第1問【民法】時効の完成猶予と更新

問: AがBに対する100万円の貸金債権について訴訟を提起したが、Aが第一審の口頭弁論終結前に訴えを取り下げた。この場合、時効の完成猶予の効力はどうなるか。

答: 訴えの取下げにより権利が確定しないため時効の「更新」は生じないが、事由が終了した時から6か月を経過するまでの間は時効は完成しない(民法147条1項括弧書)。

解説: 改正民法147条1項は、裁判上の請求等がある「間」は時効の完成を猶予し、同項の括弧書で、確定判決等によって権利が確定することなく事由が終了した場合は「その終了の時から六箇月を経過する」までの間は時効が完成しないと定める。更新(147条2項)は確定判決等による権利確定を要件とするため、訴えの取下げでは更新は生じない。旧法では訴え取下げ・却下等で時効中断の効力が生じないとされていたが(旧民法149条参照)、改正法では「猶予」と「更新」の概念が分離された。「訴訟提起=更新」と短絡しないこと。


第2問【不動産登記法】資格者代理人による本人確認情報と事前通知の省略

問: 登記義務者が登記識別情報を提供できないため、申請代理人である司法書士が不動産登記法23条4項1号に基づく本人確認情報を提供して登記申請した。この場合、登記官は必ず当該登記義務者に対し事前通知をしなければならない。○か×か。

答: ×。登記官が本人確認情報の提供を受け、かつ、その内容を相当と認めるときは事前通知を要しない(不動産登記法23条4項1号)。

解説: 不動産登記法23条1項は登記義務者への事前通知を原則とする。同条4項1号は、資格者代理人(司法書士・土地家屋調査士等)が申請前に本人確認のために必要な措置を講じた上で本人確認情報を作成・提供し、登記官が本人確認情報の提供を受け、かつ「その内容を相当と認めるとき」は事前通知の規定を適用しないと規定する。「相当と認めるとき」という判断要件が存在する以上、「必ず通知しなければならない」は誤り。登記官が相当と認めない場合は通知が行われる点も押さえること。


第3問【会社法・商業登記法】全株式譲渡制限設定の決議要件

問: 取締役会設置会社(種類株式発行会社でない)が、定款を変更して全株式に譲渡制限を設ける場合、当該定款変更には議決権を行使できる株主の半数以上、かつその議決権の3分の2以上の多数が必要である。○か×か。

答: ○(会社法309条3項1号)。

解説: 全部の株式に譲渡制限を設ける定款変更(種類株式発行会社でない場合)は、会社法309条3項1号が定める「特殊決議」にあたる。要件は①議決権を行使できる株主の「頭数の半数以上」かつ②その議決権の「3分の2以上」。通常の特別決議(309条2項:出席株主の議決権の3分の2以上)と異なり、頭数要件が加わる点が最大のポイント。なお種類株式発行会社において特定の種類株式に譲渡制限を設ける場合は同法111条2項が適用される(両者は適用場面が異なる)。定款でこれを上回る割合を定めることも可能(309条3項柱書括弧書)。商業登記申請では、総会議事録に頭数を記載・証明する必要がある点も実務上重要。


第4問【民事訴訟法】既判力の時的限界

問: 確定判決の既判力の標準時(基準時)は事実審の口頭弁論終結時であり、当事者は標準時前に存在した攻撃防御方法を後の訴訟で主張することは原則としてできない。○か×か。

答: ○(判例・通説。民事執行法35条2項参照)。

解説: 確定判決の既判力の標準時は事実審(第一審・控訴審)の口頭弁論終結時とされる(民事訴訟法に明文はないが、民事執行法35条2項がこれを前提としており、判例・通説で確立)。標準時前に存在した攻撃防御方法は後訴で遮断される(遮断効)。例えば前訴で主張できた弁済を主張しなかった場合、後訴での主張は認められない。ただし標準時後に生じた弁済等の新事由は遮断されない。なお民事訴訟法114条1項は「主文に包含するものに限り」既判力が生じると規定し、判決理由中の判断には既判力が生じない点も重要(相殺の抗弁についての判断は同条2項の例外)。


第5問【供託法】弁済供託の要件と口頭の提供

問: 債権者がAに対して「いかなる場合も弁済を受け取らない」と事前に明示した場合、Aは口頭の提供をすることなく弁済供託をすることができる。○か×か。

答: ○(民法493条ただし書、最大判昭和32年6月5日民集11巻6号915頁の趣旨・法務省供託Q&A)。

解説: 弁済の提供は原則として「現実の提供」が必要(民法493条本文)だが、債権者があらかじめ受領を拒んでいる場合は「口頭の提供」で足りる(同条ただし書)。さらに債権者がいかなる弁済も受領しない意思を「明確かつ確定的」に表示した場合は口頭の提供すら不要とするのが判例の立場(最大判昭和32年6月5日民集11巻6号915頁。債務不履行責任に関する判示)。民法494条1項1号は「弁済の提供をした場合において、債権者がその受領を拒んだとき」と定めるが、供託実務では、口頭の提供をしても債権者が受領しないことが明らかな場合は、弁済の提供をすることなく供託できる場合があるとされている(法務省・供託Q&A)。「受領拒絶があれば口頭提供も不要」と一般化しすぎると誤りになるため、「あらかじめ明確に」という要件を押さえること。


出題分野の振り分け

問 分野 論点
第1問 民法 時効の完成猶予・更新(改正民法147条)
第2問 不動産登記法 本人確認情報と事前通知省略(23条4項1号)
第3問 会社法・商業登記法 全株式譲渡制限の特殊決議(309条3項1号)
第4問 民事訴訟法 既判力の時的限界・遮断効(民執法35条2項)
第5問 供託法 弁済供託と口頭提供不要の要件(493条・494条)