問題:
相殺に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものはいくつあるか。
ア. 相殺の意思表示には、条件又は期限を付することができないが、相殺の意思表示は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼってその効力を生ずる。
イ. 当事者が相殺を禁止する旨の意思表示をした場合には、その意思表示は、第三者がこれを知っていたときに限り、その第三者に対抗することができる。
ウ. 債権が譲渡された場合において、債務者が対抗要件具備時より後に譲渡人に対する債権を取得したときであっても、その債権が譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権であるときは、債務者は、他人の債権を取得したときを除き、その債権による相殺をもって譲受人に対抗することができる。
エ. 過失による不法行為に基づく損害賠償の債務の債務者は、その損害賠償の債務が物の損壊によるものであるときであっても、相殺をもって債権者に対抗することができない。
オ. 差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権であっても、その債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであるときは、差押え後に他人の債権を取得した場合であっても、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる。
答え:
正しいものは、ア・ウの2つである。
解説:
ア 正しい。民法506条1項は、「相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によってする。この場合において、その意思表示には、条件又は期限を付することができない。」と定め、同条2項は、「前項の意思表示は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼってその効力を生ずる。」と定めている。
イ 誤り。民法505条2項は、「前項の規定にかかわらず、当事者が相殺を禁止し、又は制限する旨の意思表示をした場合には、その意思表示は、第三者がこれを知り、又は重大な過失によって知らなかったときに限り、その第三者に対抗することができる。」と定めている。第三者が知っていたときに限られず、重大な過失によって知らなかった第三者にも対抗することができる。
ウ 正しい。民法469条1項は、「債務者は、対抗要件具備時より前に取得した譲渡人に対する債権による相殺をもって譲受人に対抗することができる。」と定め、同条2項は、「債務者が対抗要件具備時より後に取得した譲渡人に対する債権であっても、その債権が次に掲げるものであるときは、前項と同様とする。ただし、債務者が対抗要件具備時より後に他人の債権を取得したときは、この限りでない。」と定めている。そして、同項2号は、「前号に掲げるもののほか、譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権」を掲げている(1号は「対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権」)。
エ 誤り。民法509条は、「次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。ただし、その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、この限りでない。」と定め、1号に「悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務」、2号に「人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務(前号に掲げるものを除く。)」を掲げている。過失による不法行為は1号の「悪意による不法行為」に当たらず、物の損壊は2号の「人の生命又は身体の侵害」に当たらないから、同条による相殺の禁止は及ばず、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができる。
オ 誤り。民法511条1項は、「差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできないが、差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗することができる。」と定め、同条2項は、「前項の規定にかかわらず、差押え後に取得した債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであるときは、その第三債務者は、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる。ただし、第三債務者が差押え後に他人の債権を取得したときは、この限りでない。」と定めている。差押え後に他人の債権を取得した場合には、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできない。なお、同条には、債権譲渡についての同法469条2項2号(譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権)に相当する定めは置かれていない。
ポイント:相殺の意思表示には条件・期限を付けられず、その効力は相殺適状の時にさかのぼる(民法506条)。相殺を禁止・制限する意思表示は、これを知り、又は重大な過失によって知らなかった第三者にだけ対抗できる(同法505条2項)。債権譲渡では、対抗要件具備時より前に取得した債権のほか、具備時より後に取得した債権でも、具備時より前の原因に基づいて生じた債権と、譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権による相殺を譲受人に対抗できる(同法469条1項・2項)。差押えでは、差押え前に取得した債権と、差押え後に取得したが差押え前の原因に基づいて生じた債権による相殺を差押債権者に対抗できる(同法511条)。どちらも、後から他人の債権を取得した場合は除かれる(同法469条2項ただし書・511条2項ただし書)。民法509条が相殺の対抗を禁じるのは、悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務と、人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務であり(同条1号・2号)、過失による不法行為で物を損壊したことによる損害賠償の債務は、そのいずれにも当たらない。「『譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権』の定めは債権譲渡だけ、後から他人の債権を取得したときはどちらも不可」と押さえる。
問題:
仮登記に関する次のアからオまでの記述のうち、誤っているものはいくつあるか。
ア. 仮登記は、不動産登記法3条各号に掲げる権利の設定、移転、変更又は消滅に関して請求権を保全しようとするときにすることができるが、その請求権が始期付き又は停止条件付きのものであるときは、することができない。
イ. 仮登記の登記権利者及び登記義務者が共同して仮登記を申請する場合には、申請人は、登記義務者の登記識別情報を提供することを要しない。
ウ. 仮登記を命ずる処分の申立てに係る事件は、不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に専属し、仮登記の登記権利者がその申立てをするときは、仮登記の原因となる事実を証明しなければならない。
エ. 所有権に関する仮登記に基づく本登記は、登記上の利害関係を有する第三者がある場合には、当該第三者の承諾があるときに限り申請することができ、登記官は、その申請に基づいて登記をするときは、職権で、当該第三者の権利に関する登記を抹消しなければならない。
オ. 仮登記の登記名義人が単独で仮登記の抹消を申請する場合には、申請人は、仮登記の登記名義人の登記識別情報を提供することを要しない。
答え:
誤っているものは、ア・ウ・オの3つである。
解説:
ア 誤り。不動産登記法105条は、仮登記をすることができる場合として、2号に「第三条各号に掲げる権利の設定、移転、変更又は消滅に関して請求権(始期付き又は停止条件付きのものその他将来確定することが見込まれるものを含む。)を保全しようとするとき。」を掲げている。始期付き又は停止条件付きの請求権も含まれるから、その請求権を保全するための仮登記をすることができる。
イ 正しい。不動産登記法107条2項は、「仮登記の登記権利者及び登記義務者が共同して仮登記を申請する場合については、第二十二条本文の規定は、適用しない。」と定めている。同法22条本文は、登記権利者及び登記義務者が共同して権利に関する登記の申請をする場合等には、申請人は、その申請情報と併せて登記義務者の登記識別情報を提供しなければならないと定めているが、共同して仮登記を申請する場合にはこれが適用されない。なお、同法107条1項は、仮登記は、仮登記の登記義務者の承諾があるとき及び仮登記を命ずる処分があるときは、同法60条の規定にかかわらず、仮登記の登記権利者が単独で申請することができると定めている。
ウ 誤り。不動産登記法108条1項は、「裁判所は、仮登記の登記権利者の申立てにより、仮登記を命ずる処分をすることができる。」と定め、同条2項は、「前項の申立てをするときは、仮登記の原因となる事実を疎明しなければならない。」と定め、同条3項は、「第一項の申立てに係る事件は、不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に専属する。」と定めている。管轄の点は正しいが、仮登記の原因となる事実は疎明すれば足り、証明は要しない。
エ 正しい。不動産登記法109条1項は、「所有権に関する仮登記に基づく本登記は、登記上の利害関係を有する第三者(本登記につき利害関係を有する抵当証券の所持人又は裏書人を含む。以下この条において同じ。)がある場合には、当該第三者の承諾があるときに限り、申請することができる。」と定め、同条2項は、「登記官は、前項の規定による申請に基づいて登記をするときは、職権で、同項の第三者の権利に関する登記を抹消しなければならない。」と定めている。
オ 誤り。不動産登記法110条は、「仮登記の抹消は、第六十条の規定にかかわらず、仮登記の登記名義人が単独で申請することができる。仮登記の登記名義人の承諾がある場合における当該仮登記の登記上の利害関係人も、同様とする。」と定めている。もっとも、同法22条は、登記名義人が政令で定める登記の申請をする場合には、申請人は、その申請情報と併せて登記名義人の登記識別情報を提供しなければならないと定めており、不動産登記令8条1項9号は、その政令で定める登記として「仮登記の登記名義人が単独で申請する仮登記の抹消」を掲げている。したがって、仮登記の登記名義人が単独で仮登記の抹消を申請するときは、その登記識別情報を提供しなければならない(同法22条ただし書の正当な理由がある場合を除く。)。
ポイント:仮登記は、権利の設定、移転、変更又は消滅に関して請求権を保全しようとするときにすることができ、その請求権には始期付き・停止条件付きのものも含まれる(不動産登記法105条2号)。仮登記は、登記義務者の承諾があるときや仮登記を命ずる処分があるときは登記権利者が単独で申請でき(同法107条1項)、共同して申請するときは登記義務者の登記識別情報の提供を要しない(同条2項)。仮登記を命ずる処分の申立てでは原因となる事実を疎明すれば足り、事件は不動産の所在地を管轄する地方裁判所の専属管轄である(同法108条2項・3項)。所有権に関する仮登記に基づく本登記は、登記上の利害関係を有する第三者がある場合にはその承諾が要件で、その第三者の権利に関する登記は登記官が職権で抹消する(同法109条)。仮登記の抹消は仮登記の登記名義人が単独で申請できるが、そのときは登記識別情報の提供を要する(同法110条・22条、不動産登記令8条1項9号)。「仮登記の共同申請は識別情報不要、名義人単独の抹消は識別情報必要」と対で押さえる。
問題:
民事保全法に規定する保全命令、保全取消し及び保全執行に関する次のアからオまでの記述のうち、誤っているものはいくつあるか。
ア. 仮差押命令においては、仮差押えの執行の停止を得るため、又は既にした仮差押えの執行の取消しを得るために債務者が供託すべき金銭の額を定めなければならず、債務者は、その金銭を自己の住所地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所に供託することができる。
イ. 保全命令の申立てにおいては、保全すべき権利又は権利関係は証明しなければならないが、保全の必要性は疎明すれば足りる。
ウ. 仮の地位を定める仮処分命令は、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ発することができないが、その期日を経ることにより仮処分命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは、この限りでない。
エ. 保全命令を発した裁判所は、債務者の申立てにより、債権者に対し、相当と認める一定の期間内に、本案の訴えを提起するとともにその提起を証する書面を提出すべきことを命じなければならないが、この期間は、1週間以上でなければならない。
オ. 保全執行は、保全命令が債務者に送達される前であってもすることができるが、債権者に対して保全命令が送達された日から2週間を経過したときは、することができない。
答え:
誤っているものは、ア・イ・エの3つである。
解説:
ア 誤り。民事保全法22条1項は、「仮差押命令においては、仮差押えの執行の停止を得るため、又は既にした仮差押えの執行の取消しを得るために債務者が供託すべき金銭の額を定めなければならない。」と定めているが、同条2項は、「前項の金銭の供託は、仮差押命令を発した裁判所又は保全執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所にしなければならない。」と定めている。債務者の住所地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所に供託することはできない。なお、同条の見出しは「仮差押解放金」である。
イ 誤り。民事保全法13条1項は、「保全命令の申立ては、その趣旨並びに保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性を明らかにして、これをしなければならない。」と定め、同条2項は、「保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性は、疎明しなければならない。」と定めている。保全すべき権利又は権利関係も、疎明すれば足りる。
ウ 正しい。民事保全法23条4項は、「第二項の仮処分命令は、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、これを発することができない。ただし、その期日を経ることにより仮処分命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは、この限りでない。」と定めている。同条2項の仮処分命令は、仮の地位を定める仮処分命令である。なお、同条4項は「第二項の仮処分命令」について定めるものであり、同条1項の係争物に関する仮処分命令には適用されない。
エ 誤り。民事保全法37条1項は、「保全命令を発した裁判所は、債務者の申立てにより、債権者に対し、相当と認める一定の期間内に、本案の訴えを提起するとともにその提起を証する書面を提出し、既に本案の訴えを提起しているときはその係属を証する書面を提出すべきことを命じなければならない。」と定め、同条2項は、「前項の期間は、二週間以上でなければならない。」と定めている。1週間以上ではなく、2週間以上である。なお、債権者がその期間内に書面を提出しなかったときは、裁判所は、債務者の申立てにより、保全命令を取り消さなければならない(同条3項)。
オ 正しい。民事保全法43条2項は、「保全執行は、債権者に対して保全命令が送達された日から二週間を経過したときは、これをしてはならない。」と定め、同条3項は、「保全執行は、保全命令が債務者に送達される前であっても、これをすることができる。」と定めている。
ポイント:保全すべき権利又は権利関係と保全の必要性は、いずれも疎明で足りる(民事保全法13条2項)。仮差押命令では仮差押解放金の額を必ず定め、その供託は仮差押命令を発した裁判所又は保全執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所にする(同法22条)。仮の地位を定める仮処分命令は、目的を達することができない事情があるときを除き、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経て発する(同法23条4項)。本案の訴えの提起等を命ずる期間は2週間以上で、期間内に書面が提出されなければ、債務者の申立てにより保全命令が取り消される(同法37条1項〜3項)。保全執行は、債務者への送達前でもできるが、債権者への送達の日から2週間を経過するとできない(同法43条2項・3項)。本問に出てくる「2週間」は二つあり、一方は本案の訴えの提起等を命ずる期間の下限、他方は債権者への送達の日から数える保全執行の期限であると区別して押さえる。
出題分野の振り分け
| 問 | 分野 | 主な論点 | 主な根拠条文 |
|---|---|---|---|
| 第1問 | 民法(債権・相殺) | 相殺の意思表示と遡及効、相殺を禁止・制限する意思表示の第三者への対抗(悪意・重過失)、債権譲渡と相殺(契約に基づいて生じた債権)、不法行為等により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止の範囲、差押えと相殺(差押え前の原因・他人の債権の取得) | 民法469条1項・2項、505条2項、506条、509条、511条 |
| 第2問 | 不動産登記法(仮登記) | 請求権保全の仮登記と始期付き・停止条件付きの請求権、共同申請による仮登記と登記識別情報、仮登記を命ずる処分(疎明・専属管轄)、所有権に関する仮登記に基づく本登記と利害関係人の承諾・職権抹消、仮登記名義人の単独申請による抹消と登記識別情報 | 不動産登記法22条、105条、107条、108条、109条、110条、不動産登記令8条1項9号 |
| 第3問 | 民事保全法(保全命令・保全取消し・保全執行) | 仮差押解放金の額の定めと供託所、保全すべき権利と保全の必要性の疎明、仮の地位を定める仮処分命令と審尋等の期日、本案の訴えの不提起等による保全取消し(2週間以上の期間)、保全執行の期間と債務者への送達前の執行 | 民事保全法13条、22条、23条2項・4項、37条1項〜3項、43条2項・3項 |