この記事の要点
- 法律は国会が、政令は内閣が、省令は各省の大臣が作ります。不動産登記では、不動産登記法(法律)・不動産登記令(政令)・不動産登記規則(法務省令)の三つが一組です
- 法律の中の「政令で定める」「法務省令で定める」という言葉は、細かな決まりを下の階層に委ねる合図です。法律だけ読んでも答えが出ないときは、この言葉を手がかりに令・規則へ降りていきます
- 通達は法令ではなく、行政機関の内部での指示です。最高裁判所も、国民や裁判所を直接拘束するものではないと述べています
※本記事は執筆時点(2026年11月)の制度に基づく一般的な解説です。
不動産登記の決まりは「法・令・規則」の三つで一組
不動産登記のルールを調べると、よく似た名前の三つの法令に出会います。
- 不動産登記法(平成16年法律第123号)
- 不動産登記令(平成16年政令第379号)
- 不動産登記規則(平成17年法務省令第18号)
名前の末尾と、かっこ内の「法律」「政令」「法務省令」という言葉が、それぞれの正体を示しています。「○○法」は法律、「○○令」は政令、「○○規則」や「○○施行規則」は多くの場合に省令です(名前だけで決めつけず、「平成16年政令第379号」のような法令番号で確かめるのが確実です)。
三つは同じ重さで並んでいるのではなく、法律 → 政令 → 省令という上下の階層になっています。この階層を決めているのが、憲法と、内閣法・国家行政組織法という二つの法律です。
誰が作るのか──憲法41条・73条、内閣法11条、国家行政組織法12条
法律を作るのは国会です。憲法41条は、国会を「国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である」と定めています。
政令を作るのは内閣です。憲法73条は内閣の仕事を列挙しており、その6号に「この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること」とあります。同号のただし書は「政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない」と続きます。内閣法11条も「政令には、法律の委任がなければ、義務を課し、又は権利を制限する規定を設けることができない」と定めています。政令はあくまで法律を実施するためのもので、法律が任せていない範囲で国民に義務を負わせることはできない、という仕組みです。
省令を作るのは各省の大臣です。国家行政組織法12条1項は、各省大臣が「法律若しくは政令を施行するため、又は法律若しくは政令の特別の委任に基づいて」省令を発することができると定め、同条3項で「省令には、法律の委任がなければ、罰則を設け、又は義務を課し、若しくは国民の権利を制限する規定を設けることができない」と釘を刺しています。不動産登記規則の「法務省令」は、法務大臣が発した省令という意味です。
まとめると、国民に義務を課したり権利を制限したりできるのは原則として法律であり、政令・省令はその法律が許した範囲の中で動く、という上下関係です。
「政令で定める」「法務省令で定める」は、下の階層へのバトン
では、法律はどのようにして細かな決まりを下の階層に任せるのでしょうか。条文の中に出てくる「政令で定める」「法務省令で定める」という言葉が、その合図です。不動産登記法から例を挙げます。
- 18条は、登記の申請に必要な情報を「登記の申請に必要な事項として政令で定める情報(以下「申請情報」という。)」と書き、その中身を政令に委ねています。同条1号・2号は、オンラインや磁気ディスクでの申請の方法を「法務省令で定めるところにより」として省令に委ねています
- 25条13号は、登記の申請を却下しなければならない場合として、12号までに並べた事由のほか「登記すべきものでないときとして政令で定めるとき」を挙げています
- 34条2項は、土地の登記事項である地目と地積について「必要な事項は、法務省令で定める」としています
受け取る側の政令・省令には、どの条文に基づいて作られたかが冒頭に書かれています。不動産登記令の制定文は、次のように始まります。
内閣は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)第十八条、第二十二条、第二十五条第十三号、第二十六条及び第七十条第三項(これらの規定を同法第十六条第二項において準用する場合を含む。)並びに同法第百二十一条第一項の規定に基づき、不動産登記法施行令(昭和三十五年政令第二百二十八号)の全部を改正するこの政令を制定する。
先ほど見た18条・25条13号が、ここに名指しで出てきます。不動産登記規則の制定文も「不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)及び不動産登記令(平成十六年政令第三百七十九号)の施行に伴い、並びに同法及び同令の規定に基づき、並びに同法及び同令の規定を実施するため」と、法律と政令の両方を根拠に挙げています。法律から「バトンを渡す」条文と、政令・省令が「バトンを受け取った」と宣言する制定文は、こうして対応しているわけです。
なお、改正法の附則にある「政令で定める日から施行する」も同じ仕組みで、法律が施行日の決定を政令に委ねたものです。こちらは「「公布」と「施行」の違い」で整理しています。
相続登記の条文で、三段を実際にたどる
相続登記を例に、法律から規則まで降りてみます。
法律の段では、不動産登記法76条の2第1項が、相続で不動産を取得した人に、自分のために相続が開始したことと所有権を取得したことを「知った日から三年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならない」と義務を定めています。義務そのものは、やはり法律に書かれています。
では、申請のときに何を添えるのか。不動産登記法61条は「権利に関する登記を申請する場合には、申請人は、法令に別段の定めがある場合を除き、その申請情報と併せて登記原因を証する情報を提供しなければならない」と書くだけで、相続の場合に具体的に何が「登記原因を証する情報」なのかまでは書いていません。
政令の段に降りると、不動産登記令7条1項5号ロが登記原因を証する情報について「別表の登記欄に掲げる登記を申請する場合…にあっては同表の添付情報欄に規定するところによる」とし、同令の別表二十二の項が、相続による権利の移転の登記について「相続又は法人の合併を証する市町村長、登記官その他の公務員が職務上作成した情報(公務員が職務上作成した情報がない場合にあっては、これに代わるべき情報)及びその他の登記原因を証する情報」と定めています。ここで初めて「公務員が職務上作成した情報」、つまり戸籍などの書類が登場します。
省令の段では、不動産登記規則37条の3第1項が、相続人が登記を申請するときに法定相続情報一覧図の写し(または、登記官が法定相続情報を確認できるときに限り、法定相続情報番号)を提供すれば、「相続があったことを証する市町村長その他の公務員が職務上作成した情報の提供に代えることができる」と定めています。政令が求めた書類の「代わりになるもの」を、省令が具体的に用意している形です。
同じ流れは、相続人申告登記にも見られます。不動産登記法76条の3第1項は、登記官に対し相続人である旨を「法務省令で定めるところにより」申し出ることができるとし、同条6項で「第一項の規定による申出の手続及び第三項の規定による登記に関し必要な事項は、法務省令で定める」と委ねています。これを受けたのが不動産登記規則158条の19で、申出で明らかにすべき事項(1項)と、申出に併せて提供する情報(2項)を列挙しています。
法律に「法務省令で定める」とあるのに、法律だけを読んで「手続きの中身が書かれていない」と戸惑う必要はありません。その言葉が、規則を開く合図です。
「通達」は法令ではない──国家行政組織法14条と最高裁判決
最後に通達です。登記の世界では「○年○月○日付け法務省民二第○号通達」という形の文書がよく引用されますが、これは法律・政令・省令のどれでもありません。
国家行政組織法14条2項は、各省大臣などが「その機関の所掌事務について、命令又は示達をするため、所管の諸機関及び職員に対し、訓令又は通達を発することができる」と定めています。宛先は「所管の諸機関及び職員」、つまり行政組織の内側です。
実際の通達を見るとよく分かります。相続登記の申請義務化について出された令和5年9月12日付け法務省民二第927号通達は、法務省民事局長から「法務局長 殿」「地方法務局長 殿」に宛てられ、「下記の点に留意するよう、貴管下登記官に周知方お取り計らい願います」と結ぶ一文で本文が始まります。国民に向けて書かれた文書ではなく、法務局の中で登記官に事務の取扱いを示すための文書であることが、宛先と書き出しから読み取れます。
通達の性質については、最高裁判所の判決があります。墓地の埋葬をめぐる厚生省の通達の取消しが求められた事件で、最高裁判所第三小法廷(昭和43年12月24日判決)は、次のように述べました。
元来、通達は、原則として、法規の性質をもつものではなく、上級行政機関が関係下級行政機関および職員に対してその職務権限の行使を指揮し、職務に関して命令するために発するものであり、このような通達は右機関および職員に対する行政組織内部における命令にすぎないから、これらのものがその通達に拘束されることはあつても、一般の国民は直接これに拘束されるものではなく
同じ判決は、「裁判所がこれらの通達に拘束されることのないことはもちろんで、裁判所は、法令の解釈適用にあたつては、通達に示された法令の解釈とは異なる独自の解釈をすることができ」るとも述べています。
ただし、これは「通達には意味がない」ということではありません。同じ判決は、この事件の通達について、それを受けた行政機関は「右通達に反する行為をすることはできない」とも述べています。登記官は通達に従って事務を行いますから、法務局の窓口での実際の取扱いを知るうえで、通達は重要な手がかりです。「国民や裁判所を直接縛らない」ことと、「行政の実務を動かしている」ことは、両立します。
まとめ
- 不動産登記法(法律)・不動産登記令(政令)・不動産登記規則(法務省令)は、国会・内閣・法務大臣がそれぞれ作る、上下の階層をなす三つの法令です(憲法41条・73条6号、内閣法11条、国家行政組織法12条)
- 法律の「政令で定める」「法務省令で定める」は、下の階層へ委ねる合図です。相続登記では、義務は法律(76条の2)に、添付する情報の中身は政令(不動産登記令7条・別表二十二の項)に、その代わりになる法定相続情報一覧図の扱いは省令(不動産登記規則37条の3)に書かれています
- 通達は行政組織の内部の指示で、法令ではありません。最高裁判所は、国民や裁判所を直接拘束するものではないと述べています。一方で、登記官は通達に従って事務を行います
条文を読んでも自分の相続に当てはまるかどうか判断しにくいときは、お近くの司法書士にご相談ください。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年11月・いずれも一次情報です)。
- 日本国憲法 第41条・第73条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/321CONSTITUTION
- 内閣法(昭和22年法律第5号)第11条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000005
- 国家行政組織法(昭和23年法律第120号)第12条・第14条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000120
- 不動産登記法(平成16年法律第123号)第18条・第25条・第34条・第61条・第76条の2・第76条の3(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 不動産登記令(平成16年政令第379号)制定文・第7条第1項第5号・別表二十二の項(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416CO0000000379
- 不動産登記規則(平成17年法務省令第18号)制定文・第37条の3・第158条の19(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/417M60000010018
- 法務省民事局長通達 令和5年9月12日付け法務省民二第927号「民法等の一部を改正する法律の施行に伴う不動産登記事務の取扱いについて(相続登記等の申請義務化関係)」: https://www.moj.go.jp/content/001402460.pdf
- 最高裁判所第三小法廷判決 昭和43年12月24日 昭和39年(行ツ)第87号(民集22巻13号3147頁。裁判所ウェブサイト「裁判例結果詳細」): https://www.courts.go.jp/hanrei/54975/detail2/index.html
- 同判決の判決全文(裁判所ウェブサイト掲載PDF): https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-54975.pdf