相続人が一人だけのときの相続手続き──遺産分割協議が要らない分、何をどの順番で進めるか

この記事の要点 「相続人が一人」と言えるのは、亡くなった方の戸籍を出生から死亡までたどり(親や兄弟姉妹が相続人になる場合は親の戸籍なども)、ほかに相続人がいないと確かめてから。前の結婚で生まれた子・認知した子・養子が見つかれば、相続人が増えたり、相続人だと思っていた人が相続人でなくなったりする 遺言がなく相続人が一人なら遺産分割協議は不要。ただし相続放棄・限定承認の3か月、準確定申告の4か月、相続税申告の10か月、相続登記の3年という期限は、当てはまる場合にはそのまま残る 協議の成立を待つ必要がないため、相続すると決めたあとは、戸籍などがそろえば相続登記の準備を進められる 相続人が一人だけの場合、相続人全員で遺産の分け方を話し合う遺産分割協議は必要ありません。そのぶん手続きは軽くなりますが、期限のある手続きがなくなるわけではありません。結論から言うと、①本当に一人かを戸籍で確かめる、②遺言の有無を確かめる、③財産と借金を調べ、3か月以内に相続するかどうかを決める、④税金の期限を確認する、⑤相続登記を申請する、という順番で進めるのが基本です。 ...

2026年10月12日 · ひぐらしさとし

帰化した人が亡くなったときの相続の戸籍──帰化前の婚姻・認知・子の出生などの経過は日本の戸籍ではたどれない

この記事の要点 帰化した人の日本の戸籍は、帰化の届出を受けて記載されたところから始まり、帰化する前の身分関係の経過(前の婚姻や離婚、認知、帰化前に生まれた子など)は原則としてたどれない 帰化後に亡くなった人の相続は日本の法律によるが、相続人を確かめるには帰化前の身分関係を示す本国の公的書類とその翻訳文が必要になることがある 相続登記で書類がそろわないときにどう補うかは、提出先の法務局の取扱いによる 相続の手続きでは、亡くなった人の「出生から死亡まで」の戸籍を集めて相続人を確かめるのが基本です。ところが、亡くなった人が帰化して日本の国籍を取得した人だった場合、日本の戸籍だけでは出生までさかのぼれません。日本の戸籍は帰化したところから始まっているためです。なお、本記事は執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です。 ...

2026年10月12日 · ひぐらしさとし

成年後見の審判が出るまでの間、本人の財産はどう守る?──審判前の保全処分(財産の管理者の選任・後見命令)

この記事の要点 後見開始の申立てがあった後、審判が効力を生じるまでの間、家庭裁判所は本人の生活や財産を守るために「財産の管理者」を選任するなどの保全処分をすることができる。申立てによるほか、家庭裁判所の職権でもできる(家事事件手続法第126条第1項) 本人の財産の保全のため特に必要があるときは、後見開始の申立てをした人の申立てにより、「後見命令」を出すことができる。後見命令が出ると、本人がした財産上の行為(日用品の購入など日常生活に関する行為を除く)を取り消せるようになる(同条第2項・第7項) いずれも家庭裁判所の後見開始の手続きに付随する家事事件手続法上の制度で、民事保全法に基づく民事保全(仮差押え・仮処分)とは別の仕組み 成年後見の申立てをしても、審判が出るのは家庭裁判所での審理を経た後です。その間に本人の財産が失われるおそれがあるときは、どうすればよいのでしょうか。結論から言うと、家庭裁判所は、審判が効力を生じるまでの間に限って「審判前の保全処分」をすることができ、本人の財産を管理する人(財産の管理者)を選んだり、本人がした財産上の行為を取り消せるようにしたり(後見命令)することができます。本記事は、執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です。 ...

2026年10月11日 · ひぐらしさとし

訴えを取り下げるとどうなる?──相手の同意が必要になる場面と、もう一度訴えられなくなる場合

この記事の要点 訴えは、判決が確定するまでなら、全部でも一部でも取り下げることができる(民事訴訟法261条1項)。ただし、相手が請求の中身について準備書面を出したり口頭弁論をしたりした後は、相手の同意がなければ取下げの効力が生じない(同条2項) 取り下げた部分は「初めから裁判所にかかっていなかった」ものとみなされる。一方、本案について終局判決が出た後に取り下げた人は、同一の訴えを起こすことができなくなる(同法262条) 当事者が双方とも期日に出てこない状態が続くと、取下げをしていなくても取り下げたものとみなされることがある(同法263条) 訴え(裁判)を起こした側は、判決が出るまで手続きを続けなければならないわけではありません。民事訴訟法は、訴えは「判決が確定するまで」その全部または一部を取り下げることができると定めています(261条1項)。判決が言い渡された後でも、確定する前であれば取り下げることができる建てつけです。ただし、取下げにはいくつかのルールがあり、タイミングによっては相手の同意が必要になったり、あとで同じ訴えを起こせなくなったりします。 ...

2026年10月11日 · ひぐらしさとし

「別段の定めがある場合を除き」「別段の意思を表示したときは」とは──条文の原則を変えられる「別段」の読み方【遺言・登記の条文で解説】

この記事の要点 条文の「別段」は「特に異なる、特別の」という意味で、条文が置いた原則を、別の決め方で置き換えてよいとあらかじめ認める受け皿の言い回しです。「法令に別段の定めがある場合を除き」なら法令の別の規定(同じ法律の他の条文や、別の法令)が、「定款に別段の定めがある場合を除き」なら会社の定款が、「遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う」なら遺言者の意思が、条文の原則より優先します 誰が原則を変えられるのかは、「別段」の直前に置かれた言葉(法令に/定款に/遺言者がその遺言に)で決まります。遺言の条文に多い「別段の意思」は、遺言者が遺言の中で表示した意思を指しています 民法91条は「別段」ではなく「異なる意思を表示したときは」という言い回しで、当事者の取り決めで変えられる規定(任意規定)の一般ルールを定めています。逆に、遺留分の侵害額の請求(民法1046条)や遺留分の放棄(1049条)の条文には受け皿がなく、侵害額をお金で請求できる仕組みや、相続開始前の放棄に家庭裁判所の許可を求める仕組みから、遺言者が一方的には変えられないと読み取れます 条文には、原則を書いたうえで、「別の決め方があればそちらに従う」という逃げ道をあらかじめ用意しているものがあります。その合図になるのが「別段」という言葉です。同じ項の中で例外を作るただし書や、別の条文を名指しして原則を上書きする「〜の規定にかかわらず」とは、少し役割が違います。遺言と登記の条文を例に、実際の文言で見ていきます(執筆時点(2026年10月)の制度に基づく一般的な解説です)。 ...

2026年10月10日 · ひぐらしさとし

書面で登記を申請したら『受領証』はもらえる?──申請書を出した証拠を手元に残すしくみ

この記事の要点 書面で登記を申請した人は、登記が完了するまでの間、申請書と添付書面の「受領証」の交付を請求できる 受領証は、法務局が申請書類を受け付けたことを示すもので、登記が終わったことや、申請どおりに権利を取得したことを証明するものではない オンライン申請では受領証は交付されず、受付を含む処理状況は申請用総合ソフト上に掲示されると案内されている 登記の申請書を法務局に出すと、書類一式は法務局の手元に残ります。「出した証拠が何も残らないのでは」と心配になる方もいるかもしれません。結論から言えば、書面で申請した場合は、申請書と添付書面を受け付けたことの証明として「受領証」を請求できます。ただし、受領証が示すのは「受け付けた」ことまでで、「登記が終わった」ことではありません。 ...

2026年10月10日 · ひぐらしさとし

耳や目が不自由な家族と相続の相談に行くとき──『合理的配慮』をお願いしてよいことと、予約時に伝えておきたいこと

この記事の要点 司法書士事務所などの事業者は、障害のある人から配慮を求める意思が伝えられたとき、負担が過重でない範囲で必要かつ合理的な配慮(合理的配慮)をすることが法律で求められている(2024年4月1日から法的義務) 何をどこまで行うかは一律に決まっておらず、本人と事業者の話し合い(建設的対話)を通じて、代わりの方法も含めて決めていく仕組みになっている 予約の段階で、困る場面・普段使っている工夫・希望するやりとりの方法を伝えておくと、当日の準備がしやすくなる 聞こえにくさや見えにくさのある家族と一緒に相続の相談に行くとき、「筆談をお願いしてもいいのだろうか」「資料を大きな文字にしてほしいと言ったら迷惑では」と遠慮してしまう方もいるかもしれません。結論からいえば、こうした配慮はお願いしてよいものです。障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)で、事業者は、障害のある人から求めがあったとき、負担が過重でない範囲で必要な配慮をすることとされているからです。 ...

2026年10月9日 · ひぐらしさとし

遠方や海外に住む人が不動産を相続したら──固定資産税の『納税管理人』とは

この記事の要点 固定資産税を納める人が、その不動産のある市区町村に住所・居所・事務所・事業所をもたない場合、納税の手続きを代わりに処理する「納税管理人」を定めることが、地方税法355条1項で求められている 定め方は、条例で決められた地域内の人を選んで市区町村長に「申告」する方法と、地域外の人を選ぶことについて「申請」して承認を受ける方法の2通り。税金の徴収に支障がないと市区町村長の「認定」を受ければ、定めなくてよい(同条2項) 相続人の中から書類の受取人を決める「相続人代表者指定届」とは別の制度。国税(相続税など)の納税管理人も、固定資産税とは別の法律の別の制度 結論から言うと、相続で不動産を引き継いだ人が、その不動産のある市区町村の外に住んでいる場合には、固定資産税について「納税管理人」を定めるか、定めなくてよいという認定を受けるかを、その市区町村に確認しておく必要があります。海外に住んでいる場合だけの話ではない点に注意が必要です。 ...

2026年10月9日 · ひぐらしさとし

相続人が未成年のとき、相続放棄の「3か月」はいつから?──親(法定代理人)が知った時から数えるルール

この記事の要点 相続人が未成年者のとき、相続を承認するか放棄するかを決める「3か月」は、子ども本人ではなく法定代理人(通常は親権を行う親)が、子どものために相続の開始があったことを知った時から数えます(民法917条) 家庭裁判所への相続放棄の申述(しんじゅつ:家庭裁判所への申出)も、未成年者本人ではなく法定代理人が代理して行います 親と子どもがともに相続人で子どもだけが放棄する場合(親が先に申述している場合を除く)などは、その子どもについて特別代理人の選任が必要とされています 結論:数え始めの基準は「法定代理人が知った時」 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、相続を承認するか放棄するかを決めなければなりません(民法915条1項)。この3か月を「熟慮期間(じゅくりょきかん)」といいます。 ...

2026年10月8日 · ひぐらしさとし

戸籍の上では生きている超高齢の人がいたら?──「高齢者消除」の意味と、相続人から外せない理由

この記事の要点 いわゆる「高齢者消除」は、戸籍上の整理をするための行政上の措置で、これによって死亡の効果が直ちに生じるものではないと、法務省の資料で説明されている そのため、高齢者消除だけを理由に、その人の相続が始まったと扱ったり、ほかの人の相続で相続人から外したりすることはできない 相続の手続きを進めるには、失踪宣告や不在者財産管理人の選任など、家庭裁判所の手続きが必要になる場合がある 戸籍に残る「生きているはずのない年齢」の人 相続人を確定するために戸籍をさかのぼっていくと、生まれた年から数えるとかなりの高齢になるのに、死亡の記載がないまま戸籍に残っている人が見つかることがあります。死亡届が出されないまま年月が過ぎると、戸籍の上では生きている状態が続くためです。 ...

2026年10月8日 · ひぐらしさとし