この記事の要点

  • 登記簿の床面積と現況の建物が食い違っていると、買主の住宅ローン審査や重要事項説明で問題になることがあります(一般論)
  • 売却前に、増築部分を登記記録に反映させる表題部変更登記を済ませておくのが基本です。申請の依頼先は土地家屋調査士です
  • 増築部分を建てたのが登記名義人本人でない(親名義の家に子が費用を出して増築した等)場合は、区分建物か附属建物かの整理が必要になることがあります
  • 固定資産税の課税床面積と登記簿の床面積は別の記録です。食い違いに気づく手がかりにはなりますが、税額の計算は別の話です
  • 気づいた時点で早めに土地家屋調査士へ相談し、権利関係が絡む場合はあわせて司法書士にも確認するのが安全です

古い実家や住み継いだ持ち家を売りに出そうとしたとき、「増築した部分が登記簿に載っていない」と分かって手が止まる、というケースがあります。**結論から言うと、増築部分が未登記のまま売却の話を進めるのはおすすめできません。**登記簿の記載と実際の建物の状態が違っていると、買主側の住宅ローン審査や重要事項説明の場面で問題になることがあるためです。この記事では、なぜ未登記の増築部分が売却の障害になるのか、売却前にどのような順番で直せばよいか、そして増築部分を建てた人が所有者本人でないときの整理の仕方を、一般的な流れとしてまとめます。

登記簿の床面積と現況が違うと、売却の場面で何が起きるか

建物の登記記録には、所在・家屋番号・種類・構造・床面積といった、建物の物理的な状況を記録する「表題部」があります。増築によって床面積や構造が変わったのに、この表題部の記載を更新していない状態が「未登記の増築」です。

売却の場面では、この食い違いが次のような形で表面化することがあります。

  • 買主の住宅ローン審査:金融機関は担保評価や物件確認の際に登記記録・図面を参照するため、床面積の食い違いが分かると、追加の資料提出や説明を求められたり、審査が滞ったりすることがあります(一般論。実際の審査基準は金融機関ごとに異なります)
  • 重要事項説明:不動産の仲介が入る取引では、登記簿の記載と現況の相違は、仲介業者から買主へ説明される事項になり得ます。売主が把握していた食い違いを仲介業者にも買主にも伝えないまま契約を進めると、後になって、知っていたことを告げなかったのではないかという形で、契約内容をめぐるトラブルに発展する恐れがあります
  • 契約後の指摘:引き渡し後に増築部分の未登記が判明すると、買主から売主へ状況の説明や対応を求められることがあります

いずれも、増築の未登記があるからといって売買契約そのものができなくなるわけではなく、登記簿と現況の食い違いが取引の過程で問題として表面化しやすいという一般的な構造です(なお、増築による表題部の変更登記には申請義務があり、正当な理由なく怠ると過料の対象になり得ます。後述の「よくある質問」もご覧ください)。増築時にそもそも登記の義務があった点は増築したときの登記──床面積が変わったら表題部の変更登記で整理していますので、あわせてご覧ください。

売却前に表題部変更登記を入れる手順──依頼先は土地家屋調査士

未登記の増築部分に気づいたら、売却活動を始める前に、次のような順番で整理していくのが基本です。

  1. 現況と登記簿を突き合わせる:登記事項証明書を取り、記載されている床面積・構造と、実際の建物の状態を見比べます
  2. 増築の経緯を整理する:いつ、誰が、どの部分を増築したのかを、分かる範囲でメモにしておきます。建築確認を取っていたかどうかも確認しておくと、その後の相談がスムーズになります
  3. 土地家屋調査士に相談する:増築部分の測量、建物図面・各階平面図の作成、そして表題部変更登記の申請は、いずれも土地家屋調査士の業務です。**この申請作業そのものを司法書士が代わりに行うことはできません。**依頼先は土地家屋調査士になります
  4. 登記が整ってから売却活動に進む:登記記録が現況と一致した状態にしてから、仲介や契約の手続きに進むのが安全です

申請書の具体的な書き方や必要書類、期限(過料の対象になり得る点を含む)といった手続きの詳細は、増築したときの登記──床面積が変わったら表題部の変更登記で扱っていますので、そちらをご確認ください。

なお、売却の前に整えておきたい登記は、表題部だけとは限りません。登記記録に載っている所有者の住所や氏名が現在のものと食い違っている場合は、権利部の側で住所等の変更登記が必要になります。この住所等の変更登記は、2026年(令和8年)4月1日から、変更があった日から2年以内に申請することが義務づけられました(不動産登記法76条の5)。正当な理由なく怠ると、5万円以下の過料の対象になり得ます(同法164条2項)。施行日より前に引っ越して住所が変わっていた場合も義務の対象になり、2028年(令和10年)3月31日までに変更登記を済ませる必要があります。増築部分の表題部変更登記とあわせて、登記記録上の住所・氏名が現在のものと一致しているかも確認しておくと安心です。住所等の変更登記は権利部の登記ですので、依頼先は司法書士になります。

増築部分を建てた人が名義人と別のとき──子が費用を出した増築などの整理

増築の経緯によっては、増築部分を建てた人と、既存の建物の登記名義人が別人というケースがあります。例えば、親名義の家に、同居する子が費用を出して増築した、といった場合です。

もっとも、費用を出した人が当然にその部分の所有者になるとは限りません。増築部分が既存の建物と構造上一体になっている場合は、既存の建物の一部として扱われることが多く、費用を誰が負担したかは、当事者間の精算や持分の整理という別の問題として現れます。

登記の場面では、増築部分が既存の建物と一体のものとして扱われるのか、それとも構造上・利用上の独立性を備えた「区分建物」として別個に扱われる余地があるのか、あるいは主である建物に従属する「附属建物」として整理されるのかによって、売却時の名義の扱いが変わってきます。どの整理になるかは増築部分の構造・接続状況によって個別に判断されるため、まずは土地家屋調査士に現況を確認してもらう必要があります。区分建物・附属建物の考え方の詳しい整理は、増築したときの登記の深掘り部分でも扱っています。

増築部分の権利関係(誰の持分になるか、贈与や共有の扱いが必要かなど)は、登記記録上の名義の話になるため、司法書士が確認する領域です。増築のいきさつが複雑な場合は、登記記録を直す前の段階で相談しておくと、その後の手続きがスムーズになります。

固定資産税の課税床面積との突合──税額の計算は別の話

増築部分の登記漏れに気づくきっかけとして、固定資産税の納税通知書に書かれている家屋の床面積と、登記簿上の床面積を見比べてみるという方法もあります。市区町村は固定資産税の課税のために独自に家屋調査を行うことがあり、その結果が登記簿の記載と一致しないことがあるためです。

ただし、これはあくまで食い違いに気づくための手がかりの一つです。固定資産税の課税床面積と登記簿の床面積は別の記録です。市区町村が課税台帳の床面積を把握・修正しても、それによって登記簿の記載が直るわけではありません。逆に、表題部変更登記がされると、登記所から市区町村へその旨が通知され、課税台帳に反映される仕組みはあります(地方税法382条)。ただしこの通知は登記がされたときに動くものですので、増築が未登記のままであれば通知も生じません。この場合、市区町村が独自の家屋調査で増築部分を把握していれば、課税台帳の側だけが現況に近づき、登記簿との間に差が生まれることになります。把握の時期や評価の扱いも市区町村の調査によるため、登記簿と課税台帳の床面積が常に一致しているとは限りません。また、増築によって固定資産税の税額がどう変わるか、軽減措置の適用があるかどうかといった税額の計算そのものは、司法書士や土地家屋調査士の業務の範囲外です。具体的な税額については、市区町村の資産税担当の窓口、または税理士にご確認ください。

なお、相続で取得した不動産を売却するときも、売却の前に別の登記(相続登記)を済ませておく必要があるという点で、今回の増築の話と共通する構造があります。詳しくは相続した実家を売りたいとき──売る前にまず「相続登記」、そして知っておきたい税金の話で整理しています。

まとめ

登記簿の床面積と実際の建物の状態が違っていると、買主の住宅ローン審査や重要事項説明の場面で問題になることがあります。未登記の増築部分に気づいたら、売却活動を始める前に、現況と登記簿の突き合わせ、増築経緯の整理、土地家屋調査士への相談という順番で、表題部変更登記を済ませておくのが基本です。増築部分を建てたのが登記名義人本人でない場合や、権利関係の整理が必要な場合は、あわせてお近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 増築部分の登記を直す費用はどれくらいかかりますか?

増築による表題部変更登記そのものに登録免許税はかかりません。実際にかかるのは、土地家屋調査士に依頼する場合の測量・図面作成・申請代理の報酬が中心です。増築の規模や現況の複雑さによって費用は変わるため、依頼先の土地家屋調査士に見積りを取って確認してください。

Q. 未登記のまま放置するとどうなりますか?

増築による表題部の変更登記は、変更があった日から1か月以内に申請する義務があり、正当な理由なく怠ると過料の対象になり得ます(詳しくは増築したときの登記を参照)。売却の場面まで放置していると、契約直前や買主側の審査の段階で食い違いが発覚し、決済のスケジュールが遅れたり、契約条件の見直しを求められたりすることがあります。気づいた時点で早めに動くほど、選べる対応の幅が広がります。

Q. 自分で登記できますか?どこに相談すればいいですか?

表題部変更登記の申請は制度上は所有者本人でも行えますが、増築後の建物図面・各階平面図の作成には測量の専門知識が必要になるため、実務上は土地家屋調査士に依頼するケースがほとんどです。増築部分の権利関係の整理や、売却に伴う名義変更の手続きが必要になる場合は、お近くの司法書士にもあわせてご相談ください。

【さらに深掘り】未登記増築の現地調査から表示登記実務までの流れ

ご注意 以下は執筆時点(2026年09月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

未登記増築を発見したときの現地調査・測量の流れ

未登記の増築部分が見つかった場合、土地家屋調査士は次のような順序で現地の状況を確認していくのが一般的です。

  1. 事前資料の確認:登記事項証明書、登記所備付けの建物図面・各階平面図、公図を取得し、登記記録上の床面積・形状と、想定される増築範囲を突き合わせます。建築確認済証・検査済証が残っていれば、増築部分の当初の設計内容の手がかりになります
  2. 外周・接続部分の実測:増築部分の外周を実測し、既存の建物とどこでどのように接続しているか(壁を共有しているか、屋根が連続しているか、基礎が一体か独立しているか)を確認します。この接続状況の把握が、後述する区分建物・附属建物の判定に直結します
  3. 内部の間取り・動線の確認:増築部分の内部に立ち入り、既存部分との行き来(内部で自由に往来できる開口部があるか、外部を経由しないと行き来できないか)、独立した玄関・トイレ・キッチン等の設備の有無を確認します
  4. 構造・階数の確認:増築が平屋部分への1階増築か、2階部分の増築(既存建物への積み増し)かによって、床面積をどの階に算入するかや図面の表現が変わるため、構造材・柱の位置なども含めて確認します
  5. 測量結果と登記記録の照合:実測結果を登記記録の記載と照合し、変更が必要な項目(床面積・構造・種類など)を整理したうえで、建物図面・各階平面図の作成に進みます

この現地調査の段階で経緯(いつ・誰が増築したか)が分かっていると、後述する区分建物・附属建物の判定や、売買実務上の整理がスムーズに進みます。

建物図面・各階平面図の作成でつまずきやすい点──区分建物・附属建物の判定基準

未登記増築の図面作成で実務上判断が分かれやすいのが、増築部分を既存建物と一体の建物として床面積に算入するのか、区分建物(構造上・利用上の独立性を備えた別個の建物)として扱う余地があるのか、あるいは主である建物に附属する附属建物(表題登記がある建物に附属する建物で、その建物と一体のものとして一個の建物として登記されるもの。例えば離れや倉庫。不動産登記法2条23号)として整理するのか、という点です。なお、附属建物は主である建物と同じ敷地内にあることが多いものの、条文上、同じ敷地内にあることが明文の要件とされているわけではありません。敷地が離れている場合に効用上の一体性をどう見るかは個々の現況によるため、土地家屋調査士への確認が必要になります。

判定にあたって確認される主な観点は次のとおりです。

  • 構造上の独立性:増築部分が壁・床・天井によって他の部分と区画され、独立した建物として扱えるだけの構造を備えているか
  • 利用上の独立性:他の部分を通らずに出入りできる独立した出入口があり、増築部分だけで日常生活が完結できるか(玄関・トイレ・キッチン等の設備が独立して備わっているか)
  • 主従関係:増築部分が既存建物の効用を助ける従たる位置づけにあるか(附属建物に該当する余地があるか)、それとも既存建物と並立する独立した建物といえるか

三つの観点と結論の対応を、考え方の道筋としておおまかに示すと次のようになります。構造上・利用上の独立性がいずれも乏しければ、既存建物と一体のものとして床面積に算入する方向で検討することになります。独立した建物とみる余地はあるものの、既存建物の効用を助ける従たる位置づけにとどまるのであれば、附属建物として整理する方向が視野に入ります。一棟の建物の一部として区分され、その部分だけで独立して使える状態であれば、区分建物として扱う余地が出てきます。

ただし、これはあくまで観点と結論のつながり方を整理したものであり、実際の当てはめは別です。これらは登記実務上、個々の現況に即して総合的に判断される事項であり、外観だけで一律に決まるものではありません。とくに「構造上の独立性」について隔壁等による遮断をどの程度まで求めるか、「利用上の独立性」の判断で出入口や設備の独立をどこまで重視するかについては、解釈にも実務の運用にも幅があり、一義的な物差しがあるわけではありません。例えば「渡り廊下でつながっているが内部では行き来できない」「増築時に独立した水回り設備を設けた」といったケースでは、附属建物として整理するのか、区分建物として扱う余地があるのかについて、慎重な検討が必要になります。判定の結果によって、建物図面・各階平面図の書き方や、必要となる登記の種類(表題部変更登記か、区分建物としての表題登記か等)が変わってくるため、この段階での見極めが後工程全体に影響する重要なポイントになります。

登記記録と現況が一致しない不動産の売買実務での役割

登記記録と現況の食い違いが見つかった不動産の売買では、測量・図面作成・表示登記申請を担う土地家屋調査士と、権利関係(所有権移転登記等)を担う司法書士とが、それぞれの専門領域で役割を分担して手続きを進めていく形になります。

売買実務の中では、次のような点が実務上のポイントになります。

  • 決済スケジュールとの整合:住宅ローンの審査や重要事項説明のタイミングを踏まえ、測量・図面作成・登記申請にどの程度の期間が必要かを早めに見積もっておくことが、契約から決済までのスケジュール調整に役立ちます
  • 仲介業者・金融機関との情報共有:登記記録と現況の相違が判明した経緯や、修正の見込み時期について、仲介業者を通じて関係者間で共有しておくと、審査や重要事項説明の場面での説明がスムーズになります
  • 表題部と権利部の役割分担:現況を登記記録に反映させる表題部変更登記は土地家屋調査士の業務範囲であり、増築部分の権利関係の整理(共有持分や名義の扱いなど)は権利部の登記にかかわる事項として司法書士が確認する領域になります。両者が連携することで、現況の反映と権利関係の整理を漏れなく進めやすくなります

いずれの場面でも、測量・図面作成・表示登記の申請手続きそのものは土地家屋調査士の業務であり、権利関係の整理や名義変更の手続きは司法書士の業務です。それぞれの専門家に早めに相談することが、売却をスムーズに進めるための基本になります。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年09月・いずれも一次情報です)。

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