遺贈は放棄できる?──もらう側が断るときの手続きと、相続放棄との違い

この記事の要点 遺言で財産を譲られる「遺贈」は、受け取る側(受遺者)が放棄できます(民法986条1項)。ただし、遺贈の種類によって手続きがまったく違います 特定の財産を譲る「特定遺贈」は、家庭裁判所の手続きは不要で、遺贈を実行する立場の人(遺言執行者がいれば遺言執行者、いなければ相続人)に「放棄します」と伝えることで放棄できると解されています。後のトラブルを防ぐため、内容証明郵便などの書面で残しておくのが安全です 財産を割合で譲る「包括遺贈」は、相続人と同じ扱いになるため(民法990条)、相続放棄と同じく家庭裁判所への申述が必要と解されています 遺贈の放棄は、一度したら撤回できません(民法989条1項。包括遺贈も、相続放棄と同様に撤回できないと解されています)。放棄された財産は、遺言に別の定めがなければ相続人のものになります(民法995条) 迷ったら、遺言の内容が「特定遺贈」「包括遺贈」のどちらに当たるかを確かめるところから始めましょう 遺言書に「○○に土地を遺贈する」と書かれていても、受け取る側には、それを受け取らない(放棄する)自由があります。民法986条1項は、受遺者(遺贈を受ける人)は、遺言者が亡くなった後、いつでも遺贈を放棄できると定めています。 ...

2026年10月19日 · ひぐらしさとし

「代理」「代表」「使者」の違い──民法99条・会社法349条と登記の委任状で読み分ける

この記事の要点 「代理」は、代理人が自分で意思表示をし、その効果だけが本人に及ぶしくみです(民法99条1項)。登記の委任状に受任者として名前が載る司法書士は、登記の申請手続きについての代理人です この記事で取り上げる「代表」は、会社などの法人の代表です。会社法349条は取締役・代表取締役について株式会社を「代表する」と書き、支配人について「会社に代わって」と書く会社法11条とは言葉を使い分けています。委任状では「○○株式会社 代表取締役△△」として申請人の側に立ちます 「使者」は、本人が決めた内容を伝える・届けるだけの役割を指す講学上の言葉で、民法や会社法に定義した条文はありません。代理人との分かれ目は、内容を決めているのが誰かです 登記を司法書士に依頼するときの委任状には、「委任者 ○○株式会社 代表取締役△△」と「受任者 司法書士□□」という二つの肩書が並びます。似た言葉ですが、会社法や不動産登記令の条文では「代表」と「代理」が書き分けられています。さらに、書類を窓口へ届けるだけの人は、どちらにもあたらない「使者」として整理されます。三つの違いは、誰が内容を決めているか、誰の行為として扱われるかで読み分けると整理しやすくなります。なお、この記事は執筆時点(2026年10月)の条文に基づく一般的な解説です。 ...

2026年10月18日 · ひぐらしさとし

公図・地積測量図・建物図面の違いは?──法務局でもらえる3つの図面と取り方

この記事の要点 公図は「土地の並び方」、地積測量図は「1筆の土地を測った結果」、建物図面は「建物が敷地のどこに建っているか」を示す図面で、法律上の根拠もそれぞれ別です 3つとも、所有者でなくても請求でき、電子化された図面なら窓口(管轄外の最寄りの法務局を含む)・郵送・オンラインで取れます。手数料は窓口・郵送で500円、オンラインで440円または470円です 図面は登記の資料で、図面だけで現地の境界が決まるわけではありません。境界の確認や測量は土地家屋調査士の分野です 土地や建物の登記簿(登記事項証明書)は文字の記録なので、「隣はどの土地か」「建物は敷地のどこにあるか」といった位置関係は分かりません。それを補うのが法務局の図面です。結論から言うと、よく使われるのは公図・地積測量図・建物図面の3つで、取り方はほぼ共通ですが、何のための図面かはまったく違います。 ...

2026年10月18日 · ひぐらしさとし

土地家屋調査士試験 試験対策 第178回──自己契約及び双方代理等/混同と地上権の放棄/相続開始後に認知された者の価額の支払請求/分筆の登記・合筆の登記/区分建物の表題登記の申請/建物図面・各階平面図/筆界特定の効果と筆界特定後の取扱い/土地家屋調査士法人

問題: 自己契約及び双方代理等に関する次の記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものはいくつあるか。 ア. AがBに甲土地を売却した場合において、Dが、その所有権の移転の登記の申請について、登記権利者であるB及び登記義務者であるAの双方から代理権を与えられ、双方の代理人として申請をしたとしても、その登記の申請は、双方代理であることを理由として無効となるものではない。 ...

2026年10月18日 · ひぐらしさとし

遺贈寄付とは──財産の一部を団体に遺す方法と、不動産を寄付するときの注意

この記事の要点 遺贈寄付とは、遺言で「遺贈」という方法を使い、亡くなったあとに財産の全部または一部を団体などに寄付することを指す呼び方です 遺贈には、財産を割合で渡す「包括遺贈」と、特定の財産を指定して渡す「特定遺贈」があり(民法964条)、受け取る団体にとっての負担が大きく違います 団体は遺贈を断ることができ(民法986条)、とくに不動産は受け入れていない団体もあるため、遺言を作る前に受け取る側への確認が欠かせません 不動産や株式などを法人に遺贈すると、値上がり分に所得税がかかる「みなし譲渡所得課税」の対象になることがあり(所得税法59条)、その申告は相続人が行うことになります。税金の判断は税理士に確認しましょう 遺贈を確実に実現するために、遺言で遺言執行者を決めておくことが大切です 遺贈寄付とは、遺言によって、自分が亡くなったあとに財産の全部または一部を、公益的な活動をしている団体などに渡すことです。「遺贈寄付」は法律の条文にある言葉ではなく、遺言による「遺贈」という仕組みを使った寄付を、一般にこう呼んでいます。 ...

2026年10月18日 · ひぐらしさとし

夫婦で家を買うときの持分の決め方──資金の割合と登記の持分が違うと贈与として扱われ得る話(税額は税理士へ)

この記事の要点 夫婦の共有名義で家を買うときは、登記簿に「夫○分の○・妻○分の○」という持分の割合が必ず記録されます。この割合は、夫婦それぞれが購入資金をいくら負担したかに合わせて決めるのが基本です 資金の負担割合と登記の持分が食い違うと、差額の分について夫婦の間で贈与があったものとして扱われ得ます。「夫婦だから半分ずつ」は、負担の実態と合っていなければ注意が必要です 持分は登記を申請する時点で決めて書き込みます。あとから直すには別の登記(当初から誤っていた場合の更正の登記など)が必要で、手間も費用もかかります 贈与税の配偶者控除などの特例もありますが、使えるかどうか・税額・申告が要るかどうかの判断は税理士にご相談ください 持分の割合を決める前に、誰がいくら出すのかを書き出しておきましょう。登記の進め方は、お近くの司法書士にご相談ください 夫婦で家を買うとき、「名義は2人で半分ずつにしておけば公平だろう」と考える方は少なくありません。結論から言うと、共有名義の持分(その不動産に対してそれぞれが持つ権利の割合)は、夫婦それぞれが実際に負担した購入資金の割合に合わせて決めるのが基本です。夫婦であっても、資金の負担と持分がずれていると、そのずれた分について贈与があったものとして扱われ得るからです。 ...

2026年10月18日 · ひぐらしさとし

相続の相談はいつ行けばいい?──四十九日などの区切りの考え方と、早めに動いたほうがよい場合

この記事の要点 四十九日などの区切りは、宗教・宗派や地域、家庭によって考え方が異なる慣習で、法律が定める手続きの期限ではありません。相談に行く時期を法要の日取りに合わせる必要はありません 一方で、相続放棄・限定承認の3か月、準確定申告の4か月、相続税の申告の10か月、相続登記の申請の3年など、法律で期限が決まっている手続きがあります 借金がありそうなとき、相続人と連絡がつかないとき、不動産を売る予定があるときなどは、気持ちの整理を待たずに、期限が関係するかどうかだけでも早めに確かめておくと安心です 「四十九日が済んで、落ち着いてから相談しよう」と考える方もいるでしょう。結論からいえば、相談に行く時期は法要の区切りではなく、「期限のある手続きが関係しそうかどうか」で考えるのが基本です。 ...

2026年10月17日 · ひぐらしさとし

死亡保険金の非課税枠とは──「500万円×法定相続人の数」の意味と、使える人・使えない人

この記事の要点 亡くなった方が保険料を負担していた死亡保険金は、民法上の相続財産ではなくても、相続税では「相続や遺贈で取得したもの」とみなされ、課税の対象になる(相続税法3条1項1号) 非課税枠は「500万円×法定相続人の数」。人数は、相続放棄をした人も放棄がなかったものとして数え、養子は数に入れられる人数に上限がある(同法12条1項6号・15条2項) 枠を使えるのは相続人が受け取った保険金だけ。相続放棄をした人や相続人でない人が受け取った保険金には使えず、相続人どうしでは受け取った額の割合で枠を分ける 結論から言うと、死亡保険金の非課税枠は「人数を数えるときは相続放棄をした人も含めるが、枠を使えるのは相続人が受け取った分だけ」という、少しねじれた仕組みです。順に整理します。 ...

2026年10月17日 · ひぐらしさとし

土地家屋調査士試験 試験対策 第177回──詐欺・強迫/占有権の取得と消滅/遺言の撤回/表示に関する登記の申請義務と過料/登記事項証明書・地図の写しの交付等/筆界特定の手続費用・却下・手続記録/調査士の義務と罰則/地積測量図・土地所在図

問題: 詐欺又は強迫による意思表示に関する次の記述のうち、判例の趣旨に照らし誤っているものはいくつあるか。 ア. 強迫による意思表示として取り消すことができるためには、表意者が強迫によって畏怖した結果、完全に選択の自由を失ったことを要する。 ...

2026年10月17日 · ひぐらしさとし

遺言で不動産を特定する書き方──「自宅」や住所だけでは相続登記で困ることがある

この記事の要点 遺言書の中で不動産を書くときは、「自宅」や住所(住居表示)だけで済ませず、登記事項証明書の表題部に書かれているとおりに書くのが基本です。土地は所在・地番・地目・地積、建物は所在・家屋番号・種類・構造・床面積です。 ふだん使う住所と、登記で使う「地番」は別の番号です。自宅の敷地が何筆にも分かれていたり、私道の持分があったりすると、住所だけでは書き漏れが起きやすくなります。 持分だけを持っている不動産、マンション(敷地権付きの区分建物)、登記されていない建物は、それぞれ書き方に注意点があります。 「その他一切の財産」と書く条項は書き漏れへの備えにはなりますが、個々の不動産をきちんと書くことの代わりにはなりません。 書いた遺言書で実際に登記ができるかどうかは、法務局の判断と個別の事情によります。書く前・書き直す前に、最新の登記事項証明書を取り寄せて照らし合わせるところから始めましょう。 遺言書に「自宅は長男に相続させる」と書いておけば、家族には気持ちが伝わります。けれども、亡くなった後に名義を変える手続き(相続登記)では、遺言書に書かれた内容からどの土地・どの建物なのかを読み取れるかが問われます。 ...

2026年10月17日 · ひぐらしさとし