この記事の要点

  • 2025年2月に法制審議会へ諮問された次期会社法改正では、非上場会社もバーチャルオンリー株主総会(場所を定めない株主総会)を開けるようにする案などが検討されている
  • 2026年3月に「中間試案」が取りまとめられ、意見募集(パブリックコメント)を経て、2026年8月現在は「要綱案」の取りまとめに向けた審議が続いている
  • 中間試案はあくまで「案」です。改正法案は国会に提出されておらず、成立も公布も施行もしていません(施行日も未定)
  • 改正されるとしても施行はまだ先だが、株主名簿の整備や定款・議事録の状態を今のうちに確認しておけば、改正された場合の対応がスムーズになる

「株主が一人しかいないのに、毎年わざわざ株主総会の書類を作るの?」

小さな会社を経営している方から、こんな声をよく聞きます。現在の会社法では、株式会社は毎年株主総会を開催する義務があります。その形式・開催方法についての大きな見直しが、いま法律の世界で議論されています。

何が変わろうとしているのか

2025年2月、法務大臣が法制審議会(法律改正の専門家会議)に「会社法制の見直し」を諮問しました。

テーマは大きく3つです。

  1. 株式の発行の仕組み(従業員への株式付与など)
  2. 株主総会の在り方(バーチャル開催の解禁など)
  3. 会社の仕組み・ガバナンス(役員制度の見直しなど)

なかでも、多くの経営者に直接関係するのが「バーチャルオンリー株主総会」の検討です。

バーチャルオンリー株主総会とは

現在の株主総会には、物理的な会場が必要です。「Zoomだけで開催する」という形式は、現行の会社法では認められていません(※上場会社の一部は特例で認められています)。

バーチャルオンリー株主総会が解禁されると、場所を確保しなくても、オンラインだけで合法的に株主総会を開催できるようになります。

株主が数人しかいない中小企業では、「そもそも全員がZoom参加しているのに、なぜ会場が必要なのか」という声が多く、制度の見直しが求められてきました。

改正はいつ?

議論は進んでいます。2026年3月18日、法制審議会の部会が「中間試案」(審議の途中経過をまとめた案)を取りまとめ、同年4月2日から5月22日まで、広く意見を募るパブリックコメント(意見募集)が行われました。その後も部会での審議は続いており、2026年7月22日の会議では「要綱案」(法務大臣への答申のもとになる案)の取りまとめに向けた検討が行われています。

ただし、2026年8月の時点で、要綱案はまだ取りまとめられていません。改正法案の国会提出も、成立も、公布も、施行もされていません。施行日も決まっていません。

つまり、今すぐ何かが変わるわけではありません。ただ、「議論が進んでいる」という事実として、早めに知っておく価値はあります。

他にも検討されていること

従業員への株式付与

スタートアップ企業やベンチャー企業では、優秀な人材を引き留めるために株式(ストックオプション等)を渡す仕組みが重要です。この手続きを今より使いやすくすることが検討されています。

「実質株主」の把握

株式を証券会社等が名義で持っている場合、実際の株主(受益者)が誰なのかを会社側が把握しにくいという問題があります。これを解決する新しい制度の導入も議題に上っています。

中小企業経営者が今できること

法律が改正されるとしてもまだ先ですが、今の会社の状況を整理しておく機会として活用できます。

  • 株主名簿は最新の状態になっているか
  • 株主総会の議事録はきちんと保管されているか
  • 定款の内容は現在の会社の実態に合っているか

会社法の改正が近づいてきたときに備えて、現在の登記・定款の状態を把握しておくことが大切です。

まとめ

今回の会社法改正の議論は、2025年2月の諮問に始まり、2026年8月の時点では中間試案の意見募集を終えて要綱案の検討が進む段階にあります。直接の影響が出るのは先の話ですが、「こういう方向に向かっている」という大きな流れを知っておくことで、自社の経営判断の参考になります。

特にバーチャル株主総会については、仮に解禁された場合の運用を見据えて社内ルール・定款の整備を早めに検討しておくと、実際に施行された場合にスムーズに対応できます。現在の定款や株主名簿の整備状況を確認したい場合は、お近くの司法書士にご相談ください。

よくある質問

Q. いつから変わりますか? 決まっていません。2026年3月に中間試案が取りまとめられ、意見募集を経て、2026年8月現在は要綱案の取りまとめに向けた審議が続いている段階です。この先、要綱案の取りまとめ・法務大臣への答申を経て、国会に法案が提出され、成立・公布されてはじめて施行日が定まります。改正法案はまだ国会に提出されておらず、施行日も決まっていません。

Q. うちのような中小企業にも関係ありますか? バーチャルオンリー株主総会が解禁されれば、株主が数名の非上場会社ほど遠隔地の株主との総会開催や会場費の削減で恩恵が大きいと見込まれています。従業員への株式付与の要件見直しなども中小企業に関わる論点です。

Q. 今、何をしておけばよいですか?どこに相談すればよいですか? 株主名簿が最新か、定款の内容が実態に合っているかを確認しておくと、実際に改正が施行された場合にスムーズに対応できます。現状の整理でご不安があれば、お近くの司法書士にご相談ください。


【さらに深掘り】次期会社法改正の論点と中小企業への影響

ご注意 以下は執筆時点(2026年8月)の法制審議会における審議状況に基づく解説です(この記事は2026年4月に公開し、審議の進展にあわせて審議状況の記述を2026年8月に更新しました)。改正内容は審議の進行とともに変わり得ます。最終的な改正内容は成立した法律の条文で確認してください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。

1. 改正のスケジュール感

時期 内容
令和7年2月 法務大臣から法制審議会へ諮問
令和7年4月23日 「会社法制(株式・株主総会等関係)部会」第1回会議(審議開始)
令和8年3月18日 第12回会議で「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案」を取りまとめ
令和8年4月2日〜5月22日 中間試案についてのパブリックコメント(意見募集)
令和8年7月22日 第16回会議「要綱案の取りまとめに向けた検討(2)」
今後 要綱案の取りまとめ → 法務大臣への答申 → 国会への法案提出 → 成立・公布 → 施行

2026年8月時点で、要綱案はまだ取りまとめられていません。改正法案の国会提出も、成立も、公布も、施行もされていません。施行日も決まっていません。 要綱案・答申の時期も、法案を提出する国会の会期も公表されていませんので、施行時期を見込むことはできません。

2. バーチャルオンリー株主総会の論点

現状の規律

現行会社法上、株主総会の招集に当たっては「株主総会の日時及び場所」を定めなければならず(会社法298条1項1号)、物理的な会場での開催が前提とされている。この規定を根拠に、会場の存在を前提としないバーチャルオンリー株主総会は現行法では実施できないと解するのが通説的な理解であり、上場会社について別に特例が立法されたことも、この理解を前提としている。場所を定めたうえでオンライン参加を併用する形(ハイブリッド型)は、場所の定めがある以上実施できると解されているが、オンラインのみは不可。

上場会社は産業競争力強化法の特例(令和3年6月施行)により、所定の要件を満たす場合にバーチャルオンリーが認められているが、非上場会社(中小企業)には同特例が及ばない

中間試案での位置づけ

中間試案は、第2部第1の1でこの論点を取り上げ、「場所の定めのない株主総会」を「バーチャルオンリー株主総会」と呼んだうえで、株式会社は、株主総会の場所を定めないことができる旨を定款で定めることができるという案を示しています。

読み落としやすいのは、この案が定款の定めを前提に置いている点です。仮にこの案のとおり改正されても、どの会社でも当然に開けるようになるわけではなく、まず定款にその定めを置くことになります。定款変更には株主総会の特別決議(会社法466条・309条2項11号)が必要ですから、実際に使うには一度、通常どおり場所を定めた総会を開いて定款を変更する、という順序になります。ただし、定款の定めを実施の要件としない考え方も併せて示されており、この点は確定していません。

あわせて議論されてきた周辺論点

中間試案は、第2部第1の2で周辺の手続についても案を示しています。招集の決定事項・通知事項に「株主総会の場所を定めない旨」や議事に用いる通信の方法(通信障害が生じた場合に代替する通信の方法を含む)を加えること、議事録の記載事項に「場所を定めなかった旨」と「用いた通信の方法」を加えること、通信履歴・通信内容を記録した通信記録等を作成し一定期間保存すること、などです。ただし、記録すべき内容や保存期間は「引き続き検討する」とされており、確定していません。

中小企業への影響見通し

解禁された場合、株主が数名の非上場会社では実務上のメリットが大きい

  • 遠隔地に住む少数株主との総会開催が容易になる
  • 会場費・招集通知の郵送費の削減
  • ただし、定款の定めが必要になるかどうかは審議中で、議事録・通信記録の管理が実務上の課題になる

3. 株式の発行の見直し

従業員等への株式の無償交付

現行法では、第三者割当増資で従業員に株式を付与する際、無償や特に有利な価額での付与にあたる場合は有利発行として株主総会の特別決議が必要。これがベンチャー企業にとって負担となっている。

中間試案の案:中間試案(第1部第1)は、上場会社について、株主総会の決議を要件とせずに取締役会の決議のみで従業員等への株式の無償交付を可能にする案と、株主総会の普通決議によって可能にする案の両案を示している。非上場会社については「引き続き検討する」とされており、確定していない。

株式交付制度の見直し

令和元年改正(令和3年3月施行)で導入された株式交付制度(会社法774条の2以下)。子会社化する相手方企業の株主から株式を取得し、自社株式を対価として交付する制度だが、外国会社に対しては使えないという制約がある。中間試案(第1部第2)では、外国会社を子会社とする場合を株式交付の対象に加える案が示されている。

4. 企業統治(ガバナンス)の見直し

指名委員会等設置会社制度の見直し

指名委員会等設置会社(会社法2条12号)について、中間試案(第3部第1)では、取締役会全体で社外取締役が過半数を占める場合に、取締役の選任・解任議案に関する指名委員会の決定内容を取締役会の決議で変更できるようにする案が、現行法の規律を見直さない案と併記されている。中小企業への直接影響は限定的。

役員責任に関する規律の見直し

役員等の損害賠償責任(会社法423条)の要件そのものの見直しは、中間試案には盛り込まれていない。中間試案(第3部第2)では、責任限定契約(責任の上限をあらかじめ定めておく契約)を締結できる相手方に、業務執行取締役等である取締役・執行役を加える案が示されている。

5. 「実質株主確認制度」

上場会社において、証券会社・信託銀行等(名義株主)の背後にいる最終受益者(実質株主)の情報を発行会社が取得できる仕組みの導入が検討されており、中間試案(第2部第2)に具体的な案が示されている。

非上場会社には直接影響しないが、将来の株式公開(IPO)を視野に入れている会社では、現時点での株主管理の精緻化を意識しておく価値がある。

6. 中小企業・非上場会社が今から準備できること

改正されるとしても施行はまだ先だが、今から行っておくと後の対応がスムーズになる点:

確認事項 内容
定款の内容確認 中間試案は、株主総会の場所を定めない旨を定款で定める案を示している(現行の上場会社特例でも定款の定めが必要)。ただし案の段階
株主名簿の整備 実際の株主と登記上の株主を一致させる
議事録の保管体制 バーチャル総会では議事録・通信記録の保管が重要
役員任期の確認 変更登記漏れがないか確認(今でも過料リスクあり)

参考資料

この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年8月)。

※ 次の資料は一次情報ではなく、解説・評釈などの二次資料ですが、内容確認の参考にしたため一次情報と区別して掲載しています。

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