この記事の要点
- 供託(きょうたく)とは、お金や有価証券などを国の機関である「供託所」に預け、最終的に受け取るべき人に渡してもらうことで、法律上の目的を果たす制度です。金銭・有価証券などの供託所は法務局・地方法務局とその支局です
- 供託ができるのは、法令に「供託できる」「供託しなければならない」という定めがある場合に限られます。主な種類は弁済供託・担保(保証)供託・執行供託・保管供託・没取供託の5つです
- 預けたお金は、受け取る側の「還付(かんぷ)」か、預けた側の「取戻し(とりもどし)」のどちらかで払い渡されます。払渡しを受けられる権利には時効があります
- 供託の申請自体に手数料はかかりません。金銭の供託や供託金の払渡請求はオンラインでもできます
- 供託の手続の代理は司法書士の業務です(司法書士法3条1項1号)。相手と争いになっている場合の交渉や紛争の解決は弁護士の分野です
「供託」とは、ひとことで言えば、法律で認められた場面で、お金などを国(供託所)に預けて、相手に直接渡したのと同じような法律上の効果を得る仕組みです。代表的な例が、家主が家賃を受け取ってくれないときに、家賃を法務局に預けて「支払ったのと同じ効果」を生じさせる弁済供託です。ほかにも、裁判所に仮差押えを申し立てるときの担保や、選挙に立候補するときの供託金など、日常から少し離れた場面でも使われています。
この記事では、供託という制度の全体像を、種類・預け先・お金を出す人と受け取る人・払渡しの方法・オンライン手続きの順に整理します。
供託とは──国の機関に預けて「法律上の目的」を果たす制度
法務省の説明では、供託とは、金銭や有価証券などを国家機関である供託所に提出してその管理を委ね、最終的には供託所がその財産をある人に取得させることで、一定の法律上の目的を達成するための制度とされています。
ポイントは次の2つです。
- 預ける先は国の機関である供託所:相手に直接渡せない・渡すべきでない事情があるとき、中立の国の機関に預けておくことで、手続を前に進められます。
- どんな場合でも使えるわけではない:供託が認められるのは、法令(民法・民事訴訟法・民事執行法など)に、供託を義務づける規定か、供託してよいとする規定がある場合に限られます。供託法1条も「法令ノ規定ニ依リテ供託スル金銭及ヒ有価証券」を供託所が保管すると定めています。
つまり、「相手と気まずいから、とりあえず法務局に預けておく」という使い方はできません。どの法律のどの規定に基づく供託なのか(これを「供託の根拠法令」といいます)が、手続の出発点になります。
供託の主な種類──5つに分けて考える
法務省は、供託をその働きによって大きく5つに分けて説明しています。
| 種類 | どんなときの供託か | 代表的な例 |
|---|---|---|
| 弁済供託(べんさいきょうたく) | 支払う側が、支払いの代わりに供託する | 家主が家賃を受け取らない、相手が行方不明、相続人が誰か分からない |
| 担保(保証)供託 | 相手に生じうる損害などの担保として供託する | 仮差押え・仮処分の担保(裁判上の保証供託)、宅地建物取引業者の営業保証金(営業上の保証供託)、国税の延納などの担保(税法上の担保供託) |
| 執行供託 | 強制執行の手続の中で供託する | 給料や売掛金などの債権が差し押さえられたとき、その支払義務を負う側(第三債務者)が、差し押さえられた債権に相当するお金を供託する(民事執行法156条) |
| 保管供託 | 財産そのものの散逸を防ぐために供託する | 業績が悪化した銀行・保険会社などに、監督官庁が財産の供託を命じる場合 |
| 没取供託(ぼっしゅきょうたく) | 一定の事由が起きたら国などに帰属させる前提で供託する | 選挙に立候補するときの供託金(公職選挙法92条)。得票数が一定に届かないと国または地方公共団体のものになる(同法93条) |
一般の方が出会う可能性が高いのは、弁済供託と担保(保証)供託です。
弁済供託──「受け取ってもらえない」「誰に払えばよいか分からない」とき
民法494条は、支払う側(弁済者)が、次のような場合に、相手(債権者)のために支払うべきもの(弁済の目的物)を供託できると定めています。そして、供託をした時に、その債務は消滅します。
- 支払おうとした(弁済の提供をした)のに、相手が受け取りを拒んだとき(受領拒否)
- 相手が受け取ることができないとき(受領不能。たとえば相手が行方不明)
- 支払う側が、相手が誰かを確かめられないとき(債権者不確知。ただし、支払う側に過失があるときは除かれます)
たとえば賃貸住宅で、家主が家賃の値上げを求めて従来の額の家賃を受け取らない、家主が亡くなって相続人が誰か分からない、といった場面がこれに当たります。地代・家賃の供託は弁済供託の代表例ですが、具体的な手順や注意点は場面ごとに異なるため、ここでは「支払いの代わりに法務局に預ける仕組みがある」という点を押さえておけば十分です。
ただし、受領拒否を理由に供託するときは、原則として、先に支払おうとした(弁済の提供をした)ことが前提になります。法務省の案内では、家主が賃貸借契約そのものを否定して明渡しの裁判が続いている場合など、相手が受け取らないことが明らかなときは提供をせずに供託できる場合もあるとされる一方、家賃の値上げを求められたというだけでは提供が必要とされており、受け取らない意思が明確かどうかは個別の事案ごとに判断されます。
なお、弁済供託をした人は、遅滞なく相手(債権者)に供託したことを通知しなければなりません(民法495条3項)。この通知は、供託者が供託官に対して、相手に「供託通知書」を発送するよう請求する方法でもでき、その場合は供託書にその旨を記載し、相手の数に応じた郵便切手を付けた封筒を添付します(供託規則16条1項・2項)。法務省の案内でも、供託通知書の発送を請求するときは郵便切手の提出が必要と説明されています。
古い抵当権を消すための手続にも、弁済供託の考え方が使われています。詳しくは「休眠担保権」の抹消の記事で紹介しています。
担保(保証)供託──相手に損害が出たときの備え
裁判所に仮差押えや仮処分を申し立てると、裁判所から担保を立てるよう求められることがあります(民事保全法14条1項)。この担保を立てる方法の一つが供託で、民事保全法4条1項は、担保を立てるべきことを命じた裁判所または保全執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所に、金銭や裁判所が相当と認める有価証券を供託する方法などを定めています。訴訟の中で担保を求められる場合については、民事訴訟法76条に同じような定めがあります(仮差押えの担保の仕組みは仮差押えの記事も参考になります)。
また、宅地建物取引業者は、営業保証金を主たる事務所のもよりの供託所に供託しなければならないとされています(宅地建物取引業法25条1項)。取引の相手方が損害を受けたときに備えるためのお金です。
どこに供託するのか──供託所は法務局
金銭・有価証券を供託する場合の供託所は、法務局・地方法務局とその支局(法務大臣が指定する出張所を含みます)です(供託法1条)。国債などの振替債も、同じ供託所に供託書を提出し、供託所の口座への振替を申請して供託します(社債、株式等の振替に関する法律278条1項)。登記の手続をする法務局が、供託の窓口でもあるということです。金銭などではない物品の場合は、法務大臣が指定する倉庫営業者などが保管します(供託法5条)。
どこの供託所に供託すればよいかは、供託の種類ごとに根拠法令で決まっています。法務省の案内では、主に次のように整理されています。
- 弁済供託:債務の履行地(支払うべき場所)にある供託所(民法495条1項)
- 営業上の保証供託:主たる営業所または事務所の最寄りの供託所
- 裁判上の保証供託:担保を立てるべきことを命じた裁判所または執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所
- 執行供託:債務の履行地にある供託所
管轄を定める規定がない供託もあるため、実際に供託するときは、事前に供託所に確認するのが確実です。
お金を出す人・受け取る人──供託者と被供託者
供託の手続には、立場の異なる2人が登場します。
- 供託者(きょうたくしゃ):供託をする人。弁済供託なら、家賃を支払う借主などの「支払う側」です。
- 被供託者(ひきょうたくしゃ):供託されたものを受け取るべき人。弁済供託なら、家主などの「受け取る側」です。
供託をするときは、法務大臣が定めた書式に従って供託書を作り、供託物と一緒に提出します(供託法2条)。供託金には、法務省令で定める利息が付きます(供託法3条)。現在の利率は年0.0012パーセントで、供託金の全額が1万円未満のときなどは利息が付きません(供託規則33条)。
預けたお金はどうなる?──還付と取戻し
供託所に預けられたお金(供託物)の払渡しには、2つの道があります。
還付(かんぷ)──受け取る側が受け取る
被供託者(受け取る側)が供託所に請求して受け取ることを「還付」といいます。弁済供託では、債権者は供託物の還付を請求できます(民法498条1項)。還付を請求する人は、法務大臣の定めるところにより、自分にその権利があることを証明する必要があります(供託法8条1項)。法務省の説明では、還付によって供託は本来の目的を達して終わります。
取戻し(とりもどし)──預けた側が取り戻す
供託者(預けた側)が供託物を取り戻すことを「取戻し」といいます。供託法8条2項は、民法496条の規定によるとき、供託が錯誤(勘違い)によるものだったとき、または供託の原因が消滅したときに、それを証明して取り戻せると定めています。
弁済供託では、債権者が供託を受諾せず、また供託を有効とする判決も確定していない間は、支払う側は供託物を取り戻すことができ、その場合は供託をしなかったものとみなされます(民法496条1項)。つまり、取り戻すと「支払った」という効果もなくなります。ただし、供託によって質権や抵当権が消滅した場合は、この取戻しはできません(同条2項)。
払渡しを受ける権利には時効がある
法務省は、令和2年4月1日以降に供託された供託金の払渡請求権は、払渡しを請求できることを知った時から5年、請求できる時から10年のいずれかを経過すると、時効により消滅すると案内しています(民法166条1項)。令和2年3月31日以前に供託された供託金には、10年の時効期間のみが適用されるとされています。いつから数え始めるか(起算点)は事案によって異なるとされているため、受け取れることを知ったら、早めに手続をするのが大切です。
オンラインでもできる?──できる手続とできない手続
供託は、法務局の窓口・郵送のほか、オンラインでもできます。供託規則38条1項は、金銭または振替国債の供託と、供託金・供託金利息・供託振替国債の払渡しの請求を、オンライン(電子情報処理組織)でできると定めています。
法務省の案内によると、オンライン申請には「登記・供託オンライン申請システム」を使い、次の2つの方法があります。
- かんたん登記・供託申請:ソフトのダウンロードなどをせず、ウェブブラウザだけで申請できる方法です。ただし、電子署名が必要な申請はできないため、払渡請求(還付・取戻し)はこの方法ではできません。委任状などの添付書面がある場合は、窓口に持参するか郵送する必要があります。
- 申請用総合ソフトなど:パソコンにソフトをインストールして申請する方法です。電子署名が必要な払渡請求もこちらで行います。
申請者IDとパスワードは登記の手続と共通です。
司法書士と弁護士──どこまで頼めるか
供託に関する手続について代理することは、司法書士の業務として司法書士法に定められています(司法書士法3条1項1号)。供託所に提出する書類の作成(同項2号)や、供託に関する審査請求の手続の代理(同項3号)、これらについての相談(同項5号)も含まれます。司法書士の業務の全体像は司法書士に頼めること全リストで整理しています。
一方で、供託の背景にある争いそのもの──たとえば家賃の値上げを巡って家主と争う、相手と交渉する、裁判で決着をつけるといったこと──は、弁護士の分野です。法務大臣の認定を受けた司法書士(認定司法書士)は、訴訟の目的の価額が140万円以下の簡易裁判所の手続や、紛争の目的の価額が140万円以下の民事紛争の相談・裁判外の和解の代理を扱えますが(司法書士法3条1項6号・7号、2項)、この範囲を超えるものは扱えません。
まとめ
供託とは、法令で認められた場面で、お金などを国の機関である供託所(法務局・地方法務局とその支局)に預け、支払ったのと同じ効果を得たり、相手に生じうる損害の担保にしたりする制度です。主な種類は弁済供託・担保(保証)供託・執行供託・保管供託・没取供託の5つで、どの供託所に預けるかは種類ごとの根拠法令で決まります。預けたお金は、受け取る側の還付か、預けた側の取戻しで払い渡され、その権利には時効があります。
「供託できる場面に当たるのか」「どの供託所にどんな書類で申請するのか」で迷ったら、お近くの司法書士にご相談ください。相手との争いや交渉が中心になる場合は、弁護士への相談も検討しましょう。
よくある質問
Q. 供託するのに費用はかかりますか?
法務省の案内では、供託の申請自体に手数料はかかりません。ただし、郵送で手続をする場合の郵便切手代や、振込で供託金を納める場合の振込手数料は自己負担になります。供託するお金そのもの(家賃など)は、もちろん別に用意する必要があります。司法書士に手続を依頼する場合は、別途報酬がかかります。
Q. 供託に期限はありますか?放っておくとどうなりますか?
供託をすべき時期は、供託の根拠法令や、元になっている契約の内容によって異なります。弁済供託で債務が消えるのは供託をした時です(民法494条1項)。受け取ってもらえないからといって、支払いも供託もしないまま放っておくと、支払いが済んでいない状態が続くことになります。また、受領拒否を理由とする供託では、原則として先に支払おうとした(弁済の提供をした)ことが前提になるため、支払日を意識して早めに動くことが大切です。なお、供託金を受け取る側・取り戻す側の権利には時効があり、令和2年4月1日以降の供託金は、請求できることを知った時から5年、請求できる時から10年で消滅するとされています。
Q. 自分で手続きできますか?どこに相談すればよいですか?
供託はご本人でも、供託所の窓口・郵送・オンラインで手続ができます。どの供託所に申請するか、どんな書類が要るかは、供託所(法務局)に問い合わせることができます。書類の作成や手続の代理を任せたい場合は司法書士へ、相手との争いや交渉が中心になる場合は弁護士へ相談するのが一般的です。
【さらに深掘り】登記手続とつながる供託、供託書正本の扱い、執行供託の区別
ご注意 以下は執筆時点(2026年11月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
本文では供託制度の全体像を整理しました。ここでは、①不動産登記の申請で「供託したこと」を示す情報が求められる場面、②その証明に使う供託書正本の扱い(オンラインで供託した場合を含む)、③本文の表で一括りにした執行供託と担保(保証)供託の補足、の3点を取り上げます。
登記の添付情報として「供託したこと」が求められる2つの場面
不動産登記令の別表(申請ごとの添付情報の定め)で「供託」が明示されているのは、2026年11月時点で次の2つの場面です。
| 場面 | 根拠 | 供託するもの | 登記で添付する主な情報 |
|---|---|---|---|
| 休眠担保権(古い先取特権・質権・抵当権)の単独抹消 | 不動産登記法70条4項後段 | 被担保債権・その利息・債務不履行により生じた損害の全額に相当する金銭(弁済期から20年を経過した後に供託) | ①被担保債権の弁済期を証する情報、②弁済期から20年を経過した後に上記の全額相当額が供託されたことを証する情報、③共同して抹消を申請すべき者の所在が知れないことを証する情報(不動産登記令別表26の項添付情報欄ニ) |
| 仮登記担保に基づく所有権の本登記 | 仮登記担保契約に関する法律18条 | 清算金 | 登記上の利害関係を有する第三者(後順位の抵当権者など)の承諾に代えて、その者が清算金の差押えをしたこと及び清算金を供託したことを証する情報(不動産登記令別表69の項添付情報欄イ) |
休眠担保権の抹消(不動産登記法70条4項後段)で押さえておきたい点
- 前提は、抵当権者など共同して抹消を申請すべき者の「所在が知れない」ことです(同条1項に規定する場合)。そのうえで、弁済期から20年を経過した「後」に、元本だけでなく利息と損害金を含めた全額に相当する金銭を供託することが要件になっています。弁済期を証する情報が添付情報とされているため、登記記録などで弁済期を確認できるかどうかが最初の確認事項です。利率・損害金の定めは登記記録で確認し、供託額の計算方法は事前に供託所・法務局に確認するのが安全です。
- この供託は、抵当権者などの所在が知れない(受領不能)ことを原因とする弁済供託として行います。法務省の供託書記載例(第1-2-(10)「受領不能(休眠担保権の登記を抹消するための供託(担保権者の所在不明))」)では、供託書の「法令条項」欄は「民法第494条」、被供託者の住所欄は「(最後の住所)」として示されています。弁済供託の供託所は債務の履行地の供託所で(民法495条1項)、特約がなければ金銭債務の履行地は債権者の現在の住所とされます(民法484条1項)。法務省の供託Q&A(Q29)は、被供託者の最後の住所地を管轄する供託所に供託すべき場合に、登記簿上その住所が判明しないときは、債務者の住所地の最寄りの供託所に供託できると案内しています。個別の案件でどの供託所に申請するかは、事前に供託所へ確認するのが確実です。
- 抵当権者が解散した法人である場合の単独抹消(不動産登記法70条の2)は、弁済期から30年・解散の日から30年の経過などを要件とする別のルートで、供託は要件になっていません。「休眠担保権の抹消には必ず供託が要る」わけではない点に注意が必要です。3つのルートの使い分けは休眠担保権の抹消の記事で整理しています。
仮登記担保の本登記(仮登記担保契約に関する法律18条)で押さえておきたい点
- 清算金を供託した日から1か月を経過した後に本登記を申請する場合には、担保仮登記より後に登記された先取特権・質権・抵当権を有する者や、後順位の担保仮登記の権利者の承諾に代えて、「その者が清算金の差押え(同法4条)をしたこと」と「清算金を供託したこと」を使うことができます。ただし、その土地などにこれらの者のための担保権の実行としての競売の申立ての登記がされているときは、この方法は使えません(同条ただし書)。
- 清算金の供託は、清算金の支払を目的とする債権に差押えまたは仮差押えの執行があったときに、清算期間が経過した後、債務履行地の供託所にするものです(同法7条1項)。債権者は、同法15条1項に規定する場合を除き、この供託金を取り戻すことができません(同法7条3項)。
供託書正本の扱い──書面で供託した場合とオンラインで供託した場合
書面(窓口・郵送)で供託した場合
供託官は、金銭や有価証券の供託を受理すべきものと認めるときは、供託書正本に受理する旨・供託番号・納入期日などを記載して記名押印し、供託者に交付します(供託規則18条1項)。休眠担保権の抹消などで「供託されたことを証する情報」を添付するときは、この供託書正本を用いるのが一般的です。
書面で登記を申請する場合、申請書の添付書面は、印鑑に関する証明書やその申請のためだけに作成された委任状などを除き、原本の還付を請求できます(不動産登記規則55条1項)。供託書正本も手元に残したいときは、原本と相違ない旨を記載した謄本を提出して還付を求めます(同条2項)。
オンラインで金銭を供託した場合
オンラインで金銭の供託を申請し、期日までに供託金を納付したうえで、法務大臣の定めるところに従い求めたときは、供託書正本はオンラインで電磁的記録(データ)として提供されます(供託規則40条2項)。このデータは、送信できる状態になってから30日以内に受け取らないと、提供されなくなる点に注意が必要です(同条3項)。
紙の供託書正本が必要なとき(たとえば書面で登記を申請し、添付書面として使いたいとき)は、そのデータに記録された事項を記載して供託官が記名押印した書面の交付を、所定の書式の請求書で請求できます(同規則42条1項・2項)。この書面は、他の法令の規定の適用については供託書正本とみなされます(同条4項)。ただし、すでにこの書面の交付を受けているときは、重ねて請求することはできません(同条1項ただし書)。
なお、オンラインで登記を申請する場合、登記・供託オンライン申請システムの案内では、不動産登記の添付ファイルとして「電子公文書(法務省又は他府省から発行された電子署名付きの公文書)」が挙げられており、法務局の手引き(秋田地方法務局・平成24年6月作成)でも、申請用総合ソフトで取得した供託書電子正本を不動産登記のオンライン申請に添付する操作が案内されています。ただし、操作の手順や最新の取扱いは、申請前に登記・供託オンライン申請システムの案内や管轄の法務局で確認するのが確実です。
執行供託──「供託できる」場合と「供託しなければならない」場合
本文の表では、執行供託の根拠を民事執行法156条とまとめましたが、同条は、第三債務者が自分の判断で供託できる「権利供託」(1項)と、供託が義務になる「義務供託」(2項・3項)を区別しています。
| 区分 | 条文 | 内容 |
|---|---|---|
| 権利供託(供託できる) | 民事執行法156条1項 | 差押命令により金銭債権を差し押さえられた第三債務者は、差押えに係る金銭債権の全額に相当する金銭を、債務の履行地の供託所に供託することができる |
| 義務供託(差押えの競合・配当要求) | 同条2項 | 取立訴訟(同法157条1項)の訴状の送達を受ける時までに、差し押さえられていない部分を超えて別の差押命令・差押処分・仮差押命令の送達を受けたときは債権の全額に相当する金銭を、配当要求があった旨を記載した文書の送達を受けたときは差し押さえられた部分に相当する金銭を、供託しなければならない |
| 義務供託(供託命令) | 同条3項 | 執行裁判所の供託命令(同法161条の2。差押債権者などの住所・氏名を秘匿する決定がされた場合などに、差押債権者の申立てにより発せられる)の送達を受けたときは、差押えに係る金銭債権の全額に相当する金銭を供託しなければならない |
- いずれの場合も、供託をした第三債務者は、その事情を執行裁判所に届け出なければなりません(同条4項)。
- 同条2項の「配当要求があった旨を記載した文書」は、民事裁判手続のIT化に伴う法改正(令和5年法律第53号)により、「配当要求があった旨を記録した裁判所書記官により作成された電磁的記録(ファイルに記録されたものに限る。)」に改められることが決まっています。この部分は2026年11月時点では未施行で、公布の日(2023年6月14日)から5年を超えない範囲内で政令で定める日から施行されます。
- 仮差押えの執行を受けた段階でも、民事保全法50条5項により民事執行法156条(3項を除く)が準用されるため、第三債務者は供託することができます。
- 権利供託と義務供託のどちらに当たるかで、供託書に記載する根拠条文や、供託すべき金額の範囲(全額か、差し押さえられた部分か)が変わります。第三債務者の立場で供託するときは、送達を受けた差押命令・仮差押命令・配当要求の文書などをすべて並べ、送達の順序も確認したうえで供託書を作ります。
- 債権の譲渡と差押えが重なり、支払う側に過失がないのに、譲受人と差押債権者のどちらに支払えばよいか判断できない場合には、債権者不確知(民法494条2項)と民事執行法156条1項をあわせて根拠とする、いわゆる「混合供託」が用いられることがあります。法務省の供託書記載例にも「債権者不確知(民事執行法第156条第1項をも根拠とする供託)」の例があり、法令条項欄は「民法第494条第2項、民事執行法第156条第1項」とされています。
どの差押えが優先するか、債権譲渡が有効かといった争いそのものの判断や相手方との交渉は、弁護士の分野です(認定司法書士は、司法書士法3条1項6号・7号、2項に定める140万円以下の範囲に限られます)。司法書士が担うのは、供託に関する手続の代理や、供託所に提出する書類の作成です(同条1項1号・2号)。
担保(保証)供託の補足──供託所の特例と担保の取消し
本文で触れた仮差押えの担保(民事保全法14条1項・4条1項)について、2点補足します。
- 供託所の特例:担保の供託は、原則として担保を立てるべきことを命じた裁判所または保全執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所にします(同法4条1項)。ただし、遅滞なくその供託所に供託することが困難な事由があるときは、裁判所の許可を得て、債権者の住所地・事務所の所在地その他裁判所が相当と認める地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所に供託することができます(同法14条2項)。
- 担保の取消し:民事保全法4条2項は、民事訴訟法79条を準用しています。担保を立てた側は、担保の事由が消滅したことを証明したとき、または担保権利者の同意を得たことを証明したときに、申立てにより、裁判所から担保の取消しの決定を受けることができます(同条1項・2項)。また、訴訟の完結後に、裁判所書記官が担保を立てた者の申立てにより担保権利者に権利の行使を催告し、担保権利者が一定の期間内に権利を行使しないときは、担保の取消しについて同意があったものとみなされます(同条3項)。担保の取消しの決定に対しては即時抗告ができます(同条4項)。供託した担保を取り戻すのは、通常、この担保の取消しを経た後で、供託原因が消滅したことを証明して取戻しを請求する流れになります(供託法8条2項)。取戻しの請求には、供託物払渡請求書に、取戻しをする権利を有することを証する書面を添付します(供託規則25条1項)。法務省の供託Q&A(Q51)では、裁判上の担保供託の取戻しについて、この書面に当たる「供託原因消滅証明書」として、裁判所の担保取消決定書の正本とその確定証明書や、供託原因の消滅を証する裁判所の証明書などが挙げられています。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年11月・いずれも一次情報です)。
- 供託法 第1条・第2条・第3条・第5条・第8条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/132AC0000000015
- 供託規則 第16条・第18条・第25条・第33条・第38条・第40条・第42条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/334M50000010002
- 民法 第166条・第484条・第494条〜第496条・第498条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 民事執行法 第156条・第157条・第161条の2(令和5年法律第53号による改正後の第156条第2項および同法附則第1条を含む)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/354AC0000000004
- 民事保全法 第4条・第14条・第50条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/401AC0000000091
- 民事訴訟法 第76条・第79条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/408AC0000000109
- 不動産登記法 第70条・第70条の2(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000123
- 不動産登記令 別表二十六の項・六十九の項(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/416CO0000000379
- 不動産登記規則 第55条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/417M60000010018
- 仮登記担保契約に関する法律 第4条・第7条・第18条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/353AC0000000078
- 社債、株式等の振替に関する法律 第278条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/413AC0000000075
- 宅地建物取引業法 第25条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/327AC1000000176
- 公職選挙法 第92条・第93条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000100
- 司法書士法 第3条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000197
- 裁判所法 第33条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000059
- 法務省「供託制度の概要」: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07.html
- 法務省「供託Q&A」(Q12・Q23・Q29・Q46・Q51・Q55): https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00055.html
- 法務省「オンラインによる供託手続について」: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji67.html
- 法務省「供託書等の記載例」: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00015.html
- 法務省 供託書記載例 第1-2-(10)「受領不能(休眠担保権の登記を抹消するための供託(担保権者の所在不明))」(PDF): https://www.moj.go.jp/content/001252810.pdf
- 法務省 供託書記載例 第1-2-(18)「債権者不確知(民事執行法第156条第1項をも根拠とする供託)」(PDF): https://www.moj.go.jp/content/001252973.pdf
- 法務省「供託金のお受け取りには消滅時効が適用されます!」: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00226.html
- 登記・供託オンライン申請システム「提出可能な添付ファイル情報」: https://www.touki-kyoutaku-online.moj.go.jp/cautions/append/appending.html
- 秋田地方法務局「申請用総合ソフトの使い方──不動産登記オンライン申請に供託書電子正本を添付する方法」(平成24年6月・PDF): https://houmukyoku.moj.go.jp/akita/content/000129524.pdf