問題:
債権譲渡における債務者の抗弁に関する次のア〜オの記述のうち、誤っているものはどれか。
ア 債務者は、対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。
イ 債務者が債権譲渡について異議をとどめないで承諾をしたときは、債務者は、譲渡人に対抗することができた事由があっても、これをもって譲受人に対抗することができない。
ウ 債務者が、対抗要件具備時より前に取得した譲渡人に対する反対債権による相殺をもって譲受人に対抗するためには、相殺の意思表示の時点で当該反対債権の弁済期が現実に到来している必要はない。
エ 債務者が抗弁を放棄する旨の意思表示をした場合には、その放棄した抗弁を譲受人に対抗することができなくなる。
オ 譲渡制限の意思表示がされた金銭債権が譲渡された場合、その債務者は、その債権の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託することができる。
答え:
イ
解説:
イが誤りである。改正前民法468条1項は、債務者が「異議をとどめないで」債権譲渡を承諾したときは、譲渡人に対抗できた事由をもって譲受人に対抗できないとする「抗弁の切断」を定めていた。しかし、単に「債権譲渡を承諾する」と述べただけで本来主張できたはずの抗弁を一律に失わせるのは債務者にとって不測の不利益であると批判されたため、令和2年4月1日施行の債権法改正により異議をとどめない承諾の制度は廃止された。
アは正しい。改正後の民法468条1項は「債務者は、対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる」と定める。基準時は「対抗要件具備時」であり、その時点までに生じた事由は譲受人に対抗できる。
ウは正しい。相殺の抗弁の対抗については民法469条が規律する。同条1項は、債務者が対抗要件具備時より前に取得した譲渡人に対する債権による相殺をもって譲受人に対抗できると定める。自働債権を対抗要件具備時より前に取得していれば、自働債権の弁済期が受働債権より後に到来する場合でも相殺を対抗できると解されており、相殺の意思表示の時点で両債権が相殺適状にあれば足り、対抗要件具備時に弁済期が到来している必要はない。これは差押えと相殺をめぐる無制限説(最大判昭和45年6月24日民集24巻6号587頁)の考え方と平仄を合わせたものである。
エは正しい。異議をとどめない承諾の制度が廃止された後も、債務者が「抗弁を放棄する」という明確な意思表示をすれば、その効果として放棄した抗弁を譲受人に対抗できなくなる。改正は、漠然とした承諾から自動的に抗弁喪失を導く構造を改めたものであって、債務者が真に抗弁を放棄する意思を表示すること自体を否定するものではない。
オは正しい。譲渡制限の意思表示がされた金銭債権が譲渡されたときは、債務者はその債権の全額に相当する金銭を債務の履行地の供託所に供託することができる(民法466条の2第1項)。これは譲渡制限特約付債権でも譲渡自体は有効となった(民法466条2項)ことに伴い、債務者の二重弁済リスクを回避するために設けられた供託権である。
中級向けポイント:抗弁の基準時は「対抗要件具備時」で統一して理解する。相殺の抗弁については民法469条2項が「対抗要件具備時より後に取得した債権」でも一定の場合(対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権など)に相殺対抗を認める拡張規定を置いている点も押さえておきたい。
問題:
登記識別情報に関する次のア〜オの記述のうち、誤っているものはどれか。
ア 登記識別情報とは、登記名義人が登記を申請する場合において、当該登記名義人自らが当該登記を申請していることを確認するために用いられる符号その他の情報であって、登記名義人を識別することができるものをいう。
イ 登記官は、その登記をすることによって申請人自らが登記名義人となる場合において、当該登記を完了したときは、速やかに、当該申請人に対し、当該登記に係る登記識別情報を通知しなければならないが、当該申請人があらかじめ登記識別情報の通知を希望しない旨の申出をしたときは、これを通知することを要しない。
ウ 登記識別情報を提供することができないため、登記官が登記義務者に対して事前通知をした場合、登記義務者は、その通知を受けた後、当該申請の内容が真実である旨の申出を法務省令で定める期間内にしなければならないが、その期間は、登記義務者が国内に住所を有するか外国に住所を有するかにかかわらず、通知を発送した日から2週間である。
エ 登記識別情報を提供することができない場合であっても、登記の申請が登記の申請の代理を業とすることができる代理人によってされたものであり、登記官がその代理人から提供された申請人が登記義務者であることを確認するために必要な情報の内容を相当と認めるときは、登記官は事前通知を要しない。
オ 登記識別情報を提供することができないため事前通知をすべき場合において、その登記の申請が所有権に関するものであり、かつ、登記義務者の住所について変更の登記がされているときは、登記官は、法務省令で定める場合を除き、登記義務者の登記記録上の前の住所にあてても当該申請があった旨を通知しなければならない。
答え:
ウ
解説:
ウが誤りである。登記識別情報を提供することができないときの事前通知は、不動産登記法23条1項が定める。同項を受けた不動産登記規則70条8項は、申出をすべき期間を「通知を発送した日から2週間」とするが、ただし書で「法第22条に規定する登記義務者が外国に住所を有する場合には、4週間」と定めている。したがって、登記義務者が外国に住所を有するときは申出期間は4週間であり、「国内・外国を問わず一律2週間」とする本記述は誤りである。
アは正しい。登記識別情報の定義は不動産登記法2条14号が定めるとおりである。登記済証(いわゆる権利証)が「書面」であったのに対し、登記識別情報は12桁の符号という「情報」である点に特徴がある。
イは正しい。不動産登記法21条本文は、登記官は登記の申請に基づき申請人自らが登記名義人となる登記を完了したときは、速やかに当該申請人に登記識別情報を通知しなければならないと定める。もっとも、同条ただし書は、申請人があらかじめ登記識別情報の通知を希望しない旨の申出をした場合その他法務省令で定める場合(不動産登記規則64条)は通知を要しないとする。
エは正しい。不動産登記法23条4項1号は、登記の申請が登記の申請の代理を業とすることができる代理人(司法書士・弁護士など。いわゆる資格者代理人)によってされた場合において、登記官がその代理人から法務省令で定めるところにより当該申請人が登記義務者であることを確認するために必要な情報(本人確認情報)の提供を受け、その内容を相当と認めるときは、事前通知(同条1項)を要しないと定める。本人確認情報の内容は不動産登記規則72条が定める。
オは正しい。不動産登記法23条2項は、事前通知をすべき登記の申請が所有権に関するものであり、登記義務者の住所について変更の登記がされているときは、法務省令で定める場合を除き、同条1項の事前通知のほかに、登記義務者の登記記録上の前の住所にあてても申請があった旨を通知しなければならないと定める(いわゆる前住所通知)。なりすましによる不正登記を抑止するための制度である。
中級向けポイント:登記識別情報を提供できない場合の本人確認手段は、(1)事前通知(不登法23条1項。原則)、(2)資格者代理人による本人確認情報の提供(同条4項1号)、(3)公証人による認証(同項2号)の3つを区別して整理する。事前通知の発送方法は登記義務者が自然人か法人かで異なり(不動産登記規則70条)、申出期間は国内2週間・外国4週間(同条8項)である点が択一で問われやすい。前住所通知(23条2項)については、資格者代理人による本人確認情報の提供があり、その内容により申請人が登記義務者であることが確実と認められる場合に省略できる(不動産登記規則71条2項4号)点もあわせて押さえておきたい。
問題:
募集株式の発行等に関する次のア〜オの記述のうち、誤っているものはどれか。
ア 公開会社でない株式会社が募集株式を発行する場合、募集事項の決定は、定款に別段の定めがある場合を除き、株主総会の特別決議によらなければならない。
イ 公開会社が募集株式を発行する場合、その払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額であるときを除き、募集事項の決定は取締役会の決議による。
ウ 公開会社において、募集株式の払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合には、取締役は、株主総会において、その者に対し当該払込金額で募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない。
エ 公開会社が、募集株式を引き受ける者に特に有利な金額で募集株式を発行する場合の募集事項の決定は、株主総会の特別決議による。
オ 株主に株式の割当てを受ける権利を与えないで募集株式を有利発行する場合、その発行をやめることを請求できるのは株主に限られないため、当該会社の債権者も発行差止めを請求することができる。
答え:
オ
解説:
オが誤りである。会社法210条は、募集株式の発行等が法令・定款に違反する場合、または著しく不公正な方法により行われる場合において、株主が不利益を受けるおそれがあるときは、「株主」は会社に対し募集株式の発行等をやめることを請求できると定める。差止請求権者は株主であって、会社の債権者は含まれない。有利発行であっても、発行差止めを請求できるのは株主である。
アは正しい。公開会社でない株式会社(非公開会社)では、募集事項の決定は株主総会の特別決議による(会社法199条2項、309条2項5号)。なお、株主総会の特別決議によって募集株式の数の上限と払込金額の下限を定めて募集事項の決定を取締役(取締役会設置会社では取締役会)に委任することもできる(会社法200条1項)。
イは正しい。会社法201条1項は、199条3項に規定する場合(有利発行)を除き、公開会社における199条2項の適用については「株主総会」を「取締役会」と読み替える旨を定める。したがって、有利発行に当たらない限り、公開会社の募集事項の決定は取締役会決議による。
ウは正しい。会社法199条3項は「第1項第2号の払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合には、取締役は、前項の株主総会において、当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない」と定める。
エは正しい。公開会社であっても有利発行に該当する場合(会社法199条3項の場合)は201条1項の読替えの対象から外れるため、募集事項の決定には株主総会の特別決議が必要となる(会社法199条2項、309条2項5号)。「公開会社は常に取締役会決議でよい」わけではない点が引っかけになる。
中級向けポイント:有利発行に当たるかどうかは「払込金額が引き受ける者に特に有利な金額」かで判断する。非公開会社では有利発行か否かにかかわらず募集事項の決定はそもそも株主総会特別決議事項であり、有利発行のときに199条3項の理由説明が加わるという関係になる。差止請求(210条)の請求権者は株主に限られる点は、新株予約権の発行差止め(247条)と同じ構造である。
問題:
文書提出命令に関する次のア〜オの記述のうち、誤っているものはどれか。
ア 文書提出命令の申立ては、文書の表示、文書の趣旨、文書の所持者、証明すべき事実及び文書の提出義務の原因を明らかにしてしなければならない。
イ 当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持するときは、その当事者は、当該文書の提出を拒むことができない。
ウ 文書の所持者は、その文書が専ら文書の所持者の利用に供するための文書に該当する場合であっても、その提出を拒むことができない。
エ 第三者に対して文書の提出を命じようとする場合には、裁判所は、その第三者を審尋しなければならない。
オ 当事者が文書提出命令に従わないときは、裁判所は、当該文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることができる。
答え:
ウ
解説:
ウが誤りである。民事訴訟法220条4号は文書提出義務を一般義務化しつつ、イからホまでの除外文書を定めている。このうち同号ニは「専ら文書の所持者の利用に供するための文書(国又は地方公共団体が所持する文書にあっては、公務員が組織的に用いるものを除く。)」を除外文書とする。これがいわゆる「自己利用文書」であり、これに該当する文書については所持者は提出を拒むことができる。
イは正しい。民事訴訟法220条1号は、当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持するとき(引用文書)に提出義務を認める。当事者間の公平の観点から、自ら有利に引用した文書を相手方に出さないことは許されないという趣旨である。
エは正しい。民事訴訟法223条2項は「裁判所は、第三者に対し文書の提出を命じようとする場合には、その第三者を審尋しなければならない」と定める。当事者に対する場合と異なり、第三者に対しては手続保障のため審尋が必要的とされる。
オは正しい。民事訴訟法224条1項は、当事者が文書提出命令に従わないときは、裁判所は当該文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることができると定める。提出義務違反に対する制裁としての真実擬制である。
中級向けポイント:自己利用文書(220条4号ニ)については、判例が「専ら内部の者の利用に供する目的で作成され、外部の者に開示することが予定されておらず、開示により所持者に看過し難い不利益が生ずるおそれがあるとき」に該当するとの基準を示し、銀行の貸出稟議書をこれに当たるとした(最決平成11年11月12日民集53巻8号1787頁)。なお、この決定の当時、自己利用文書の除外規定は220条4号ハに置かれていたが、その後の改正で公務秘密文書の除外規定(現行ロ)が加わったため、現行法では4号ニに位置づけられている。号の位置がずれている点に注意したい。
問題:
弁済供託における供託受諾及び供託物の取戻しに関する次のア〜オの記述のうち、誤っているものはどれか。
ア 弁済供託がされた後、供託の不受諾を理由とする取戻請求権が消滅していない間は、被供託者は供託所に対して供託を受諾する旨の意思表示をすることができる。
イ 供託所に対する供託を受諾する旨の意思表示は、供託を受諾する旨を記載した書面を提出してしなければならず、口頭ですることはできない。
ウ 被供託者が供託所に対し供託受諾の意思表示をした後は、供託者は供託物を取り戻すことができない。
エ 被供託者が供託物の還付請求権を第三者に譲渡し、その譲渡の通知が供託所に到達した場合、その通知の記載内容から供託を受諾する意思表示があったものと認められるときは、供託者は供託物を取り戻すことができない。
オ 弁済供託の供託者が供託物を取り戻したときであっても、供託は初めからなかったものとはみなされず、いったん消滅した債務は消滅したままである。
答え:
オ
解説:
オが誤りである。民法496条1項は「債権者が供託を受諾せず、又は供託を有効と宣告した判決が確定しない間は、弁済者は、供託物を取り戻すことができる。この場合においては、供託をしなかったものとみなす」と定める。供託物が取り戻されると供託は初めからなかったものとみなされ、その結果、供託によりいったん消滅した債務は消滅しなかったことになる(債務が復活する)。
アは正しい。被供託者(債権者)による供託受諾は、供託の不受諾を理由とする取戻請求権(民法496条1項)が消滅していない間であれば、いつでもすることができる。供託受諾の意思表示がされると、供託者の取戻請求権が消滅する。
イは正しい。供託所に対する供託受諾の意思表示は、供託を受諾する旨を記載した書面を提出する方法によらなければならず、口頭ですることはできない(供託規則47条)。もっとも、「供託受諾書」という標題でなくても、書面の記載の趣旨・内容から供託を受諾する意思表示と判断できればよいとされている。
ウは正しい。被供託者が供託所に対して供託受諾の意思表示をすると、民法496条1項にいう「供託を受諾」した状態となり、以後、供託者は供託物を取り戻すことができなくなる。取戻請求権の消滅原因の一つである。
エは正しい。被供託者が還付請求権を第三者に譲渡し、その譲渡通知が供託所に到達した場合において、当該通知の記載内容から供託を受諾する意思があると認められるときは、供託受諾の意思表示があったものとして取り扱われ、供託者は供託物を取り戻すことができなくなる。
中級向けポイント:取戻請求権の消滅事由は、(1)被供託者の供託受諾の意思表示、(2)供託を有効と宣告した判決の確定(民法496条1項)、(3)取戻請求権の消滅時効、の3つを整理する。供託受諾の方法が「書面に限る・口頭不可」(供託規則47条)である点は択一で問われやすい。還付請求権の譲渡通知が供託受諾の意思表示と評価され得るという論点は、取戻しの可否と直結するので押さえておきたい。
出題分野の振り分け
| 問 | 科目 | 中心論点 | 主な根拠条文・判例 |
|---|---|---|---|
| 第1問 | 民法(債権) | 債権譲渡と債務者の抗弁・異議をとどめない承諾の廃止 | 民法468条1項、469条1項・2項、466条の2第1項、最大判昭和45年6月24日民集24巻6号587頁、令和2年4月1日施行 |
| 第2問 | 不動産登記法 | 登記識別情報の通知・提供と事前通知(資格者代理人による本人確認情報・前住所通知) | 不動産登記法2条14号、21条、22条、23条1項・2項・4項、不動産登記規則64条・70条・71条・72条 |
| 第3問 | 会社法・商業登記法 | 募集株式の有利発行と募集事項の決定機関・発行差止め | 会社法199条2項・3項、201条1項、200条1項、210条、309条2項5号 |
| 第4問 | 民事訴訟法 | 文書提出命令・文書提出義務と自己利用文書 | 民事訴訟法220条1号・4号ニ、221条1項、223条2項、224条1項、最決平成11年11月12日民集53巻8号1787頁 |
| 第5問 | 供託法 | 弁済供託における供託受諾の方法と供託物取戻しの可否 | 民法496条1項、供託規則47条 |