この記事の要点

  • 実質的支配者リストは、株式会社が作成した「実質的支配者(会社を実質的に支配する個人)」の一覧を、本店所在地を管轄する法務局が添付書面と照らし合わせて確認・保管し、登記官の認証文付きの写しを交付する制度です(令和4年1月31日開始)
  • 株式会社の場合、原則として議決権の2分の1(50%)を超えて持つ個人、そのような人がいなければ4分の1(25%)を超えて持つ個人が、この制度の対象となる実質的支配者です
  • 手数料は無料で、窓口のほか郵送でも申出ができます。株主名簿の写しなど、リストの内容を裏付ける書面の添付が必要です
  • 銀行などは法人口座の開設時などに「取引時確認」として実質的支配者を確認します。リストの写しはその場面で使える資料の一つですが、受け付けるかどうかや、どの書類を求めるかは金融機関ごとに異なるため、提出先に確認しましょう
  • 制度の利用は義務ではなく、会社の任意です(執筆時点・2026年10月の制度)

実質的支配者リストとは、会社の「本当の持ち主」に当たる人を会社自身が一覧にまとめ、それを法務局が確認したうえで保管し、写しを出してくれる仕組みです。結論からいうと、会社に利用が義務づけられている制度ではありませんが、銀行で法人口座を開くときなどに実質的支配者を説明する資料の一つとして使える場合があります。以下、制度の中身、誰が実質的支配者に当たるのか、申出の方法、銀行で求められる場面の順に整理します。

実質的支配者リストとは何か

正式には「実質的支配者情報一覧」といい、「商業登記所における実質的支配者情報一覧の保管等に関する規則」(令和3年法務省告示第187号)に基づく制度です。令和4年1月31日から運用が始まりました。

制度の流れは次のとおりです。

  1. 株式会社の代表者が、実質的支配者の氏名・住居・国籍等・生年月日や、その人が持つ議決権の割合などを記載した一覧(実質的支配者リスト)を作成する
  2. 本店所在地を管轄する法務局(商業登記所)に、リストと裏付けの書面を添えて「保管及び写しの交付」の申出をする
  3. 登記官が、添付書面や会社の登記簿の内容とリストの記載が整合しているかを確認し、問題がなければリストを保管する
  4. 登記官が、法務局に保管されたリストの写しである旨の認証文を付けた「写し」を交付する

法務省は、この制度を設けた背景として、法人の透明性を高め、資金洗浄(マネー・ローンダリング)などに法人が悪用されることを防ぐ観点から、FATF(金融活動作業部会)の勧告や金融機関からの要望など、国内外の要請が高まっていたことを挙げています。

なお、名前が似ている「株主リスト」は、株主総会の決議を経て行う登記の申請に添付する書類で、作る目的もタイミングもまったく別のものです。株主リストについては「株主リスト」とは──登記のたびに求められる書類と株主名簿との違いで整理しています。

誰が「実質的支配者」に当たるのか(株式会社の場合)

実質的支配者の定義は、犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下「犯罪収益移転防止法」)とその施行規則に置かれています(同法4条1項4号、同法施行規則11条2項)。このうち実質的支配者リスト制度の対象となるのは、株式会社については、議決権の保有割合で判定する次の人です(同規則11条2項1号)。

判定の順番 実質的支配者に当たる人
① 会社の議決権の総数の2分の1(50%)を超える議決権を、直接または間接に持っている個人
② ①の割合(50%超)を持つ個人がいない場合、議決権の総数の4分の1(25%)を超える議決権を、直接または間接に持っている個人

ここでいう「議決権」や「直接または間接」には、次のような考え方があります。

  • 間接に持っている場合も数える:たとえば、ある個人が議決権の50%超を持つ会社(「支配法人」と呼びます)を通じて株式を持っている場合、その支配法人が持つ議決権も合算して判定します(同規則11条3項)
  • 会社の事業経営を実質的に支配する意思や能力がないことが明らかな人は除かれる:法務省のQ&A(1-6)では、信託銀行が信託勘定を通じて議決権を持つ場合や、名義上の保有者にすぎず(ほかに出資金を出した人などがいて)議決権の行使について決定権がない場合などが例として挙げられています
  • 国・地方公共団体、上場会社やその子会社などは「個人」とみなされる:そのため、上場会社の子会社が議決権の過半数を持っている場合などは、その会社が実質的支配者として記載されることになります(同規則11条4項)
  • 役員の選任と定款変更に関する議案のすべてについて議決権を行使できない株式は、議決権の計算から除かれる(同規則11条2項1号括弧書)。また、自己株式には議決権がないため(会社法308条2項)、法務省のQ&A(1-7)では、議決権の総数からも保有数からも自己株式を除いて計算するとされています

一方で、①②のどちらにも当たる人がいない会社は、この制度を利用できません。犯罪収益移転防止法のうえでは、そのような会社にも別の基準(事業活動に支配的な影響力を持つ人や、会社を代表する人など)で実質的支配者が定められていますが、それらの人はこのリスト制度の対象外です。

また、法務省のQ&Aでは、誰が実質的支配者に当たるのか分からないときは、この制度を利用できない(法務局が判定してくれるわけではない)とされています。株主構成が複雑な場合や、名義と実質が異なる株主がいる場合などは、要件の当てはめを専門家に確認してから進めるのが安全です。

利用できる会社・できない会社

この制度を利用できるのは、株式会社(特例有限会社を含む)だけです。

  • 合同会社などの持分会社、一般社団法人・一般財団法人などは対象外です
  • 外国会社は、日本で登記をしていても申出できません
  • ①②の要件に当たる個人(または個人とみなされる者)がいない株式会社も利用できません

申出の方法と必要書類

申出の基本

  • 提出先:会社の本店所在地を管轄する法務局(登記の申請をするのと同じ法務局)
  • 方法:窓口への持参のほか、郵送でも申出できます。郵送の場合は、切手を貼り送付先を書いた返信用封筒を同封します。オンラインでの申出は、令和7年3月21日から、オンラインで登記を申請するのと同時に行う場合に限って可能になりました(申出だけを単独でオンラインで行うことはできず、写しの受け取りも郵送または窓口です)
  • 手数料:無料です(郵送の場合の切手代などは別途かかります)
  • 作成者:リストは会社の代表者が作成者として記名します。代理人による申出もできます
  • 記載する情報の時点:申出をする日の前1か月以内のある日時点の情報を記載します

必要な書類

区分 書類
必ず必要 申出書、実質的支配者リスト
必ず必要(いずれか1つ) 申出をする日における株主名簿の写し/設立後最初の事業年度を経過していない場合は、公証人が発行する申告受理及び認証証明書/設立後最初の事業年度を経過している場合は、直前の事業年度の法人税確定申告書の別表二の写し
場合により必要 リストの記載と上の書面の内容が合っていない場合は、その理由を明らかにする書面(定款や代表者が作成した証明書など)
場合により必要 代理人が申出をする場合の委任状
場合により必要 申出書や委任状に会社の代表者印(法務局に届け出ている印鑑)が押されていない場合は、代表者の本人確認書面(運転免許証のコピーに代表者が原本と相違ない旨を記載して記名したもの、住民票の写しなど)
任意 実質的支配者の本人確認書面(住民票の写しなど)、間接保有の場合の支配法人に関する株主名簿の写しなど

任意の書面を添付すると、リストに「どの書面で確認したか」が記載されるため、提出先の金融機関などから見て記載内容の信頼性が高まる、と法務省は説明しています。

法務省のホームページには、リストのひな形(直接保有の場合と間接保有の場合で様式が異なります)、申出書・委任状の様式と記載例が掲載されています。

写しの交付と再交付

登記官の確認が済むと、「法務局に保管された実質的支配者リストの写しである」旨の認証文と登記官の職氏名・職印が入った写しが交付されます。申出書には、必要な写しの通数と利用目的を記載します。

あとから写しが追加で必要になった場合は、再交付の申出ができます。ただし、再交付の対象は法務局に保管されている最新のリストに限られ、次のような場合は再交付を受けられず、新しくリストを作って申出し直すことになります。

  • 会社の商号や本店が変わった(変更の登記をした)
  • リストに作成者として記名した代表者が退任した、または亡くなった

なお、執筆時点(2026年10月)の規則上、写しに「有効期限」は定められていません。ただし、どの時点のリストであれば受け付けるかは提出先が判断することなので、提出先に確認しておくと安心です。

銀行から求められる場面──「取引時確認」との関係

銀行などの金融機関は、犯罪収益移転防止法により、一定の取引を行う際に顧客の本人特定事項(法人なら名称と本店所在地)、取引の目的、事業の内容などを確認する義務を負っています。これを「取引時確認」といいます。そして、顧客が法人の場合は、実質的支配者がいればその人の本人特定事項(氏名・住居・生年月日)も確認の対象になります(同法4条1項4号)。

預金口座の開設(預金の受入れを内容とする契約の締結)は、この取引時確認が必要な取引の代表例です(同法施行令7条1項1号イ)。そのため、会社名義の口座を開くときには、実質的支配者が誰かを申告するよう求められます。あわせて会社の登記事項証明書の提出を求める金融機関もあります。会社の登記事項証明書の取り方は会社の登記簿の取り方で解説しています。

ここで押さえておきたいのは、通常の取引時確認(同法4条1項)について、実質的支配者の確認方法として法令が定めているのは、会社の代表者等から申告を受ける方法だという点です(同法施行規則11条1項)。つまり、実質的支配者リストの写しの提出が法律で義務づけられているわけではありません。リストの写しは、法務局が添付書面と照らし合わせたうえで保管したリストの写しであるため、申告の内容を説明する資料の一つとして活用できる、という位置づけです。

金融機関によって、実質的支配者リストの写しの提出を案内するところもあれば、独自の申告書への記入を求めるところもあり、対応はさまざまです。どの書類が必要か、リストの写しを受け付けているかは、各金融機関に確認してください。また、リストの写しは実質的支配者を説明するための資料であって、提出すれば口座の開設や融資が認められるという性質のものではありません。審査は各金融機関がそれぞれの基準で行います。

注意したいポイント

  • 事実と異なる内容でリストを作成・申出しない:リストは会社の代表者が作成者として記名するもので、内容の正確さは会社側が責任を負います。登記官は添付書面などとの整合性を確認しますが、実質的支配者が誰であるかを調査して証明するものではありません。名義だけの株主を実質的支配者として記載したり、実際の支配者を隠したりするような申出は、絶対にしないでください。なお、金融機関の取引時確認に際して、顧客等や代表者等は確認事項を偽ってはならないとされています(犯罪収益移転防止法4条6項)
  • 株主が変わってもリストは自動では更新されない:保管後に実質的支配者が変わった場合、新しいリストで申出し直すかどうかは会社の任意です。ただし、古いリストの写しは現状と異なる内容になるため、新しい情報が記載された写しが必要なときは改めて申出をします
  • 要件の当てはめは個別に確認する:議決権の計算(間接保有、議決権制限株式、名義株など)は、株主構成によって結論が変わります。判断に迷う場合は、申出の前に専門家に確認しましょう

まとめ

実質的支配者リストは、株式会社が自ら作成した実質的支配者の一覧を法務局が確認・保管し、認証文付きの写しを無料で交付してくれる制度です。対象となるのは、原則として議決権の50%を超えて持つ個人、いなければ25%を超えて持つ個人で、株主名簿の写しや法人税確定申告書の別表二の写しなどで裏付けて申出をします。

銀行で法人口座を開くときなどの取引時確認では実質的支配者の申告が求められ、リストの写しはそれを説明する資料の一つになり得ますが、必要書類は金融機関ごとに異なります。誰が実質的支配者に当たるのか判断に迷う場合や、申出書類の準備に不安がある場合は、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 実質的支配者リストの申出に費用はかかりますか?

法務局への申出の手数料は無料です。写しの交付・再交付にも手数料はかかりません。ただし、郵送で申出をする場合の切手代や返信用封筒、添付する住民票の写しなどを取得する費用は別途かかります。専門家に手続を依頼する場合は、その報酬が別にかかります。

Q. 申出に期限はありますか?申出しないと罰則がありますか?

この制度は会社からの任意の申出に基づくもので、執筆時点(2026年10月)の制度では、申出の義務や期限はなく、申出しないことによる罰則もありません。実質的支配者が変わったときに新しいリストで申出し直すかどうかも任意です。ただし、リストに記載する情報は申出の日の前1か月以内の時点のものである必要があるので、作成してから時間がたった場合は作り直しが必要です。

Q. 自分で申出できますか?どこに相談すればよいですか?

会社の代表者が自分で申出をすることができ、法務省のホームページにリストのひな形や申出書の記載例が掲載されています。株主が少なく直接保有だけの会社であれば、比較的取り組みやすい手続です。一方、親会社を通じた間接保有がある場合や、名義と実質が異なる株主がいる場合などは判断が難しくなるため、お近くの司法書士にご相談ください。銀行に提出する書類の種類は、提出先の金融機関に確認しましょう。

【さらに深掘り】議決権の数え方の細部と、リスト制度の対象外になる場面

ご注意 以下は執筆時点(2026年10月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

商業登記実務の観点

以下では、実質的支配者リストの根拠である「商業登記所における実質的支配者情報一覧の保管等に関する規則」(令和3年法務省告示第187号)を「保管規則」、犯罪収益移転防止法施行規則を「犯収法施行規則」と呼びます。また「法務省Q&A」は、法務省ホームページの実質的支配者リスト制度Q&Aを指します(番号はQ&Aの項目番号)。

1. 「50%超の人がいれば、25%超の人は外れる」という条文の組み立て

本文の表では分かりやすさのため「①50%超 → いなければ②25%超」と順に並べましたが、犯収法施行規則11条2項1号の条文そのものは、「議決権の総数の4分の1を超える議決権を直接又は間接に有していると認められる自然人」を基本に置き、括弧書で次の2つの場合を除く、という形で書かれています。

  • その人が会社の事業経営を実質的に支配する意思または能力を有していないことが明らかな場合
  • 他の自然人が議決権の総数の2分の1を超える議決権を直接または間接に有している場合

この組み立てから、法務省Q&A(1-13)は、50%超を持つ自然人Aに事業経営を支配する意思・能力がない場合であっても、25%超を持つ自然人Bは同号の実質的支配者には当たらない、と整理しています(Bは同項2号の実質的支配者に当たる可能性がある、とされています)。「50%超の人が外れたら、次の人が繰り上がる」という単純な順送りではない点に注意が必要です。

2. 間接保有──「支配法人」が持つ割合はそのまま合算する

犯収法施行規則11条3項は、25%超・50%超の判定を、次の割合を合計して行うと定めています。

  • その自然人が自分で直接持っている議決権の割合(同項1号)
  • その自然人の「支配法人」が持っている議決権の割合(同項2号)

支配法人とは、その自然人が議決権の総数の2分の1を超える議決権を持つ法人をいいます。さらに、その自然人と支配法人が合わせて(あるいは支配法人どうしが合わせて)2分の1を超える議決権を持つ他の法人も、支配法人とみなされます(同項2号括弧書)。子会社・孫会社を通じた保有は、この連鎖でたどっていきます。

条文の文言上、合算するのは「支配法人が持っている議決権の割合」そのものであり、親会社への出資比率を掛け合わせる計算にはなっていません。たとえば、自然人Aが乙社の議決権の60%を持ち、乙社が甲社の議決権の30%を持っている場合、甲社についてのAの割合は30%として判定します(保管規則2条3号も、実質的支配者の割合を「本人が有していた議決権」と「支配法人が有していた議決権」の合計として定めています)。逆に、Aが持つ乙社の議決権が50%ちょうど(50%を超えない)で、ほかの支配法人を通じて乙社の議決権を持っていないなら、乙社は支配法人に当たらず、乙社が持つ甲社の議決権はAの割合に算入されません(法務省Q&A 1-16も同じ考え方です)。

グループ会社が株主にいる場合、リストには、実質的支配者本人の割合に加えて、支配法人ごとの割合と、実質的支配者・支配法人・申出会社の間の支配関係を記載します(保管規則2条3号・4号)。支配法人の株主名簿の写しなどは任意で添付でき(保管規則4条2項2号)、添付した場合はその書面の名称がリストに記載されます(保管規則2条6号)。

なお、国・地方公共団体、上場会社等やその子会社などは自然人とみなされます(犯収法施行規則11条4項)。法務省Q&A(1-18)は、こうした「自然人とみなされる者」が実質的支配者に当たる場合、その上の株主までさかのぼって実質的支配者を探すことはしない、と整理しています。

3. 1号の該当者がいない場合──2号・4号の実質的支配者はリストの対象外

犯収法施行規則11条2項は、株式会社のように議決権が株式の数に応じて与えられる法人について、1号の該当者がいないときの実質的支配者を次のように定めています(3号は、それ以外の種類の法人についての定めです)。

区分 実質的支配者
2号 出資、融資、取引その他の関係を通じて、その法人の事業活動に支配的な影響力を有すると認められる自然人
4号 1号から3号までに定める者がいない法人では、その法人を代表し、その業務を執行する自然人

保管規則2条2号は、リストに記載する実質的支配者を、犯収法施行規則11条2項1号の自然人(同条4項で自然人とみなされる者を含む)に限っています。そのため、2号・4号の実質的支配者はリストに載せることができません。法務省Q&Aでは、たとえば次のような場面で1号の該当者がいない、または1号に当たらないとされています。

  • 議決権を50%ずつ持つ2つの法人が株主で、それぞれの法人の株主がすべて個人で、いずれも50%以下しか持っていない場合(Q&A 1-16。2号または4号の者が実質的支配者になる)
  • いわゆる黄金株を持つ株主の議決権が25%以下の場合(Q&A 1-14。その株主が2号に当たる可能性はある)

1号の該当者がいない会社が金融機関で取引時確認を受ける場面では、2号または4号に当たる人を、会社の代表者等が申告することになります(犯収法施行規則11条1項)。その際にどのような資料を求められるかは、各金融機関に確認してください。

4. 株主名簿とリストの記載が合わないとき

保管規則4条1項3号は、リストの記載と株主名簿の写し等の内容が合致しない場合に、その理由を明らかにする書面の添付を求めています。法務省Q&A(3-2)は、その例として、会社法109条2項の規定による定款の定め(公開会社でない株式会社が、議決権などについて株主ごとに異なる取扱いをする旨を定款で定めるもの)により議決権を行使できない人がいる場合や、事業経営を実質的に支配する意思・能力を有しない人がいる場合を挙げ、理由を明らかにする書面としては、定款や代表者作成の証明書(上申書)などが該当するとしています。定款は、理由が明らかになる限り抜粋でも差し支えないとされ(Q&A 3-8)、代表者作成の証明書には、実質的支配者に当たらない旨だけでなく、当たらない具体的な理由を記載する必要があります(Q&A 3-9)。

いずれも、実際にそのような事情があることが前提です。株主名簿と異なる記載にできるのは、それを裏付ける事実がある場合に限られます。

5. 登記が追いついていないと申出できない

登記官は、リストの内容が添付書面だけでなく、会社の登記簿の記載とも整合しているかを確認します(保管規則7条1項)。法務省Q&Aでは、次のように整理されています。

  • 全株主が記載された株主名簿の写しを添付する場合、株式数の合計が登記上の発行済株式の総数と合致している必要がある(Q&A 3-4)
  • 株主名簿の写し等とは整合していても、発行済株式総数の変更などの登記がされていないために登記情報と合致しない場合は、上申書等を添付しても申出できない(Q&A 2-9)

募集株式の発行などで株式数が変わった直後にリストを使いたい場合は、先に変更の登記を済ませてから申出をする段取りになります。

6. 株主構成が変わったとき──「再交付」と「新たな申出」の違い

保管規則8条1項による再交付の対象は、登記所に保管されている最新のリストの写しに限られます。再交付で受け取れるのは、最新の申出の際にリストに記載した基準日時点の情報が記載された写しであり、その後の株主構成の変化は反映されません。また、リストには情報の基準日(申出の日前1か月以内の日。保管規則2条2号)と作成年月日が記載されるため(保管規則4条1項1号)、写しを受け取った側からも、どの時点の情報かが分かる形になっています。

株主の異動で実質的支配者や議決権の割合が変わった場合に、新しいリストで申出し直すかどうかは会社の任意です(Q&A 5-2)。変化後の情報が記載された写しが必要であれば、新たにリストを作成して申出をします。実質的支配者や議決権の割合が変わった後は、変更前の情報が記載された写しは現状と異なる内容になるため、どの時点の情報が記載された写しが必要かを提出先に確認したうえで判断することになります。

なお、株式会社の設立の登記の申請と同時に申出をする場合は、情報の基準日が「申出をする日」となり、会社法人等番号の記載も不要とされる特則があります(保管規則12条)。

7. 株主リスト(登記の添付書面)との違い

本文で触れた「株主リスト」とは、根拠も中身も異なります。

比較項目 実質的支配者リスト 株主リスト
根拠 保管規則(令和3年法務省告示第187号) 商業登記規則61条2項・3項
作る場面 会社が任意に保管・写しの交付の申出をするとき 株主全員の同意や株主総会の決議を要する登記を申請するとき
記載する人 支配法人をたどった先の自然人(自然人とみなされる者を含む)のうち、1号の要件に当たる者 株主名簿上の株主(法人株主は名称で記載)
記載の範囲 1号の要件に当たる者全員 株主総会の決議の場合は、議決権割合の上位から「10名」と「割合を合計して3分の2に達するまでの人数」のうち少ない人数(同規則61条3項)
議決権の数え方 相互保有株式(会社法308条1項により行使できない議決権)は、施行規則が明文で含めているため議決権に数え、役員の選任と定款変更の議案の全部について議決権を行使できない株式の議決権は除く(犯収法施行規則11条2項1号括弧書、法務省Q&A 1-3) その決議で行使できる議決権(同規則61条3項)

また、保管規則4条1項2号がリストの裏付けとして列挙している書面は、株主名簿の写し、公証人が発行する申告受理及び認証証明書、法人税確定申告書の別表二の写しの3種類で、登記申請用の株主リストはこの中に含まれていません。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月・いずれも一次情報です)。

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