第1問(民法・債権) — 相殺と差押え

問: Xは、Aに対して令和7年4月1日に弁済期の到来した100万円の貸金債権を有していた。一方、AはXに対して150万円の売掛金債権を有していたが、令和7年5月1日、Aの債権者Bの申立てにより、当該売掛金債権はBによって差し押さえられた。差押え後の令和7年6月1日、Xは、弁済期到来後の貸金債権を自働債権としてAの売掛金債権との相殺をBに対して主張できるか。

答: 相殺を主張できる。

解説: 民法511条1項は、「差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできないが、差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗することができる」と規定する。本問では、Xの自働債権(貸金債権)は差押え前に取得されており、差押え債権者Bに対抗できる。

平成29年改正前、最大判昭和45年6月24日民集24巻6号587頁(無制限説)は、自働債権の弁済期が受働債権より後でも、差押え前に自働債権を取得していれば相殺できるとした。これを民法511条1項として明文化したのが平成29年改正(令和2年4月1日施行)である。

中級向けポイント:差押え前に「債権の発生原因」が存在していれば、差押え後に債権が発生した場合でも相殺可能(民法511条2項)。例えば、差押え前に締結された継続的取引契約から生じる売掛債権は、差押え後発生でも自働債権として相殺可能。

第2問(不動産登記法) — 所有権移転請求権仮登記の本登記と利害関係人

問: 所有権移転請求権の仮登記(順位2番)の後に、第三者名義の所有権移転登記(順位3番)がされている場合、仮登記権利者が本登記を申請するにあたり、第三者(順位3番の登記名義人)の承諾書または当該第三者に対抗できる裁判の謄本の添付は必要か。

答: 必要である。

解説: 不動産登記法109条1項は、「所有権に関する仮登記に基づく本登記は、登記上の利害関係を有する第三者がある場合には、当該第三者の承諾があるときに限り、申請することができる」と規定する。本問の順位3番の所有権登記名義人は「登記上の利害関係を有する第三者」に該当するため、その承諾書(または承諾に代わる確定判決の謄本)の添付がなければ本登記を申請することができない。

利害関係人の範囲:仮登記より後順位の所有権登記名義人、当該不動産に対し権利を有する抵当権者・地上権者など、本登記がされることで自己の権利を失う・対抗力を失う者。

中級向けポイント:所有権以外の権利に関する仮登記の本登記には、利害関係人の承諾は要件ではない(不登法109条との対比)。所有権に関する仮登記の本登記がされると、不動産登記規則154条により、利害関係人の登記は登記官の職権で抹消される。

第3問(商業登記法) — 取締役会非設置会社の代表取締役選定

問: 取締役会非設置会社(取締役3名)において、定款の定めに基づく取締役の互選により代表取締役を選定した場合、代表取締役選定の登記の申請にあたり添付すべき書面は何か。

答: ①定款、②取締役の互選を証する書面(互選書)、③代表取締役の就任承諾書。

解説: 会社法349条1項本文は、取締役は株式会社を代表すると規定する(各自代表の原則)。同条3項は、株式会社(取締役会設置会社を除く)は、定款・定款の定めに基づく取締役の互選・株主総会の決議によって、取締役の中から代表取締役を定めることができると規定する。

互選で代表取締役を選定する場合、登記申請には次の添付書面が必要となる:

  1. 定款:取締役の互選で代表取締役を選定する旨の規定があることを証明
  2. 互選書:取締役の互選があった事実を証明(取締役全員の押印が基本)
  3. 就任承諾書:代表取締役本人の就任承諾を証明

商業登記法上の根拠は商業登記法46条2項(株主総会等の決議を要する事項の証明)であり、互選は「これに準ずる手続」として同条の規律が及ぶ。

中級向けポイント:互選の決議要件は法定されておらず、定款で別段の定めをしない限り取締役の過半数の同意で足りるとされる。また、選定された代表取締役が「平の取締役」のまま就任する場合、就任承諾書のみで足りるが、新たに取締役に就任する場合は取締役としての就任承諾書も必要となる。

第4問(民事訴訟法) — 処分権主義と一部認容判決

問: 原告が被告に対し、100万円の支払を求める訴えを提起した場合、裁判所は被告が60万円の支払義務を負うと判断したとき、60万円の支払を命じる判決をすることができるか。

答: できる(量的一部認容判決)。

解説: 民事訴訟法246条は、「裁判所は、当事者が申し立てていない事項について、判決をすることができない」と規定する(処分権主義)。本問の場合、100万円の支払を求める請求の「内側」に60万円の支払を求める請求が含まれていると評価できるため(量的一部認容)、裁判所が60万円の支払を命じる判決をすることは申立て事項の範囲内であり、処分権主義に違反しない。

判例:大判明治41年6月15日民録14輯735頁以来、量的一部認容は処分権主義に違反しないとされてきた。過失相殺による減額判決も同様に量的一部認容として位置づけられる。

中級向けポイント:

  • 質的一部認容:例えば「現在給付請求」に対する「将来給付判決」、「無条件給付請求」に対する「引換給付判決」は、原告の合理的意思の解釈により認められる場合がある(最判昭和41年9月22日民集20巻7号1392頁=引換給付判決の事案)。
  • 原告が「全部」を強く望み「一部だけなら不要」とする場合(例:人格的価値が問題となる事案)には、一部認容ではなく全部棄却となる。

第5問(民事執行法・供託法) — 執行供託(権利供託と義務供託)

問: 金銭債権が差し押さえられたとき、第三債務者は、債務の全額に相当する金銭を供託することができ、また差押え等が競合する場合には供託しなければならない。前者と後者をそれぞれ何と呼び、その根拠条文はどこにあるか。

答: 前者は権利供託(民事執行法156条1項)、後者は義務供託(民事執行法156条2項)。

解説: 民事執行法156条1項は、「第三債務者は、差押えに係る金銭債権(差押命令により差し押さえられた金銭債権をいう)の全額に相当する金銭を供託することができる」と規定する(権利供託)。第三債務者の選択により、債権者全員の関係から離脱できる仕組み。

同条2項は、差押え後に他の差押え・仮差押え・配当要求があった場合等に、第三債務者がその債権の全額に相当する金銭を供託しなければならないと規定する(義務供託)。複数の権利が競合する局面で第三債務者に重複弁済リスクが生じないようにする仕組み。

なお、令和元年改正で新設された同条3項は、執行裁判所からの供託命令(民事執行法157条1項)を受けた場合の供託義務を定める。

中級向けポイント:

  • 義務供託が発生する典型場面:①差押えと差押えの競合、②差押えと仮差押えの競合、③差押えと配当要求の競合、④差押え債権額の合計が被差押債権額を超える場合
  • 第三債務者が供託した場合、執行裁判所に事情届を提出する(民事執行法156条4項、民事執行規則138条)
  • 配当・弁済金交付の手続は、差押え債権額の合計が被差押債権額を超えるか否か等により分かれる(民事執行法165条以下)

出題分野の振り分け

科目 論点 主要条文・判例・先例
第1問 民法(債権) 相殺と差押え(差押え後の相殺主張) 民法511条1項・2項、最大判昭和45年6月24日民集24巻6号587頁、平成29年改正(令和2年4月1日施行)
第2問 不動産登記法 所有権移転請求権仮登記の本登記と利害関係人の承諾 不動産登記法109条1項、不動産登記規則154条
第3問 商業登記法 取締役会非設置会社の代表取締役選定(互選方式) 会社法349条1項・3項、商業登記法46条2項
第4問 民事訴訟法 処分権主義と量的一部認容判決 民事訴訟法246条、大判明治41年6月15日民録14輯735頁、最判昭和41年9月22日民集20巻7号1392頁
第5問 民事執行法・供託法 執行供託(権利供託・義務供託・事情届) 民事執行法156条1項・2項・3項(令和元年新設)・4項、165条以下、民事執行法157条1項、民事執行規則138条