この記事の要点

  • 取締役・監査役などの氏(姓)が結婚で変わったら、会社は変わった日から2週間以内に役員の氏名変更登記を申請します(会社法915条1項)
  • 法務局の記載例では、添付書類は代理人に頼むときの委任状だけ。登録免許税は資本金1億円以下の会社で1万円、1億円を超える会社で3万円です
  • 婚姻前の氏(旧氏)を登記簿に併記したいときは、会社の代表者から「旧氏の記録の申出」ができます。申し出るかどうかは任意で、登記の申請と同時でも、後から単独でも申し出られます
  • 併記をやめたいときは「旧氏の記録を希望しない旨の申出」をします

経営者の方に知っておいてほしいのは、役員が結婚して姓が変わったときも、会社の登記を直す必要があるという点です。役員の顔ぶれが変わっていなくても、登記簿に載っている「氏名」が変わった以上、変更の登記が必要になります。

あわせて、仕事では旧姓を使い続けたいという方のために、登記簿に婚姻前の氏を並べて記録してもらう「旧氏の併記」という仕組みがあります。この記事では、氏名変更登記の基本と、旧氏の併記の申出の方法を順番に整理します。

役員の「氏名」は登記簿に載っている

株式会社の登記簿(会社の基本情報を記録した公的な帳簿)には、役員について次のような事項が記録されています(会社法911条3項)。

  • 取締役の氏名(13号)
  • 代表取締役の氏名と住所(14号)
  • 監査役設置会社では、監査役の氏名(17号ロ)

このほか、会計参与を置く会社では会計参与の氏名(または名称)も登記されます(同項16号)。なお、会社の機関設計(取締役会・監査役などの組み合わせ)によって、登記の仕方が一部異なる場合があります。

これらの「氏名」は、結婚などで氏が変わったからといって自動的に書き換わるわけではありません。会社のほうから法務局に変更の登記を申請する必要があります。

期限は「変わった日から2週間以内」

会社法は、登記簿に載っている事項に変更が生じたときは、2週間以内に、本店の所在地で変更の登記をしなければならないと定めています(会社法915条1項)。役員の氏の変更もこのルールの対象です。

結婚による氏の変更であれば、氏が変わるのは婚姻の届出をした日です(民法739条1項・750条)。申請書に書く「原因年月日」もこの日になり、そこから2週間以内が期限です。

登記をすべきなのに怠った場合、取締役などは100万円以下の過料(かりょう=行政上の金銭的なペナルティ)の対象となることがあります(会社法976条1号)。結婚の前後は、戸籍・住民票・運転免許証・銀行口座など個人の手続きが重なり、会社の登記が後回しになりがちです。期限があることを意識して、早めに準備しておきましょう。過料の仕組みについては、役員変更登記を忘れると過料は?でも整理しています。

申請の中身──登記すべき事項・添付書面・登録免許税

法務局が公開している申請書の記載例(株式会社役員変更登記申請書〈氏名変更〉)をもとに、ポイントをまとめます。

項目 内容
登記の事由 「取締役の氏変更」など(代表取締役を兼ねる取締役なら「代表取締役たる取締役の氏変更」)
登記すべき事項 役員の資格・変更後の氏名(代表取締役は住所も)・原因年月日(「令和○年○月○日△△○○の氏変更」の形で、△△○○には変更前の氏名を書く)
添付書類 代理人に申請を頼んだ場合の委任状のみ(記載例に「申請書に住民票を添付する必要はありません」との注記あり)。旧氏の併記を同時に申し出る場合は、別に旧氏を証する書面が必要(後述)
登録免許税 資本金1億円以下の会社は1万円、1億円を超える会社は3万円
申請書の押印 代表取締役が登記所に提出している印鑑(代理人が申請する場合は代理人の印鑑)

登録免許税(とうろくめんきょぜい=登記の際に納める税金)の金額は、登録免許税法の別表第一24号(1)カ(取締役・監査役などの役員に関する事項の変更の登記)に定められています。

なお、名(下の名前)が変わった場合は、「氏変更」の部分を「名変更」と書きます。

結婚で引っ越しもしたときは

代表取締役は住所も登記事項です(会社法911条3項14号)。結婚を機に転居して代表取締役の住所も変わった場合は、住所の変更の登記も必要になります。氏の変更も住所の変更も、登録免許税法上は同じ「役員に関する事項の変更」の区分に当たるため、申請の際はあわせて確認しておくと安心です。

「旧氏の併記」とは──婚姻前の氏も登記簿に記録できる仕組み

氏の変更登記をすると、登記簿の氏名は新しい氏のものになります。ただ、取引先との関係などで、仕事では旧姓を使い続けたいという方もいます。そのような場合に使えるのが、旧氏(きゅううじ)の併記です。

商業登記規則81条の2は、会社の代表者は、役員(取締役、監査役、執行役、会計参与または会計監査人)または清算人の旧氏を登記簿に記録するよう申し出ることができると定めています。ポイントは次のとおりです。

  • 任意の制度:条文は「申し出ることができる」という書き方です。申出をしなければ、登記簿には新しい氏名だけが記録されます
  • 申し出るのは会社の代表者:役員本人が個人として申し出るのではなく、会社の代表者が申し出る形です
  • ここでいう旧氏:住民基本台帳法施行令30条の13に規定する旧氏、つまり、その人が過去に称していた氏で、戸籍(除かれた戸籍を含む)に記載されているものです。住民票に併記できる旧氏と同じ考え方です。現在の氏と同じものは除かれます
  • 記録できるのは1つ:条文上、記録の対象は「一の旧氏」です
  • 記録のされ方:法務局の記載例では、登記すべき事項の「氏名」欄が「○○○○(△△○○)」のように、現在の氏名の後ろに括弧書きで旧氏による氏名を記す形になっています

なお、2022年(令和4年)9月1日の商業登記規則等の改正で、併記できる旧氏の範囲が婚姻前の氏に限られなくなり、登記の申請時以外にも申出ができるようになりました(法務省「商業登記規則等が改正され、令和4年9月1日から施行されます」)。

旧氏の併記の申出の方法

申し出るタイミング

法務省の案内によると、旧氏の記録の申出は、登記の申請と同時に行うほか、単独でも行うことができます。同時に申出ができる登記申請として、次のものが挙げられています。

  • 設立の登記の申請
  • 清算人の登記の申請
  • 役員または清算人の就任による変更の登記の申請
  • 役員または清算人の氏の変更の登記の申請

結婚で氏が変わった場面では、氏の変更の登記と同時に申し出るのが分かりやすい方法です。この場合、申出書を提出する方法のほか、登記申請書に必要事項を書き込む方法でも差し支えないとされています。新しく役員を迎える就任の登記と同時に申し出ることもできます(就任の登記の添付書類は取締役を新しく選んだときの登記を参照)。

申出書に書くこと

申出書には、次の事項を記載します(商業登記規則81条の2第2項)。

  1. 会社の商号と本店の所在場所、代表者の資格・氏名・住所・連絡先
  2. 旧氏を記録すべき役員(または清算人)の氏名
  3. 記録すべき旧氏
  4. 代理人が申し出るときは、代理人の氏名(名称)・住所・連絡先など
  5. 申出の年月日

申出書(代理人に頼む場合は委任状)には、会社の代表者が登記所に提出している印鑑を押します(同条4項)。

添付する書面

申出書には、記録すべき旧氏を証する書面を添付します(同条3項1号)。法務省の案内では、次のような例が示されています。

  • 併記しようとする旧氏の記載がある除籍抄本などから、現在の氏の記載がある戸籍に至るまでの、すべての戸籍・除籍の謄抄本など
  • 初めて旧氏を記録する場合で、住民票・マイナンバーカード・運転免許証にすでに併記されている旧氏と同じ旧氏の併記を希望するときは、それらの写し

代理人が申し出る場合は、代理人の権限を証する書面(委任状)も必要です(同項2号)。

なお、法務局の記載例(旧氏の記録の申出をする場合)でも、氏の変更登記そのものの登録免許税の記載は、通常の氏名変更と同じく「金3万円(又は1万円)」となっています。

併記をやめたいとき

いったん旧氏を併記したあとで、記録をやめたいと考えることもあるでしょう。その場合、会社の代表者は旧氏の記録を希望しない旨の申出をすることができます(商業登記規則81条の2第9項)。申出があると、その旧氏は記録されないことになります(同条10項で準用する5項)。

この申出は、旧氏を記録するときの申出書の規定を準用して行いますが、旧氏を証する書面の添付は不要です(同条10項で3項1号を準用から除いています)。申出書には会社の代表者が登記所に提出している印鑑を押します。代理人が申し出る場合は、その権限を証する書面(委任状)を添付し、申出書への押印に代えて委任状にこの印鑑を押します(同条10項で準用する3項2号・4項)。法務省のウェブサイトには、この申出書のひな形も掲載されています。

不動産の「氏名変更登記の義務化」とは別の制度です

「結婚して氏が変わったら登記を」と聞くと、2026年4月から始まった不動産の住所・氏名変更登記の義務化を思い浮かべる方もいるかもしれません。こちらは、ご自宅などの不動産の名義人(所有者)の氏名・住所についての制度で、期限も「2年以内」とされています(詳しくは住所変更登記の義務化の記事をご覧ください)。

この記事で取り上げた役員の氏名変更登記は、会社の登記簿についての手続きで、根拠となる法律も期限(2週間)も異なります。役員の氏名変更の登記をしても、役員ご本人名義の不動産の登記が書き換わるわけではありませんし、その逆も同じです。役員ご本人が不動産をお持ちの場合は、それぞれ別に手続きが必要になる点に注意しましょう。

まとめ

  • 取締役・監査役などの氏が結婚で変わったら、氏が変わった日から2週間以内に、会社が役員の氏名変更登記を申請する(会社法915条1項)。怠ると過料の対象となることがある(会社法976条1号)
  • 法務局の記載例では、添付書類は代理人に頼む場合の委任状のみ。登録免許税は資本金1億円以下の会社で1万円、超える会社で3万円
  • 婚姻前の氏などの旧氏は、会社の代表者が申し出ることで登記簿に併記できる(商業登記規則81条の2)。申し出るかどうかは任意で、氏の変更登記と同時でも、後から単独でも申し出られる
  • 併記をやめたいときは「旧氏の記録を希望しない旨の申出」をする。旧氏を証する書面は不要
  • 不動産の氏名変更登記の義務化とは別の制度なので、不動産をお持ちの場合はそれぞれ手続きが必要

申請書の書き方や旧氏の申出の段取りに不安がある場合は、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. 役員の氏名変更登記には、いくらかかりますか? 登録免許税は、資本金の額が1億円以下の会社で1万円、1億円を超える会社で3万円です(登録免許税法別表第一24号(1)カ)。旧氏の記録の申出を同時にする場合も、法務局の記載例では登録免許税の記載は同じです。このほか、旧氏を証する書面として戸籍謄本などを取り寄せる場合はその交付手数料がかかり、専門家に依頼する場合は別途報酬がかかります。

Q. 2週間の期限を過ぎてしまったら、どうなりますか? 会社法915条1項は、変更が生じたときから2週間以内の登記を求めており、登記を怠ったときは取締役などが100万円以下の過料の対象となることがあります(会社法976条1号)。期限を過ぎたことに気づいたら、そのままにせず、できるだけ早く申請することが大切です。

Q. 自分で申請できますか? どこに相談すればいいですか? 法務局のウェブサイトに、氏名変更の申請書様式と記載例(旧氏の記録の申出をする場合を含む)が掲載されており、それを参考に会社自身で申請することもできます。申請書には代表取締役が登記所に提出している印鑑を押す必要がある点に注意してください。ほかの役員変更と一緒に手続きしたい場合や、書き方に迷う場合は、お近くの司法書士にご相談ください。


【さらに深掘り】旧氏の申出の書き方と、旧氏を証する書面の分かれ目

ご注意 以下は執筆時点(2026年10月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

旧氏の併記の手続きについては、令和4年の商業登記規則の改正にあわせて、令和4年8月25日付けの法務省民事局長通達(法務省民商第411号)が取扱いを示しています。以下では、この通達と法務局の記載例をもとに、申出の書き方と添付書面の選び方の分かれ目を整理します。

申出書を別に出すか、申請書に書き込むか

通達は、設立の登記、役員等の就任による変更の登記、清算人の登記、役員等の氏の変更の登記と同時にする旧氏の申出(記録の申出、記録する旧氏の変更の申出、記録を希望しない旨の申出)については、申出書を提出する方法のほか、申請書に申出事項を記載する方法でも差し支えないとしています。

申請書に書き込む場合、法務局の記載例(役員につき旧氏の併記の申出をする場合)では、次のような形になっています。

  • 登記すべき事項の「氏名」欄は「○○○○(△△○○)」と、現在の氏名に続けて旧氏による氏名を括弧書きで記載する。代表取締役である取締役の場合は、「代表取締役」の欄と「取締役」の欄の両方に括弧書きを入れる(通達も、旧氏をも記録すべき者が代表取締役であるときは、代表取締役の氏名にも続けて括弧書きで記録するとしています)
  • 申請書の末尾に「下記の者につき、旧氏を記録するよう申し出ます」という申出文を置き、旧氏をも記録する者の資格・氏名、記録すべき旧氏、添付する旧氏を証する書面の種類を記載する

代理人に依頼する場合は、委任状にも注意が必要です。記載例の委任状では、氏の変更の登記の申請とは別に「旧氏の記録の申出の件」を委任事項として挙げ、旧氏を証する書面の原本還付を受けたいときは「原本還付の請求及び受領の件」も加える形になっています。また、代表取締役ご本人の氏が変わった場面では、委任状に書く代表取締役の氏名は変更後の氏名とし、登記所に提出している印鑑を押すよう注記されています。

登記の申請と同時ではなく単独で申し出る場合は、申出書(通達の別紙様式例4。法務省ウェブサイトにひな形があります)を提出します。なお、通達によると、登記の申請と同時に行う申出はオンラインでもすることができるとされています。

旧氏を証する書面は「初めて記録するかどうか」で分かれる

通達は、記録すべき旧氏を証する書面を、次のように場合分けしています。

場面 旧氏を証する書面
初めて旧氏を記録する場合 併記しようとする旧氏の記載がある除籍抄本等から、現在の氏の記載がある戸籍に至るすべての戸籍・除籍の抄本等。住民票・マイナンバーカード・運転免許証にすでに併記されている旧氏と同じ旧氏を希望する場合は、これらの写しでも足りる
それ以外の場合(商業登記規則81条の2第1項後段の申出を含む) 併記しようとする旧氏の記載がある除籍抄本等から、現在の氏の記載がある戸籍に至るすべての戸籍・除籍の抄本等

住民票などの写しで足りるのは「初めて旧氏を記録する場合」に限られている点が分かれ目です。通達の申出書の様式例の注では、記録する旧氏を変更する場合や、過去に旧氏を記録していたが、記録を希望しない旨の申出をして現在は記録していない場合は、「初めて旧氏を記録する」に当たらない扱いとされています。こうした場面では、戸籍・除籍の抄本等をそろえる前提で準備することになります。

写しを使う場合も、一部の運転免許証など裏面にだけ旧氏が記載されるものは、裏面も複写したものでなければならないとされています。また、戸籍類を他の手続きにも使う予定があるときは、上の委任状の例のとおり、原本還付の請求をあわせて検討しておくとよいでしょう。

旧氏を記録した後に、さらに氏の変更の登記をする場合

旧氏を記録した後に、その役員についてさらに氏の変更の登記をするときは、商業登記規則81条の2の次の規定が関係します。

  • 記録する旧氏の変更(7項):旧氏の記録がされている者について氏の変更の登記がされた場合、会社の代表者は、記録されている旧氏を、その変更の登記の直前に称していた旧氏に変更するよう申し出ることができます。この申出にも申出書・添付書面・押印の規定(2項〜5項)が準用されており、旧氏を証する書面が必要です(上の表の「それ以外の場合」に当たります)
  • 新しい氏が記録中の旧氏と同じになる場合(6項):氏の変更の登記の申請があった場合に、記録されている旧氏と、登記簿に記録すべき新しい氏とが同じであるときは、登記官はその旧氏を記録しないものとされています
  • 改めて申し出るときの制限(1項後段):登記簿(閉鎖した登記事項を除きます)にその役員について旧氏の記録がされていたことがあるときは、最後に記録されていた旧氏より後に称していた旧氏に限って、記録の申出ができます

1項後段の制限は、記録を希望しない旨の申出(9項)で併記をやめた後に、改めて申し出る場面でも問題になり得ます。併記をやめるかどうかを決める際は、改めて申し出るときは戸籍・除籍の抄本等が必要になることと、この制限があることを踏まえておくと判断しやすくなります。具体的にどの旧氏を記録できるかは、管轄の登記所に確認してください。

合同会社などの持分会社では

通達は、持分会社(合名会社・合資会社・合同会社)の登記についても、株式会社と同様の取扱いがされるとしています(商業登記規則88条の2・90条・92条)。合名会社について定める商業登記規則88条の2は、会社の代表者が、社員や清算人のほか、合名会社を代表する社員が法人である場合のその職務を行うべき者(職務執行者。清算持分会社を代表する清算人が法人である場合も同様)についても、旧氏の記録を申し出ることができると定め、申出の手続きは81条の2第2項から第10項までを準用しています。この規定は、合資会社には90条で、合同会社には92条で準用されます。合同会社では、92条の読替えにより、旧氏の記録の対象となる社員は業務を執行する社員です。


参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年10月・いずれも一次情報です)。

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