この記事の要点

  • 遺言の作成は本人一人の意思でできる行為であり、家族に伝えずに相談・作成を進めても法的な問題はない
  • 公正証書遺言の証人は家族でなくてよく、むしろ推定相続人や受遺者にあたる家族は証人になれない決まりがある
  • 内緒のまま進める場合は、死後に遺言の存在に気づかれないリスクへの備えを合わせて考えておきたい

遺言を考え始めたものの、「家族に知られずに相談だけでもしたい」と迷う方は少なくありません。結論から言うと、遺言の相談や作成は家族に内緒で進めてかまいません。遺言は本人一人の意思で成立させる行為であり、家族の同意や立ち会いを法律上必要とする場面はないからです。とはいえ、内緒のまま完結させることには実務上の注意点もあります。この記事では、その理由と、あとで困らないための工夫を整理します。

遺言は「本人一人の意思」で決められる行為

遺言は、財産を誰にどう残すかを本人だけの意思で決める、いわば一身専属的な行為です。家族の承諾を得ることも、立ち会ってもらうことも制度上は求められていません。それどころか、2人以上の人が同一の証書で共同して遺言をすることは法律で禁じられており(民法975条)、遺言はもともと一人で作ることが前提の制度になっています。そのため、相談の段階で家族に一切話さずに司法書士へ来所しても問題はなく、相談したら必ず依頼しなければいけないわけでもありません。まずは一人で話を聞いてみて、内容や進め方を確認してから、家族に伝えるかどうかをあらためて考えるという順番でも十分です。

公正証書遺言の証人は、家族でなくてもよい

遺言には主に自筆証書遺言と公正証書遺言があり、それぞれの選び方は別記事で比較しています。このうち公証役場で作成する公正証書遺言では、証人2人以上の立ち会いが必要です(民法969条1号。実務では2名で作成するのが通例です)。ここで「証人には家族を頼むもの」と思い込んでいる方もいますが、実際にはむしろ逆で、推定相続人および受遺者と、これらの人の配偶者・直系血族は、遺言の証人・立会人になれないと定められています(民法974条2号)。未成年者や、公証人の配偶者・四親等内の親族・書記・使用人も同じく証人になれません(同条1号・3号)。もっとも、この規定は家族を一律に排除するものではなく、推定相続人にも受遺者にもあたらない親族であれば、条文上は証人になれる余地があります。ただし、誰が推定相続人にあたるかの判断を誤ると、あとで遺言の効力が争われるおそれがあるため、実務上は家族以外の第三者に頼むのが安全です。公証役場や専門職の事務所側で証人を手配できることも多いため、家族に頼らずに準備を進められます。自筆証書遺言であれば証人自体が不要で、より内緒にしやすい方法ですが、法務局に保管を申請する制度を使う場合は本人が自ら遺言書保管所(法務局)へ出向く必要があり、代理人に申請してもらうことはできません(遺言書保管法4条6項・2026年8月執筆時点で施行中の規定)。

なお、遺言のつくり方については、2026年6月24日に公布された「民法等の一部を改正する法律」(令和8年法律第45号)による見直しが控えています。証人・立会人になれない人を定めた民法974条は、推定相続人の側と受遺者の側を号を分けて整理したうえで、受遺者の被用者(受遺者が法人であればその被用者と役員)も証人になれない者に加える内容に改められます。また、法務局で遺言書保管官の前に遺言の全文を口述して作成する「保管証書遺言」という新しい方式が設けられ、法務局に保管を申請するときの本人確認についても、申出があって遺言書保管官が相当と認めるときは、映像と音声の送受信による方法(いわゆるウェブ会議の方法)で行える仕組みが用意されます。ただし、これらはいずれも「政令で定める日から施行する」とされている部分で、2026年8月時点では施行期日を定める政令を確認できませんでした(施行日は未定です)。施行日より前にした遺言については従前の例によるという経過措置も置かれていますので(同法附則5条)、いま遺言を作成される場合は、本文で説明した現在のルールで考えていただいて差し支えありません。

内緒のまま進めるときに考えておきたいこと

家族に伝えないまま遺言を作ること自体は自由ですが、気をつけたいのは「誰にも言わないまま」で終わらせてしまうことです。自宅の分かりにくい場所に保管したまま亡くなると、遺言の存在に誰も気づかず、法律上は本人の意思であるはずの内容が実現されないまま手続きが進んでしまうことがあります。内容そのものは内緒にしておくとしても、遺言があるという事実だけは信頼できる一人に伝えておく、あるいは専門職に保管を相談しておくといった工夫が役に立ちます。なぜその内容にしたのかを書き残したい場合は、付言事項の使い方も参考になります。

まとめ

遺言の相談や作成は、家族に内緒のまま進めても法的な問題はありません。証人が必要な場合も家族以外の第三者を立てられるため、無理に家族を巻き込む必要はないのです。ただし、内容までは内緒にするとしても、遺言があるという事実だけは誰かに伝えておくか、専門職に保管を相談しておくと、死後に気づかれないまま放置される事態を避けられます。進め方に迷ったときは、お近くの司法書士にご相談ください。

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月・いずれも一次情報です)。

  • 民法 第960条(遺言の方式。「この法律に定める方式に従わなければ、することができない」)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
  • 民法 第969条(公正証書遺言。第1項第1号に「証人二人以上の立会いがあること」)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
  • 民法 第974条(証人及び立会人の欠格事由。未成年者、推定相続人・受遺者とその配偶者・直系血族、公証人の配偶者・四親等内の親族・書記・使用人)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
  • 民法 第975条(共同遺言の禁止。「遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない」)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
  • 法務局における遺言書の保管等に関する法律 第4条(遺言書の保管の申請。第6項に「遺言書保管所に自ら出頭して行わなければならない」)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/430AC0000000073
  • 民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号・2026年6月24日公布・本記事に関する部分は未施行)による改正後の民法974条・968条の2、遺言書保管法7条・8条、同法附則1条・5条(e-Gov法令検索の民法・遺言書保管法の各ページに未施行の改正内容として収録): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089https://laws.e-gov.go.jp/law/430AC0000000073

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