この記事の要点

  • アパートの大家さんが亡くなっても賃貸借契約は終わらず、貸主(賃貸人)の立場は相続人に引き継がれます
  • 入居者から預かっている敷金を返す義務も、家賃を受け取る権利と一緒に引き継がれます
  • 遺産分割が終わるまでの家賃は、各相続人が相続分に応じて受け取るものとされ、後の遺産分割の結果に左右されないとした最高裁判決があります
  • 入居者には、貸主が変わったことと家賃の振込先・連絡先を早めに知らせましょう
  • 相続登記は、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内の申請が義務です

アパートやマンションの一室、貸家などを人に貸していた方が亡くなったとき、結論からいうと、入居者との契約はそのまま続き、貸主の立場は相続人が引き継ぎます。入居者に出ていってもらう必要はなく、相続人が新しい大家さんとして家賃を受け取り、修繕や敷金の返還といった貸主の義務も負うことになります。

この記事では、貸している側(大家さん)の相続にしぼって、入居者への通知、敷金、遺産分割までの家賃の扱い、相続登記と管理会社への連絡を順に整理します。反対に、亡くなった方が部屋を借りていた側だった場合は、借りている家(借家権)の相続の記事をご覧ください。

貸主の立場は相続人に引き継がれる

民法896条は、相続人は、亡くなった方の財産に属した一切の権利義務を引き継ぐと定めています。賃貸借契約の貸主としての立場(賃貸人の地位)もこれに含まれます。相続があったことを理由に契約が終わるわけではなく、入居者はそれまでどおり住み続けることができます。

引き継ぐのは、家賃を受け取る権利だけではありません。

  • 建物の修繕など、貸主としての義務
  • 入居者から預かっている敷金を、退去時に返す義務
  • 契約書で決めた更新や解約のルール

といった内容も、まとめて引き継ぐことになります。

相続人が複数いる場合、遺産分割(相続人どうしで誰が何を引き継ぐかを決める話し合い)が終わるまでは、アパートは相続人全員の共有となります(民法898条1項)。この間は、相続人全員が共同で貸主の立場にあると考えておくとわかりやすいでしょう。

入居者への通知と家賃の振込先

貸主が亡くなったことを入居者が知らないままだと、家賃が亡くなった方名義の口座に振り込まれ続けたり、修繕の依頼先がわからなくなったりします。相続人のほうから、早めに入居者へ知らせるのが基本です。

通知に入れる項目としては、一般に次のようなものが考えられます。

  • 貸主(大家さん)が亡くなり、相続人が貸主の立場を引き継いだこと
  • 当面の連絡窓口となる人の氏名と連絡先
  • 今後の家賃の振込先(口座名義・口座番号)と、切り替えの時期
  • 管理会社に任せている場合は、その管理会社の名称と連絡先

亡くなった方名義の口座は、金融機関に相続(死亡)の連絡をすると、その口座での入出金などの取引が原則として制限されます(全国銀行協会「預金相続の手続の流れ」)。家賃の振込先を切り替えないまま放っておくと、入居者が振り込めなくなって困ることになるため、通知とあわせて振込先の変更を早めに済ませておきましょう。

相続人が複数いる場合は、入居者が「誰に払えばよいのか」と迷わないよう、窓口と振込先を相続人の間で一本化しておくことが大切です。誰が貸主かわからない状態が続くと、入居者は家賃を法務局に預ける「供託」という方法を使うことがあります(民法494条2項。家賃を受け取ってもらえない・受け取る人が分からないときに借りている側が使う制度で、詳しくは家賃の供託の記事で解説しています)。

敷金を返す義務も引き継ぐ

敷金は、家賃の滞納などに備えて入居者から預かっているお金です。民法622条の2は、賃貸借が終わって物件が返されたときなどに、貸主は、受け取った敷金から未払いの家賃などを差し引いた残りを返さなければならないと定めています。

この敷金を返す義務も、貸主の立場と一緒に相続人に引き継がれます。亡くなった方が預かったお金だからといって、相続人が返さなくてよいことにはなりません。

相続が起きたときに確認しておきたいのは、次のような点です。

  • 入居者ごとの賃貸借契約書と、敷金の預かり額がわかる資料
  • 敷金をどの口座で保管していたか(家賃と同じ口座か、別口座か)
  • 管理会社が敷金を預かっているかどうか

遺産分割でアパートを引き継ぐ人を決めるときは、預かっている敷金の総額もあわせて確認しておくと、退去のときに慌てずに済みます。なお、入居者の立場から見た敷金の返還をめぐる手続きは、敷金が返ってこないときの手続きで整理しています。

遺産分割までの家賃は誰のものか

相続人が複数いて、遺産分割がまだ終わっていない間に入ってくる家賃は、誰が受け取るものなのでしょうか。

この点について、最高裁判所平成17年9月8日判決(平成16年(受)第1222号)は、相続が始まってから遺産分割までの間に共同相続された不動産から生じる家賃(賃料債権)は、遺産とは別の財産であって、各相続人がその相続分に応じて確定的に取得し、後にされた遺産分割の影響を受けないと判断しています。もっとも、判決文は、ここでいう「相続分」が、遺言による相続分の指定(民法902条)や法定相続分(民法900条・901条)を指すのか、特別受益や寄与分を考慮した相続分まで含むのかといった中身までは明示していません(詳しくは後半の深掘りで触れます)。

たとえば、遺産分割の結果、アパートは長男が引き継ぐことに決まったとしても、それまでに入ってきた家賃が、さかのぼってすべて長男のものになるわけではありません。遺産分割で物件を引き継ぐ人が決まった後の家賃は、その人が受け取ることになります。

窓口となる相続人がいったん家賃をまとめて受け取る場合は、受け取った家賃と、修繕費や管理費などの支出を記録しておき、後で相続人の間で精算できるようにしておくと、もめごとを防ぎやすくなります。分け方をめぐって話がまとまらない場合の交渉は弁護士の分野です。

また、相続放棄(相続人にならないための家庭裁判所での手続き)を考えている方は注意が必要です。相続財産を処分すると、相続を認めた(単純承認した)ものとみなされることがあります(民法921条1号)。相続が始まった後に生じる遺産分割前の家賃は遺産そのものではないとされていますが(亡くなる前の期間の分で未払いになっている家賃は、亡くなった方の財産として相続財産に含まれます)、家賃の受け取りや使い方が相続を認めたものと評価されるかどうかは個別の事情によるため、受け取った家賃を自分のために使ってしまう前に、専門家に相談しておきましょう。

相続登記と管理会社への連絡

相続登記は3年以内に

アパートの名義を相続人に移す相続登記は、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請することが義務になっています(不動産登記法76条の2第1項)。正当な理由がないのに申請しなかった場合は、10万円以下の過料(行政上の罰金のようなもの)の対象になります(同法164条1項)。

また、2026年4月1日からは、所有権の登記名義人の氏名や住所が変わったときに、変わった日から2年以内に変更の登記を申請することも義務になっています(同法76条の5。正当な理由がないのに申請しなかった場合は、5万円以下の過料の対象になります。同法164条2項)。相続登記でアパートの名義人になった相続人が、その後に引っ越した場合なども対象になります。

賃貸物件は、登記の名義が亡くなった方のままだと、入居者や管理会社に「誰が今の貸主なのか」を説明しにくくなります。売却や建て替え、金融機関からの借入れを考える場面でも、まず相続登記が必要になります。登記が済んだ後に必要な手続きの全体像は、相続登記が終わったら次にやることでまとめています。

管理会社との契約を確認する

アパートの管理を管理会社に任せていた場合は、管理委託契約の扱いを確認します。管理委託契約の中身や、貸主が亡くなった場合の扱いは、契約書によって異なります。民法は、委任について、委任者の死亡を契約の終了事由と定めているため(民法653条1号)、管理委託契約のうち委任に当たる部分がこの規定でどう扱われるか、契約書に貸主が亡くなった後の扱いについての定めがあるかを、まず契約書で確かめることになります。

いずれにしても、管理会社には早めに相続があったことを伝え、

  • 管理委託契約の名義をどうするか
  • 家賃の送金先をどこに変えるか
  • 預かっている敷金や鍵、入居者の情報をどう引き継ぐか

を確認しておきましょう。

税金と入居者とのトラブルの相談先

賃貸アパートの相続では、税金の手続きも関係します。亡くなった年の亡くなった方の所得についての準確定申告(所得税)、相続後に相続人が受け取る家賃についての所得税(不動産所得)、遺産の額によっては相続税が問題になります。具体的な計算や申告は税理士にご相談ください。

家賃の滞納、退去の求め、家賃の値上げ交渉など、入居者との間で話がこじれた場合の交渉や裁判は、原則として弁護士の分野です。訴訟の目的の価額が140万円以下で簡易裁判所が扱う事件であれば、法務大臣の認定を受けた司法書士(認定司法書士)が代理できる場合もあります。

まとめ

賃貸アパートを相続しても、入居者との契約はそのまま続き、貸主の立場は相続人に引き継がれます。家賃を受け取る権利だけでなく、修繕や敷金の返還といった義務も一緒に引き継ぐ点に注意が必要です。入居者には貸主が変わったことと家賃の振込先・連絡先を早めに知らせ、相続人が複数いる場合は窓口と振込先を一本化しておきましょう。遺産分割までの家賃は各相続人が相続分に応じて受け取るものとされているため、受け取りと支出の記録を残しておくことも大切です。相続登記は3年以内の申請が義務になっています。名義の手続きや必要書類で迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 賃貸アパートの相続登記には、どのくらいの費用がかかりますか?

主な費用は、登録免許税(登記の際に国に納める税金)と、戸籍などの必要書類の取得費用です。登録免許税は、原則として固定資産税評価額をもとに計算します(相続による所有権移転登記の税率は1000分の4。登録免許税法別表第1第1号(2)イ)。なお、土地については、令和9年(2027年)3月31日までに受ける相続登記で、登録免許税の課税標準となる土地の価額が100万円以下の場合などに、登録免許税が免除される措置があります(租税特別措置法84条の2の2。建物は対象外です)。司法書士に依頼する場合は、その報酬が別にかかります。物件の評価額や相続人の数によって変わるため、具体的な見積もりは依頼先に確認しましょう。

Q. 入居者への通知や相続登記を放っておくと、どうなりますか?

入居者への通知が遅れると、家賃が亡くなった方名義の口座に振り込まれて引き出せなくなったり、入居者が支払先に困って家賃を供託したりすることがあります。相続登記は、不動産を取得したことを知った日から3年以内の申請が義務で、正当な理由なく申請しないと10万円以下の過料の対象になります。売却や建て替えの際にも、まず登記が必要になります。

Q. 自分で手続きできますか? どこに相談すればいいですか?

入居者への通知や振込先の変更は、相続人自身で進めることができます。相続登記も自分で申請することはできますが、戸籍の収集や遺産分割協議書の作成など準備が多いため、不安があればお近くの司法書士に相談するとよいでしょう。家賃収入や相続税の申告は税理士へ、入居者との滞納・明渡しなどのトラブルは弁護士へ相談するのが基本です。


【さらに深掘り】遺産分割前の家賃・敷金と、共同相続中の賃貸管理

ご注意 以下は執筆時点(2026年11月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

平成17年判決の判示と「遺産分割の影響を受けない」の意味

本文で紹介した最高裁判所平成17年9月8日第一小法廷判決(平成16年(受)第1222号、民集59巻7号1931頁)の事案では、相続人らは、物件から生じる賃料や管理費等を「遺産分割で物件の帰属が確定した時点で清算する」こととして専用の口座を開設し、賃料をその口座に振り込ませて管理していました。遺産分割の決定が確定した後、その口座の残金の分け方をめぐって争いになったものです。

原審は、遺産から生じる法定果実を取得する権利は遺産の所有権を取得した者に帰属し、遺産分割の効力は相続開始の時にさかのぼる(民法909条本文)以上、遺産分割で物件を取得した相続人が相続開始後の賃料も取得すると判断しました。最高裁はこれを破棄し、次の2点を示しています。

  • 相続開始から遺産分割までの間に、遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生じる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産であり、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得する
  • 遺産分割は相続開始の時にさかのぼって効力を生じるが、確定的に取得された賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けない

つまり、民法909条の遡及効は物件そのものの帰属には及ぶものの、分割前にすでに各相続人が取得した賃料債権の帰属まで、さかのぼって組み替えるものではないという整理です。また、この事案には「清算は遺産分割の後に行う」という相続人間の取り決めがありましたが、最高裁は、口座の残金は各相続人が相続分に応じて賃料債権を取得したことを前提に清算されるべきであるとしました。この事案では、清算の時期を遺産分割の後とする取り決めがあっても、清算の基準は相続分に応じた取得とされたことになります。もっとも、判決はこの取り決めの意味を詳しく論じているわけではないため、取り決めの内容が異なる場合にどう扱われるかまでは、この判決から直ちには決まらない点に注意が必要です(相続人全員の合意については、後の「相続人全員の合意で家賃も遺産分割に含められるか」で触れます)。

判決は「相続分に応じて」と述べていますが、この相続分に、特別受益や寄与分を考慮した、いわゆる具体的相続分まで含まれるのかは、判決文には明示されていません。なお、遺産の共有に共有の規定を適用するときの各相続人の共有持分は、民法900条から902条までの規定により算定した相続分とされています(民法898条2項)。また、判決の参照法条には、法定果実は収取する権利の存続期間に応じて日割計算で取得すると定める民法89条2項も挙げられており、遺産分割の成立日をまたぐ期間の家賃を分ける際の手がかりになります。

賃料債権が相続分に応じた分割単独債権とされる以上、各相続人が入居者に直接請求できるのは、自分の相続分に当たる部分にとどまるのが原則と考えられます。窓口と振込先の一本化(本文参照)は、この点からも意味があります。

一人の相続人が家賃をまとめて受け取っている場合の精算

判決の考え方からすると、窓口役の相続人が受け取った家賃のうち、他の相続人の相続分に当たる部分は、もともとその相続人に帰属するものです。窓口役と他の相続人との関係は、一般論として次のように整理できます。

  • 相続人どうしで「窓口役が受け取って管理する」と取り決めていた場合は、委任の関係と見る余地があり、受け取った金銭の引渡し(民法646条1項)や、事務処理の状況・結果の報告(民法645条)が問題になります
  • 取り決めがないまま、他の相続人のために受け取って管理していた場合は、事務管理(民法697条)として、受け取った金銭の引渡しや報告(民法701条による645条・646条の準用)、他の相続人のために支出した有益な費用の償還(民法702条1項)が問題になります
  • 法律上の原因なく他の相続人の分まで自分のものとしていた場合は、不当利得として返還の問題になり(民法703条)、悪意の受益者であれば利息を付して返還しなければなりません(民法704条)

修繕費や管理費などの支出については、各共有者は持分に応じて管理の費用を支払うとされています(民法253条1項)。どの構成によるか、いくらを返すべきかは事実関係しだいであり、相続人の間で争いになった場合の交渉や裁判は弁護士の分野です。

相続人全員の合意で家賃も遺産分割に含められるか

平成17年判決は、賃料を遺産分割の対象に含めるという相続人全員の合意が認定されていない事案について、賃料債権の帰属を判断したものです。相続人全員が合意して、分割前の家賃も含めて遺産分割とあわせて精算することの可否について判断を示したものではありません。各相続人がすでに取得した家賃をどう扱うかを相続人全員で取り決めることまで、この判決が否定しているわけではないと読むのが自然でしょう。

一方で、合意ができない場合、分割前の家賃は遺産そのものではないため、遺産分割とは別に精算を求めることになります。現に、平成17年判決の事件自体も、遺産分割の手続とは別の民事訴訟(預託金返還請求事件)で争われています。

敷金返還債務は共同相続人にどう帰属するか

本文のとおり、敷金を返す義務は貸主の立場とともに相続人に引き継がれます。民法622条の2第1項は、賃貸借が終了し、かつ賃貸物の返還を受けたとき等に、受け取った敷金の額から賃借人の金銭債務の額を控除した残額を返還しなければならないと定めています。相続人が複数いる場合に、この債務を各相続人がどの範囲で負うかについては、考え方が分かれうるところです。

  • 金銭の支払を目的とする債務であることを重視すれば、各相続人は相続分に応じて分割された債務を負うという方向になります(民法899条、427条参照)
  • 敷金返還債務が、共同相続人が共同で引き継いだ貸主の立場と結びついた債務であることを重視して、性質上の不可分債務(民法430条)と見る考え方もありえます。この見方によれば、不可分債務には連帯債務の規定が準用されるため(民法430条・436条)、入居者は相続人の一人に対して全額の返還を請求できることになります

どちらの考え方によるかで、入居者が誰に対していくら請求できるかが変わります。入居者との関係とは別に、相続人どうしの内部でどう負担するかも、遺産分割の際にあわせて整理しておくべき問題です。返還額をめぐって入居者との間で争いになった場合は、弁護士(訴訟の目的の価額が140万円以下の簡易裁判所の事件であれば認定司法書士)の分野です。

共同相続中の賃貸管理と共有物の管理の規定

遺産分割までの間、アパートは相続人の共有に属し(民法898条1項)、共有に関する規定が適用されます。その際の各相続人の持分は、前述のとおり相続分で算定します(同条2項)。賃貸経営に関わる行為を共有物の管理の規定に当てはめると、おおむね次のように整理できます。

  • 保存行為(物件の現状を維持するための行為):各相続人が単独でできます(民法252条5項)
  • 管理に関する事項(例えば、管理会社への委託や家賃の振込先の指定などが考えられます):持分の価格に従い、その過半数で決めます(民法252条1項)。共有物の管理者の選任・解任もこれに含まれます
  • 新たな賃貸借の設定:過半数の決定で設定できるのは、建物の賃借権等であれば3年を超えないものと定められています(民法252条4項3号)。借地借家法の適用がある建物賃貸借の更新の扱いとの関係も含め、新たに貸す・貸し直す場面は個別の確認が必要です
  • 形状又は効用の著しい変更を伴う変更:相続人全員の同意が必要です(民法251条1項)

共有物の管理者を選任すると、管理者は共有物の管理に関する行為をすることができます(民法252条の2第1項本文。ただし、変更には共有者全員の同意が必要です。同項ただし書)。管理者は、共有者が管理に関する事項を決めたときはそれに従って職務を行わなければならず(同条3項)、これに違反した行為は共有者に対して効力を生じませんが、善意の第三者には対抗できません(同条4項)。窓口役の相続人の権限の根拠と範囲をはっきりさせる方法の一つといえます。

また、所在のわからない相続人がいる場合や、相当の期間を定めて催告しても賛否を明らかにしない相続人がいる場合には、裁判所の裁判を得て、それ以外の相続人の持分の価格の過半数で管理に関する事項を決める仕組みもあります(民法252条2項)。

なお、分割前の家賃がどの相続人に帰属するかは、家賃収入に関する所得税(不動産所得)の申告とも関係します。具体的な申告は税理士にご相談ください。

【さらに深掘り】賃貸物件の相続登記──賃借権の登記・敷地権・相続人申告登記・アパートローンの抵当権

ご注意 以下は執筆時点(2026年11月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

乙区に賃借権の登記がある場合・ない場合

不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その不動産について物権を取得した者その他の第三者に対抗することができます(民法605条)。また、建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生じます(借地借家法31条)。そのため、アパートの各部屋について登記事項証明書の乙区に賃借権の登記がなくても、入居者が部屋の引渡しを受けていれば、それだけで入居者の立場が弱くなるわけではありません。

もっとも、相続の場面では、相続人は亡くなった方の権利義務を引き継ぐ立場にあり(民法896条)、入居者との関係は、本文のとおり貸主の地位の承継として続きます。賃借権の登記や建物の引渡しといった対抗要件が実際に意味を持つのは、主に、相続人がその後に物件を売却したときなど、新たに物権を取得する人が現れる場面です。

乙区に賃借権の登記がされている場合、その登記事項は、権利に関する登記に共通の事項(登記の目的、登記原因及びその日付、権利者である賃借人の氏名・住所など。不動産登記法59条)のほか、賃料、存続期間や賃料の支払時期の定め、賃借権の譲渡・転貸を許す旨の定め、敷金があるときはその旨などです(同法81条)。相続登記との関係では、次の点を押さえておくとよいでしょう。

  • 相続による所有権の移転の登記は甲区にされるもので、乙区の賃借権の登記は、相続登記をしてもそのまま残ります
  • 賃貸人の氏名は賃借権の登記事項として掲げられていないため(同法59条・81条)、所有者が相続で代わったことだけを理由に、賃借権の登記を書き換える必要は生じないと考えられます
  • 乙区の記録は登記をした時点の内容です。その後に賃料などの契約内容が変わっていても、変更の登記がされていなければ登記記録には反映されていないため、現在の契約内容は賃貸借契約書で確かめる必要があります
  • 入居者がすでに退去しているのに賃借権の登記が残っている場合、その抹消の登記は、原則として登記権利者と登記義務者が共同で申請するものであるため(同法60条)、賃借人側の協力が必要になります

一棟アパートと区分所有の部屋──登記の単位と確かめる箇所

一棟のアパート(区分建物として登記されていないもの)の場合、建物と土地はそれぞれ別の登記記録になっており、相続登記も土地と建物の双方について行います。敷地が複数の筆(土地の登記上の単位)に分かれていたり、駐車場や通路として使っている土地が別の筆になっていたりすることもあります。また、物置などが附属建物として建物の登記記録に記録されている場合もあります(不動産登記法44条1項5号)。固定資産税の課税明細書や名寄帳(市区町村が所有者ごとに不動産をまとめた一覧)などを手がかりに、亡くなった方名義の土地・建物を漏れなく洗い出しておくと、登記漏れを防ぎやすくなります。

登記事項証明書では、主に次の箇所を確かめます。

  • 表題部:物件を特定する事項(建物であれば、所在、家屋番号、種類・構造・床面積など。同法44条1項)。申請の際に書く不動産の表示と一致させる必要があります
  • 甲区:現在の所有権の登記名義人が亡くなった方か、すでに共有になっていないか
  • 乙区:抵当権・根抵当権の登記や、賃借権の登記の有無

マンションの一室などの区分建物では、建物の表題部に、その部屋が属する一棟の建物の構造・床面積などと、部屋(専有部分)の表示が記録されます(同法44条1項7号ほか)。区分所有者の専有部分と分離して処分できない敷地利用権で登記されたもの(敷地権)があるときは、その敷地権も建物の表題部に記録され(同項9号)、敷地の土地の登記記録には、登記官の職権で、所有権などが敷地権である旨の登記がされます(同法46条)。

敷地権付き区分建物についての所有権の登記は、原則として、敷地権である旨の登記をした土地の敷地権についてされた登記としての効力を有します(同法73条1項本文)。そのため、敷地権付きの部屋の相続登記は、建物について申請すれば、敷地権にも効力が及びます。

一方、建物の表題部に敷地権の記録がない区分建物では、建物とは別に、敷地の共有持分などについて土地の相続登記が必要になります。表題部に敷地権の記録があるかどうかは、区分建物の相続登記で最初に確かめておきたい点です。

共有で相続登記をする場合と、賃貸人の地位の整理

遺産分割の前に、法定相続分(民法900条・901条により算定した相続分)に応じて、相続人全員の共有名義で相続登記をすることもできます。この場合、甲区には相続人ごとの持分が記録されます(不動産登記法59条4号)。

その後の遺産分割で、相続人の一人が法定相続分を超えて所有権を取得したときは、遺産分割の日から3年以内に、その分の登記を申請しなければなりません(同法76条の2第2項)。この登記について、令和5年3月28日付け法務省民二第538号通達は、令和5年4月1日以後の申請から、所有権の更正の登記によることもでき、その場合は登記権利者(遺産分割で取得した相続人)が単独で申請できるという取扱いを示しています。登記原因証明情報としては、遺産分割協議書(申請人以外の相続人の印鑑に関する証明書を含みます)や遺産分割の調停調書の謄本などが挙げられています。ただし、登記上の利害関係を有する第三者がある場合に、その第三者の承諾がなければ申請できないことなどは従前のとおりとされています(同通達。不動産登記法66条等)。例えば、ある相続人の持分について差押えや抵当権の登記がされている場合などが考えられます。

賃貸人の地位については、条文の置かれ方に注意が必要です。民法605条の2第1項は、賃貸借の対抗要件を備えた不動産が「譲渡されたとき」に、賃貸人たる地位がその譲受人に移転すると定め、同条3項は、その移転は所有権の移転の登記をしなければ賃借人に対抗できないとしています。また、民法605条の3は、不動産の譲渡人が賃貸人であるときに、譲渡人と譲受人の合意により、賃借人の承諾を要しないで賃貸人たる地位を譲受人に移転させることができると定めています。いずれも、売買などの譲渡の場面を定めた規定です。

これに対し、相続による承継は、亡くなった方の権利義務を一括して引き継ぐ包括承継であり(民法896条)、本文で触れた貸主の地位の承継は、この規定によって説明されます。遺産分割によって相続人の一人がアパートを取得した場合については、民法899条の2第1項が、法定相続分を超える部分の承継は、登記その他の対抗要件を備えなければ第三者に対抗できないと定めています。ただ、入居者がここでいう「第三者」に当たるかどうかを条文は明示しておらず、ここで断定することはできません。遺産分割で物件を取得した相続人が、入居者や管理会社に自分が貸主であることを示す場面に備えるなら、遺産分割の結果を反映した登記を済ませておくと、登記記録で説明できるため、疑問を持たれにくくなります。

なお、相続人がその後アパートを売却したときは、民法605条の2が問題になります。入居者が対抗要件(賃借権の登記や建物の引渡し)を備えていれば、賃貸人たる地位は買主に移転し(同条1項)、敷金の返還に係る債務なども買主が承継します(同条4項)。買主がその移転を入居者に対抗するには、所有権の移転の登記が必要です(同条3項)。

相続人申告登記を使った場合に残ること

相続人申告登記(不動産登記法76条の3)は、相続人が登記官に対し、所有権の登記名義人について相続が開始した旨と、自らがその相続人である旨を申し出る制度です(同条1項)。申請義務の期間内に申出をすれば、相続登記の申請義務を履行したものとみなされます(同条2項。申出の前にされた遺産分割による取得を除きます)。申出があったときは、登記官が職権で、その旨や申出をした者の氏名・住所などを所有権の登記に付記します(同条3項)。

この仕組みは所有権の登記に付記をするものであり、所有権の登記名義人は亡くなった方のまま変わりません。法務省も、相続人申告登記は不動産についての権利関係を公示するものではないため、相続した不動産を売却したり、抵当権を設定したりする場合には、別途、相続登記の申請が必要であると案内しています。

賃貸物件では、この違いが日常の手続に表れやすい点に注意が必要です。

  • 管理会社や入居者に現在の貸主が誰かを説明する場面でも、登記記録上の所有者は亡くなった方の名義のままです
  • アパートローンの借換えや追加の借入れなど、物件を担保にする手続では、金融機関から相続登記を求められることがあります
  • 申出の後に遺産分割で所有権を取得したときは、遺産分割の日から3年以内に所有権の移転の登記を申請しなければなりません(同条4項)

相続人申告登記は、遺産分割がまとまるまでの間、申請義務の期限に対応するための手段と位置づけておくのがよいでしょう。

アパートローンの抵当権と債務者の変更の登記

アパートの建築や購入に借入れを利用していた場合、乙区に金融機関を抵当権者とする抵当権(または根抵当権)の登記がされ、債務者として亡くなった方が記録されていることがあります。相続による所有権の移転の登記は甲区にされるもので、乙区の抵当権の登記はそのまま残り、登記記録上の債務者の表示も自動的には変わりません。

借入れを相続人の誰がどのように引き継ぐかが金融機関との間で決まると、それに合わせて、抵当権の債務者の変更の登記を申請するのが一般的な流れです。権利に関する登記は、原則として登記権利者と登記義務者の共同申請によるため(不動産登記法60条)、債務者の変更の登記も、金融機関(抵当権者)と物件の所有者が共同で申請する形になります。なお、相続人が亡くなった方に代わって登記を申請できる仕組み(不動産登記法62条)は、亡くなった方自身が申請人になれた登記、つまり生前に原因が生じていた登記についてのものです。債務の引継ぎは相続が始まった後に決まるものなので、この仕組みにそのまま当てはまるとは限りません。実際、甲府地方法務局は、抵当権の抹消の登記について、弁済や解除の日が登記名義人の死亡より後であれば、相続登記をした後でなければ抹消の登記を申請することはできないと案内しています(「(根)抵当権抹消の登記申請の注意事項」)。相続開始後に決まった債務の引継ぎによる債務者の変更の登記も、これと同じ考え方によれば、所有権の相続登記を先に済ませることになると考えられます。申請の順序は、申請先の法務局や金融機関と事前に確認しておくと安心です。登録免許税は、変更の登記として不動産の個数1個につき1000円です(登録免許税法別表第1第1号(14))。土地と建物の双方に抵当権が設定されていれば、それぞれが1個として数えられます。

また、団体信用生命保険が付いた借入れであれば、保険金で残りの借入れが返済され、抵当権の抹消の登記をする流れになることもあります(登記の抹消の登録免許税は、不動産の個数1個につき1000円。同一の申請書で20個を超える不動産について受ける場合は申請1件につき2万円。同表第1号(15))。

借入れ(債務)を誰がどのように引き継ぐかは、相続人どうしの遺産分割の話し合いだけで金融機関との関係まで決まるものではなく、金融機関との協議が必要になるのが一般的です。債務の引継ぎ方の個別の判断や、相続税の計算で借入金をどう扱うか(債務控除)などは、金融機関や税理士にご確認ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年11月・いずれも一次情報です)。

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