遺言執行者が引き受けるかどうか分からないとき──『相当の期間』を定めて返事を求める催告のしくみ

この記事の要点 遺言書に遺言執行者として名前が書かれていても、その人が引き受けるかどうかは本人の自由で、断ることもできる 返事がないまま止まってしまうときは、相続人などが「相当の期間」を定めて確答を求める催告ができ、期間内に返事がなければ承諾したものとみなされる 承諾したあとは「直ちに」任務を始め、「遅滞なく」相続人へ遺言の内容を通知する義務がある 遺言書に「遺言執行者に指定する」と名前が書かれていても、それだけで手続きが自動的に始まるわけではありません。遺言執行者に指定された人が実際に**引き受ける(就任を承諾する)**かどうかは、本人の意思次第です。承諾する義務はなく、断ることもできます。 ...

2026年8月29日 · ひぐらしさとし

戸籍の旧字体・異体字とは?──相続登記で氏名の字が戸籍ごとに違うときの考え方

この記事の要点 明治・大正期の手書き戸籍には、旧字体や異体字で書かれた氏名が数多く残っている 相続で複数世代の戸籍をつなげていくと、同じ人物なのに戸籍ごとに氏名の字体が違って見えることがある 字体の違いだけで別人・誤記と決めつけず、生年月日・父母の氏名・本籍の変遷など他の記載事項を突き合わせて同一人物かどうかを確認する 相続の手続きでは、亡くなった方の戸籍を死亡時から出生時までさかのぼって集める必要があります。何代分もの戸籍を並べていくと、同じ人物のはずなのに、戸籍ごとに氏名の漢字の形が違って見えることがあります。「高橋」の「高」が古い戸籍では「髙」(はしごだか)になっている、「澤田」が後の戸籍では「沢田」になっている――このような食い違いに気づいたとき、誤記や別人ではないかと不安になる方は少なくありません。 ...

2026年8月29日 · ひぐらしさとし

成年後見人は途中で辞められる?代えられる?──辞任・解任と後任選任のしくみ

この記事の要点 成年後見人は自分の判断だけでは辞められません。辞任には「正当な事由」と家庭裁判所の許可が必要です(民法844条) 解任できるかどうかを判断するのは家庭裁判所です。不正な行為など「後見の任務に適しない事由」があるときに、請求または職権で解任されます(民法846条) 辞任・解任があっても成年後見そのものは終わりません。後任の成年後見人は家庭裁判所が選任します 結論からお伝えします。成年後見人は、途中で辞めることも、家庭裁判所の判断で交代となることもありますが、いずれも「本人(成年被後見人)を保護する仕組みを途切れさせない」形でしか進みません。辞めるのも代わるのも、家庭裁判所の関与のもとで行われます。 ...

2026年8月28日 · ひぐらしさとし

古い借金や未払い代金の請求が届いたら|『時効の援用』とは──時効は自動では成立しない

この記事の要点 消滅時効は、期間が過ぎれば自動的にお金の支払い義務が消える制度ではありません。民法145条により、当事者が「援用」しなければ、裁判所は時効を理由とする裁判ができません 権利を「承認」すると、時効はその時から新たに進行し直します(民法152条1項)。援用と承認は正反対の方向に働くため、どちらに当たる行動かを知っておくことが大切です 個別の請求にどう対応するかの判断は、この記事では扱いません。手続きの仕組みの一般解説です 古い借金や未払い代金の請求が届いたとき、「時効だからもう関係ない」と考えて放置してよいかというと、そうではありません。結論から言うと、消滅時効は期間が過ぎただけでは効力が生じず、時効の利益を受ける側が「援用(えんよう)」という主張をして初めて意味を持ちます。 ...

2026年8月28日 · ひぐらしさとし

条・項・号の読み方と枝番号──「第213条の2」の「の2」は第2項ではない

この記事の要点 条文は「条 → 項 → 号 → イ・ロ・ハ」の階層でできている(項は算用数字、号は漢数字) 「第213条の2」の「の2」は枝番号で、独立したひとつの「条」。「第213条第2項」とは別の条文 枝番号や「削除」の表示は、改正のときに後ろの条文番号をずらさないための立法の工夫 条文を調べていて「民法第213条の2」という表記に出会ったとき、「213条の2番目の項(=第2項)のことかな」と読んでしまう方が少なくありません。結論から言うと、これは誤りです。「第213条の2」は、第213条と第214条の間に挟まれた独立したひとつの条であり、「第213条第2項」とはまったく別の条文です。 ...

2026年8月27日 · ひぐらしさとし

登記申請は窓口・郵送・オンラインのどれで出す?──3つの出し方と受付のタイミング

この記事の要点 法律が定める申請の方法は「オンライン」と「書面の提出」の2つ。書面の提出には窓口への持参と郵送があるため、実際の出し方は3通りになる 受付は、申請の情報が法務局(登記所)に届いたときにされる。オンラインで送信できる時間帯と、登記所で受付がされる時間帯は別物 郵送は書留郵便など記録が残る方法で送り、封筒の表面に不動産登記の申請書が入っている旨を明記する決まりがある 不動産の登記申請書は、どこにどうやって出せばよいのでしょうか。結論から言えば、法律が定める申請の方法は「オンライン」と「書面を提出する方法」の2つで、書面を提出する方法の中に窓口への持参と郵送があります。つまり実際の出し方は3通りです。 ...

2026年8月27日 · ひぐらしさとし

相続の相談で言いにくいこと──借金・疎遠な相続人・再婚歴ほど先に伝えたい理由

この記事の要点 借金・疎遠な相続人・前婚の子など「言いにくい事情」ほど、最初の相談で伝えたほうが手続きがスムーズに進みます 戸籍や登記を集める過程で明らかになることが多く、後から分かると段取りがやり直しになりかねません 司法書士には法律上の守秘義務があり、正当な事由がある場合でなければ、業務上知ることのできた秘密を他に漏らすことはできません(司法書士法24条) 相続の相談、何から話せばいいか分からないときは、話す中身をどう整理するかという「順序」の記事でした。今回はその一歩手前、「言いにくいけれど、実は最初に伝えたほうがよい事情」に絞って整理します。 ...

2026年8月26日 · ひぐらしさとし

亡くなった親の固定資産税は誰が払う?──『相続人代表者指定届』のしくみ

この記事の要点 固定資産税は毎年1月1日時点の登記名義人等に課税される「賦課課税」の税金。名義人が亡くなり相続登記がまだの間も、課税自体は続く 誰が納税通知書を受け取るかを市区町村に届け出る制度が「相続人代表者指定届」(地方税法9条の2第1項)。すべての相続人またはその相続分のうちに明らかでないものがあり、かつ、相当の期間内に届出がないときは、市区町村長が相続人の一人を職権で指定できる(同条2項) この届出はあくまで書類の受取人を決めるものであり、相続登記の代わりにはならず、相続人の納税義務・税額を変えるものでもない 相続で不動産を共有名義にした場合の固定資産税は、すでに相続登記を終えて共有名義になった後、誰が連帯して納めるかという話でした。今回取り上げるのは、それより一歩手前の場面です。親などの名義人が亡くなった直後、相続登記がまだ済んでいない間、市区町村から届く固定資産税の納税通知書は、いったい誰に送られてくるのか、という疑問です。 ...

2026年8月26日 · ひぐらしさとし

お墓や仏壇は相続財産に入らない?祭祀財産の承継者の決まり方と引き継ぎの段取り

この記事の要点 お墓・仏壇・位牌・家系図などの「祭祀財産」は相続財産と別扱いで、遺産分割の対象になりません(民法897条) 承継者は、①亡くなった方の指定 → ②指定がなければ慣習 → ③慣習が明らかでないときは家庭裁判所、の順で決まります 引き継いだ後は、墓地の使用者名義の変更(霊園・寺院への届出)など実務の段取りが必要です 結論から言うと、お墓や仏壇は、預貯金や不動産のような「相続財産」には入りません。家系図や過去帳(系譜)、仏壇・位牌・神棚(祭具)、お墓や墓地の使用権(墳墓)は、まとめて「祭祀財産(さいしざいさん)」と呼ばれ、民法897条により相続とは別の仕組みで引き継がれます。相続財産ではないので、遺産分割協議で分ける対象にもなりません。なお、この記事は執筆時点(2026年8月)の制度に基づく一般的な解説です。 ...

2026年8月25日 · ひぐらしさとし

戸籍の「筆頭者」とは?──亡くなっても変わらない理由と、戸籍を請求するときの使い方

この記事の要点 筆頭者とは、戸籍の最初に記載される人のことで、その戸籍を特定するための「見出し(索引)」の役割を持ちます 筆頭者が亡くなっても筆頭者は変わりません。戸籍から除かれた後も、見出しとしてそのまま使われ続けます(戸籍法9条) 戸籍を請求するときは「本籍地+筆頭者の氏名」のセットで戸籍を特定します。相続の戸籍集めでは、この2つを押さえることが出発点になります 相続の手続きで戸籍を集めようとすると、請求書に「筆頭者」という欄があって手が止まる──よくあるつまずきです。結論からいうと、筆頭者とは戸籍のいちばん最初に記載されている人のことで、その戸籍を探し当てるための「見出し」にすぎません。世帯主のような役割でも、家族の代表でもありません。 ...

2026年8月25日 · ひぐらしさとし