この記事の要点
- マンションの建替え決議が成立しても、反対した区分所有者がその場で退去や名義変更を迫られるわけではなく、まず「建替えに参加するか」を尋ねる催告の手続きが挟まります。
- 催告を受けた日から2か月以内(区分所有法63条3項)に回答しないと、法律上「参加しない」旨を回答したものとみなされます。
- 参加しない区分所有者に対しては、建替えに参加する側が区分所有権・敷地利用権を時価で買い取るよう求める「売渡請求」という制度が用意されています。
- 売渡請求によって権利が移った場合、実際に登記簿の名義を変更するには、通常の所有権移転登記と同様の手続きが必要です。
- 買い取り価格を巡って意見が食い違う場合は、この記事の範囲を超える個別交渉になるため、早めに弁護士へ相談することが実務上のポイントです。
マンションの建替え決議は、区分所有者及び議決権の各5分の4以上(一定の要件を満たす建物では4分の3以上)の賛成で成立します。決議が成立すると、次に問題になるのは「賛成しなかった区分所有者はどうなるのか」という点です。決議の瞬間にその人の権利が失われるわけではなく、法律上は段階を踏んだ手続きが用意されています。決議そのものの要件緩和(5分の4から4分の3への緩和など)については、区分所有法が変わった──2026年4月施行の改正で管理組合ができるようになったことで扱っていますので、この記事では決議が成立した後に焦点を絞って整理します。
決議成立後の流れをおおまかにつかむ
建替え決議が成立してから、実際に建替え工事が始まるまでには、区分所有法上、おおむね次のような段階があります。
- 決議に賛成しなかった区分所有者に対する「建替えに参加するか」の催告
- 催告に対する回答(回答しない場合は不参加とみなされる)
- 参加しない区分所有者に対する「売渡請求」(区分所有権・敷地利用権の買い取り請求)
- 権利が移った場合の登記手続き
- (実際に事業を進める場合)マンションの再生等の円滑化に関する法律(マンション再生円滑化法)に基づくマンション再生組合の設立等
以下、順番に見ていきます。
反対した区分所有者に対する「建替え参加の催告」
区分所有法63条は、建替え決議があったときの手続きを定めています。同条1項により、集会を招集した人は、決議に賛成しなかった区分所有者に対して、建替えに参加するかどうかを回答するよう、遅滞なく、書面で催告しなければならないとされています。なお、その区分所有者の承諾を得たうえで、電磁的方法(メールなど)によって催告することも認められています(同条2項)。
この催告は、決議に賛成しなかったからといって自動的に権利を失うわけではなく、「もう一度、参加する意思があるかどうかを確認する」ための手続きです。区分所有者の中には、決議の際は反対だったものの、実際に建替え計画の内容(負担金や新しい住戸の条件など)を見て気持ちが変わる人もいるため、このような確認の機会が設けられています。
回答すべき期間は、催告を受けた日から2か月以内です(区分所有法63条3項)。なお、後述する売渡請求の対象となるのは、マンションの専有部分(住戸)そのものの権利である区分所有権だけでなく、建物が建っている土地を利用する権利である敷地利用権も含まれます(同条5項)。区分所有権や敷地利用権の基本的な仕組みについては、マンションの登記簿はなぜ一戸建てと違う?──区分建物と「敷地権」のきほんで解説しています。
なお、区分所有者の所在が分からず催告そのものが届けられないケースについては、決議の母数(分母)からその人を除外できる別の制度が用意されています。この制度は今回の記事で扱う「決議後の催告」とは別の場面(決議を成立させる前の段階)の話です。詳しくは所在が分からない区分所有者がいても集会決議を進められる制度とはをご覧ください。
回答しないとどうなるか──「参加しない」とみなされる
催告を受けた区分所有者が、定められた期間内に回答をしなかった場合、法律上は「建替えに参加しない旨を回答したもの」とみなされます(区分所有法63条4項)。
これは実務上、注意が必要なポイントです。引っ越し先で郵便物を確認できておらず催告の書面に気づかなかった場合や、単に返信を後回しにしているうちに期間が過ぎてしまった場合でも、「回答しなかった」という事実だけで不参加として扱われることになります。
なお、この2か月の期間は、催告が相手方に届いた(到達した)ことを前提に進むものです。催告そのものが届いていない場合にどう扱われるかは、書面がどのように送られ、どこまで到達したといえるかによって変わるため、一律には言えません。いずれにしても、マンションの区分所有者になっている以上、管理組合からの重要な書面が届く可能性がある住所を最新の状態にしておくことは、建替えに限らず基本的な備えといえます。
参加しない区分所有者に対する「売渡請求」
催告への回答(またはみなし規定)によって「参加しない」ことが確定した区分所有者に対しては、建替えに参加する意思を示した区分所有者の側(またはその全員の合意で買い受ける者として指定された「買受指定者」)から、区分所有権及び敷地利用権を時価で売り渡すよう請求できる制度があります。これが「売渡請求」です(区分所有法63条5項)。
売渡請求は、請求する側が一方的な意思表示をすれば効果が生じる、いわゆる形成権の一種とされています。つまり、参加しない区分所有者の側が売買契約に応じる・応じないを選べる制度ではなく、請求を受けた時点で時価による売買契約が成立したのと同じ法律関係が生じる仕組みになっている点が特徴です。この請求ができる期間にも制限があり、催告への回答期間(前記の2か月)が満了した日から2か月以内に行使しなければならないとされています(区分所有法63条5項)。
価格(時価)をめぐる交渉について
売渡請求で問題になりやすいのが、「時価」をどう算定するかです。この点については、不動産の評価方法や交渉の進め方によって結論が大きく変わり、個別の事情に踏み込んだ判断が必要になるため、この記事では具体的な算定方法や相場には触れません。買い取り価格について当事者間で意見が食い違い、話し合いで解決しない場合は、お近くの弁護士に相談しながら進めることになります。
マンション再生円滑化法との関係(参考程度に)
建替え決議が成立し、参加する区分所有者が確定した後、実際に建替え事業を進める段階になると、マンションの再生等の円滑化に関する法律(マンション再生円滑化法)に基づいて組合を設立し、組合が事業主体となって手続きを進めるルートがあります。
この法律は、2026年4月1日施行の改正(令和7年法律第47号)により、名称が「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」から現在の名称に改められ、組合の呼び名も「マンション建替組合」から「マンション再生組合」に変わりました(施行日前に認可を受けていた組合については、経過措置が置かれています)。古い解説記事や書式には改正前の名称が残っていることがあるため、調べ物をするときは日付にご注意ください。
同法にも、組合の設立認可の公告後に、建替えに参加しない旨を回答した区分所有者に対して、区分所有権及び敷地利用権を時価で売り渡すよう請求できる規定が置かれています(同法15条1項)。組合設立手続きの詳細は本記事の主眼ではないため、ここでは「区分所有法上の決議・催告・売渡請求の後に、実際の事業化の段階でこうした法律も関わってくる」という位置づけの紹介にとどめます。
登記実務の観点──売渡請求で権利が移ったらどうするか
売渡請求権が行使されると、その意思表示が相手に到達した時点で、時価による売買契約が成立したのと同じ法律関係が生じ、その売買の効果として区分所有権・敷地利用権が請求した側に移るとされています。あわせて、売り渡す側は専有部分を引き渡して登記の名義を移す義務を、請求した側は時価の代金を支払う義務を負い、この両者は同時履行の関係(相手が果たすまで自分も拒める関係)に立つと解されています。ただし、これはあくまで権利が実体的に移転するという話であり、登記簿の名義は自動的には書き換わりません。
不動産の権利が移転した場合、それを第三者に対抗できる状態にするためには登記が必要になるという考え方(民法177条)は、売渡請求による権利移転でも変わりません。実際に登記簿上の名義を変更するには、通常の売買等による所有権移転登記と同様に、登記原因証明情報や登記識別情報(または登記済証)、印鑑証明書といった書類をそろえて申請する手続きが必要になります。権利を失う側(売渡請求を受けた区分所有者)の協力が得られない場合の対応(判決による単独申請など)も制度上は考えられますが、どの方法によるべきかは個別の状況によって異なるため、お近くの司法書士にご相談ください。
まとめ
マンションの建替え決議が成立した後、反対した区分所有者は、まず「建替えに参加するか」を尋ねる催告を受けます。この催告に期間内に回答しないと、法律上は「参加しない」とみなされ、その後は建替えに参加する側から区分所有権・敷地利用権を時価で買い取る「売渡請求」の対象になり得ます。売渡請求によって権利が移った場合には、通常の所有権移転登記と同様の手続きで登記簿の名義を変更する必要があります。決議の要件そのものについては別記事で扱っていますので、あわせてご覧ください。手続きの進め方や登記の要否について迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。
よくある質問
Q. 催告への回答や売渡請求への対応に、費用はかかりますか。 催告に回答すること自体に費用はかかりません。ただし、売渡請求を受けて権利が移転する場合の登記手続きには、登録免許税や必要書類の取得費用がかかります。具体的な金額は物件や状況によって異なるため、お近くの司法書士にご相談ください。
Q. 催告に回答しないまま放置するとどうなりますか。 定められた期間内に回答しないと、法律上「建替えに参加しない」と回答したものとみなされます。その後は売渡請求の対象になり得るため、催告の書面が届いたら早めに内容を確認し、必要であれば回答することが重要です。マンションの区分所有者になっている間は、管理組合からの通知が届く住所を最新の状態にしておくことも備えの一つです。
Q. 売渡請求の価格交渉は自分でできますか。どこに相談すればいいですか。 価格(時価)の算定や交渉には、不動産の評価や個別事情の考慮が必要になり、専門的な判断が求められます。当事者間の話し合いで解決しない場合は弁護士への相談が必要です。権利が移った後の登記手続きについては、お近くの司法書士にご相談ください。
【さらに深掘り】売渡請求による権利移転登記の実務
ご注意 以下は執筆時点(2026年09月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
売渡請求によって区分所有権・敷地利用権が移転した場合の登記手続には、通常の売買による所有権移転登記とは異なる実務上の留意点があります。ここでは、①登記原因証明情報の作り方、②登記義務者の協力が得られない場合の対応、③敷地利用権が賃借権など所有権以外の権利である場合の留意点、の3点を取り上げます。
登記原因証明情報の作り方
通常の売買による所有権移転登記では、売買契約書そのもの、またはこれに準じて売主・買主双方が署名(記名押印)した報告形式の書面を登記原因証明情報として提出するのが一般的です。売買が「双方の意思表示の合致(契約)」によって成立する法律行為だからです。
これに対して売渡請求は、請求する側(建替えに参加する区分所有者ら)が一方的な意思表示をすることで効果が生じる形成権とされており、権利が移転すること自体には、相手方(登記義務者となる区分所有者)の承諾や共同の意思表示を要しません。そのため登記原因証明情報も、双方が署名する売買契約書の形をとることは想定しにくく、売渡請求の意思表示をした事実とその到達を記載した報告形式の書面に、それを裏づける資料(内容証明郵便の謄本、配達証明等)を添えて提出する形になると考えられます。登記原因の日付も、意思表示が相手方に到達した日(形成権行使の効果が生じた日)を基準に記載するのが実務上の考え方になると思われます。
ただし、実体法上の権利移転に相手方の関与が要らないことと、登記申請の際にどの書面を誰の名義で作成するかとは、別の問題です。所有権移転登記そのものは、判決による場合などを除けば登記権利者と登記義務者が共同で申請するのが原則ですので(不動産登記法60条)、報告形式の書面をどちらの名義で作成するかを含め、具体的な書式・運用は個別の登記所の取扱いによって異なり得ます。この点について確定的なことは確認できず、実際の申請にあたってはお近くの司法書士にご相談ください。
登記義務者の協力が得られない場合
売渡請求の効果について、学説・裁判例は、形成権である売渡請求権の行使の意思表示が相手方に到達すると直ちに、相手方の区分所有権及び敷地利用権を目的とする時価による売買契約が成立し、その売買契約の効果として区分所有権及び敷地利用権が相手方から請求権行使者に移転する、と整理しています。そして、相手方は専有部分の引渡義務及び登記移転義務を負い、請求権行使者は時価による売買代金支払義務を負って、この両者の義務は同時履行の関係に立つとされます(東京地判平成16年7月13日・金融法務事情1737号42頁。区分所有法63条4項〔現5項〕に関する下級審の裁判例です)。
このように実体上の権利移転自体は意思表示の到達によって生じるとされていますが、登記簿上の名義変更(所有権移転登記)には、登記義務者(売渡請求を受けた区分所有者)の協力、具体的には登記識別情報(または登記済証)・印鑑証明書の提供や、登記申請書への押印・委任状の交付が必要になるのが通常です。
売渡請求を受けた側がこうした協力に応じない場合、登記権利者(売渡請求をした側)としては、まず任意の履行を求めたうえで、それでも応じてもらえなければ、登記義務者に対して登記手続をせよという判決を求める民事訴訟を提起し、確定判決を得たうえで、その判決に基づいて単独で登記を申請するという手続きを取ることが制度上考えられます(不動産登記法63条1項)。この訴訟では、売渡請求の意思表示が有効にされ、相手方に到達したこと(=権利移転の効果が生じたこと)自体が争点になる場合もあるため、催告や売渡請求の書面・配達記録を保存しておくことが実務上重要になります。
なお、前記のとおり、登記移転義務と代金支払義務は同時履行の関係に立つと解されています。もっとも、同時履行の抗弁は、相手方が訴訟の中でそれを主張してはじめて考慮されるものです。相手方がこれを主張し、かつ代金がまだ支払われていない場合には、判決が「代金の支払と引換えに登記手続をせよ」という形(引換給付判決)になることも考えられます。その場合に単独申請をどのように進めることになるかは手続上の検討を要する事柄であり、この記事では立ち入りません。
どの段階で訴訟提起を検討すべきか、提起前にどのような資料を整えておくべきかは、当事者間のやり取りの経緯によって大きく異なり、この記事で一律の目安を示すことはできません。登記義務者の協力が得られず手続きが進まない場合は、早めにお近くの司法書士にご相談ください。
敷地利用権が賃借権など所有権以外の権利である場合
この記事では区分所有権とともに敷地利用権が問題になる場面を前提に説明していますが、敷地利用権の内容は必ずしも所有権とは限らず、賃借権や地上権であるマンション(借地権付きマンション)も存在します。
多くのマンションでは、専有部分と敷地利用権が分離して処分できないよう一体のものとして扱われ(区分所有法22条1項)、登記記録上も専有部分の表題部に敷地権として一体的に登記されています。このように敷地権化がされている場合は、専有部分についてした所有権移転登記が、敷地権(賃借権であっても)についてされた登記としての効力を持つため(不動産登記法73条1項)、敷地利用権の移転についても、土地について別途の登記申請をすることなく効力が及ぶ扱いになります。
ただし、これはあくまで登記手続の面での話です。敷地利用権が賃借権である場合に、その移転について賃貸人(土地所有者)の承諾が必要かどうかという実体法上の問題(次に述べます)は、登記の効力とは別に検討を要する事柄であり、敷地権化されているから承諾の問題が生じない、ということにはなりません。
一方、規約で分離処分が可能とされているなど、敷地権化がされていない古いマンション等では、専有部分の所有権移転登記とは別に、敷地利用権(賃借権の準共有持分等)についても移転の対抗要件を備えるための手続きが必要になる場合があります。敷地利用権が賃借権である場合、賃借権の譲渡には原則として賃貸人(土地所有者)の承諾を要するとされています(民法612条)。区分所有法上の売渡請求という法律の規定に基づく権利移転にこの承諾の問題がどこまで及ぶのかについては、前掲の東京地判平成16年7月13日が、借地権の売買においては地主の承諾が地主に対する対抗要件となるから売主は地主の承諾を得る義務を負うとしたうえで、このことは区分所有法63条4項(現5項)の売渡請求権の行使により売買契約が成立した場合であっても異ならない、と判断しています。つまり、この裁判例は、売渡請求を受けて売り渡す側が地主の承諾を取り付ける義務を負う、という整理をしたことになります。ただし、これは下級審(地方裁判所)の裁判例であり、控訴がされたと紹介されているため、その後の経過や、同じ問題についての最高裁の判断は確認できませんでした。したがって、この整理が一般的な取扱いとして確立しているとまでは言えず、実際の事案では別の考え方が採られる可能性も残ります。敷地利用権が賃借権であり、かつ敷地権化されていないマンションで売渡請求が問題になるケースは、通常の敷地権付き区分建物のケースよりも論点が多いと考えられ、個別の状況によって取扱いが異なりますので、該当する事案では早めにお近くの司法書士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年09月)。
- 建物の区分所有等に関する法律 第22条・第62条・第63条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/337AC0000000069
- 民法 第177条・第612条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 不動産登記法 第44条・第60条・第63条・第73条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- マンションの再生等の円滑化に関する法律 第9条・第14条・第15条、附則(令和7年法律第47号)第1条・第5条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/414AC0000000078
※ 次の資料は一次情報ではなく、解説・評釈などの二次資料ですが、内容確認の参考にしたため一次情報と区別して掲載しています。
- 一般財団法人不動産適正取引推進機構「RETIO」No.62(2005年11月)58〜59頁「マンションの建替えに参加しない区分所有者に、建物を引き渡す義務があるとされた事例(東京地判 平16・7・13 金法1737-42)」: https://www.retio.or.jp/wp-content/uploads/2024/11/retio_hanrei_62_10.pdf