許税法 別表第一 第一号(二)イ(相続による所有権の移転の登記の税率)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/342AC0000000035
- 国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」(令和7年10月17日改正)第12条(専有部分の用途)・第19条(専有部分の貸与)、同コメント第12条関係①〜③・第19条関係⑤: https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001999022.pdf
- 国土交通省「マンション標準管理規約」(改正日・各類型のひな型の掲載ページ): https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk5_000052.html
- 建物の区分所有等に関する法律及び不動産登記法の一部を改正する法律(昭和58年法律第51号・昭和59年1月1日施行)(衆議院 制定法律): https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/houritsu/09819830521051.htm