この記事の要点
- 条文のかっこ書きは飾りではありません。よく見る働きを、この記事では、直前の語の意味を決める(〜をいう)、略称を決める(以下「〜」という)、範囲を狭める(〜に限る/〜を除く)、範囲を広げる(〜を含む)の五つに整理します
- かっこの中は、かっこの直前にある語句(直前の語か、略称を付けるときのように、その語で終わるひとまとまりの説明)にかかります。「遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者」なら、絞られているのは「者」ではなく「遺贈」です
- かっこ書きで決めた意味がどこまで続くかは、かっこの末尾にある「以下同じ」「以下この章において同じ」「次条第四項において同じ」といった文言で確かめます。そうした文言がなければ、かっこが付いたその箇所の説明として読みます
条文のかっこ書きを読み飛ばすと、条文の意味そのものを取り違えることがあります。相続登記の申請義務が誰にかかるのか、相続人申告登記をすれば何が済んだことになるのかは、いずれもかっこ書きまで読まないと正確につかめないからです。この記事では、よく見るかっこ書きの五つの働きと、その効き目がどこまで及ぶかの読み方を、実際の条文の文言で確かめます(執筆時点(2026年11月)の制度に基づく一般的な解説です)。
かっこ書きの五つの働き
これから挙げる五つは、条文を読むためにこの記事で整理した分け方で、法律が定めた分類ではありません。かっこ書きには、法律の番号を示すものや、登録免許税法31条8項の「国税通則法第五十六条から第五十八条まで(還付・充当・還付加算金)」のように参照先の内容を示すものなど、この五つに入らないものもあります。
1. 「〜をいう」──直前の語の意味を決める
民法892条は「遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、……」と始まります。「推定相続人」という語の意味を、かっこの中で決めています。この定義の中身は「推定相続人」「法定相続人」「共同相続人」の違いで扱いました。
2. 「以下「〜」という」──長い説明に略称を付ける
民法1014条2項は「遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、……」と定めています。かっこの前にある長い説明を、以後は「特定財産承継遺言」という短い名前で呼ぶ、という宣言です。実際、遺留分侵害額の請求を定める民法1046条1項では、説明なしに「特定財産承継遺言」という語がそのまま使われています。略称だけを見て意味が分からないときは、「以下「〜」という」と書かれた条文まで戻れば、正式な説明が見つかります。
3. 「〜に限る」──範囲を狭める
相続登記の申請義務を定める不動産登記法76条の2第1項の後段は、「遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者も、同様とする。」です。前段で定めた「相続により所有権を取得した者」の3年以内の申請義務が、遺贈で取得した人にも及ぶ、という文ですが、かっこ書きで対象の遺贈が「相続人に対する遺贈」に絞られています。相続人でない人が遺贈で所有権を取得した場合は、この後段が定める申請義務の対象から外れます。かっこ書きを飛ばして「遺贈で取得した人は全員、3年以内に登記しなければならない」と読むと、条文の内容と違ってしまいます。
4. 「〜を除く」──範囲から外す
相続人申告登記のもとになる「相続人である旨の申出」の効果を定める不動産登記法76条の3第2項は、期間内に申出をした者は「同条第一項に規定する所有権の取得(当該申出の前にされた遺産の分割によるものを除く。)に係る所有権の移転の登記を申請する義務を履行したものとみなす。」と定めています。申出によって義務を果たしたことになる範囲から、「申出の前にされた遺産の分割による」取得が外されています。つまり、申出をする前に遺産分割で所有権を取得していた人は、その取得分について、申出をしただけでは義務を履行したことになりません。この条文の指し示す言葉の読み方は「前項」「同条」「当該」の読み方で扱っています。
5. 「〜を含む」──範囲を広げる
民法1046条1項は「遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。」と定めています。「受遺者」は本来、遺贈(遺言によって財産を与えること)を受ける人を指す語ですが、かっこ書きによって、特定財産承継遺言で財産を承継した相続人や、相続分の指定を受けた相続人も「受遺者」に含めて読むことになります。
表の中の語にもかっこ書きは付きます。仮登記に基づいて登記を受けるときの税率の特例を定める登録免許税法17条1項の表には「所有権の相続(相続人に対する遺贈を含む。以下同じ。)又は法人の合併による移転の登記」という区分があり、少なくともこの表の上では、相続人への遺贈による移転の登記が「相続」による移転の登記と同じ区分に入ることが、かっこ書きで示されています。法務省の法制審議会民法・不動産登記法部会の資料も、遺贈と遺産分割方法の指定との間で「登録免許税の多寡」の差がなくなったことの根拠として、この17条1項を挙げています(部会資料19「中間試案のたたき台(不動産登記制度の見直し)」18頁)。
かっこの中は、直前の語句にかかる
五つの働きに共通する読み方の基本は、かっこの中身がかっこの直前の語句を修飾している、ということです。先ほどの「遺贈(相続人に対する遺贈に限る。)により所有権を取得した者」で、かっこが付いているのは「遺贈」の直後です。絞られているのは遺贈の種類であって、「所有権を取得した者」の側ではありません。略称を付けるかっこ書きでは、かかる先が一語より長くなります。民法1014条2項の「(以下「特定財産承継遺言」という。)」は、直前の「遺言」という一語ではなく、「遺産の分割の方法の指定として……承継させる旨の遺言」というひとまとまりの説明の全体に名前を付けています。どちらの場合も、かっこの直前で終わる言葉のまとまりを探す、という読み方は同じです。どこまでがひとまとまりかは、かっこの中身と文の組み立てから判断します。
読み方の手順としては、まずかっこを飛ばして文の骨組みをつかみ(「遺贈により所有権を取得した者も、同様とする」)、次にかっこの直前の語句に戻って中身を当てはめる(その「遺贈」は相続人に対するものに限る)、という二段階で読むと、長い条文でも迷いにくくなります。
効き目の範囲は、かっこの末尾で確かめる
かっこ書きで決めた意味や範囲が、その箇所だけで働くのか、もっと先まで続くのかは、かっこの末尾の文言で確かめます。
- 「以下同じ」……そのかっこ書きより後ろに同じ語が出てきたら、同じ意味で読む、という合図です。範囲を限る言葉が付いていないので、同じ法律の後ろの条にも及びます。民法892条の「推定相続人」を、893条から895条までや974条でも同じ意味で読むのは、この「以下同じ」が根拠です。同じ892条の後半に出てくる「推定相続人」も、「以下」という言葉からすれば、同じ意味に読むのが自然です
- 「以下この章において同じ」……同じ意味で読む範囲を、その章の中に限っています。民法1046条1項の「受遺者」の読み方は、遺留分の章(第五編第九章・1042条から1049条まで)の中で後に出てくる「受遺者」に及びます
- 「次条第四項において同じ」……及ぶ先を一つの項に名指ししています。不動産登記法76条の2第2項は「前項前段の規定による登記(民法第九百条及び第九百一条の規定により算定した相続分に応じてされたものに限る。次条第四項において同じ。)がされた後に遺産の分割があったときは、……」と定め、「前項前段の規定による登記」を法定相続分に応じてされた登記に限っています。そして、この絞り込みは76条の3第4項にも及ぶ、と書いています。76条の3第4項は、申出をした者がその後の遺産分割で所有権を取得したときの申請義務を定め、「前条第一項前段の規定による登記がされた後に当該遺産の分割によって所有権を取得したときを除く」とかっこ書きで除外しています。76条の3第4項だけを読むと、この「前条第一項前段の規定による登記」は相続による登記全般のように見えますが、76条の2第2項の「次条第四項において同じ」によって、法定相続分に応じてされた登記に限って読むことになります
- 末尾に何も書いていない場合……そのかっこ書きは、付いた語についての説明として読みます。76条の3第2項の「当該申出の前にされた遺産の分割によるものを除く」がこれにあたります。別の箇所に同じ語が出てきても、このかっこ書きを根拠に同じ絞り込みをすることはできません
「以下同じ」と書いてある定義を見落とすと、先の条文に出てくる同じ語を、ふだんの言葉の意味で読んでしまいます。逆に、「以下この章において同じ」と範囲を限った定義を根拠に、別の章の同じ語まで同じ意味で読むことはできません。定義の末尾まで読んで、効き目の範囲を確かめることが、条文を正確に読む近道です。
まとめ
- 条文のかっこ書きでよく見る働きを、この記事では「〜をいう」(意味を決める)、「以下「〜」という」(略称を付ける)、「〜に限る」「〜を除く」(範囲を狭める)、「〜を含む」(範囲を広げる)の五つに整理した。法律が定めた分類ではなく、ほかの種類のかっこ書きもある
- かっこの中は、かっこの直前の語句にかかる。かっこを飛ばして骨組みを読み、直前の語句に戻って中身を当てはめる
- 効き目の範囲は、かっこの末尾の「以下同じ」「以下この章において同じ」「次条第四項において同じ」といった文言で確かめる。何も書いていなければ、かっこが付いたその箇所の説明として読む
相続登記の申請義務が自分にかかるのか、相続人申告登記で何が済んだことになるのかは、条文のかっこ書きまで読まないと正確につかめません。もっとも、条文が読めることと、その規定がご自身の事情に当てはまるかどうかは別の問題です。相続登記の手続きでお困りのときは、お近くの司法書士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年11月・いずれも一次情報です)。
- 民法 第892条〜第895条・第974条・第1014条・第1042条〜第1049条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 不動産登記法 第76条の2・第76条の3(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 登録免許税法 第17条・第31条・別表第一(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/342AC0000000035
- 法務省 法制審議会民法・不動産登記法部会「部会資料19 中間試案のたたき台(不動産登記制度の見直し)」: https://www.moj.go.jp/content/001309491.pdf