「無効」と「取り消すことができる」の違い──条文の書き分けと、期間制限があるかどうか【民法の条文で解説】

この記事の要点 「無効」ははじめから効力がない状態。取り消しの意思表示をするまでもない 「取り消すことができる」は、取り消すまでは一応有効。取り消して初めて、はじめから無効だった扱いになる(民法121条) 取消しには「誰が取り消せるか」と「いつまで取り消せるか」の制限がある(民法120条・126条) 契約や遺言をめぐる話し合いの場では、「あの契約は無効だ」「あれは取り消せるはずだ」という言葉が飛び交います。日常の会話ではどちらも「なかったことにする」くらいの意味で使われますが、法律の条文では、はっきり区別して書き分けられています。結論から言うと、はじめから効力がないのか、それとも取り消すまでは有効なのかが出発点の違いです。 ...

2026年8月19日 · ひぐらしさとし

登記事項証明書の『全部事項』『現在事項』の違いは?──窓口・オンライン請求で選ぶときの目安

この記事の要点 登記事項証明書には「全部事項証明書」「現在事項証明書」「一部事項証明書」「閉鎖事項証明書」など複数の種類があり、記載される範囲が異なる 銀行融資や登記申請の添付書類では、抹消済みの権利まで載る「全部事項証明書」を求められることが多い 種類の選び方より間違いが多いのは不動産の特定で、住所(住居表示)ではなく地番・家屋番号で請求しないと、目的の不動産の証明書にならない 本文 不動産の登記事項証明書を法務局の窓口やオンラインで請求すると、申請書に証明書の「種類」を選ぶ欄がある。ここで何を選べばよいか迷う人は多いが、結論から言うと、用途がはっきりしない場合や提出先の指定がない場合は「全部事項証明書」を選んでおくのが無難である。 ...

2026年8月19日 · ひぐらしさとし

遺言の相談・作成は家族に内緒にできる?──単独でできる理由と、あとで困らない伝え方

この記事の要点 遺言の作成は本人一人の意思でできる行為であり、家族に伝えずに相談・作成を進めても法的な問題はない 公正証書遺言の証人は家族でなくてよく、むしろ推定相続人や受遺者にあたる家族は証人になれない決まりがある 内緒のまま進める場合は、死後に遺言の存在に気づかれないリスクへの備えを合わせて考えておきたい 遺言を考え始めたものの、「家族に知られずに相談だけでもしたい」と迷う方は少なくありません。結論から言うと、遺言の相談や作成は家族に内緒で進めてかまいません。遺言は本人一人の意思で成立させる行為であり、家族の同意や立ち会いを法律上必要とする場面はないからです。とはいえ、内緒のまま完結させることには実務上の注意点もあります。この記事では、その理由と、あとで困らないための工夫を整理します。 ...

2026年8月18日 · ひぐらしさとし

都市計画税とは何か──固定資産税とセットで課税される理由

この記事の要点 都市計画税は、都市計画事業や土地区画整理事業の費用にあてるための市町村の「目的税」で、固定資産税とは別の税金(地方税法702条) 課税できる区域は都市計画区域の中に限られ、区域区分(線引き)がある都市計画区域では「市街化区域」内の土地・家屋、線引きがない都市計画区域では条例で定める区域が対象になる(地方税法702条1項)。税率は0.3%が上限(地方税法702条の4)。課税するかどうかや実際の税率は市町村ごとに異なる 固定資産税評価額を課税標準とする点や、毎年1月1日時点の所有者に課税される点は固定資産税と共通しているため、1枚の納税通知書にまとめて記載されることが多い 固定資産税の納税通知書を見ると、「固定資産税」の欄の隣に「都市計画税」という欄が並んでいて、合計額が請求されていることがあります。この2つは名前が並んでいるため同じ税金の一部だと思われがちですが、法律上は別の税金です。 ...

2026年8月18日 · ひぐらしさとし

相続回復請求権の期限――「知った時から5年」「相続開始から20年」で消える権利

この記事の要点 「相続回復請求権」は、本当は相続人でない人(表見相続人)が財産を持ち去っている状態を、真正な相続人が正すための権利 期限は侵害の事実を知った時から5年、知らなくても相続開始の時から20年で時効消滅する(民法884条) 遺留分侵害額請求の「1年・10年」とは別の期限であり、混同すると手遅れになりやすい 「知らないうちに時効」が起こりうる権利です 相続回復請求権とは、相続人でない人(表見相続人)に対して、真正な相続人が相続財産の返還を求める権利です(民法884条)。共同相続人の一人が本来の持分を超えて財産を握っている場面をこの権利の問題として扱うかどうかは、後述のとおり考え方が分かれています。たとえば、疎遠になっていた親族が独断で被相続人の財産を管理・処分していた、あるいは自分が相続人であることを知らされないまま長期間が過ぎていた、といった場面で問題になり得ます。 ...

2026年8月17日 · ひぐらしさとし

本籍地がわからないときの調べ方──相続の戸籍集めで最初につまずいたら

この記事の要点 本籍地がわからないときは、まず「本籍地の記載を希望した」住民票の写し(または除票)を取り寄せる 自分の本籍地は自分の住民票、亡くなった方の本籍地はその方の最後の住所地の住民票の除票からたどれる 除票の保存期間は延長されているが、古い除票はすでに廃棄されている場合もある 本文 戸籍を集めようとして最初につまずくのが、「そもそも本籍地がどこかわからない」という壁です。結論から言うと、本籍地を調べる最も確実な方法は、本籍地の記載を希望した住民票の写し(亡くなった方の場合は住民票の除票)を取り寄せることです。 ...

2026年8月17日 · ひぐらしさとし

成年後見人の仕事は本人が亡くなったら終わる?──死後事務でできることとできないこと

この記事の要点 成年後見人の代理権は、本人の死亡によって原則として当然に終了すると解されており、その後の財産管理は本来相続人が担うもの ただし民法第873条の2により、相続人が財産を管理できるようになるまでの間、特定の財産の保存・弁済期到来済みの債務の弁済・火葬や埋葬の契約締結など、限られた行為だけは例外的に認められる 現行法では、この規定の主語は「成年後見人」に限られ、保佐人・補助人には適用がない(この点は成立済みの法改正で見直される予定・施行日は未定) 「本人が亡くなったら、後見人の仕事もそこで終わり」というイメージを持たれる方が多いのですが、実際には民法に定められた限られた範囲で、死後も一定の事務を担うことがあります。本記事は、執筆時点(2026年08月)の制度に基づく一般的な解説です。 ...

2026年8月16日 · ひぐらしさとし

訴状が届いたら|答弁書を出さないとどうなるか──陳述の擬制と自白の擬制の仕組み

この記事の要点 訴状には「当事者及び法定代理人」「請求の趣旨及び原因」を記載しなければならず(民事訴訟法134条2項)、答弁書はこれに対する被告の言い分を記載する準備書面です(同161条) 答弁書を提出しておけば、期日に出頭しなくても、裁判所はその内容を陳述したものとみなして手続きを進めることができるとされています(同158条)。簡易裁判所の訴訟手続では、この扱いが続行の期日にも準用されます(同277条) 答弁書も出さず、期日にも出頭しないと、原告の主張事実を争わなかったものとみなされ(自白の擬制、同159条1項・3項)、原告の請求どおりの判決につながりやすくなります これまでの記事では、お金を貸した側・請求する側の視点で手続きを整理してきました。今回は逆に、簡易裁判所から訴状が届いた側(被告)が最初にすべきことに絞って、答弁書の位置づけを整理します。 ...

2026年8月16日 · ひぐらしさとし

商業登記を放置するとどうなるか──「過料」の根拠条文(会社法976条)を確認する

この記事の要点 商業登記の懈怠に対する過料の根拠条文は会社法976条で、同条は第1号から第35号まで過料事由を列挙する包括規定であり、「登記を怠ったとき」は第1号に規定されている 過料の対象は「登記を怠ったとき」全般であり、商号変更・本店移転・目的変更・役員変更など、会社法915条1項が定める変更登記義務(原則2週間以内)を怠れば、いずれもこの条文の対象になり得る 過料の上限は百万円で、刑事罰ではなく行政上の秩序罰。対象になるのは会社そのものではなく、発起人・取締役・清算人など登記義務を負う個人 「役員変更登記を怠ると過料になる」という話は聞いたことがあっても、その根拠条文が何かまで意識する機会は少ないかもしれません。実はこの過料は役員変更に限った規定ではなく、商業登記全般にかかわる一本の条文(会社法976条)に根拠があります。今回は、条文の構造そのものを確認します。 ...

2026年8月15日 · ひぐらしさとし

実家の相続登記に権利証は必要?──「上申書」が登場するのは住所がつながらないとき

この記事の要点 相続による所有権移転の登記は相続人が単独で申請できる登記なので、亡くなった方の権利証(登記済証)は原則として添付書類にならない 実務で上申書が使われるのは「権利証が見つからないから」ではなく、登記簿上の住所と戸籍の本籍がつながらず、戸籍上の被相続人と登記上の所有者が同じ人だと示せないとき 上申書は法令に定められた添付書類ではなく登記官の判断を補う書面で、何をどこまで求めるかは登記所によって差がある 古い実家の名義を相続人に変えようとして、「権利証が見つからないのですが、登記できますか」とご心配になる方は少なくありません。結論から申し上げると、相続登記の場面では、亡くなった方の権利証は原則として必要ありません。それでも実務で「上申書(じょうしんしょ)」という書面が登場することがあるのですが、それは権利証の紛失そのものが理由ではありません。 ...

2026年8月15日 · ひぐらしさとし