この記事の要点
- 株式交換・株式移転は、会社の株式を100パーセント異動させて「完全親会社・完全子会社」の関係をつくる手続き
- 事業承継やグループ再編の受け皿として持株会社をつくる場面でよく使われる
- 手続きは株主総会の特別決議→契約書・計画書の作成→効力発生→2週間以内の変更登記という流れ(株式移転は設立登記そのものが効力発生日にあたります)
- 登記が必要になるのは主に完全親会社側で、完全子会社側は登記事項の変更がないことが多い
- 税務上の扱いや株主間の対立が絡む場合は、税理士・弁護士への相談が必要になる
「会社をグループ化したい」「複数の会社を1つの持株会社の傘下にまとめたい」というとき、よく使われるのが株式交換と株式移転という手続きです。名前が似ていて紛らわしいのですが、どちらも「ある会社の株式を100パーセント、別の会社(持株会社)に集める」という点で共通しています。この記事では、経営者の方向けに、それぞれの仕組みと登記手続きの流れを整理します。
株式交換・株式移転とは何か
株式交換(会社法767条以下)は、既存の会社(A社)が、別の既存の会社(B社)の株式をすべて取得して、B社を100パーセント子会社にする手続きです。B社の株主は、株式の対価としてA社の株式や金銭を受け取り、B社の株主でなくなる代わりにA社の株主になります。
株式移転(会社法772条以下)は、既存の会社(C社・D社など)が、新しく持株会社(E社)を設立して、その完全子会社になる手続きです。複数の会社が横並びで新しい持株会社の傘下に入るときによく使われます。
どちらも「会社そのものを合体させる」合併とは違い、それぞれの会社は別法人のまま存続し、株式の持ち方(資本関係)だけが変わるのが特徴です。以前の記事で扱った合併・会社分割が「事業や会社を1つにする・切り出す」手続きだったのに対し、株式交換・株式移転は「グループとしての傘の掛け方を変える」手続きだとイメージすると分かりやすいでしょう。
なぜ持株会社化が選ばれるのか
近年、株式交換・株式移転による持株会社化は、次のような場面で検討されることが増えています。
- 事業承継の受け皿づくり:複数の事業を営む会社を株式移転で持株会社の傘下に再編し、後継者へ承継しやすい形に整理する
- グループ経営体制の構築:兄弟会社・関連会社をまとめて意思決定を一本化する
- M&A後の統合:買収した会社を株式交換で完全子会社化し、グループとして管理する
事業承継の考え方全般については、事業承継とは──会社を後継者に引き継ぐときに必要な手続きの全体像でも整理していますので、あわせてご覧ください。
手続きの流れ
株式交換・株式移転は、おおむね次の流れで進みます。
- 契約書・計画書の作成:株式交換の場合は当事会社間で「株式交換契約書」を締結し、株式移転の場合は新設する持株会社の内容を定めた「株式移転計画書」を作成します
- 株主総会の特別決議:原則として、各当事会社で株主総会の特別決議(会社法783条・795条・804条・309条2項12号。議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要な決議)による承認が必要です
- 反対株主への対応:決議に反対した株主には、自分の株式を公正な価格で買い取るよう会社に請求できる権利(株式買取請求権)が法律上認められています。実際の買取価格をめぐって会社と株主の意見が食い違う場合は、最終的に裁判所が価格を決める仕組みもあり、対立が深まった場合は弁護士に相談すべき領域になります
- 債権者保護手続き:新株予約権付社債を引き継ぐ場合など、一定の条件に当てはまるときは、官報公告や個別催告による債権者保護手続きが必要になります。自社が対象になるかどうかは個別の事情によって変わるため、専門家による確認が欠かせません
- 効力発生:契約書・計画書で定めた効力発生日(株式移転は持株会社の設立登記の日)に、完全親子会社の関係が生じます
- 変更登記:株式交換では、効力発生後、原則として2週間以内に必要な登記を行います(株式移転では、設立登記そのものによって効力が生じます)
登記が必要になるのは主に完全親会社側
ここで経営者の方が誤解しやすいポイントがあります。株式交換・株式移転は「株式の持ち方」が変わる手続きなので、完全子会社になる側の会社は、登記事項そのものに変更がないことが多いという点です(役員構成や本店所在地が変わらなければ、登記簿の記載内容は変わりません)。
一方で、完全親会社になる側では、次のような登記が必要になる場合があります。
- 株式交換で対価として新株を発行した場合の、発行済株式総数・資本金の額の変更登記
- 株式移転で持株会社を新設する場合の、設立登記
資本金の額が変わる場合の考え方は、資本金の額の減少(減資)登記の実務で扱った「資本金の変更には登記が伴う」という原則と共通しています。どのような登記が必要になるかは、対価の設計(新株を発行するか、金銭のみで対応するか)によって変わるため、契約書・計画書の内容を踏まえて個別に確認する必要があります。
登録免許税・費用について
変更登記や設立登記には登録免許税がかかりますが、税額は資本金の増加額や登記の種類によって変わるため、この記事では断定的な金額を示しません。実際の手続きにあたっては、登記の内容が確定した段階で税額を確認することになります。
税務・株主間対立には専門家の関与が必要
株式交換・株式移転は、対価の設計や適格・非適格の判定によって、法人税・所得税上の扱いが大きく変わることがあります。この記事は登記手続きの一般的な流れを解説するものであり、課税関係の判定や税額の試算には立ち入りません。実際に検討する際は、必ず税理士に確認してください。
また、株式買取請求における価格交渉や、株主間の意見対立が深刻化した場合の対応は、弁護士が扱う領域です。この記事では制度の存在を説明するにとどめ、具体的な交渉の進め方には触れていません。
まとめ
株式交換・株式移転は、会社をなくすことなく資本関係だけを再編し、持株会社を中心としたグループ体制をつくるための手続きです。株主総会の特別決議、契約書・計画書の作成、そして効力発生後2週間以内の変更登記(株式移転は設立登記そのものが効力発生の起点になります)という流れを押さえておくと、検討の見通しが立てやすくなります。税務上の扱いや株主間の対立が絡む場合は、税理士・弁護士との連携が必要になりますので、まずはお近くの司法書士にご相談ください。
よくある質問
Q. 株式交換・株式移転の登記にかかる費用はどのくらいですか? 登録免許税は資本金の増加額や登記の種類によって変わるため、一律の金額はお伝えできません。あわせて契約書・計画書の作成費用、専門家への依頼費用もかかります。実際の再編内容が固まった段階で見積もりを確認するのが確実です。
Q. 手続きを放置するとどうなりますか? 効力発生後の変更登記には2週間以内という期限があり(会社法915条1項)、正当な理由なく怠ると100万円以下の過料の対象になり得ます(976条1号)。また、登記を放置すると、グループ内の資本関係が対外的に正確に公示されない状態が続き、取引先や金融機関からの信用にも影響しかねません。
Q. 自分たちだけで手続きできますか?どこに相談すればいいですか? 契約書・計画書の作成、株主総会の招集・決議、債権者保護手続きの要否判断、変更登記の申請など、専門的な判断を要する場面が多い手続きです。税務上の扱いは税理士、紛争性のある株主対応は弁護士、登記手続きはお近くの司法書士にご相談ください。
【さらに深掘り】株式交換・株式移転の登記実務
ご注意 以下は執筆時点(2026年07月)の法令・通達・実務運用に基づく一般的な解説です。個別事情により判断が分かれる論点を含みます。実務適用は最新情報と個別事情を踏まえ、お近くの司法書士にご相談ください。 ここから先は専門的な内容です。一般の方はここまでの内容で十分です。
契約書・計画書の法定記載事項
株式交換契約書には、会社法768条1項の定める事項を記載する必要があります。具体的には、当事会社(株式交換完全親会社・完全子会社)の商号・住所(1号)、対価の内容やその算定方法(2号)、対価の割当てに関する事項(3号)、完全子会社の新株予約権者に対して、その新株予約権に代わる完全親会社の新株予約権を交付する場合の事項(4号・5号)、効力発生日(6号)です。株式移転計画書についても同様に、会社法773条1項に列挙された事項を漏れなく盛り込む必要があります。具体的には、設立する完全親会社の目的・商号・本店所在地・発行可能株式総数(1号)、定款で定めるその他の事項(2号)、設立時取締役の氏名(3号)、対価となる株式の数および資本金・準備金に関する事項(5号)とその割当てに関する事項(6号)などです。記載事項に不備があると、後の登記申請の段階で補正の対象になるため、決議前の段階で条項立てを確認しておくことが実務上重要です。
簡易株式交換・略式株式交換による総会決議の省略
一定の要件を満たす場合、株主総会の特別決議を経ずに株式交換を行える簡易な手続きが用意されています(会社法784条・796条)。
- 簡易株式交換:完全親会社が交付する対価の額が、その会社の純資産額の5分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合はその割合)を超えない場合、完全親会社側の株主総会決議を省略できます(会社法796条2項)。ただし、株式交換により差損が生じる場合など一定の例外に当たるときは省略できません
- 略式株式交換:一方の会社が他方の会社の総株主の議決権の10分の9(定款でこれを上回る割合を定めた場合はその割合)以上を保有する「特別支配会社」に当たる場合、支配される側の株主総会決議を省略できます(完全子会社側の省略は会社法784条1項、完全親会社側の省略は796条1項。特別支配会社の定義は468条1項)。ただし、対価に譲渡制限株式が含まれる場合など、省略できない例外があります
いずれも要件に該当するかどうかの判定を誤ると手続き全体が無効になりかねないため、決議省略を検討する際は要件充足の確認を慎重に行う必要があります。
添付書類の実務
完全親会社側の変更登記・株式移転による設立登記では、おおむね次のような書類の準備が必要になります(個別の事案により増減します)。
- 株主総会議事録(特別決議を経た場合)または決議省略の要件を満たすことを証する書面(簡易・略式の場合)
- 株式交換契約書または株式移転計画書
- 株主リスト(商業登記規則61条3項)
- 資本金の額の計上に関する証明書(新株発行を伴い資本金が増加する場合)
- 反対株主からの株式買取請求に関する書類(該当する株主がいた場合)
- 債権者保護手続きを行ったことを証する書面(該当する場合)
完全親会社側の変更登記のポイント
株式交換で完全親会社が新株を発行した場合は、発行済株式総数・資本金の額の変更登記が必要になります。申請書には、変更後の発行済株式総数・資本金の額を記載し、資本金の額の計上根拠(会社計算規則の該当条項)を証する書面を添付するのが実務上の基本的な組み立てです。対価を金銭のみとし新株を発行しない設計であれば、この変更登記自体が生じない場合もあります。
株式移転は「設立登記」として扱われる
株式移転で持株会社をつくる場合、法的には「新しい会社の設立登記」として扱われます。そのため、通常の設立登記で必要となる書類(定款、設立時取締役の就任承諾書等)に加えて、株式移転特有の書類(株式移転計画書、完全子会社となる各社の株主総会議事録等)を併せて添付する点が、ゼロから会社を立ち上げる通常の設立登記との違いです。
登録免許税の区分について
変更登記・設立登記のいずれについても、登録免許税は登記の種類と資本金の増加額等によって定まります。根拠となる区分は登録免許税法別表第一第24号(一)で、株式移転による持株会社の設立は「株式会社の設立の登記」の区分に、株式交換に伴う資本金の増加は「資本金の増加の登記」の区分に位置づけられます。ただし、具体的な税率・最低税額(最低額が適用されるかどうかを含む)は資本金の増加額等によって変わるため、本稿では断定せず、登記内容が確定した段階で確認します。
参考資料
この記事は、次の資料を参照して内容を確認しています(確認日:2026年07月・いずれも一次情報です)。
- 会社法 第767条・第768条・第772条・第773条・第783条・第795条・第804条・第309条・第784条・第796条・第468条・第915条・第976条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086
- 商業登記規則 第61条(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/339M50000010023
- 登録免許税法 別表第一 第24号(e-Gov法令検索): https://laws.e-gov.go.jp/law/342AC0000000035