この記事の要点
- 時効援用の内容証明には、①当事者、②援用する債権の特定、③時効を援用する意思表示、の3点を漏れなく書く
- 出すときは配達証明付きの内容証明郵便にするのが一般的
- 出す前に一部弁済や支払い猶予の申し出などをすると、時効期間の満了前なら時効が更新され、満了後なら時効を援用できなくなることがある
- 認定司法書士が代理できるのは、簡易裁判所の手続きで価額140万円以下のものに限られる(争いが激しいかどうかは、この範囲を決める基準ではない)
- 「自分の場合に時効が完成しているか」の個別判断はこの記事では行わない。お近くの司法書士にご相談ください
借金の消滅時効を援用するために送る内容証明は、①当事者の特定、②援用する債権の特定、③時効を援用する意思表示、の3点を漏れなく記載し、配達証明付きの内容証明郵便で出すのが基本です。ただし、出す前の行動ひとつで時効援用ができなくなることがあるため、書き方以上に「出す前の注意点」が重要になります。
なお、この記事は内容証明の記載事項と出し方の一般的な説明にとどめます。「自分の借金が時効にかかっているかどうか」という個別の判断はこの記事では行いません。最終返済日や相手方とのやり取りの経緯によって結論が変わるため、時効が完成しているかどうかの見立てはお近くの司法書士にご相談ください。時効の完成猶予・更新や、債務の承認によって時効援用ができなくなる仕組み自体については、時効援用の仕組みを解説した記事にまとめてあります。あわせてご覧ください。
内容証明に書く3つの記載事項
時効援用の内容証明で欠かせないのは、次の3点です。
- 当事者の特定:差出人(自分)の氏名・住所と、宛先(債権者)の名称・住所
- 援用する債権の特定:どの契約に基づく債権を対象にしているかが分かる程度の記載(契約時期や取引の種類など)
- 時効を援用する意思表示:「消滅時効を援用します」という趣旨の明確な一文
この3点があれば、時効援用の意思表示としての体裁は整います。逆に言えば、これ以上に踏み込んだ事情(借入額の詳細な経緯や相手方とのやり取りの内容など)まで書き込む必要はありません。書けば書くほど、かえって時効の起算点や完成猶予・更新の事由をめぐる争いの材料を自分から提供してしまうこともあるため、記載は必要最小限にとどめるのが無難です。
出し方:配達証明付き内容証明郵便
時効援用の意思表示は、口頭や普通郵便でも法律上は成立しえますが、実務上は次の理由から配達証明付きの内容証明郵便で出すのが一般的です。
- 「いつ」「どのような内容の書面が」「相手に届いたか」を郵便局が証明してくれる
- 後日、援用の意思表示をした事実や時期をめぐって争いになった場合の証拠になる
内容証明郵便そのものの様式(1行の字数・1枚の行数の制限、複数枚になる場合の綴り方など)や、郵便局での出し方の一般的な手順は、内容証明の使い方を解説した記事で扱っています。書式の細かいルールはそちらを参照し、この記事では時効援用に特化した内容面の注意点に絞って説明します。
借りた側から見た消滅時効の期間の考え方については、借りた側の時効期間についての記事もあわせてご確認ください。
出す前に注意したいこと──うっかり債務を認めてしまう行動
内容証明を出す前の行動によって、時効の援用ができなくなることがあります。特に注意したいのは、次のような行動です。
- 一部でも弁済してしまう:少額でも支払うと、その債務を認めた(承認した)と扱われることがある
- 支払い猶予や分割払いを申し出る:「今は払えないので待ってほしい」という申し出も、債務の存在を前提にした行動とみなされうる
- 債務を認める内容の書面にサインする:督促状への返信や合意書などで、うっかり債務を認める記載をしてしまう
これらの行動が問題になる仕組みは、時効期間が満了する前か後かで異なります。同じ「債務を認める行動」でも法的な位置づけが別のものになるため、分けて押さえておくと分かりやすくなります。
- 時効期間が満了する前の承認:債務の承認があったときは、その時から時効が新たに進行を始めます(民法152条1項)。これを時効の「更新」といい、それまで積み上がっていた期間はふりだしに戻ります。この場面では、そもそも時効が完成しません。
- 時効期間が満了した後の承認:時効期間そのものはすでに満了しているため、更新は起こりません。ただし、時効の完成後に債務の承認をした場合には、その時点で時効が完成したことを知らなかったときであっても、その後に時効を援用することは信義則上許されない、とした最高裁の判断があります(最高裁昭和41年4月20日大法廷判決・民集20巻4号702頁)。この場面は「時効が完成していない」のではなく、完成した時効を援用できなくなるという整理になります。
どちらの場面にあたるかは、最終返済日や督促のやり取りの経緯によって変わるため、自己判断は難しいところです。いずれの場面でも結果として支払いを免れられなくなる点は共通しますので、督促や催告の連絡が来ても、内容証明を送る前に自己判断で支払いや約束をしないことが大切です。
自分で対応できるか、専門家に相談すべきか
内容証明の作成・発送自体は、本人が行うことができます。ただし、次のような点は踏まえておく必要があります。
- 認定司法書士が代理人として対応できる範囲は、訴訟の目的の価額(裁判外での相談や和解の代理では「紛争の目的の価額」)が140万円以下の民事事件に限られます(司法書士法3条1項6号・7号)。この金額を超える債権については認定司法書士は代理人になれないため、代理を依頼するのであれば弁護士への相談が必要になります。他方で、相手方が強く争ってきているという事情そのものは、代理権の範囲を決める基準ではありません(基準はあくまで価額と、簡易裁判所の手続きであることです)。ただし、争点が多く見通しの立てにくい事案では、代理権の範囲内であっても弁護士に相談したほうがよい場合があります。
- 「自分の場合、時効はもう完成しているのか」という個別の判断は、経緯を確認しないと分からないため、この記事では行いません。最終返済日や督促の履歴などを踏まえた判断は、お近くの司法書士にご相談ください。
まとめ
時効援用の内容証明は、当事者・債権の特定・援用の意思表示という3点を押さえ、配達証明付きの郵便で出すのが基本です。それ以上に、出す前にうっかり債務を認める行動を取らないことが重要になります。対象の金額が140万円を超える場合は認定司法書士の代理権の範囲外になりますし、その範囲内であっても、相手方と争いになっている事案では取りうる対応が変わってきます。お近くの司法書士にご相談ください。
よくある質問
Q. 内容証明を出すのに費用はどれくらいかかりますか 内容証明郵便の郵便局窓口での実費(内容証明料・書留料・配達証明料など)がかかります。金額は用紙の枚数や郵便局の料金体系によって変わるため、最新の料金は郵便局の窓口でご確認ください。専門家に作成・発送を依頼する場合は、別途手数料が発生します。
Q. 時効援用をせずに放置するとどうなりますか 時効期間が過ぎていても、援用の意思表示をしなければ時効の効果は確定しません。放置している間にうっかり支払いや約束をしてしまうと、時効期間の満了前であれば時効が更新されてふりだしに戻り、満了後であれば完成した時効を援用できなくなるおそれがあります(本文「出す前に注意したいこと」の場面分けをご覧ください)。なお、債権者から督促(催告)が届いただけで時効が完成しなくなるわけではありません。心当たりのある督促を受けたら、早めに対応を検討することをおすすめします。
Q. 自分で内容証明を作成・発送できますか 記載事項を満たしていれば、本人が作成・発送することは可能です。ただし、相手方との間ですでに争いが生じている場合は、その後の裁判所の手続きまで見据えた対応が必要になります。また、対象の金額が140万円を超えると、認定司法書士に代理を依頼すること自体ができません。判断に迷う場合は、お近くの司法書士にご相談ください。
【さらに深掘り】時効援用の実務対応
ご注意 以下は執筆時点(2026年9月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
時効援用の内容証明を送った後、相手方が「時効は完成していない」「途中で承認があった」などと争ってくる場合があります。ここでは、そうなった場合に一般的にどのような手続きの選択肢があるのか、手続き面だけを整理します。個別の事案でどの手続きを選ぶべきか、勝訴の見込みがあるかどうかは、ここでは扱いません。
相手方が争ってきた場合の手続きの選択肢
内容証明を送っても相手方が債権の存在や時効の未完成を主張して支払いを求め続ける場合、最終的に決着をつけるには裁判所の手続きを利用することになります。一般的な選択肢としては、次のようなものがあります。
- 支払督促:債権者の申立てにより簡易裁判所の裁判所書記官が発する略式手続きで(民事訴訟法382条・383条1項)、債務者側から申し立てるものではありません。時効援用後も相手方が支払督促を申し立ててくることはあり得るため、裁判所から支払督促が届いた場合は、送達を受けた日から2週間以内に督促異議を申し立てないと、債権者の申立てにより仮執行宣言が付され(民事訴訟法391条1項)、さらに仮執行宣言付きの支払督促の送達から2週間を過ぎると督促異議を申し立てられなくなり(同法393条)、強制執行に移行し得る点は、手続きの仕組みとして押さえておく必要があります。なお、債権者から届く「督促状」「催告書」は裁判所の支払督促とは別のものです。
- 少額訴訟:訴額60万円以下の金銭請求について、原則1回の期日で審理・判決までを終える簡易な訴訟手続きです(民事訴訟法368条1項・370条1項)。相手方(原告)が少額訴訟を選んだ場合、被告側は通常の手続へ移行させる旨を申し出ることができ、その申出があった時点で通常訴訟に移ります(同法373条1項・2項)。ただし、最初にすべき口頭弁論の期日で弁論をした後は、この申出はできません(同条1項ただし書)。
- 通常訴訟:訴額に応じて簡易裁判所または地方裁判所で行われる、訴状・答弁書・準備書面のやり取りを経る通常の訴訟手続きです。
いずれの手続きを相手方が選ぶか、あるいは自分がどう対応すべきかは、請求額・証拠関係・相手方の出方によって変わるため、実際に書面が届いた段階で個別に検討する必要があります。
認定司法書士の代理権の範囲(制度の仕組み)
司法書士のうち、法務大臣の認定を受けた「認定司法書士」は、簡易裁判所における民事事件について、訴訟では「訴訟の目的の価額」、支払督促や訴え提起前の和解では「請求の目的の価額」、調停では「調停を求める事項の価額」が、いずれも裁判所法33条1項1号の定める額(140万円)を超えない場合に限り、代理人として対応することができます(司法書士法3条1項6号)。また、裁判所の手続きに入る前の段階での相談や裁判外の和解の代理は、簡易裁判所の訴訟手続きの対象となる民事の紛争のうち、「紛争の目的の価額」が同じく140万円を超えないものに限られます(同項7号)。時効援用の内容証明のように裁判外の対応について相談・代理を依頼する場合は、この7号の「紛争の目的の価額」が基準になります。なお、この140万円という数字は司法書士法が独自に定めたものではなく、簡易裁判所の事物管轄の上限額(裁判所法33条1項1号)を条文で引用する形で決まっています。そのため、認定司法書士の代理権の範囲は、簡易裁判所が扱える事件の範囲と連動する仕組みになっています。
これらの価額が140万円を超える場合や、簡易裁判所ではなく地方裁判所が管轄になる事件については、認定司法書士の代理権の範囲外となるため、代理を依頼するのであれば弁護士への依頼が必要になります(裁判所に提出する書類の作成自体は、司法書士法3条1項4号により司法書士が行うことができます)。内容証明を送る前の時点で、対象となっている債権の金額がこの基準に照らしてどの範囲にあるかを把握しておくことは、後の手続き選択にも関わる基本的な確認事項です。
時効の抗弁は訴訟の中でどう扱われるか(手続き面の一般論)
時効援用を理由に支払いを拒んでいるにもかかわらず相手方が訴訟を起こしてきた場合、訴訟の中では「消滅時効の援用」は、請求原因に対する抗弁(被告側の防御方法)として位置づけられます。手続きの一般的な流れとしては、答弁書や準備書面の中で、時効期間の満了と援用の意思表示(内容証明を送った事実とその到達時期)を主張・立証していくことになります。
このとき、いつ・どのような内容の内容証明を、いつ相手方に送達したかを示す証拠(配達証明・内容証明の謄本)が重要な役割を持ちます。本編で述べたとおり、内容証明を配達証明付きで出しておくことが、こうした場面での証拠としての意味を持つことになります。
なお、時効の起算点や、時効の完成猶予・更新事由(相手方からの請求・差押え・承認の有無など)をめぐって事実関係に争いがある場合は、単純な手続きの問題にとどまらず、証拠の評価が必要な事案になります。この記事はそうした個別の事実認定や勝訴見込みの判断には立ち入りません。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年9月・いずれも一次情報です)。
- 民法 第152条(承認による時効の更新)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 民事訴訟法 第368条・第370条・第373条(少額訴訟)、第382条・第383条・第391条・第393条(支払督促)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/408AC0000000109
- 司法書士法 第3条(業務)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC1000000197
- 裁判所法 第33条(裁判権)(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000059
- 最高裁判所昭和41年4月20日大法廷判決(昭和37年(オ)第1316号・請求異議事件)民集20巻4号702頁(裁判所ウェブサイト 裁判例検索): https://www.courts.go.jp/hanrei/57740/detail2/index.html